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今日の筆洗

2022年12月30日 | Weblog

都会で野宿生活をする人らのための炊き出しが始まったとニュースが伝えた。年の瀬恒例。人々がたき火にあたり、豚汁をかきこんだという▼たき火に近づくと、空に昇っていた煙が急に顔の方に向かってくることがある。その理由をお天気博士の倉嶋厚さんが随筆に書いていた▼たき火の所では暖められた空気が上に昇り、周囲から空気が流れ込む。人が立つとその分だけ周囲からの流れが弱められるため、煙が反対側からの風に乗り、その人に向かってくる。そもそも地球で風が吹くのは太陽が、熱帯のような「熱源」と北極圏や南極圏のような「冷源」をつくり、寒暖差で対流が起きるためと説明している▼年末年始、太平洋側はおおむね晴れそうだが、日本海側は寒気が流れこみ今日も雪の所があると予報は伝えた。年明け以降も寒気が南下するらしい▼偏西風が日本付近で南に蛇行し、北からの寒気に覆われやすい状況が続く。偏西風蛇行の要因は、太平洋の水温分布が平時と違うラニーニャ現象。地球規模の空気の流れの変異もあって風が肌刺す年末年始になる所もあるようだ▼冬の風が柵などに吹きつけ「ひゅーひゅー」と音が鳴ることを虎落(もがり)笛という。虎落は当て字で、竹を組み縄で結んだ柵。「虎が落ちる笛」とは寅(とら)年の暮れに似合う気もするが、できれば聞かずに済むことを。この時期は誰しも暖かく過ごしたい。


今日の筆洗

2022年12月29日 | Weblog

 勝五郎はいきのよい魚を売ると評判の魚屋さん。ところが、一杯の昼酒から酒に取りつかれてしまい、ついには商いにも行かなくなる。落語の「芝浜」。年の瀬になると聞きたくなる▼芝浜で財布を拾い、これで遊んでくらせると酒を飲み続ける勝五郎をおかみさんがだます。財布なんかありゃしない。夢でも見たんだよ。亭主を立ち直らせるための懸命なウソ。勝五郎の方もこんな夢を見るようになってはおしまいだとすっぱり酒を断ち、商売に再び、身を入れる▼その事故のせいでわが国はあれほど苦しんだのに勝五郎ほどすっぱりとその味を忘れることができないらしい。原発である。政府は従来の政策を改め、原発の開発・建設を推進する方針を決めた。既存原発の六十年を超えての運転も認める▼脱炭素化、エネルギーの安定供給のため。大切な課題とはいえ、原発の新増設を「想定しない」とした「誓い」をあっさりと捨て、ひとたび事故が起これば取り返しのつかぬ原発に再び、手を伸ばす▼のど元過ぎれば…か。事故から十一年が経過した今も避難生活を続ける人がいる。それを思えば原発事故はのど元さえ過ぎていないというのに▼あの落語では大みそかの夜、立ち直った勝五郎におかみさんが酒を勧める。が、飲まない。「また夢になるといけねえ」。原発推進という「酒」をあおった後の悪い夢が心配でならぬ。


今日の筆洗

2022年12月28日 | Weblog
 「もういくつ寝るとお正月」−。どなたもご存じだろう。童謡の「お正月」(作詞東くめ、作曲滝廉太郎)。一九〇一年発表だから約百二十年、それぞれの時代の子どもに歌われている▼この歌をコラムに取り上げるのは気が早いと笑われるだろうが、歌詞の内容を思えば、お正月の直前の歌だろう。<お正月には凧(たこ)あげて>と期待し<早く来い来い>と待ちわびる▼東京のわらべ歌に<お正月がござった/何処(どこ)までござった/神田までござった>というのがある。この歌にも正月の近づく喜びがある▼本日は仕事納め。もういくつ寝るとの数も少なくなってきたが、正月を待つ、穏やかな気分には遠いのは朝鮮半島情勢だろう。北朝鮮の無人機が軍事境界線を越え、韓国の領空に入ったとの情報。ソウル上空も飛んだと聞いて驚いたが、無人機ではなく、鳥の群れや韓国軍機を誤認したとの見方も出てきた▼水鳥の羽音に驚き、平家が敗走した富士川の戦いを連想してしまったが、緊張の中では鳥さえも悪意ある無人機に見えてしまうのか。「もういくつ寝ると」も仕事納めも無関係な対立の日々が悲しい▼「お正月」にはモチがどうのという縁起の良くない替え歌があった。争いごとの世に別の替え歌を作るとすれば、<もういくつ寝ると>や<早く来い来い>の後に続く歌詞はどうしたって「平和」の二文字しか浮かんでこない。
 
 

 


