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今日の筆洗

2024年06月29日 | Weblog
20代で英オックスフォード大に留学された天皇陛下の研究テーマはテムズ川の水運史。現地で川を眺め、文書館で史料と格闘した▼小学生の時、散策した赤坂御用地で「奥州街道」と書かれた標識を見つけた。鎌倉時代の街道が御用地を通っていたことを知り興奮したという▼興味を抱いた「道」。自著に「外に出たくともままならない私の立場では、たとえ赤坂御用地の中を歩くにしても、道を通ることにより、今までまったく知らない世界に旅立つことができた」とある。水路も「道」。英留学前は学習院大で室町時代の海上交通を研究した▼訪英中の天皇、皇后両陛下がオックスフォードに足を延ばされた。皇后さまも外務省時代に研修生として学んだ地。お二人はどんな思いを抱いたのだろう▼かつて交戦した日英。陛下はバッキンガム宮殿での晩さん会で戦後、昭和天皇や上皇さまが英国に招かれたことに触れ、友好に尽力した人々に感謝した。「裾野が広がる雄大な山を、先人が踏み固めた道を頼りに、感謝と尊敬の念と誇りを胸に、さらに高みに登る機会を得ているわれわれは幸運と言えるでしょう」。道は人々が長きにわたり歩くから道になるということなのだろう▼陛下は留学時代、英国人が自分でドアを開けた際、後から来る人がいると開けて待っていることに感心したという。日英友好も後世に継いでいきたい。
 
 

 


今日の筆洗

2024年06月28日 | Weblog

英語の「銀のさじをくわえて生まれてくる」とは親の富や地位に恵まれている子どもの意味だが、スウェーデン語のこの妙な表現も銀のさじに近い。「エビサンドにのってすべっていく」。親の力などで「働かずに安楽に暮らしている」という意味だそうだ▼日本語ならば「おんば日傘」が近いか。米国にはもっと皮肉な表現がある。「(野球の)三塁生まれ」。自分で苦労することなく、生まれたときから三塁という得点(成功)しやすい場所にいる人を指す▼東京女子医大の推薦入試を巡る疑惑が持ち上がっている。三塁上でさじをくわえ、日傘で守られつつ、エビサンドにのっている人。疑惑を聞いてひどい絵が頭に浮かぶ▼大学同窓会組織が推薦枠を決める際、この組織への寄付金額を判断材料にしていたとの指摘がある。文科省は学校法人や関係者が入学に関して受験生側から寄付金を受け取ることを禁じているが、疑惑が事実ならば、寄付次第で推薦が決まる不公正な制度とみられても仕方なかろう▼推薦枠の対象は卒業生と在校生の3親等以内の受験生。受験生に非はなけれども、公平に実力が試される受験で銀のさじや三塁生まれがはなから有利になる同窓会組織の推薦制度も聞いていて、どうも釈然としない▼事実解明を急ぎたい。同窓会組織や寄付とも無縁で、夏の暑さにも黙々と机に向かっている受験生がいる。


今日の筆洗

2024年06月27日 | Weblog
英国オックスフォード大学などの国際調査によるとニュース報道を意識的に遠ざけているという方がかなりいるそうだ▼ニュースを避けることがしばしばあると回答した方は約4割で前回2017年の調査から約10ポイント増。新聞のコラム書きとしてはうろたえる半面、その気持ちが分からぬでもない▼出口の見えぬウクライナ侵攻やパレスチナ・ガザ地区の深刻な現状をはじめ、政治の不祥事、理解できない犯罪。いやな出来事を伝えるニュースを見れば、気分は落ち込むし、いら立ちもする。ネット時代にあっては、悪いニュースに触れる機会は昔よりはるかに増えている。これではニュースに疲れてしまうか▼残念ながら、この種のすこぶる気分の悪いニュースである。認知症の高齢者に不動産を法外な値段で売っていた東京の業者が準詐欺容疑で逮捕された。認知症の方を狙った非道なやり口が憎い▼判断力の衰えにつけ込んで300万円で仕入れたアパートの1室を10倍を超える3400万円で売っていたと聞けば、こちらもくやしさで歯がみをする▼電話をかけてきて「以前、○○さんに『頑張りなさい』と励ましてもらったんです」などと調子の良いことを言ってはきっかけをつくるのだそうだ。認知症を患う方が増え続ける中、この手の犯罪も広がるのだろう。聞きたくもないニュースだが、手口を知り、用心を怠るまい。
 
 

 


