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今日の筆洗

2023年06月30日 | Weblog
 「雷が鳴ったらへそを隠せ」と昔からいう。小欄筆者も幼いころ、雷にへそをとられるとおびえ手で押さえた。専門家の本によると、雷が人に落ちた時に直撃されるのはたいてい頭などの上半身。へそに直接落ちることはまずないらしい▼ただ、雷雨になると上空の冷たい空気が降りてくる「ダウンバースト」が起きて気温は急低下する。夏は薄着の子どもに対し、体調を崩さぬようおなかを冷やすなと戒める言葉としては、意味があるという(新藤孝敏著『雷をひもとけば 神話から最新の避雷対策まで』)▼昨日の朝はどこかに雷が落ちる音で目が覚めた。日本の広い範囲で大気の状態が不安定となり、各地でゲリラ豪雨に見舞われた。おなかに手をあて怖がった幼子もいたかもしれない▼気象庁によると、明日にかけても梅雨前線が活発化し、西日本から東北の日本海側を中心に大雨の恐れがあるという。今は、豪雨災害が起きやすいとされる梅雨の後期。決して警戒は怠るまい▼雷は水の恵みをもたらす存在でもあり、静岡県掛川市にはこんな民話が伝わる。寺の杉の木に雷さまが落下し、けがの手当てを和尚がしてやると感謝し、雨が欲しい時に祈ればいいと自分のへそを取って渡し、帰っていった。ある年に日照りが続いたため、へそを取り出して村の衆と祈ると雨が降ってきた-▼近々も慈雨にとどまる量にしてほしい。
 
 

 


今日の筆洗

2023年06月26日 | Weblog

セミの一生は「七年七日」とは昔からよく聞く。七年の間は幼虫として地中で過ごし、成虫になって地上に出てからの命はわずかに一週間。実際はもう少し長いようだが、それでも短い命である▼こんな言い伝えがある。セミの脚にある赤い斑点のようなものは仏さまの姿であり、セミをいじめてはならない。こんな教えも地上でのわずかな命を哀れに思ってのことだったのかもしれない▼先週のこと。近くの墓地でミンミンゼミの声を聞いた。まだ六月。一匹だけだったが、鳴き声がまだ慣れぬ感じで、つっかえ、つっかえになるのが可笑(おか)しい。手帳を確認すると昨年の初音(アブラゼミ)は七月六日とある。あくまで個人的な「観測」なのだが、六月の初音は平年に比べかなり早い気がする▼時をたがえ、仲間より早く出てきてしまったか。<頓(やが)て死ぬけしきは見えず蟬(せみ)の声>芭蕉。梅雨明け前とは生き急ぐこともあるまいに。ちょっとかわいそうな気になる▼少々早過ぎるセミの声は厳しい夏の到来を予言しているのか。気象庁のむこう三カ月間の長期予報によると、この夏の暑さは平年並みかそれ以上で、やはり厳しい夏になりそうである▼北京では先週、四一・一度と六月としての最高気温を記録した。日本にもまた、猛暑の夏が迫る。週明けは気温が上昇するそうだ。子どものころは待ち遠しかった夏だが、今は身構える。


