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今日の筆洗

2022年05月31日 | Weblog
山本周五郎の名作『おたふく物語』の中に人のよい生け花のお師匠さんが出てくる。放蕩(ほうとう)な兄に苦労させられる二人の姉妹を何かと気にかけてくれる人物である▼このお師匠さん、少々太っているせいか「夏は暑がるし、冬はまた冬でばかばかしいほど寒がる」。「一年のうちまあ凌(しの)ぎいいのは春秋を通算してほんの四五十日しかないというのが口癖であった」とは、お気の毒である▼ちょうど良い季節は短い。今年はとりわけ、お師匠さんの文句が出るのが早かろう。ここ数日の急な暑さである。全国的に気温が上昇し、すがすがしいはずの五月に真夏に近い暑さである。日差しが強い。急な気温の変化に体の方が追っつかない。熱中症で搬送される人も増えている▼早い夏の訪れに電気代の方も気になるところか。ロシアのウクライナ侵攻や円安などによる原油高を受けて、電気料金が上がっている。エアコンのスイッチを入れるのをためらいたくなるが、熱中症になっては一大事である▼エアコンといえば、こっちは中国での極端な新型コロナ対策の影響などで半導体が不足し、品薄の気配らしい。夏場にエアコンが故障すれば、命にかかわる話にもなるが、おいそれと買い替えもできぬか。今年は夏の到来がおそろしい▼「凌ぎいい」季節から夏へ。少々気が重くなるが、五月の暑さを本格的な夏への訓練と思うことにするか。
 

 


今日の筆洗

2022年05月30日 | Weblog

お酒の寿屋(現サントリーホールディングス)出身の作家、開高健が書いた『やってみなはれ 戦後篇』の中に同社が生き残りをかけて連合国軍総司令部(GHQ)に対して攻勢をかける場面がある▼当時の鳥井信治郎社長が大阪の司令部にサントリー製ウイスキーをさげて乗り込んだ。「大将の早業はたちまちキマッた」とある▼終戦の八月からほど遠くない十月一日には占領軍の納入品に指定されていたそうだ。当時の社長室には将校や軍関係者がしじゅう出入りしていたそうで「大将はけじめもつけずに飲ませてやった」▼混乱の終戦直後を生き抜くための「ふるまい酒」なら商才、商魂の類いとして持ち上げられもしようが、こちらの酒にいやなにおいはないのか。安倍元首相の後援会が「桜を見る会」前日に開いた夕食会に、サントリーが三年間で計四百本近いウイスキーやワインなどを無償で提供していたそうだ▼同社は「製品を知ってもらう機会と考え、夕食会に協賛した」と説明するが、政治家個人への違法な企業献金に当たるのではと指摘する声もある▼「人間らしくやりたいナ」は開高さんによるトリスの名コピーである。戦前から宣伝上手で知られる同社だが、違法かどうかはともかく、時の権力者側への不可解な「ただ酒」はあまり、よい宣伝にはなるまい。穏やかで気楽な「人間らしく」をこの話に感じない。


今日の筆洗

2022年05月28日 | Weblog
二〇一六年五月二十七日、オバマ米大統領(当時)が被爆地の広島を訪れた。昨日で六年になった▼謝罪はなかったが、訪問前の共同通信のアンケートでも広島、長崎の被爆者の八割近くが謝罪を求めないと答えた。原爆投下を正当化する意見は米国で根強く、回答では「謝罪してほしいが、求めたら来られない」といった声が目立った。本音を抑え、現職米大統領の初訪問を願った▼来年の先進七カ国首脳会議(G7サミット)の広島開催が決まったが、これと無関係な国を巡る報道も最近あった。広島市は今年八月六日の平和記念式典に、ロシアのプーチン大統領と駐日大使を招待しないという▼例年は核保有国の首脳や各国駐日大使を招待するが、日本政府と相談し、ロシアが出る式に出たくないと他国が考えるリスクを考慮した。プーチン氏本人が過去に招待に応じたことはないが、決定は惜しい気も。ウクライナ侵攻で核使用の可能性を否定しない人こそ来てほしくなる▼地元の中国新聞は六年前、連載『被爆者からオバマ氏へ』で人々の思いを伝えた。八歳で被爆した女性は、平和記念公園ができた所は多くの人が亡くなった繁華街で、園内の原爆供養塔に引き取り手のない約七万人の遺骨が眠ることに触れた。「原爆の恐ろしさ、被爆者の嘆き…。湧き上がる声を感じてほしい」▼モスクワにも届けたくなる思いである。
 

 


