東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2022年06月30日 | Weblog
なんの知識も経験もない男が禅寺の住職になってしまう落語の「こんにゃく問答」の中に酒や生臭い食べ物の符丁を教わる場面がある▼「不飲酒戒」の禅寺。大っぴらに酒なんて言われては困るというわけで酒は「般若湯」、マグロは「赤豆腐」と教えられる。サザエが「げんこつ」で鶏卵は「御所車」。中に君(黄身)がいるから。おもしろいが、どう言い換えてみても酒は酒、卵は卵である▼この言い換えは成功するか。東京都は「育児休業」の愛称を「育業」とすると発表した。育児は休みではなく、大切な仕事=「業」。そう呼ぶことで育児休業を取ることに後ろめたさを感じなくてすむようにしたいという狙いらしい▼愛称が浸透し、男性も育児休業を取りやすい時代が来ることを願う一方、月末最後の金曜日を意味する「プレミアムフライデー」の呼称がまるで広まらなかったような成り行きを想像してしまう▼育児のための休業が当然である一方、社会全体の理解が進んでいるとは言い難い。男性の育児休業取得率(二〇二〇年度)は一割程度。育児休業に対する認識ががらりと変わらぬ以上、その愛称は広まりにくいし、どう言い換えても、休業は休業と見られてしまう▼「育児休業です」。そう胸を張って言える環境をまずはつくりたい。人の目をはばかり、言い換えなければならないようなことは誰もしていない。
 

 


今日の筆洗

2022年06月29日 | Weblog

自分が音楽を担当した映画をちゃんと映画館まで見に行き、観客の入りや反応を確かめていたそうだ。映写室にもたびたび飛び込んだ。文句を言うためである。「音量を上げてほしい!」▼一九五〇年代後半の話らしい。大きな音を出すとスピーカーが早く傷むからと映画館の中には音を絞って上映するところもあったらしい。わが子のような音楽。それが聞こえないことがその人は許せなかった。「人造人間キカイダー」「マジンガーZ」など数多くのアニメ、特撮番組の音楽を手掛けた作曲家の渡辺宙明さんが亡くなった。九十六歳▼映画「スーパージャイアンツ/鋼鉄の巨人」(一九五七年)から最近まで放映された「機界戦隊ゼンカイジャー」まで約六十五年。長きにわたって子どもの胸を高鳴らせる音を届け続けた▼「忍者部隊月光」を子どもの時代に見た人は現在七十歳前後か。「キカイダー」なら六十代。その宙明サウンドを「ゼンカイジャー」で今の幼稚園児も楽しんでいる。そんな作曲家は少なかろう▼時代の半歩先を心掛けていたそうだ。一歩先では行き過ぎで理解されない。独り善がりを嫌い、聞き手を第一に考えた音づくりがその作曲家自身をもヒーローにした▼戦禍の中で青春時代を過ごした。力強い音楽が持ち味だが、軍歌調は作らないと書いていた。「泥くさいから」。理由はそれだけではないだろう。


今日の筆洗

2022年06月28日 | Weblog
 どしゃ降りの雨を表現する英語の慣用句、「It rains cats and dogs」。入試問題に出やすいと暗記した覚えがあるが、ネコとイヌでなにゆえ大雨となるのか▼一説によると、ネコが大雨、イヌが強風をそれぞれ招くと信じられていた伝説の名残だとか。別の説では滝を意味するギリシャ語の「キャタダップ」と関係があるという。滝のような雨。「キャタダップ」を早口でいえば、「キャッツ・アンド・ドッグ」と聞こえなくもない▼雨を降らせ、風を吹かせる伝説を信じるとすれば、今年のネコとイヌは少しばかり、なまけ者だったらしい。気象台は関東甲信、東海地方などの梅雨明けを発表した▼平年に比べてかなり早い梅雨明けという。関東甲信地方は昨年より約三週間も早い。発達した太平洋高気圧が梅雨前線を早々と追い出した▼「やまない雨はない」という表現は人生、つらいことばかり続かないという前向きな意味として使われるが、あまりにやむのが早い雨というのも少々、心配になる。<今年は時序の正しき入梅かな>高浜虚子。「時序」が正しいとは思えぬ早い梅雨明けが長い猛暑と水不足を予感させる▼六月というのに外は既にうだるような暑さである。暑さを避け、朝早く散歩に連れ出した老犬が数歩でもうハーハーいっている。おまえとネコがサボったせいだとは言わなかったが。
 

 