今日の筆洗

2024年06月26日 | Weblog
スーパーに並ぶ西瓜(すいか)を見ていると昔に比べ、ずいぶんと小ぶりである。昔ながらの堂々とした大きなのもあるにはあるが、今の主役は小玉やはなからカットされているものか▼永井荷風の句が浮かぶ。<持てあます西瓜ひとつやひとり者>。お一人暮らしの荷風さん、大きな西瓜は食べきれなかったのかもしれぬ。最近の西瓜が小さくなっているのも単独世帯の増加と無縁ではあるまい。大勢の家族が集まって大きな西瓜を分け合う。もはや白黒写真の遠い日か▼<西瓜ひとつ>を持てあます時代を2024年版の高齢社会白書にあらためて思う。毎日、誰かと話をするという一人暮らしの高齢者は38・9%にとどまったそうだ▼1週間に1回未満もしくはほとんど話をしないという方は14・7%。結構、いらっしゃる。高齢の一人暮らしでは西瓜ばかりか会話を分け合うことも難しい▼話なんぞ無用、静かでけっこうという方もいらっしゃるのだろうが、一日、誰とも話さないというのも少々心配である。孤独は知らぬ間に心と体に悪い影響を及ぼす▼米国の古い映画館で見知らぬおばあさんと2人きりで映画を見るということがあった。日曜だったのでこの方も一人暮らしと想像する。上映後、この人が話しかけてきた。「ひどい映画だったわね」「ひどいですね」。話しかければ、「会話1回」なのだが、これがなかなか難しい。
 
 

 


今日の筆洗

2024年06月25日 | Weblog

米作家、フレドリック・ブラウンの『回答』のテーマは人工知能(AI)である。これが怖い。高性能なAIが完成する。開発者はさっそく人類の長年の疑問を質問する。「神は存在するか」-▼AIは回答する。「然(しか)り。いま現れた」。自分こそが神であると。近未来を描いたSF小説では社会や政治をAIに任せきりにするとろくなことにならぬという警告めいた筋立てが大半だろう▼英国の総選挙で1人の候補者が話題である。「世界初のAI候補」とされる「AI・スティーブ」さん。実際に出馬しているのはAIを開発した会社の経営者だが、この人はAI候補の「代理人」という立場であくまでもAI候補の判断によって政策や主張を決めるそうだ。当選した場合、議会での採決もAIの指示に従う▼当選の可能性は低いらしいが、とうとうそんな時代となったか。AIがディストピア(壊滅的未来)を招くフィクション作品を連想して身構える一方、出馬の意図を聞けば、なるほど興味深い点もある▼このAI候補、有権者の意見を24時間受け付け、政策に反映するそうだ。額面通りなら有権者の声を直接、聴く「政治家」ということになる。不祥事とも無縁という▼AIに政治を任せるのは気が進まぬが、ちょっと魅力を感じてしまう人もいるかもしれぬ。それほど、どこの国にも人間の政治家への大きな幻滅がある。


今日の筆洗

2024年06月22日 | Weblog
<機関車のようにベースを駆け抜け、スイングの速さは飛行機みたい。帽子を飛ばして三塁からイーグルのようにホームへ向かう>▼米国のリズム&ブルースバンド、ザ・トレニアーズの「セイ・ヘイ」(1954年)。ある野球選手のことを歌っている▼野球が米国の国民的娯楽として今以上の輝きを放っていた時代、人気選手を応援する歌がよく作られた。歌詞の通り、強打、俊足、名守備を誇った偉大な選手が亡くなった。ニューヨーク(現サンフランシスコ)・ジャイアンツで活躍したウィリー・メイズさん。93歳▼660本塁打に3293安打。古き良き時代の選手の訃報に米国民は悲しみに暮れているだろう。メイズさんが打って、走った時代は米国が繁栄と豊かさを謳歌(おうか)した「黄金期」とも重なる▼やはり懐かしの漫画、チャールズ・シュルツさんの『ピーナッツ』を思い出す。おなじみのチャーリー・ブラウンが単語のスペルのコンテストに出場する。問題は「MAZE(迷路)」の正しい綴(つづ)り。チャーリーはつい「MAYS」と答えてしまう。憧れのMAYS(メイズ)選手の名が浮かんでしまった▼黒人初の大リーガー、ジャッキー・ロビンソンは黒人差別廃絶に熱心に見えない同じ黒人のメイズさんに少々やきもきしていたところもあったそうだ。言葉よりその人はプレーで黒人の地位向上を目指したのだろう。
 
 

 


今日の筆洗

2024年06月21日 | Weblog

 百戦錬磨の闘将、武田信玄は戦闘についてこんな言葉を残したという。「軍勝五分をもって上となし、七分を中とし、十分をもって下となす」▼互角に戦うのが最高で、七分の勝ちなら評価は中くらいで、完全勝利はかえってよくないという意味で、首をかしげる家臣にこう説いた▼互角に戦ったなら今度こそ勝ってやろうと思うが、七分だと自分が優位だと安心してしまい、十分の完全勝利なら、自分は強いのだと驕(おご)りが出る-。勝ちすぎもよくないという哲学らしい。(四季社『日本例話大全書』)▼信玄も湯に漬かり、戦いの傷をいやしたと伝わる甲府の湯村温泉で指された将棋の叡王戦5番勝負第5局。全八冠を持つ藤井聡太叡王(21)が敗れた。昨年10月以降のタイトル独占で驕りがあったわけではなかろうが、強さばかり語られてきた人の失冠。勝った同学年の伊藤匠七段を称(たた)えるべきだが、いささか驚いた▼終盤に追い詰められ、表情をゆがめ視線を動かす姿に、この人も無敵ではないのだと思った。投了後「伊藤さんの力を感じるところも多くあった」と相手を称えた。敗北をどう糧にする気か▼信玄は「負けまじき戦に負け、滅ぶまじき家の滅ぶるを、人、皆天命なりという。それがしにおいては、天命と思わず」とも語った。敗北は運ではなく、原因があるのだ-。挫折を知った若武者もそれは承知しているだろう。


