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今日の筆洗

2021年12月31日 | Weblog

本年最後の小欄、昨年に続いて、落語でおなじみの「山号寺号」という言葉遊びで一年を振り返るとする。比叡山延暦寺というようにお寺の正式な名には山の名=山号が付く。これを借りた言葉遊びで笑っていただこうという試みだが、うまくまとまりますやら▼コロナ禍は今年も続き、<ウイルス拡散・止まらじ>。オミクロン株の拡大も気になるところで来年も<祈る退散・忍の一字>か▼政治の方は不人気だった菅さんがお辞めになり、岸田さんが首相に。顔を代えた効果か、総選挙で自民党は単独過半数を獲得。自民党にとってはホッと<衆院解散・政権無事>か。強引な政治は<目指さん・国民大事>と言ってほしい▼東京五輪・パラリンピックの一年でもあった。それにしてもお金がかかった。活躍した選手には拍手を送る一方、<さんざん・大赤字>と愚痴もこぼしたくなる▼海外スポーツで、日本勢の活躍が目立った年で<大谷さん・賛辞>。もう一つおまけに<松山さん・マスタージ>。失礼、優勝したのは米ゴルフメジャー大会の「マスターズ」▼国際情勢の心配は米中関係で、いがみ合う両国に<もうたくさん・意固地>と、言いたくもなる。この他、眞子さんと小室さんの<一目散・恋路>、人間国宝の死去に<おつかれさん・小三治>が浮かぶ。来年はどんな年になるか。小欄もこれにてお開き。よいお年を。


今日の筆洗

2021年12月30日 | Weblog
新美南吉の童話『手ぶくろを買いに』は冬の寒さに震える子狐(ぎつね)が人間の街に手袋を買いに行く話だった。教科書で読んだ方も多いだろう▼寒さが厳しくなってきた。日本海側など大雪に見舞われている地域もある。年の瀬の冷たい風に、子狐が母狐に寒さを訴える場面を思う。「お母ちゃん、お手々が冷たい、お手々がちんちんする」。子狐はぼたん色になった両手を差し出す▼子狐は優しい人間に手袋を売ってもらうのだが、この年末年始、冬場のその必需品はお店に行ってもなかなか売ってもらえないらしい。なにかといえば家庭用給湯器である▼新型コロナウイルスの影響だそうだ。感染対策のロックダウンを行ったベトナムなどで部品の製造が滞り、給湯器の品薄につながっている。今から注文しても手に入るのは数カ月後とは、のんびりしたい年末年始に手をぼたん色にして待っている人がお気の毒である▼寒い日はのんびりとお湯につかり、冷えきった体を温めたいものだし、ぞうきん一枚洗うにしたってお湯が使えないとあっては苦労である。水栓をひねれば、お湯が出る。そのあたりまえが失われれば、心身ともに冷えきってしまうだろう▼お困りの方に政府が五輪選手村の給湯器貸し出しに動いているそうだが、遠い国のコロナの影響が、こんなところにまで及ぶのか。うちのは大丈夫だろうなとつい確かめてみる。
 

 


今日の筆洗

2021年12月29日 | Weblog

ある六歳の男の子。自分の父親が自慢だったそうだ。小学校の校長を務める、地元のリーダー。背が高く、ハンサムでもあった▼ある日、男の子は父親と買い物に出かけた。応対した店員は十代とおぼしき白人の女の子。女の子が父親に言った。「何? ボーイ」。黒人男性に対する侮蔑的表現を使った。自慢の父親が黒人というだけで見下された▼その少年も大人になる。三歳の娘と公園のそばを通った。娘は遊具ではしゃぐ子どもを見て自分も乗りたいと言った。できないと言うしかなかった。その公園は白人専用だった▼南アフリカで白人が黒人を差別するアパルトヘイト(人種隔離政策)の撤廃に尽力し、ノーベル平和賞を受賞したデズモンド・ツツ元大主教が亡くなった。九十歳▼父親を侮辱され、娘の願いをかなえられなかった人は反差別運動の先頭に立ち続け、一九九一年のアパルトヘイト撤廃に導いた。自由を求める長い旅の間、脅迫やいやがらせも受けたが、非暴力と寛容の心で立ち向かった。父親をボーイと呼んだ女の子にさえ、誰かにそう教えられてきたのだろうと理解を示す人だった▼憎しみではなく友好的に話し合えば必ず解決できる。そう信じ、それを現実のものとした。「人間は悪を善へと変える可能性を備えている」。人間の善を疑わなかった希望の人が旅立った。今ごろ、自慢の父親がほめている。