今日の筆洗

2022年06月27日 | Weblog
 。から小欄を書きだすのは初めてだが、暑さゆえの間違いではない。本日は「。」すなわち文章を結ぶのに使う句点の話である▼句読点が一般的になったのは明治後期というからさほど長い歴史ではなく、それ以前は空白によって文章を区切っていたようだ▼結婚式の招待状には終止符を連想させるため句点を使わないと聞くが、こうした縁起担ぎは選挙とは関係ないらしい。「決断と実行。」(自民党)、「戦争させない。くらしに希望を。」(共産党)など、参院選の各党キャッチフレーズにはなぜか、「。」が目立つ▼公明党も「日本を、前へ。」とやはり、句点がある。「改革。そして成長。」の日本維新の会、「給料を上げる。国を守る。」の国民民主党もそうだ。最も文章の長い、れいわ新選組の「『日本を守る』とは『あなたを守る』ことから始まる。」も句点で終わる▼「がんこに平和!くらしが一番!」(社民党)「NHKをぶっ壊す!」(NHK党)は使っていないが、!が句点の代わりになっている。句点も!もない立憲民主党の「生活安全保障」がかえって目立つほどだ▼昨年衆院選でも、句点を使う政党が大半だったから一種の流行か。句点を加えることで決意ややる気を演出しているのだろう。さて、肝心なのは有権者側のキャッチフレーズ。「投票に行こう」の後に決意の「。」でも加えておきますか。 
 

 


今日の筆洗

2022年06月25日 | Weblog
 「家が凶器になった」。阪神大震災の犠牲者の遺体を検視した神戸大教授が、かつて取材に語った▼地震発生時刻は、多くの人が寝ていた午前五時四十六分で、倒れた家の下敷きになって亡くなる人が相次いだ。検視では圧迫された胸や腹だけが白く、足などが紫色にうっ血している点が共通していたという。犠牲者の約八割が家屋倒壊による圧死や窒息死だったとされる。古い木造建築が多く倒れた▼アフガニスタンで先日起きた地震も、家が凶器になったようだ。発生は午前一時半ごろ。多くの家が倒壊し、死者は千人を超すとみられる▼現地には、日干しレンガの家が多いとテレビが報じていた。粘土を成形し天日で乾燥させたレンガを、泥を接着剤にして積む。揺れにはもろかろう。被災直後、人々ががれきをシャベルや手で掘り返す様子も伝えられた。パキスタン国境に近い山間部で未舗装の道が多い。十分な支援が届くには時間がかかるかもしれない▼戦乱が続き、干ばつにも悩まされてきた国。米軍撤退に伴い、昨年八月にイスラム主義勢力タリバンが実権を握ると、多くの海外支援団体が去り、制裁でさらに困窮した。世界食糧計画(WFP)などが、今年六月から十一月にかけ人口の半分近くが深刻な食料危機に陥るとの予測を発表し、やがて起きた今回の地震▼この国の人々の生命を脅かす凶器は、貧困でもある。
 

 


今日の筆洗

2022年06月24日 | Weblog

元(げん)の軍が日本を襲った元寇(げんこう)は鎌倉時代に起きた▼当時の元の沈没船が長崎県松浦市の沖で見つかり、調査した琉球大教授が発表したのは二〇一一年十月。七百年以上も海底に眠った敵船の発見は、話題になった▼全長は推定二十メートル超。船底には元軍の陶製のさく裂弾もあった。一四年には二隻目が見つかった。経緯に詳しい井上たかひこ氏の著書『水中考古学』(中公新書)によると、一帯は元寇に関する伝承も多く、一九八〇年以降の調査で鉄製品なども見つかっていた▼文化庁が、沈没船や湖底の集落跡など水中遺跡の保護を図るため、文化財としての指定や登録を推進すると先に報じられた。確認されている水中遺跡は約四百カ所という。明治時代に伊豆沖で座礁したフランスの貨客船ニール号は有名。陸の遺跡と比べ学術調査は不十分という。文化庁は今春、発掘技術や事務手続きなどを記した自治体向けの手引も作った▼手引によると、諸外国で水中遺跡の保全が進んだのは、財宝を探す「トレジャーハンター」による盗掘を防ぐためという。八〇年代、米フロリダ沖のスペインの沈没船から宝飾品が見つかり、発見者の権利か遺品の保護かで論争になった▼日本周辺で盗掘の話が聞かれず、保全があまり進まなかったのは、海域が比較的深いことも背景にある。ハンターも手を出せなかったお宝が、眠っているのだろうか。


今日の筆洗

2022年06月23日 | Weblog

記録に残る日本で最も古い天文現象は「日本書紀」にあるそうだ。推古天皇二十八年というから西暦では六二〇年。「天に赤気あり」−。オーロラだったと考えられている▼藤原定家の「明月記」の中にも「赤気」が出てくる。一二〇四年二月のことで「北ならびに艮(うしとら)の方に赤気ありき(中略)恐るべし、恐るべし」。日本でのオーロラの出現は太陽フレアと呼ばれる太陽表面での爆発による影響があるという▼説明が難しいが、太陽フレアが地球上に磁気嵐を引き起こし、緯度の低い場所でもオーロラを出現させるのだそうだ。一八五九年の太陽フレア発生時はキューバやハワイでもオーロラが観測されたという▼「電気仕掛け」の現代では、大規模太陽フレアの影響は日本書紀や定家の時代とは比べものにならぬほど深刻だろう。総務省が最近発表した報告書によると最悪の場合、携帯電話が二週間程度、断続的に利用できなくなるそうだ▼そればかりではない。テレビ、無線もだめ。GPSにも狂いが出るというからカーナビも怪しくなる。電力インフラも、対策を取っていない場合は誤作動から広域停電を引き起こす危険があるという▼広い分野で大きな障害が予想されている。考えただけで、「恐るべし、恐るべし」だが、観測と予報システムの強化によって備えるしかあるまい。「赤気」が見たいって? 悪い冗談である。