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2022年05月27日 | Weblog
衆院選と同時に行う最高裁裁判官の国民審査は、有権者が辞めさせたい裁判官の欄に×印を記す。有効投票の過半数となった裁判官は罷免されるが、過去に例はない▼×の比率の過去最高は、一九七二年に審査を受けた故・下田武三氏の15・17%。ポツダム宣言の翻訳に関わった元外交官だが、外務事務次官時代に沖縄返還をめぐり「核付き返還やむなし」という趣旨の発言をし、反発を招いていた▼臆せずに自説を述べる人は翌七三年、両親などを殺した場合に通常の殺人より刑を重くするのは憲法の「法の下の平等」に反すると最高裁が判断した際、裁判官十五人で唯一、合憲と唱えた▼在外邦人が国民審査に参加できないのは違憲との判断をおととい、最高裁が示した。国政選挙の在外投票は行われており、当然の判断だろうが、制度の形骸化が指摘される。裁判官がどんな人かを知らないまま×印をつけずに投票する人は少なくないよう。判断材料の周知は課題だろう▼下田氏は退官後、江川卓選手の巨人入団をめぐる騒動で世の不興を買っていたプロ野球界に請われ、コミッショナーになっている。公平さなどを重んじて飛ぶボールや飛ぶバットを規制し、試合時間短縮を促し、日本シリーズに指名打者制を導入した。改革姿勢は一部球団の首脳に疎まれたと伝わる▼評価は分かれても、その判断材料に困らぬ人ではあった。
 

 


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2022年05月26日 | Weblog

 スヌーピーでおなじみ、チャールズ・シュルツさんの米漫画「ピーナッツ」は子どもたちが主人公であり、学校の話がよく出てくる▼夏休みもテーマになりやすい。「夏休みだ!」「学校はおわりだ!」とはしゃぐチャーリー・ブラウンとライナス。こんな場面もあった。チャーリーの妹、サリーは大の学校嫌い。なのに夏休みに学校にやって来る。校舎に向かって、ひそかにののしる。「いまはわたしを捕まえられないでしょ。夏休みだもん!わたしは自由よ!聞こえた?自由なのよ!」。米国の学校の夏休みは六月から八月までと長い分、待ち遠しさもいっそう大きいか。なのに▼むごい事件は夏休み直前の小学校で起きた。米テキサス州の小学校での銃乱射事件である▼少なくとも児童十九人と教師ら二人が死亡している。男子高校生が教室に侵入し、子どもたちに向け銃を撃ったとみられている▼絶句する。夏休みはおろか、亡くなった子どもたちにはハロウィーンもクリスマスも二度とめぐって来ない。すべてを奪われた。安全なはずの学校で子を亡くした家族の悲しみの大きさは想像さえできぬ▼乱射事件が続く。それでも米国は銃をめぐる意見対立によって抜本的な銃規制に踏み切れぬ。バイデン大統領は銃規制への決意を重ねて表明したが、この悲しい「宿題」はいったい、いつになったら、片付けられるというのか。


今日の筆洗

2022年05月25日 | Weblog
 日米豪印の協力枠組み「クアッド」首脳会合出席のため来日中のその首相をめぐる真偽不明の逸話がある。インドのナレンドラ・モディ首相▼貧しい雑貨店に生まれた少年は道端で紅茶を売って家計を助けたというのは有名だが、それとは別でインドの人気スポーツ、カバディにまつわる話である。鬼ごっことドッジボールを組み合わせたような競技である▼通っていた学校には二つのチームがあった。一つは強く、いつも勝っている。もう一つは競技歴の浅いメンバーが大半で連戦連敗。若き日の首相はこの弱いチームから戦略を授けてほしいと頼まれたそうだ。ナレンドラ少年はこれを引き受け、見事、勝利に導く▼秘密は「見る」ことだったらしい。強いチームはどうやって勝っているのか。それを分析し、自分のチームにも取り入れる▼自由と民主主義を共有する四カ国の協力によって覇権主義的な動きを強めるロシアや中国に対抗する。それが「クアッド」の狙いだが、共同声明では中国はおろかウクライナ侵攻を続けるロシアについてさえ、名指しで非難することは避けている▼モディ首相の意向なのだろう。中国を刺激したくないし、ロシアとは伝統的に結び付きが強い。日米豪には思うところもあろうが、モディ首相は今はじっと「クアッド」を見ているのだろう。その枠組みに本物の強さがあるかを見極めるために。
 

 


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2022年05月25日 | Weblog
 日米豪印の協力枠組み「クアッド」首脳会合出席のため来日中のその首相をめぐる真偽不明の逸話がある。インドのナレンドラ・モディ首相▼貧しい雑貨店に生まれた少年は道端で紅茶を売って家計を助けたというのは有名だが、それとは別でインドの人気スポーツ、カバディにまつわる話である。鬼ごっことドッジボールを組み合わせたような競技である▼通っていた学校には二つのチームがあった。一つは強く、いつも勝っている。もう一つは競技歴の浅いメンバーが大半で連戦連敗。若き日の首相はこの弱いチームから戦略を授けてほしいと頼まれたそうだ。ナレンドラ少年はこれを引き受け、見事、勝利に導く▼秘密は「見る」ことだったらしい。強いチームはどうやって勝っているのか。それを分析し、自分のチームにも取り入れる▼自由と民主主義を共有する四カ国の協力によって覇権主義的な動きを強めるロシアや中国に対抗する。それが「クアッド」の狙いだが、共同声明では中国はおろかウクライナ侵攻を続けるロシアについてさえ、名指しで非難することは避けている▼モディ首相の意向なのだろう。中国を刺激したくないし、ロシアとは伝統的に結び付きが強い。日米豪には思うところもあろうが、モディ首相は今はじっと「クアッド」を見ているのだろう。その枠組みに本物の強さがあるかを見極めるために。
 

