東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2019年01月31日 | Weblog

 「…………。結局、なんていうのか。………………。よく分かりませんね。………。…………。………。時々-。……………………」▼パソコンの不調ではない。小説の一部を写している。実際の「…」はもっと長く、一ページ近く続いているところもある。『その後の仁義なき桃尻娘』の中の「大学番外地 唐獅子南瓜(かぼちゃ)」▼「…」に込められているのは語るべき言葉がない主人公の悲しさ、愚かさか。斬新な表現方法にひっくり返った人もいるだろう。喪失感に心の中にたくさんの「…」が浮かぶ。その『桃尻娘』や『窯変源氏物語』などの橋本治さんが亡くなった。七十歳▼小説、美術、社会批評まで多岐にわたった執筆活動。橋本さんの仕事を振り返ろうとすればあまりの大きさに「結局、なんていうのか。……」となる▼少年期のエピソードがその仕事を考える上のヒントになるかもしれぬ。近所の家が小鳥を飼っていた。橋本少年は原っぱでハコベを摘んで渡していた。ありがとうと言われた。役に立ったことがうれしくていつまでも心に残ったという▼役に立ちたい。その一心だったのだろう。「枕草子」などの古典を柔らかな言葉に直して今の人に運ぶ。小説で楽しませる。すべての仕事は誰かへのハコベか。深夜、甲州街道の大原交差点を通る。ご実家はこの近くだったはずだ。病にも原稿用紙を求めた人に感謝する。

 
 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

 

今日の筆洗

2019年01月30日 | Weblog

 江戸の見せ物小屋にはずいぶんといんちきなものがあったそうで極め付きは「オオイタチ」か。「山で捕れたオオイタチだよ。危ないよ、気を付けて」。思わせぶりな呼び込みに誘われて、のぞいてみれば、大きな板に血が付いている▼「ひどいじゃないか。山で捕れたなんて」と文句を言えば、「板の木は山で採れる」。「こんなものどこが危ないんだ」「倒れてきたら、けがをする」。古今亭志ん生さんのマクラだが、本当だろうか▼「さあさ、スゴイよ。戦後最長だよ」。威勢の良い声に木戸銭を払えば、巨大な「ケーキ」が置いてあった-なんて話ではあるまいな。ひどいシャレには目をつぶっていただくとして、昨日閣議決定された月例経済報告によると景気拡大の期間が一月で戦後最長の六年二カ月になった可能性が高いという▼その触れ込みに眉につばをつけた人もいるだろう。低成長時代の今、高度成長期のいざなぎ景気のような勢いを感じるのは無理だとしても、国民の大半が実感できぬものを「戦後最長」と売り込まれても笑顔にはなれぬ▼米中対立など先行きへの不安は大きい上、そもそも、最近の統計不正問題で、政府が売り込む数字そのものが信用しにくい▼昔の人はいんちきと半ば、承知で見せ物小屋に入ったそうだが、今、怪しげな「オオイタチ景気」に歓声を上げる余裕は心にも財布にもなかろうて。

 
 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

 

今日の筆洗

2019年01月28日 | Weblog

 落語家の林家たい平さんが雨宿りをしていたときの話だそうだ。かなり強い雨だった。たまたま茶髪の「兄ちゃんと姉ちゃん」も雨宿りしていた。「兄ちゃん」が強い雨にこう言った。「すげえなぁオイ。飛ぶ鳥を落とすような勢いの雨だな」▼「おまえは何を言っているんだ」。横で聞いていてそう思ったそうだ。慣用句の「飛ぶ鳥を落とす勢い」は人気や権勢が盛んなさまのたとえで雨の勢いにたとえるのはおかしい。たい平さんによると、確かにその雨、「飛ぶ鳥を落とすような勢い」だったそうだが▼「恥の上塗り」という慣用句の意味を取り違える人は少ないだろうが、ひょっとして厚生労働省は誤解していないか。毎月勤労統計の不正調査問題の成り行きについ空想してしまう▼調査の公正性を守るため、外部委員会がこの問題を調べる触れ込みだったが、不正に関与した職員に聞き取り調査をしたのは同じ身内の職員。耳を疑う。これでは信用できぬと突き返されてもしかたがあるまい。厳しい調査で省内の立て直しを図るという決意も気迫も感じられぬ▼不正という恥の上に重ねた甘い調査という恥。これこそ「恥の上塗り」に違いないが、厚労省は不正という「恥」の真相を隠すため甘い調査で「上塗り」をしたかったのではなかろうな。そう勘ぐりたくもなる▼一部を再調査する。恥を重ねなければよいのだが。