今日の筆洗

2022年06月22日 | Weblog

酒を勧められ、男はひやではなく、お燗(かん)をつけてほしいと頼む。ひや酒をやりすぎて、シクジった過去もあるらしい。古典落語の「夢の酒」である▼お燗がつくのをまだかまだかと待っていたところで男は揺り起こされる。すべては夢だった。男はがっかりする。「惜しいことをした。ひやで飲んでおけばよかった」。よく分かる。夢であろうと、せっかくの酒を逃せばもったいない▼夢でなければもっと悔しかろう。本日、公示の参院選。一票の価格はおいくらほどか。考え方や計算方法はいろいろある。参院選のための予算支出がざっと六百億円なのでこれを有権者数の一億人で割れば六百円という数字が出てくる▼いやいや、それはあくまで必要経費。選挙結果は国家予算の配分にかかわってくる可能性があるので国家予算と参院議員の任期なども加味して計算すれば、数百万円になると主張する方もいる▼具体的にいくらとは言いにくいのだが、一票には間違いなくおあしがかかっているし、価値がある。那須川天心−武尊戦のリングサイド席みたいな価格はともかく、せっかくのご招待である。みすみす無駄にすることはなかろう▼それにこの一戦、物価高対応や防衛予算増額の是非など見どころも多い。一票を投じず、ご自分の意に沿わぬ選挙結果に「投票しておけばよかった」と悔やんでも、夢オチではなく現実である。


今日の筆洗

2022年06月21日 | Weblog
昔話に登場するキツネといえば、化けて人をだまし、悪さをするものが多いか。石川県能登地方に伝わるキツネは賢い上に人にやさしい。「狐女房」という。柳田国男の『日本の昔話』にあった▼このキツネ、稲が実るころになると田にやって来て、不思議な呪文を唱える。すると、稲の中に少しも実が入らない。実のない稲を見た役人が気の毒がって年貢を許してくれるのだが、この稲を家の中に持ち込むと、どこの家よりもよく実った稲に変わる。おかげで一家は豊かになった。呪文は「穂に出(い)いでつつぱらめ」▼何の意味か分からないが、かの地を守ってくれる地震よけのおまじないの代わりにはならないか。能登半島の石川県珠洲市で続く大きな地震が心配である▼十九日午後の地震が震度6弱。二十日午前の地震は震度5強。幸い、津波は来なかったが、最初の地震の後片付けに追われているところにまた地震とあっては現地は身も心もクタクタだろう▼「物音が聞こえただけでも怖い」。夕刊に住民の言葉が出ていたが、大きな揺れが立て続けに起きてはそんな心地になるのも無理はない。古い家屋などは目に見えぬダメージの方も心配である▼残念ながら、同程度の規模の地震が再び起こる可能性は否定できず、今後、一週間程度は緊張感を持って過ごす必要があるそうだ。無慈悲な揺れが収まるのを祈るばかりである。
 

 


今日の筆洗

2022年06月20日 | Weblog
 俳人の種田山頭火(たねださんとうか)にちょっと妙な句がある。<秋の夜や犬から貰(もら)つたり猫に与へたり>。さて、犬に何をもらったか▼答えは一九四〇年の日記にある。ある晩のこと。後をついてくる白い犬がいた。見るとモチをくわえている。山頭火はこれを分けてもらったらしい。数日後、今度は反対のことが起きる。散歩から帰ってくると野良猫が家にあったご飯を食べていた。翌朝には猫が残したものを山頭火が食べている。貧しくともほのぼのとした生活を想像する▼犬からはともかく、食べ物を無駄にすることなく分け合う。そんな暮らしができたなら。まだ食べられるのに捨てられる食品ロスの問題にあの句が浮かぶ。政府によると二〇二〇年度の食品ロスは推計五百二十二万トン。前年度の五百七十万トンから8%減で推計を始めた一二年度以降で最少だったそうだ▼合格点は与えられまい。飲食店などの事業者が前年度比で約一割減らしたのはありがたいが、どうもコロナ禍で仕入れを控えるなどの事情もあったらしい▼食べ残しや買いすぎなどの家庭での食品ロスは約5%減にとどまっている。まだまだ、取り組みの余地がありそうだ▼作りすぎたおかずはお隣さんへ。昭和の暮らしを懐かしんでも始まらないが、世界的な食糧危機が心配される時代である。食品ロスの削減は一層、切実なテーマになるだろう。令和の知恵を絞りたい。