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今日の筆洗

2017年02月28日 | Weblog

 歴史上の人物についてリポートを書きなさいという課題が出た。文才に恵まれ、大学進学を考えていた黒人青年はナポレオンに関するリポートを丹念にまとめた▼見事な内容に歴史担当の教師は褒めたか。褒めなかった。黒人嫌いの教師は代作を疑い、自分で書いたことを証明するよう求めた。青年はそのまま学校を退学した▼米劇作家、オーガスト・ウィルソン(一九四五~二〇〇五年)の若き日の逸話である。桑原文子さんの著作に詳しい▼その劇作家の名を、ある俳優が挙げた。昨日の米アカデミー賞授賞式。「普通の人びとを掘り起こし、光を当てた、その人に感謝する」。ウィルソン作品を映画化した「フェンシズ」(デンゼル・ワシントン監督)で助演女優賞を射止めたビオラ・デイビスである▼差別と貧困の中、ウィルソンは酒やギャンブルに溺れる黒人を大勢、見てきたが、やがて、どんなに荒(すさ)んだ生活でも、生きる価値のない人生などないという考えにたどり着いたそうだ。「生きるための苦悩。それさえ、美しく崇高に思えてきた」▼その俳優はスピーチでこうも語っていた。「ある場所に可能性のある人たちが集まっている。墓地よ」。すべての人生には語られるべき価値がある。そんな意味でウィルソンの思いにもつながる。すべての人間の価値。それをかみしめれば、分断の時代は少しは変わるかもしれぬ。


今日の筆洗

2017年02月27日 | Weblog

 <しろやぎさんから おてがみついた くろやぎさんたら よまずにたべた>。おなじみの童謡「やぎさんゆうびん」。作詞はまど・みちおさんである。発表は一九五二年だが、完成までには戦争をはさんで約十三年かかった▼最初は親やぎからの手紙を子やぎが食べてしまうという内容だったが、推敲(すいこう)を重ね、しろやぎとくろやぎの間を手紙が無限に行き来するという内容に落ち着いたそうだ▼子どもは無邪気に歌うが、手紙の内容を永遠に知ることができない白と黒のやぎを思えば、気の毒でもある。やぎの間を走り続ける配達人のことも考えてしまう▼「やぎさんゆうびん」ではないが、黒ネコ宅配便のドライバーさんが大量の荷物を抱えヘトヘトになっている。宅配便最大手のヤマト運輸の労働組合が今の春闘の労使交渉で、荷物の取扱量を減らしてほしいと要求した▼アマゾンなどネット通販の普及拡大によって荷物が増える一方だが、人手は足らず長時間労働を強いられている。よく荷物を抱え小走りの高齢ドライバーをお見かけするが、音を上げるのも当然であろう▼便利なネット通販とはいえ、利用者にも宅配ボックスの用意や在宅時間を正確に伝えるなど、再配達の手間をかけない配慮が欠かせないだろう。あの童謡の手紙だって、心優しい誰かがやぎの代わりに読んでやれば、配達人はどれだけ助かったことか。


今日の筆洗

2017年02月26日 | Weblog

 深い闇の中にある政界不祥事を追い続けていた記者が社主に呼ばれた。取材の方は政治家の情報隠蔽(いんぺい)によって真相が見えてこない。社にも権力側の圧力がかかっていた▼危険な状態の中でも社主は取材を続けることを認めた。その上でこう尋ねた。「事件の真実はいつ得られそうなの?」。「決して真実は得られないと思います」。こう答えざるを得なかったが、社主は怒ったそうだ。「決してなんて絶対に言わないで!」▼記者とは米ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード氏。ニクソン大統領を退陣に追い込んだウォーターゲート事件を取材した当時の逸話である。キャサリン・グラハム社主のその言葉が記者を奮い立たせ、「大統領の陰謀」を暴いた▼そのポスト紙が創刊以来初の公式スローガンを最近制定した。「デモクラシー ダイズ イン ダークネス」▼直訳すれば「民主主義は暗闇の中で死ぬ」。だから新聞は暗闇を照らす灯であり続けなければならぬ。そういう決意表明である。ウッドワード氏の言葉がヒントだそうで、あきらめを許さなかった、あの社主の言葉にもつながるか▼残念ながら闇は深い。トランプ政権が今度は記者会見からCNNなど一部のメディアを追い出した。民主主義を危うくする権力側のメディア選別に報道機関はポスト紙を含め抗議の声を上げる。無論あきらめない。決して、である。