今日の筆洗

2023年06月24日 | Weblog
塩は人類の必需品。政治との関係も深い▼『塩の事典』(橋本壽夫著)によると、歳入確保のため、古代エジプトなどで塩税が課され、紀元前のローマでも塩専売制が始まったという。兵士の保存食にも不可欠。十四世紀には、ヨーロッパの国が戦争を準備する時は塩を大量に入手し、魚と肉を塩漬けにしたという▼インドでは独立前の一九三〇年、指導者ガンジーが宗主国・英国の塩専売に反対する「塩の行進」を行った。塩を外国に牛耳られる不当を訴え、海岸まで四百キロ近く歩いた。参加者は数千人とも。独立に向け、民族意識を高揚させたと評される▼韓国で、海水から精製する天然塩が買いだめされていると報じられた。小売価格も高騰しているという。東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出が近づいたことが背景にあるらしい▼韓国政府は、日本で放出された処理水が自国に及ぼす影響はほぼないとの専門家の見解を紹介し「塩は安全」と訴えるが、反日色の強い野党は「海洋投棄は放射能テロ」と強硬。対日関係重視の現政府を揺さぶる狙いらしい。日本を巡る国内対立の根深さを改めて思い知らされ、いささか気は重い▼日本でも明治期から九十年余り塩の専売制が続いたが、当初の導入の狙いは日露戦争の戦費調達だった。ロシアに勝って韓国への影響力を強め、併合へと進んだ。塩は日韓関係史とも縁が深い。
 
 

 


今日の筆洗

2023年06月23日 | Weblog
障害があり電動車いすで生活するコラムニスト伊是名(いぜな)夏子さん(41)は沖縄出身。例年今ごろまで一カ月余続く沖縄の梅雨期を過ごすと、戦時にいるかのような感覚に襲われると以前に書いていた。一九四五年三月の米軍の慶良間諸島上陸で始まる沖縄戦は梅雨期、凄惨(せいさん)を極めた。戦後生まれの伊是名さんも雨中を逃げた人の体験記に接した▼沖縄県史収録の戦争証言を読むとたしかに、雨の描写は多い。家を焼かれ転々とした人は「連日雨が降り身体はびしょぬれでふくれてさえいました」。ある人は雨に打たれながら、兵らの多数の遺体をまたいで道を歩いた▼今日は沖縄の「慰霊の日」。七十八年前、旧日本軍の組織的戦闘が終わったとされる。沖縄の梅雨明けは例年六月二十一日ごろ。今年も間もなくらしい▼米軍基地の集中は続き、沖縄の負担軽減の願いはかなっていない。近隣が舞台となる「台湾有事」なる物騒な言葉は実際に起きるかはともかく、世に定着した感もある。雨中に散った人らの魂は今、安らかだろうか▼伊是名さんは五歳のころ、戦争中に爆弾を落とす飛行機の映像を見て怖くなり、飛行機の音がするたびに泣いたという。「沖縄は旅客機だけでなく、米軍機もよく飛ぶので、一時期は相当泣いていた」▼そんな子は、今もいる気がする。毎年の梅雨と違って、あって当たり前にしてはいけないものはある。
 
 

 


今日の筆洗

2023年06月22日 | Weblog

「タイタニック号のデッキチェアを並べ直す」という英語の慣用句がある。タイタニック号とはもちろん、一九一二年、氷山に衝突し、大西洋に沈んだ豪華客船である▼沈みゆく船の中で、散らばったデッキチェアを今さら並べ直してみたところで役に立たぬ-。慣用句はそんなたとえで大惨事での無益なふるまいという意味で使われる▼縁起でもない書き出しをわびる。海中からの救いを求める「音」に今、世界が聞き耳を立てている。沈没したタイタニック号の残骸を見学する潜水艇「タイタン」が消息を絶った事故である。懸命の捜索作業が続いていたが、カナダの哨戒機が海中から聞こえてくる音をとらえたそうだ▼潜水艇には五人が乗っている。音の正体は分からぬが、潜水艇内の誰かが「タイタニック号のデッキチェアを並べ直す」行為などとあきらめず、必死に鳴らしている音だと信じたい。音をたどり、困難にある命が救出されることを願う。船内の酸素量にも限りがある。時間との闘いに何としても勝利したい▼その一方で、気になるのは潜水艇の安全性の問題である。ニューヨーク・タイムズによるとタイタンが重大な事故を起こす可能性を指摘する意見は以前から出ていたそうだ▼十分な数の救命ボートを用意しないまま航海に出たタイタニック号の悲劇を再び思い出してしまうが、今はタイタンの無事を祈る。