今日の筆洗

2022年12月27日 | Weblog

「お正月を写そう!」。昔は年末年始の時期に限定したTV広告というのがよくあった。冒頭は写真フィルム。「おせちもいいけどカレーもね」はインスタントカレー。いずれも高度成長期育ちには懐かしい。この時期、つい口ずさんだりする▼この広告は比較的最近だろう。家庭用洗剤の「今年の汚れ、今年のうちに」。大掃除のシーズンにそう言われるとその気になる。どなたも一年のホコリや汚れはその年のうちに落とし、すがすがしい気分で新年を迎えたいものだろう▼政治の世界でも変わらないらしい。岸田さん、事務所経費を巡る問題などで野党や世間の批判を受けていた秋葉賢也復興相を交代させるそうだ。暮れも押し迫ったこの時期に人事とは異例も異例である▼秋葉さんの存在がよほど心配の種になっていたのだろう。ホコリ扱いするのは気も引けるが、支持率の足を引っ張る人物を年内に片付け、心置きなく一月召集の通常国会に備えたかったか▼これで、不祥事による閣僚の交代は四人目。年の瀬で国民が忙しいどさくさを狙ったとまでは言わないが、ならば、もっと早い時期に決断ができなかったか。そもそも、岸田さんには任命した責任もある▼それにしても、落ち着かぬ内閣である。根本に問題があるのだろう。どうしたって思い出す広告はトイレ消臭剤の「くさい臭いは元から断たなきゃだめ」の方か。


今日の筆洗

2022年12月26日 | Weblog
英国のコメディー集団「モンティ・パイソン」に「世界一おもしろいジョーク」というネタがある。戦争中のある日、英国の作家が世界一おもしろいジョークを思いつき、書き上げる▼ところがである。この作家、読み返したとたん、あまりのおもしろさに笑い死んでしまう。ジョークを読んだ母親もやっぱり笑いすぎて亡くなる。やがてそのジョークは兵器として利用されるようになり…。そんな話だった▼劇中、ジョークの内容はついぞ明らかにならないのだが、「世界一おもしろくないジョーク」なら、紹介できるかもしれない▼先週、ロシアのプーチン大統領がベラルーシを訪問し、ルカシェンコ大統領と会談した時の話らしい。ウクライナ侵攻を続けるプーチン大統領としてはベラルーシとの軍事的結び付きを強める狙いがある▼さて、ジョークを聞く用意はいいですか。ルカシェンコ大統領が首脳会談について、こんな冗談を言った。「この世界で最も卑劣で有害な人物はわれわれ二人である。その中でも最悪はどちらかについて議論した」。この話にプーチン大統領はこう言ったという。「それは私である」−▼ねっ、笑えないでしょう。笑いには意外性やひねりが必要だが、プーチンさんが最悪とはジョークにはなるまい。この話、ウクライナに伝わらねばよい。さもなくば笑えぬ話に電力不足の町がさらに凍りつく。
 
 

 


今日の筆洗

2022年12月23日 | Weblog

野球選手が移籍先で活躍すると、望まぬ異動もある勤め人は心打たれる。昔、巨人、西武で救援投手を務めた鹿取義隆さんも共感された▼巨人の王貞治監督時代は、ほぼ二試合に一回は投げた年も。ピンチに監督がベンチを出る姿がテレビに映ると、審判に告げるより先にお茶の間のファンが「ピッチャー鹿取」と言ったものだ▼監督が藤田元司さんに代わると、先発完投重視の方針や疲労蓄積のせいらしい本人の不振で出番が激減したが、移籍先でタイトルを獲得した。酷使、冷遇を知る苦労人である▼先の「現役ドラフト」で移籍が決まった選手も頑張ってほしい。出番に恵まれぬ選手にチャンスを与える初の試み。各球団が放出可能な二人以上の選手リストを出し、その中から指名した。高校時代に甲子園を沸かせたオコエ瑠偉選手が楽天から巨人に行くなど十二人が新天地へ。リストには指名されなかった選手もいる。移籍できるだけ幸せだろう▼鹿取さんの著書によると、王監督のためなら「壊れてもいい」と思って投げたが、西武が登板数を抑制し、選手寿命は延びた。巨人のコーチ時代はけが防止に腐心。先発投手は原則中六日で回すこととし、即戦力の新人上原浩治投手について長嶋茂雄監督から「中四日では無理か」と聞かれた際にも「まだプロの体になっていません」と説いた▼上原投手も上司に恵まれたものだ。


今日の筆洗

2022年12月22日 | Weblog
「ヒア・ウィー・ゴー(さあ行くぞ)」。航空機の操縦席で機長がそう言うのは離陸時ではなく、着陸に向けて降下を始める時が多いと英航空会社のパイロットが著書に記している▼フライトの最終局面こそ集中力を要すのだろう(マーク・ヴァンホーナッカー著、岡本由香子訳『グッド・フライト、グッド・ナイト パイロットが誘(いざな)う最高の空旅』)▼景気浮揚のため、世に出回るお金の量を増やす日銀の大規模金融緩和が終結に向け「着陸態勢」に入ったかと市場は驚いた。発表された長期金利の政策変更。金回りを抑える引き締めの始まりととられ、円相場や株価も動いた▼開始十年目の大規模緩和。国の借金の証文たる国債の購入など他の諸施策は拡充や維持といい、日銀総裁は「引き締めではない」と言うが、信じる向きは多くないよう。「当機は順調に飛行中。まだ降下しません」という機内放送を客が疑っている状況だろうか▼お札を発行する日銀が国の借金を支える構造はさらなる借金を誘発しかねず、永続は不可能なはずの大規模緩和。一方で不況は招きたくなく、やめ時が難しい。経済に詳しい同僚によると、引き締め開始後にやはりまずいと緩和に戻るシナリオもあり得るらしい▼飛行機でいえば、危険回避のため、下げた機首を上げる着陸やり直し「ゴーアラウンド」。無事に着陸する日はいつ来るのだろう。
 