今日の筆洗

2021年12月27日 | Weblog
年末の帰省シーズンになると読みたくなる漫画がある。永島慎二さんの代表作『漫画家残酷物語』の「春」(一九六三年)という作品で家を飛び出してしまい、お正月を下宿で寂しく過ごす若者の話である▼「下宿のふとんの中で除夜の鐘を聞いていたら自分の生活がとてつもなく寂しく思えて」「おとなしくしてさえいれば、みんなと一緒にニコニコおとそをのんで、おめでとうが言えたのに」−。帰りたいのに帰れない若者が悲しい▼ちょっと昔の広告のコピーに<帰省ラッシュ。それは親を想(おも)う子どもたちの行列です。>というのがあった。親を想うばかりではない。日々の生活に疲れた身には故郷の空気がなによりの癒やしにもなるだろう▼帰省ラッシュがそろそろ本格化する。新型コロナウイルスの感染が拡大していた昨年末に比べ、新幹線の予約などは大幅に増えているそうだ▼一時を思えば、大きく減った新規感染者数を見て予約した方もいるだろう。昨年末やお盆の帰省をがまんした人にとっては待ちに待った帰省か▼残念ながら雲行きが怪しくなってきた。オミクロン株の市中感染が確認されるなど感染リスクが再び高まりつつあり、政府は帰省について慎重に検討するよう呼びかけている。帰るにしても事前の検査など細心の注意を払いたい。<親を想う>はずの行列を、感染を広める行列なんかにはしたくない。
 

 


今日の筆洗

2021年12月26日 | Weblog
<燈火(ともしび)ちかく衣縫ふ母は春の遊びの楽しさ語る>−。尋常小学唱歌の「冬の夜」。厳しい冬の夜の家族だんらんを歌っている▼作詞、作曲者は不詳だが、作詞者は北国出身と想像する。<囲炉裏(いろり)火はとろとろ 外は吹雪>。家の中で母や父の話に耳を傾ける子どもの姿が浮かんでくる。外の厳しい寒さとのコントラストで家族の様子がより温かく感じられる。言語学者の金田一春彦さんがその詞を見事と評していた▼暖かい家を離れ、吹雪の外へと避難しなければならぬのか。無情な想定に穏やかな歌がかき消された気になる。北海道から東北地方の太平洋沖にある日本海溝・千島海溝沿いで巨大地震が起きた場合の想定被害である▼政府によると「冬の深夜」に発生した場合、津波による死者数は日本海溝の地震で最大十九万九千人、千島海溝の地震で同十万人に上るという▼雪深い地域での巨大地震。深夜に降り積もる雪の道を避難するのは大変なことで生死を握る避難速度はどうしても遅くなる。考えてみれば家を出る際、防寒着を身に着けるだけでも時間は余計にかかる▼極寒の中での避難は低体温症によるリスクも高い。想定はあくまで「冬の深夜」という最悪の場合だが、被害を最小限に食い止めるための知恵を急いで絞りたい。家族が気の毒だからと、「冬の深夜」だけは見逃してくれるほど、地震は心やさしくはない。
 

 


