東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2019年08月30日 | Weblog
 「雨、車軸のごとし」「車軸を流すような雨」という。太さが車軸ほどもある大雨という意味だ。鎌倉時代の文学にもある表現というから、牛車のものだろうか▼大げさな言い回しだと思っていたが、大雨に見舞われている佐賀平野など九州北部には、誇張ではない脅威を実感された方が多いはずだ▼一時間で三〇ミリから五〇ミリも降れば、人はバケツをひっくり返したようだと感じるという。今回は一昨日の佐賀市で一時間一一〇ミリである。例えが簡単に見つからないような激しさだろう▼車軸ならぬ、車そのものを押し流してしまう水の怖さをみせられた。佐賀県などで、運転する車が流されたり、急激な増水のために閉じ込められたりした二人が亡くなっている。水に囲まれ、行き来が断たれ、病院が長時間孤立するという事態も起きた。あっという間に事態が進んだようだ▼原因は積乱雲が帯状に発生する線状降水帯だという。近ごろの異常な降り方をもたらす例の現象である。中国には、激しい雨を表す「漏天」「天漏」という言葉があるそうだ(倉嶋厚著『お天気博士の四季暦』)。空が突然裂け、水が流れ出すイメージを線状降水帯にも感じる▼いつどこで水が漏れ落ちるのか予測が、簡単ではない難物でもあろう。都市部も無縁ではない。かつて誇張だったものが、現実の脅威に近づいていると感じさせる大雨である。

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】


今日の筆洗

2019年08月29日 | Weblog

 第二次世界大戦中に活動した有名なスパイにフアン・プホル・ガルシアというスペイン人がいる。いわゆる「二重スパイ」である。ある時は英国の情報をドイツに流し、ある時はドイツの情報を英国に提供する▼れっきとした英国のスパイである。ドイツのスパイになっていたのは懐に飛び込み、信頼を得て機密情報に接近するための偽装。ドイツに流した英国の情報の大半は捏造(ねつぞう)したものや意味のない内容だったそうだ▼就活学生の味方のふりをして情報を集めて、そのデータを断りもなく学生を採用する企業側に売る。まるでガルシアの手口である。就職情報サイトの「リクナビ」が学生の内定辞退率を算出し、企業に販売していた問題である。政府の個人情報保護委員会はサイトを運営するリクルートキャリアに対し組織見直しなどを勧告した▼就活学生がどんな企業のサイトを閲覧していたかなどをAIを使って分析し、辞退率をはじき出していた。そのデータによって、企業が学生への内定を見直すようなことも起こり得る。その商売は学生への明白な裏切りである▼ガルシアは英国はもちろん最後までだまされていたナチスからも勲章をもらったそうだが、リクナビに与えられるのは曲がったビジネスへの軽蔑である▼「リクナビ」を並べ替えて、スパイめいた暗号文を作るならば、「ビ(っ)クリナ」か「クビナリ」か。

 
 

この記事を印刷する

 

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】


今日の筆洗

2019年08月28日 | Weblog
 赤塚不二夫さんの「天才バカボン」に見開き二ページ分を使ってバカボンやバカボンのパパの顔のアップだけを続けて描いた回がある。赤塚さんいわく「これぞ実物大漫画なのだ」▼なるほど迫力があるし、登場人物の見慣れぬ大きさにナンセンスさも際立つ。当時、実験的と評判になったが、裏話がある。実は原稿の締め切りに迫られての窮余の策だったそうだ。大きく描けばその分ページが稼げる▼これも締め切り間際の窮余の策なのだろうか。いつもに比べあっさりしている。先進七カ国首脳会議(G7サミット)が閉幕の土壇場でまとめた「首脳宣言」である▼わずか紙一枚。サミットの成果文書としては異例の短さである。自由貿易やイラン問題などでの米国と欧州の対立に加え、欧州内も足並みがそろわぬ状況とあっては、従来のような包括的な首脳宣言をまとめるのは、やはり困難だったか▼それでも労をねぎらうべきは参加国の一致点をぎりぎりまで模索した議長国フランスのマクロン大統領だろう。紙一枚とはいえG7としての「成果」をあきらめなかった▼「完璧でなければ役に立たないという完璧主義者は結果として何も物事が進まないまひ状態に陥らせる」。チャーチルの言葉という。完璧ではないかもしれぬが、締め切りぎりぎりのその紙一枚がG7を何とかつなぎとめた。大きな意味を持つ窮余の策だろう。

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】


今日の筆洗

2019年08月26日 | Weblog
  その名前は今も「高島」という地名として横浜に残る。高島嘉右衛門(かえもん)。幕末・明治期の実業家で横浜沖の埋め立て事業を行った「横浜の父」のお一人である。横浜にはかつて「嘉右衛門町」という地名もあったそうだから往時の勢いが分かる▼手掛けたのは埋め立て事業にとどまらない。鉄道、日本初のガス灯建設、ホテル、学校経営など幅広い分野で活動し、かつては寒村だった横浜の発展に大きく貢献した。有名なのは「易聖」と謳(うた)われた易占いの実力の方か。日清、日露戦争の勝利も的中させた。伊藤博文暗殺の凶兆も見抜いていたそうだ▼「横浜の父」にこの判断の吉凶を占ってもらいたいものである。横浜市の林文子市長がカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致方針を表明した▼賛否の分かれるIR誘致問題に対し、これまで白紙とおっしゃっていた。ご当地ソングの「ブルー・ライト・ヨコハマ」でもあるまいに、唐突に<わたしはゆれて ゆれてカジノの腕の中>では反対派は収まるまい▼持続可能な横浜経済を構築したいという市長の考えは分からぬでもない。が、人を不幸にしかねない博打(ばくち)を当て込んだ成長を望まぬ市民がいる。ギャンブル依存症や治安悪化を心配する声がある▼カジノ誘致は単に経済の問題ではなく人の生き方の問題かもしれぬ。丁寧に市民の意見を聞くべきである。占うまでもない。

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】


今日の筆洗

2019年08月25日 | Weblog

 「この赤蕪(かぶ)と申すものは平地の畑で作ってもうまく行かんそうだ」(略)「焼畑の多い山奥で作ったものが、出来もよく味もよい」。藤沢周平さんの『三屋清左衛門残日録』に赤カブのうんちくを語る場面があった。赤カブのお漬物は藤沢さんの出身地山形県鶴岡の特産品である▼冬の味だが、作付けは今時分の真夏に始まる。土地改良と害虫駆除のため、今も伝統の焼き畑で行われる。スギの伐採地に火を入れ、熱さの残る地面に種をまく。夏の猛暑に炎と煙。汗だくの作業となる▼炎と煙の作業がうまい赤カブを生むことになるのだろうが、別の炎と煙の話にため息が出る。ブラジルのアマゾン地域の熱帯雨林。過去最大規模の火災が起きている▼一月以降アマゾンでの森林火災は七万を超える。前年同期比八割増とは尋常ではない。世界の森林には二酸化炭素を吸収し、気候変動を緩和する力がある。世界最大規模の熱帯雨林の炎と煙が地球全体にどんな影響をもたらすかが心配である▼違法な開拓行為が火災の原因という見方がある。ボルソナロ・ブラジル大統領の熱帯雨林保護、地球温暖化への消極的な姿勢もアマゾンの炎と煙を強めていないか▼先進七カ国首脳会議(G7サミット)でアマゾン火災への対応を優先課題として取り上げるそうだが、当然である。それは決して「対岸の」ではなく、地球全体の大火事である。

 
 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】