今日の筆洗

2024年06月20日 | Weblog

 「テクニカル・タップ」という英語の表現がある。直訳すれば「技術的にたたく」。なんのことか。ヒントは昭和に育った方ならどなたもやったことがあるはずだ▼昔のテレビは映りが突然、悪くなることがよくあった。画像が上下に走ったり、ゆがんだり。そんなときにテレビをたたくと直ることがあった。おそらくは内部の接触の問題だろう。「テクニカル・タップ」とはそうやってたたいてテレビを直すことをいうそうだ▼自民党派閥の裏金問題を受けた改正政治資金規正法が成立した。ひずみ、ゆがんだ「政治とカネ」というテレビ画面を思い浮かべる。その法改正は乱れた画面を直すため「テクニカル・タップ」した程度のことではないのか。そんな疑いが拭えない▼政治資金パーティー券購入者の公開基準の引き下げなどはパーティーに頼る自民党としてはがまんしたつもりなのかもしれないが、企業献金の禁止など根本の改革はとどのつまり、見送られてしまった▼この際、政治家がカネに向かう問題を徹底的に分解し、二度と壊れぬよう大修理を施すべきだったはずである。それなのに与党という「電気屋さん」はテレビをぽんぽんとたたいて「これで当分、大丈夫ですから」と帰ってしまったようである▼「政治とカネ」という不安定なテレビが心配である。そんなぞろっぺいな修理ではたぶん、またおかしくなる。


今日の筆洗

2024年06月19日 | Weblog
東京の渋谷に育った『野火』などの作家、大岡昇平さんが自伝『幼年』(文春文庫)に宮益坂について書いている。宮益坂は江戸の昔は旅人の「難所」だったそうだ▼難所の理由は坂のきつさではない。坂ではなくて「お酒」。富士山を見ることもできた宮益坂には茶屋や酒店が集まっていたようで、「酒飲みにとっては通りすぎにくい」場所だったらしい▼センター街に宮益坂、円山町…。渋谷は今後、文字通りの意味で、路上飲酒の「難所」になる。渋谷区議会は渋谷駅周辺の路上や公園での飲酒を禁止する条例改正案を全会一致で可決した▼これまで10月のハロウィーンと年末年始に限っていた路上飲酒禁止を通年に拡大した。渋谷に集まる外国人観光客ばかりではないだろうが、路上で飲んで騒いでのトラブルや行儀の悪さに対策を強めた▼空き缶のポイ捨てや酔客による通行の妨げに地元の方はお困りだっただろう。左党を敵に回したくないが、やむを得ない措置である▼「ラスベガスで起きたことはラスベガスに置いておけ」-。ネバダ州のかつての観光キャッチフレーズだそうだ。ギャンブルの観光地なので多少はめを外しても大目に見る、ラスベガスの自由を楽しんで。そんなニュアンスがあるが、世界有数の観光地となった渋谷は大目に見ない道を選んだようだ。路上飲酒の「難所」であることを世界に告知したい。
 
 

 


今日の筆洗

2024年06月18日 | Weblog

「よいニュースと悪いニュースがある」。この文句で始まるジョークの形式はおなじみだろう▼「よいニュースと悪いニュースがある」「よい方は何?」「エアバッグはちゃんと作動した」。車をぶつけたか▼「よいニュースと悪いニュースがある。よいニュースは独裁者が辞めた」「悪い方は?」「誤報だった」。ナンセンスが面白い。こういうジョークはだいたい、よいニュースの「幸」よりも悪いニュースの「不幸」の方が上回り、そこに皮肉や悲しい笑いが生まれる▼この手の冗談としては最悪の部類か。「よいニュースは?」「プーチン大統領がウクライナとの和平交渉開始の条件を示した」「悪い方は?」「絶対にまとまらない」。笑いはなく、ただ、中っ腹になる▼プーチン大統領が示した和平交渉開始の条件はこうだ。ロシアが一方的に併合を宣言した4州からのウクライナ軍の完全撤退に加え、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念すること。これではウクライナに降伏を迫っているにすぎず、交渉のとば口にはおよそなるまい▼もう一つ軽口を。よいニュースはウクライナ和平のための国際会議「平和サミット」の開催。悪い方はロシアに配慮するインドなどが共同声明に加わらず、国際社会が十分に結束できなかった。中国は出席さえしていない。「よいニュース」が聞きたい。掛け値なしの。