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今日の筆洗

2023年07月31日 | Weblog
吉田兼好の「徒然草」に良覚僧正という「極めて腹あしき」(怒りっぽい、意地悪い)人の話がある。高校の教科書に載っていたから「榎木の僧正」といえば思い出す方もいるだろう▼こんな話だ。僧正の寺のそばに大きな榎の木があったので人々は「榎木の僧正」と呼んでいた。今でいうニックネームだが、それが気に入らぬと良覚さん、榎木を切ってしまう▼ところがこれで終わらない。人々は残った切杭(きりくい)を見て、「切杭の僧正」と呼ぶようになる。ならばと僧正、掘り返して切杭を捨てるも、大きな穴ができ、「堀池の僧正」と呼ばれることになる▼短慮から木を切り倒したことがすべてのはじまりだろう。事実なら、これも浅はかな短慮が原因か。保険金の不正請求が問題となっている中古車販売大手のビッグモーターである。今度は店舗前の街路樹を除草剤などで意図的に枯らしていたのではないかとささやかれる▼道路から店舗の車を見やすくするためではないかと疑われる。国土交通省が調査を指示したが、人々の目を楽しませ、夏には緑陰をこしらえる街路樹である。それを商いに障りがあるからと身勝手にも枯らしていたのなら「極めて腹あしき」ふるまいだろう▼「車を売るなら」のCMのうたい文句は「車をゴルフボールで傷つけるなら」となり、今度は「街路樹枯らすなら」の陰口と変わりそうな気配である。
 
 

 


今日の筆洗

2023年07月29日 | Weblog
いなくなってほしい人間に向けて小さなスイッチをカチと押す。すると、相手はたちまち消えうせ、もともと存在しなかったことになる。「どくさいスイッチ」は『ドラえもん』(藤子・F・不二雄さん)のひみつ道具の中でもおっかない▼野球でのへまをののしられた、のび太はつい、ジャイアンを消してしまう。次にスネ夫を。最後には、「だれもかれも消えちまえ」。結果、世界にいるのは自分独り。子どものころに読んで震えた人もいるか▼日本維新の会の馬場代表。五十八歳は小欄と同じ世代だが、『ドラえもん』は読まなかったか。最近のインターネット番組で共産党について「日本からなくなったらいい」と述べたそうだ▼立憲民主党には「立憲がいても日本は何もよくならない」。公党に対し、のび太のような「消えちまえ」は聞き捨てならぬ▼他党の主張や政策に批判を加えて自分たちの意見をぶつける。それはよい。考え方の違う者同士が互いの意見をぶつけ合い、よりよい方法を探る。それこそが民主主義の肝だが、その発言は対立する党の存在自体を否定してしまっている。別の考え方はいらぬ、消えろ。そう言っているのも同じだろう▼漫画ではドラえもんが消えた人々を取り戻す。反省した、のび太の言葉が印象に残る。「まわりがうるさいってことは、楽しいね」-。馬場代表、よかったらお貸しする。
 
 

 


今日の筆洗

2023年07月28日 | Weblog
『蟬(せみ)しぐれ』などの作家、藤沢周平さんが作家になる前の職業は中学の教員である。教師を目指したきっかけに一人の先生がいる。「教師になろうとしたとき、私はあきらかに宮崎先生のことを考えていた」(『周平独言』)▼宮崎先生とは小学五、六年の時の担任だそうだ。こわい先生と思い込み、藤沢さんは一時、授業中に言葉が出にくくなるほどだったが、やがて、やさしい先生だと分かる。朗読で言葉が出てこない自分を笑う子どもを叱る。授業をつぶし、『レ・ミゼラブル』を読んでくれる。子どもを裏山に連れだし遊んでくれる。自由で兄のような存在が、藤沢少年に「いつかは自分も先生に」の志を芽生えさせたか▼同じ気持ちになる子どもが大勢いるのが頼もしい。クラレがこの春に小学校を卒業した子どもに聞いた「将来就きたい職業」。男女総合一位のスポーツ選手に続く、二位は教員である▼昨年は三位だったが、漫画家・イラストレーターを抜いた。大人は意外に思うかもしれぬ▼授業、部活に生徒指導、保護者の苦情対応。教員と聞けば長時間勤務と、なり手不足をつい連想してしまうが、子どもは教員という職業をまぶしく見ている。先生たちもうれしかろう▼長時間勤務の見直しと給与アップを図る、教員の働き方改革を急ぎたい。子どものあこがれを「えっ、知らなかった」の幻滅に変えぬためにも。
 
 

 