今日の筆洗

2023年06月20日 | Weblog

時代小説の魅力は、今を生きる人間を遠い昔へとやすやすと運んでくれることにあるのだろう▼無表情な今の東京にいながら、ページをめくれば、風鈴の音や物売りの声が聞こえる江戸の路地が浮かぶ。苦しいながらも笑い、助け合う人々の暮らしまでが見えてくる。『御宿(おんやど)かわせみ』などの作家、平岩弓枝さんが亡くなった。九十一歳▼「江戸の一日は石町(こくちょう)の時の鐘が暁七ツ(午前四時)を打つ音から始まる。もっとも早起きなのは豆腐屋で…」(『夜鷹(よたか)そばや五郎八』)。書き出しの数行だけで読み手を江戸の町へとぽーんと連れていく鮮やかな筆をお持ちだった。そこに魅力的な人物と、宿屋での騒動が加われば、物語は面白くないはずがない▼『肝っ玉かあさん』『ありがとう』など昭和の人気ドラマの脚本家としても評判を取った。ドラマは師、長谷川伸の勧めだったそうだ。「小説の中の会話が下手だねえ」▼脚本で会話の書き方を学ぶためだったが、やはり師の教えで五十代にテレビから身を引く。「小説が一番と忘れないこと」。おかげでファンにはたくさんの江戸への扉が残されたか▼小器用な小説も面白いだけの小説もどうでもいい。魂をこめて、人間を描く。その道を求めた舟がいく。「大川を威勢よく漕(こ)ぎ下る櫓(ろ)の音が、如何(いか)にも、初夏であった」(『江戸の子守唄』)。舟の中でほほえんでいらっしゃるか。


今日の筆洗

2023年06月17日 | Weblog
 福井県若狭地方は天皇家と縁があり、古くから「御食国(みけつくに)」として京の朝廷に海産物などの食材を献上した。小浜の港は興隆し、京に通じる「鯖(さば)街道」は特産の鯖などの物資輸送や人々の往来でにぎわった▼十五世紀、現在のインドネシアのスマトラ島パレンバンを出港したとみられる南蛮船がゾウやクジャク、オウムなどを乗せて小浜に入港した。室町幕府の将軍への贈り物で、これが日本人がゾウを見た最初という。船の一行はやがて京へ向かった▼小浜市は市民憲章で「日本ではじめて象が来たまち」とうたう。上陸後にゾウをつないだと伝わる岩も残る▼天皇、皇后両陛下がきょうからインドネシアを公式訪問される。出発を前に天皇陛下が記者会見して「交流の歴史に思いをはせたい」と述べ、小浜にゾウが来た歴史にも触れた▼国際親善目的の外国訪問は即位後初めて。オランダとの間のインドネシア独立戦争を共に戦った残留日本兵も眠るカリバタ英雄墓地で花を供える。日本にゆかりのあるインドネシア人とも語り合う。両国の若い世代の交流がより盛んになることを願っているという▼外国に通じる海と都の間で栄えた若狭では、南蛮渡来の工芸技術に倣った若狭塗が発展し、京都祇園祭の流れをくむ祭礼も行われる。文化とは、旅する人と迎える人の長い営みが豊かにするのだろう。両陛下の旅が実り多いことを。
 
 

 


