「おまえさんはいいよ、コウモリなんてハイカラなものをさしているから。オテントウサマをさえぎってますよ。あたしをごらんなさい。まともに照りつけている」▼落語の「船徳」にそんな場面がある。暑い盛り、七月の四万六千日様に浅草観音をお参りしようという男性の二人連れ。一人はコウモリ傘を日傘に使っている▼勘当された若旦那が船頭になる「船徳」は初代の三遊亭円遊が人情噺(ばなし)の「お初徳兵衛浮名の桟橋」を明治期に滑稽な内容に改作した。今でこそ男性の日傘はあまり見かけぬが、当時は珍しいことではなかった様子が想像できる。それ以前の江戸時代には幕府が一時期、男性の日傘使用を禁じていたというからお上が目くじらを立てるほどに広まっていたのだろう▼時代は変わり、環境省が熱中症対策として男性の日傘使用を呼びかけている。日傘を使えば、帽子の人よりも汗の量を17%抑えることができたそうでその効用に目を付けた▼実際に使う勇気がなく、ひとまず日傘をさしていると想像してビジネス街を歩く。この雑踏で大勢の男性が日傘を使えば、傘がぶつかり、ストレスが高くなりそうだが、人通りの少ない場所などでは問題なく使えるだろう▼男性も悪目立ちすると日傘をためらう場合ではないかもしれぬ。四万六千日様はまだまだ先なのに既に暑い盛りを思わせる最近の容赦なき夏である。