 


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2022年05月24日 | Weblog
 「良き友、三つあり。一つには、物呉(く)るる友、二つには、医師(くすし)、三つには、智恵(ちえ)ある友」。「徒然草」の有名な第百十七段である▼良い友人の第一に何かプレゼントをくれる人を挙げている。身もふたもない話だが、本音でもあるか。さて米国は日本の「良き友」であろうか。岸田首相と来日中のバイデン米大統領との日米首脳会談である▼覇権主義的な動きを強める中国を念頭に置いているのだろう。会談でバイデン大統領は日本が万が一にも攻撃を受けた場合、日本の防衛に対して米国が全面的に関与すると約束した▼ロシアのウクライナ侵攻に対して米国は軍事行動を控えた。その事実が消えぬのか、米国は本当に日本を守ってくれるのかという疑問の声も出ていたが、大統領発言は日本を守る「拡大抑止」を再確認したことになる。この点では米国は日本に「物呉るる」友である▼ただ、日本から米国に差し上げる物も大きいのである。岸田首相は日本の防衛力の抜本的強化と防衛費の「相当な増額」に言及した。GDP比1%枠を大きく超えるような防衛費は重荷な上に平和国家としての日本のイメージを傷つけかねない。地域の軍拡競争につながる危険もある▼日米で協力し、中国をけん制する。分からぬではないのだが、穏当に問題解決を図るアイデアが出てこないのが寂しい。今必要なのは「智恵ある友」の方である。
 

 


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2022年05月21日 | Weblog
一九八一年夏の甲子園で準優勝した京都商業高校に、日本式の通名でなく本名で出場した在日コリアン選手がいた。韓裕、鄭昭相の両外野手▼ノンフィクション作家金賛汀氏の本『甲子園の異邦人』によると、韓選手は民族意識を重んじる父親の意向で幼い頃から、鄭選手は「本名があるなら」と自ら考え小学三年から名乗った▼差別もあるなか、過去に本名を名乗った在日コリアン球児を金氏は知らない。京都商の宿舎には同胞から激励の電話や手紙が寄せられた。決勝の相手は通名ながら同じ出自を隠さず、後にプロ入りする金村義明選手が看板の報徳学園。同胞らは熱くなった▼四十年たっても日本は生きにくいのか。在日コリアンが住む京都府宇治市のウトロ地区に放火したなどとして起訴された男(22)が先の初公判で起訴内容を認めた。拘置所で地元紙の取材に「韓国人に恐怖感を与えることを意識していた」と語った。特定の民族を標的としたヘイトクライム(憎悪犯罪)との指摘もある▼金氏の本によると、八一年の甲子園の直前、鄭選手の父親は息子が本名のままだと出場機会を失うのではないかと監督に相談した。以前に部関係者から通名を勧められても我を通したが、本名が二人もいてはどうかと学校は考えるかもしれない−▼無数の理不尽を知るがゆえの、本来は不要な憂慮。抱かせ続ける社会は健全ではない。
 

 


今日の筆洗

2022年05月20日 | Weblog
クリント・イーストウッド監督の映画『硫黄島からの手紙』は、太平洋戦争末期の硫黄島での日米の激闘を日本側の視点で描く▼上陸した米軍と比べ、日本軍は兵力で圧倒的に劣ったが、島じゅうに掘った洞窟にこもり持久戦に。負けるにせよ、戦いが長引けば日本本土への敵の攻撃が遅れると考えた▼映画では、渡辺謙さん演じる総指揮官の栗林忠道中将が「我々の子供らが日本で一日でも長く安泰に暮らせるなら、我々がこの島を守る一日には意味がある」と説いた。米軍は五日間で占領する計画だったが、戦闘は一カ月を超えた▼ロシア軍が二カ月以上包囲するウクライナ南東部マリウポリで、洞窟ならぬ製鉄所の地下で抵抗を続けたウクライナ兵が投降し、捕虜になった。ウクライナ側は「任務の完了」と説明した。孤立無援の中でもロシア軍をくぎ付けにし、その間に他の戦線に兵器が補給され、東部ハリコフ周辺も奪還。抵抗に意味はあったのだろう▼マリウポリのウクライナ勢の中核・アゾフ連隊の兵士の家族は救出を求め、政府も捕虜交換を望んでいるが、実現は不透明。ロシアは反ロ意識が強烈なアゾフ連隊を「ネオナチ」と呼び、憎んでいる▼映画では、終戦から久しい硫黄島の洞窟で、日本兵が家族に書いた大量の手紙が見つかる場面がある。遺骨は今も島に眠っている。兵士は家族のもとに帰さねばならない。