今日の筆洗

2023年07月27日 | Weblog
「人主にもまた逆鱗(げきりん)あり」。古代中国の思想書、「韓非子」が教えている。竜のノドの下には逆さまに付いたウロコがあって、それに触ると、竜は怒り狂う▼人主(君主)にも似たウロコがあって下手に触れると怒りを買うというのだが、いったい、その人はかわいがられていた習近平(しゅうきんぺい)国家主席のいかなる逆鱗に触れたのだろう。国務委員兼外相だった秦剛(しんごう)氏。昨年十二月、外相に任命されたが、短期間で解任された。後任は前任の王毅(おうき)政治局員というのだから、これも異例。政権内のドタバタがうかがえる▼秦さん、習主席の覚えめでたく、駐米大使や外相に抜擢(ばってき)された人物で「出世街道」を異例のスピードでひた走ってきた▼何でつまずいたか気になるところで立身出世に励む勤め人ならここはぜひとも「教訓」としたいが、習さんの任命責任を問われるのが嫌なのか、解任をめぐる中国側からの説明はない▼妙な勘繰りは失礼とはいえ、健康問題説などに加え、駐米大使時代の女性スキャンダルやあまりの出世の早さにねたみを買ったのではないかとの臆測も流れている▼とすれば同じ「韓非子」の教えでも「山に躓(つまず)かずして垤(てつ)に躓く」の方か。垤とはアリ塚。大きな山では警戒するので失敗はしないが、小さなアリ塚に対しては注意を怠りやすいので失敗するという意味である。その人が大きく転んだアリ塚の正体を知りたい。
 
 

 


今日の筆洗

2023年07月26日 | Weblog
もう四十六年も昔なのか。一九七七年の夏。テレビCMではひんぱんに松田優作さんがつぶやく、西条八十の詩が流れていた。<母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね?>-▼作家の森村誠一さんが亡くなった。九十歳。『人間の証明』封切りの年の騒ぎを思い出す方も多かろう。映画化、主題歌、テレビCMのメディアミックスも手伝って『人間の証明』は大衆の心をつかんだ▼ブームから別の森村作品を読み、松本清張やクリスティ、クイーンに向かう同級生が多かったと記憶する。森村さんは当時のミステリー少年少女の「とば口」になっていた▼『人間の証明』は終戦直後の暗い過去を隠すための犯罪劇である。被害者が残した謎の言葉「キスミー」「ストウハ」とは何か。小さなキーワードが大きな物語を引っ張っていく。巧妙な謎に加えて描かれる人間と情。それが森村作品の強みだろう▼ミステリーは読者に犯人を隠すため、犯人の人間性や人生を描きにくくなるが、巧みな構成力で人の心や時代の悲しみまでを浮かび上がらせた▼終戦の年、熊谷空襲を体験した。「ミステリーは基本的人権の保障される民主主義社会において発達する」。森村さんの言葉である。人権のない社会では合理的な証拠は必要なく、拷問で白状させればよいのだから-。戦争や軍国主義を憎んだ、麦わら帽子。夏の盛りに谷へと消えた。
 
 

 


今日の筆洗

2023年07月25日 | Weblog

宮沢賢治の『猫の事務所』に出てくる「かま猫」が仲間に嫌われるのはいつも薄汚れているせいだった。寒がりなのでいつも竃(かまど)にもぐり込んではススだらけになってしまう▼寒がりには訳があった。「なぜそんなに寒くなるかといふのに皮がうすいためで、なぜ皮が薄いかといふのに、それは土用に生れたからです」▼そうか、暑い盛りの夏の土用生まれだったか。二十日が土用の入りだったが、この暑さを思えば、気の毒な「かま猫」がいつもの年より増えそうな気配である。連日の猛暑である▼昨日も全国各地で三〇度を大きく超えている。もはや驚かない。週末に訪れた北海道富良野市も三〇度近く、ちょっと歩けば汗だくに。「北の国」も東京とさほど変わらない。子どものころは「宿題は涼しい午前中に」とよく言われたのだが、なんのなんの、最近の夏は朝から暑く、エアコンなしでは宿題をやる気にもなるまい▼土用と「かま猫」の話に「猫は土用に三日鼻暑し」を思い出した方もいるか。いつもは冷たくしっとりした猫の鼻さえ、夏の土用の三日間に限っては熱を持つという言い伝えだが、今がその時季なのだろう。週の後半からとびきり暑くなるとの予報もある。熱中症対策をさらに強化したい▼「土用十日後先照れば豊年」。土用の暑さは豊年のしるしとはいうけれど、この夏はどうも遠慮というものを知らない。


今日の筆洗

2023年07月24日 | Weblog
サンドウィッチマンのコントに奇妙な刑事が出てくる。取り調べは二の次で、容疑者にうまいカツ丼を食べてもらいたいと自ら調理に精をだす▼昭和の刑事ドラマを逆手に取ったコントなのだろう。実際は知らないが、あの時代の刑事ドラマにはカツ丼で容疑者の心をときほぐし、供述を引きだすという場面がよくあった▼もっとも「供述の任意性」という点ではこのカツ丼も問題だろう。供述はあくまで本人の意思によって行われなければならず、カツ丼で誘導したと疑われかねない▼事実なら使ったのはカツ丼ではなく「示唆」か。二〇一九年参院選をめぐる大規模買収事件のその後である。東京地検特捜部の検事が河井克行元法相から現金を受け取った元広島市議に対し、不起訴を示唆しつつ、現金が買収目的だったと認めさせるかのようなやりとりが録音データに残っていた▼「議員を続けてほしいと思っている」。検事の言葉は不起訴と明言せずとも聞く者に不起訴を期待させたはずだ。カツ丼代わりに不起訴をほのめかし、元法相立件に役立つ供述を誘導していたのなら事件の真相解明にはほど遠い「裏取引」だろう▼金を受け取った地方議員らはいったんは全員不起訴になっている。その後、検察審査会が一部を起訴相当としたが、元法相立件を優先する裏取引で「お目こぼし」してよかった相手だったとも思えない。
 