今日の筆洗

2021年12月24日 | Weblog

昨日からの大雪で町中は真っ白いです。夜遅く、工場から歩いて帰る道。男は雪の中に犬の足跡が続いているのを見つけました▼こんな雪の夜にどこの犬だろう。男は不思議に思い、足跡を追い掛けることにしました。川沿いの道をしばらく進むと足跡が止まり、雪が踏み荒らされたようになっています。うれしくて踊ったような跡です。「ここはやさしいおばあさんの家だ」。男は思い出しました▼足跡はまだ続いています。今度はずいぶんとはしゃいだようで雪が派手に乱れています。「ああ、ここはハナミズキの木の下だ」。春には白い花を咲かせ、秋には赤い実でみんなを楽しませてくれる。男は思い出しました▼足跡はこんな調子でときどき、立ち止まったり、うれしくて踊ったりしたような跡を残しながら、続いています。男もうれしくなって足跡を追い掛けていきます▼ついに足跡が終わった場所にたどりつきました。よほどうれしかったのでしょう。足跡は今までにないほど踊っています。跳び上がっています▼その足跡の持ち主が誰なのか、男ははっきりと知りました。そこは男の家の前でした。ドアの前にハナミズキの赤い実が置いてあります。つまみ上げると半年前に旅立った犬のにおいがしました。「ありがとう」。雪はまだ降っています。空を見上げると鈴の音と犬のうれしそうな声が確かに聞こえました。


今日の筆洗

2021年12月23日 | Weblog
 若い二人の淡い恋を描いた小説『野菊の墓』。教科書などに載っていた作者、伊藤左千夫の写真を見て、こんな顔だったのかと思った人もいるかもしれない。悲恋の物語に繊細で色白な二枚目をつい、想像してしまうが、左千夫さん、色黒でごつごつした四角い顔。頑丈そうな体格の持ち主である▼左千夫は牛乳搾取業者で一日十八時間の労働にも音を上げなかったそうだ。その立派な身体と体力の秘密は牛乳だったようで、毎日、丼のゴハンに牛乳をかけて何杯も食べたそうだ。客にもうまいものを飲ませると、搾りたての牛乳にうす茶をたて、そこに砂糖を少し入れて出していた▼牛乳を愛した左千夫に対策の知恵を借りたくなる。この年末年始、牛乳の材料となる生乳が大量に余るという懸念が出ている▼この夏は比較的涼しく、お乳の出は良かったそうだが、コロナの影響で需要が増えない。年末年始で学校給食にも出せず、このままだと牛乳を捨てなければならない。なんともったいない▼岸田首相が「いつもより一杯多く飲んで」と訴えていたが、ウシ年のお礼にも積極的に消費したい。それで助かる業者がいる▼あまり牛乳を飲まぬオジサン世代にも何か、おいしい飲み方はないかと見回せば、作家の山本周五郎が書いていた。牛乳のウイスキー割り。「やってみるとなかなか調子がいい」。大量消費は勧められないが。
 

 


今日の筆洗

2021年12月22日 | Weblog
江戸末期、ある藩の侍がほら貝の使い方を師範から伝授された。教えられた三つの秘曲のうち、一曲だけは聞かせてもらえず、譜面だけを渡された▼曲は「落城の譜」。城が落ちるというときだけに吹けときつく言われたが、吹くなといわれると吹きたくなるのが人情で、三年がまんしたが、ついにその曲を吹いてしまう。岡本綺堂の「三浦老人昔話」にそんな話があった▼少し前のニュースになるが、「落城」ならぬ「落胆」の譜のいやな音を聞かされた思いである。日本維新の会の杉本和巳衆院議員の資金管理団体が、政治資金約四万円でほら貝を購入していたことが分かったそうだ。言うまでもなく、政治資金は元は国民のお金。政治とは直接関係のない、ほら貝の購入に使われたとあっては、有権者が腹を立てるのも無理はなかろう▼政治資金収支報告書に堂々とほら貝購入を記載していた神経もよく分からぬ。国民の目をおそれることなく、議員の当然の権利として悪びれるところもなかったとしたら、相当にずうずうしい▼なんでも選挙の出陣式で吹こうとしたが、鳴らすことができなかったそうだ。ばかばかしい。批判を受け、返金する考えを示しているそうだが、当然である▼あの侍は夜中にほら貝を吹いたことをとがめられ、藩から追放されたというが、この議員には、有権者の冷たい目という重い罰が下っている。