今日の筆洗

2023年06月16日 | Weblog
「百花斉放(ひゃっかせいほう)」は全ての花が一斉に咲きそろう意から、多様な文化・芸術活動が自由に行われることをいう。中国建国の父で共産党を率いた毛沢東は一九五六年、「百花斉放・百家争鳴」と唱えて芸術や学問分野などで自由な議論を促した▼「いちいち党員の顔色をうかがわなければ仕事ができない」(新聞編集長)といった党批判まで出ると一転、知識人弾圧を始めた。最初から危険分子をあぶりだす狙いで「百花斉放−」と唱えた可能性が強いらしい。天児慧(あまこさとし)氏の著書『中華人民共和国史』に教わった▼先日、中国の大学統一入試の作文で「百花斉放」が出題された。「花が一輪咲いても春ではなく、いろんな花が咲いて(百花斉放)こそ春満開」などの文章を使い、自分の考えを八百字以上でまとめよ−▼花が一輪、で始まる文は習近平国家主席が以前、国際関係について語った言葉で、自国の価値観で他国に干渉する米国をやゆしたとされる。出題では習氏の言葉と明示されたという。ネット上で「政治思想を問うのか」と疑問の声が出たのもむべなるかなと思える▼毛は「百花斉放−」を唱えた際、いかなる政府も欠点については批判を受けるべきだとして、こう語ったという。「言う者に罪無し」▼入試で好ましからざる文を書いた受験生の場合、「罪有り」と咎(とが)められるかはともかく「点無し」の憂き目にはあう気がする。
 
 

 


今日の筆洗

2023年06月15日 | Weblog
落語の「唐茄子(とうなす)屋政談」にこんなせりふがある。「おまんま粒を目で噛(か)めといわれてもできません」−。なるほど無理な話で、日本語の慣用句にはできないことをたとえる愉快な表現がたくさんある▼「あごで背中を掻(か)く」「あひるの木登り」「竿竹(さおだけ)で星を打つ」。今はあまり使われないが、その様子を想像するとおかしい。これは今でも使うか。「おととい来やがれ」。ひどい拒絶の文句となる▼無理の新たな表現を見つけた気になる。ただし、一切、笑えぬ。「全ての国民が安心して生活できるよう留意し」。性的少数者(LGBTQ)理解増進法案に加わった一文である▼性的少数者への理解を求め、行政や企業、学校にその取り組みを求めるはずの法案が、この一文が加わると印象はがらりと変わる。「性的少数者を理解しよう。ただし、全ての国民の安心が前提です」−。そう言っているように聞こえてしまう▼全ての国民の安心に留意するとは過酷な条件で、これが性的少数者の「希望」を拒むタテとなる可能性も否定できまい。この一文に当事者は政治から「おととい来やがれ」と言われている気にもなるはずだ▼性的少数者が国民の安心を脅かす存在であるかのような表現も気になる。性の多様性を認め、少数者の抱える生きづらさをなくす。決して「あひるの木登り」ではないはずだが、残念ながら、その道は遠い。
 
 

 


今日の筆洗

2023年06月14日 | Weblog
大型犬の寿命は小型犬に比べて短い。だいたい十歳ちょっとらしい▼十歳を超えてからの年齢は神さまからの「贈り物」というそうだ。十二年生きたのなら二年、十五歳なら五年が贈り物。贈り物の大きさは神さまにしか分からない▼この犬と飼い主さんは神さまから特別、大きな贈り物を頂戴しているのだろう。世界最高齢の犬、ポルトガルの「ボビ」。先月三十一歳になった。今年二月にギネス世界記録に認定された。確認できる限りで、歴史上最も長生きしている犬でもあるという▼大型犬の年齢を人間の年に換算する表を見ると二十歳でだいたい百四十五歳。二十歳より先はなかったが、三十一歳は二百歳近いか。「ラフェイロ・ド・アレンティジョ」という種類の大型犬。映像を見る限り、足取りも立派なもので、歩くのも難儀になった老犬を飼う身は少々うらやましくなる▼ボビの飼い主さんによると神さまに大きな贈り物をねだるコツはあるらしい。穏やかで落ち着いた環境。それに森を自由に歩き回ることだそうだ▼東京都内の警察署には毎年約三千から四千匹の犬や猫などの動物が落とし物として届けられていると十二日付の夕刊にあった。ボビとは違って、穏やかな環境どころか、捨てられる命がある。「贈り物」の大きさを決めるのは神さまと書いたが、間違いなく、人間もかかわっていることを肝に銘じたい。