一九六四(昭和三十九)年の東京五輪の前後にお生まれの方はぜひ古いアルバムを開いてみていただきたい。あのポーズの写真が一枚か二枚は必ず見つかるのではないか。「シェー!」。赤塚不二夫さんの「おそ松くん」に登場するイヤミのオドロキのポーズである。当時、大流行した。六六年に来日したビートルズのジョン・レノンもそのポーズをした▼その方にもある。即位された新しい天皇である。大阪万博の時の写真なので、当時十歳。なかなか見事な「シェー!」である▼六〇年生まれ。戦後生まれで初の天皇らしい、こんな逸話を聞いたことがある。子どもの時、長嶋茂雄選手がごひいきでチームがピンチの時、思わず、「やばい」とおっしゃったそうだ▼長嶋、東京五輪、大阪万博、それに「シェー!」。令和の幕開けらしからぬ昭和のキーワードを並べたが、その年齢の人はそういう日本の明るい季節の中で生まれ育っている▼当然、戦争体験はない。戦禍の痛みや悲しみも直接は知らないが決して平和にマイナスにはなるまい。五輪も万博も野球もすべての国民の喜びは平和と自由の中にある。それを見て体験した世代である。「シェー!」の朗らかなナンセンス。それだって息苦しい戦乱の世には存在しえまい。そのポーズは平和である▼お言葉の「世界の平和を切に希望します」。新天皇の平和体験に期待する。