 

 


今日の筆洗

2023年07月22日 | Weblog

米作家、スティーブン・キングの小説にクリスティーンなる女性の名を与えられた車が意思を持つようになり、人を襲うという話があった▼車に名を付ける人はときどきいらっしゃる。車種とは別にわが子のようにオリジナルの名を与え、大切にする。おんぼろのワーゲンをなぜかポチと呼んでいた友人を思い出す▼名を付けるほど車をかわいがる人は少なかろうが、長く付き合えば、自分の車への思いが深くなるのは確かで、車を手放す際、友との永の別れのように寂しく感じることはある。悲しみも喜びも分かち合った家族の一員のように思えてくる▼家族が傷つけられた気になる。中古車販売大手のビッグモーターが損害保険各社に自動車保険の保険金を不正請求していた問題である。お客さんから修理で預かった車をわざと傷つけ、修理費を水増ししては保険金を不正に請求していた▼売り上げに目がくらみ、商売物の車への愛情を忘れたか。やってもいない修理をやったといい、ドライバーなどで車を傷つけ、ゴルフボールを詰めた靴下で車をたたいたとはあきれる。「ビックリモーター」とでも名を改めた方がよい▼エンジンの具合など複雑な車の状態が分からない顧客側は業者を信用して車を預けるしかない。その信用を裏切った。徹底的な調査と再発防止の取り組みを願う。クリスティーンがアクセルを踏み込む前に。


今日の筆洗

2023年07月21日 | Weblog
昭和の映画『トラック野郎 望郷一番星』では、菅原文太さん扮(ふん)する主人公桃次郎が自慢のトラックに鮮魚を載せ、北海道の港町から札幌の市場まで爆走する▼荷主と運転手を仲介する斡旋(あっせん)業者が、荷主から金をもらって姿を消し港に放置された魚。札幌のせりに間に合わなければ荷主は大損を抱える。桃次郎の相棒で、愛川欽也さん演じる運転手「やもめのジョナサン」こと金造が業者と付き合いがあり、金造が責任を負わされそうな雲行きに。飛ばしに飛ばす桃次郎は、停止を命じるパトカーも振り切る▼合法的に飛ばせるよう国は高速道路のトラックの最高速度引き上げを考えているようだ。有識者検討会が近く議論を始める▼トラック運転手の残業上限規制により、輸送力低下が懸念される「物流の二〇二四年問題」対策。運転手の労働時間減少を速さで補う考えらしいが、危険とみる関係者もいる。議論には慎重さも必要だろう▼昨今はネット通販の浸透で荷が増える一方、低賃金の長時間労働が常態化し運転手不足という。正当な待遇実現こそが重要。作業効率化など輸送費削減の努力は、その上での話と思える▼映画で金造が、問題を起こす業者と付き合ったのは仕事ほしさから。狭い借家住まいの子だくさんで、妻は一戸建てを望んでいた。無理せず働き、夢も描ける仕事であるべきなのは、令和の世でも同じだろう。
 
 

 


今日の筆洗

2023年07月20日 | Weblog

山本周五郎の短編集『赤ひげ診療譚(たん)』に心を病んだ妊婦の話がある(「氷の下の芽」)。心の不調は実は演技である。妊婦の両親というのが悪らつで、わが子を幼いうちから働かせ、その金を当てに仕事もせず、酒を飲み、うまいものを食べていた▼妊婦は心を病んだふりをすれば、この親に「身を売られずに済む」と考えた。事情を知った赤ひげの新出去定(にいできょじょう)の剣幕(けんまく)がすさまじい。子が親に尽くすのは当然と開き直る母親をしかりつける。「酒浸りになるために子を売る親はない」▼この一件は赤ひげの耳に入れたくない。小学三年の娘に食事を与えず、ケトン性低血糖症で入院させては共済団体から入院共済金をだまし取っていた母親が大阪府警に詐欺容疑で逮捕された▼娘を低血糖症にするためか、入院直前の三日間は七百キロカロリーしか与えていなかった。三日間で必要とされるカロリーのわずか13%。食べたい盛りの子どもにはどんなにつらかったか。下剤も飲まされていたという▼ケトン性低血糖症はけいれんや嘔吐(おうと)を発症し、意識障害を引き起こす危険もある。わが子にひもじい思いをさせた上、そんな危ない状態に追いやるとは母親の了見がどうにも分からぬ▼よほどの事情があったかと想像したが、受け取った共済金は外食費やエステ代に充てていたと聞く。中っ腹を通り越して、人の欲というものが悲しく、恐ろしくなる。