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

 

今日の筆洗

2019年01月27日 | Weblog

 テニスを題材にした山本鈴美香(すみか)さんの「エースをねらえ!」の「週刊マーガレット」連載開始は一九七三(昭和四十八)年というから半世紀近く前になった。当時、テニスの知識、情報は今ほど一般的ではなく、15、30、40という得点の進み方や0点を「ラブ」という言い方もあの作品で初めて知ったという世代もあるだろう▼才能を見いだされた高校生の岡ひろみの成長とともに作品全体には世界に通用する、日本勢プレーヤーを育成するという願いが描かれている▼物語の結末はどうなったか。岡が世界に向けて旅立つ場面で終わっており、その後の活躍は描かれていない。漫画とはいえ、さすがに世界の名選手を相手に勝利を重ねる場面は描きにくかったのかもしれぬ。それが当時の日本勢の実力だった▼漫画から四十六年後、大坂なおみが全豪オープンで優勝を果たし、世界ランク一位に上り詰めた。漫画でさえ、描くことをためらわれた日本勢による世界一。それを大坂が自らのラケットで描いてみせた。想像力の世界を超えた快挙に拍手を送る▼全米オープンに続く四大大会での連勝である。技術、強さ、精神力。大坂は勝って当然の選手に成長した-ともう書いてしまおう▼あの漫画のファンとしては大坂と岡、なおみとひろみと名前が少々似ている気がしてならない。次の四大大会は五月。「大坂、全仏もねらえ!」

 
 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】


1/26筆洗

2019年01月26日 | Weblog

  「三つのものを人間は隠すことができない」。古いユダヤの言い回しという。咳(せき)、貧しさ、恋だそうだ。懐具合も恋心も、咳のようにどうしようもなくあらわになる。そんな意味か▼この咳の是非ない性質に付け込むのが、インフルエンザウイルスだろう。『インフルエンザパンデミック』(河岡義裕、堀本研子著)によると、感染した人は、たっぷりウイルスを含んだ約五万個もの飛沫(ひまつ)を咳で放出するのだという。人から人へと高速で移動するための乗り物だ▼インフルエンザウイルスはもともと水鳥にいたそうだ。国境を越えて広がるための翼を持ち、長旅もしてきた人類の古くからの難敵である。今年も、インフルエンザが拡大し、大流行の域に達している▼「警報レベル」となった自治体は、四十都道府県以上に及ぶというから全国規模である。深刻な事例も多い。兵庫県などの高齢者施設で、死者が出る集団感染があった。東京の地下鉄では、インフルエンザが影響した可能性のある死亡事故も起きている▼電車内で、ちょっとした咳払いに緊張が走るのを日に日に感じるようにもなってきた。どうしようもなく咳が抑えられないときはマスクなどで口を覆って移動の足を封じたい▼「口はドアのようなもの」とユダヤでは言うそうだ。ドアを閉じ、ウイルスの旅は、自分のところで終わらせる。そんな意識が必要だろう。

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】


今日の筆洗

2019年01月24日 | Weblog

 インドのとんち話にこんなのがあるそうだ。ある夜、家に盗っ人が押し入った。だが、番犬は吠(ほ)えなかった。ロバがなぜ黙っていたのかと注意した。犬は「これまで再三、吠えたが、主人が褒めたことはない」と答えた▼別の晩、また盗っ人がやって来た。真面目なロバは犬に代わって大声でいなないた。盗っ人は消えたが、目をさました主人は「なんで人の眠りを邪魔するんだ」とムチでロバをたたきのめした。犬はロバに言った。「忠実に働いた者にご主人はどんな褒美をくれたかね」▼おそらく、問題が起きたことを知らせるロバではなく、面倒を起こさぬ方が利口だと考える犬の方が省内で大きな顔をしていたのだろう。厚生労働省の毎月勤労統計の不正調査問題である▼特別監察委員会の報告書によると担当職員は調査のやり方が不適切だと知っていたが、漫然と踏襲していたという。局長級職員は報告を受けていたが、やはり放置した。ため息がでる▼不適切と吠えれば、大騒ぎになるだろう。自分も厄介ごとに巻き込まれるかもしれぬ-。そんな悲しい了見違いもやはり省内で「漫然と踏襲」されているのではないかと疑う▼とんち話に逆らうようだが、とどのつまり、沈黙の犬は利口ではなかろう。悪事は露見し、二十二人が処分された。国民という本当の主人のために忠実に吠えなかったためムチを受けたのである。

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】