お酒の寿屋(現サントリーホールディングス)出身の作家、開高健が書いた『やってみなはれ 戦後篇』の中に同社が生き残りをかけて連合国軍総司令部(GHQ)に対して攻勢をかける場面がある▼当時の鳥井信治郎社長が大阪の司令部にサントリー製ウイスキーをさげて乗り込んだ。「大将の早業はたちまちキマッた」とある▼終戦の八月からほど遠くない十月一日には占領軍の納入品に指定されていたそうだ。当時の社長室には将校や軍関係者がしじゅう出入りしていたそうで「大将はけじめもつけずに飲ませてやった」▼混乱の終戦直後を生き抜くための「ふるまい酒」なら商才、商魂の類いとして持ち上げられもしようが、こちらの酒にいやなにおいはないのか。安倍元首相の後援会が「桜を見る会」前日に開いた夕食会に、サントリーが三年間で計四百本近いウイスキーやワインなどを無償で提供していたそうだ▼同社は「製品を知ってもらう機会と考え、夕食会に協賛した」と説明するが、政治家個人への違法な企業献金に当たるのではと指摘する声もある▼「人間らしくやりたいナ」は開高さんによるトリスの名コピーである。戦前から宣伝上手で知られる同社だが、違法かどうかはともかく、時の権力者側への不可解な「ただ酒」はあまり、よい宣伝にはなるまい。穏やかで気楽な「人間らしく」をこの話に感じない。
スヌーピーでおなじみ、チャールズ・シュルツさんの米漫画「ピーナッツ」は子どもたちが主人公であり、学校の話がよく出てくる▼夏休みもテーマになりやすい。「夏休みだ!」「学校はおわりだ!」とはしゃぐチャーリー・ブラウンとライナス。こんな場面もあった。チャーリーの妹、サリーは大の学校嫌い。なのに夏休みに学校にやって来る。校舎に向かって、ひそかにののしる。「いまはわたしを捕まえられないでしょ。夏休みだもん!わたしは自由よ!聞こえた?自由なのよ!」。米国の学校の夏休みは六月から八月までと長い分、待ち遠しさもいっそう大きいか。なのに▼むごい事件は夏休み直前の小学校で起きた。米テキサス州の小学校での銃乱射事件である▼少なくとも児童十九人と教師ら二人が死亡している。男子高校生が教室に侵入し、子どもたちに向け銃を撃ったとみられている▼絶句する。夏休みはおろか、亡くなった子どもたちにはハロウィーンもクリスマスも二度とめぐって来ない。すべてを奪われた。安全なはずの学校で子を亡くした家族の悲しみの大きさは想像さえできぬ▼乱射事件が続く。それでも米国は銃をめぐる意見対立によって抜本的な銃規制に踏み切れぬ。バイデン大統領は銃規制への決意を重ねて表明したが、この悲しい「宿題」はいったい、いつになったら、片付けられるというのか。