 

 


今日の筆洗

2022年12月21日 | Weblog

この間、赤穂義士の討ち入りの日が過ぎたと思ったら、明日二十二日はもう冬至。まったく十二月は駆け足どころか百メートル走のように過ぎていく▼江戸時代は十二月十三日がすす払いで、この日から新年を迎える準備が本格化したそうだが、今の人はそこまで手間をかけぬ。年賀状書きさえ億劫(おっくう)なわが身などは新年の準備といえば多少念入りの掃除と餅を用意するぐらいである。食い意地が張っているせいで、餅にはこだわってしまう▼米どころ、新潟県長岡市のお餅屋さんに電話で注文する。毎年、同じおかみさんが応対してくれるのだが、この会話が楽しみでもある。このおかみさん、電話に出るなり、お店の名ではなく、ただ「モチヤです」という。昔から近所ではそう呼ばれているのだろう。その素朴な言い方がなんとなく、懐かしい▼会話に気取りがなく、余計なこともおっしゃらない。話をしていて、お湯がシュンシュンとわく音が聞こえるような静まり返った事務所が浮かんでくる。新潟の冬を感じる▼昨日から電話がつながらぬのは大雪のせいだろうか。現地は十二月としては記録的な大雪である。新潟県内では約二万戸が停電。長岡、柏崎市などで車が立ち往生するなど、暮れの忙しい時期にさぞお困りだろう▼この雪の峠は越えたが、今週末にはまた大雪になるそうだ。つながらぬ電話に北国がいっそう心配になる。


今日の筆洗

2022年12月20日 | Weblog

 アルゼンチンの作家、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの『幻獣辞典』に同国に伝わる、ある怪物が出てくる。「チグレ・カピアンゴ」という。ジャガーに変身する人間のことだそうだ。思いのままにジャガーに姿を変えて人びとを驚かせる▼かの地から「チグレ・カピアンゴ」がやって来たのだろう。ジャガーのように疾走し、どん欲にゴールをもぎ取る。ワールドカップ(W杯)カタール大会の決勝戦。アルゼンチンがPK戦の末、フランスに勝利した。すごい試合だった。白熱した展開に思わず大声を上げた日本のファンも多いだろう▼ボルヘスが生きていたらオオカミ人間のたとえを嫌がったかもしれぬ。同国のサッカー熱は有名だが、この作家は例外で、サッカー嫌いだったそうだ。「サッカーは人気だ。愚かさというものは人気になる」。皮肉な言葉を残している▼ボルヘスの不安はサッカーの熱狂がナショナリズムに結びつきやすいことにあった。それを利用する政治への不信感もあった▼歓喜の声。涙を流す人もいる。ボルヘスの心配はよく分かるが、ブエノスアイレスからの映像に本日だけは脇に置かせてもらうことにする。経済危機に苦しむ同国である▼貧困率は40%台で推移する。三十六年ぶりの優勝、メッシの神がかったプレーが困難にある国民をどれほど励ますことか。その効用を「愚か」とは片付けられまいて。


今日の筆洗

2022年12月19日 | Weblog

第一次世界大戦のクリスマス休戦は英軍、ドイツ軍の命令や指示ではなく、複数の戦闘地において双方の部隊の間で自然に発生したと伝わる▼ある戦闘地では一曲の歌が一時休戦を導く役割を果たしたそうだ。一九一四年のクリスマスイブの日、ドイツ兵の一人が前線の近くにやって来て「きよしこの夜」を歌った。最初はドイツ語。次に英語で。この兵の職業は歌手だったそうで英軍にもよく聞こえた。これに応えて今度は英軍の兵が「きよしこの夜」を歌い始めた。こうして撃ち合いは終わり、双方の軍は無人地帯へ退いたのだという▼クリスマス休戦はほどなく終わり、両軍の戦闘は激化するのだが、一時であれ、戦争の最中に銃を置いたのは人の起こした奇跡だろう。そんな奇跡はまず起こらないらしい。ウクライナである▼ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアに対し、クリスマス前までの撤退を求めていたが、ロシア側は撤退はおろか、クリスマス休戦についても応じる気はないらしい▼電力インフラを攻撃し、停電による寒さを味方にウクライナの戦意を弱めたいロシアにはこの時期の休戦など念頭にないのだろう。わずかな憩いも与えてくれぬ▼ロシアから「きよしこの夜」が聞こえないのならば、せめて、国際社会がウクライナの越冬支援に一層の力を入れたい。<朝(あした)の光輝けり ほがらかに>と祈りを込めて。