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今日の筆洗

2021年06月29日 | Weblog
 池波正太郎さんの『鬼平犯科帳』には独特な盗みの技やクセを持った盗賊が登場する。「泥鰌(どじょう)の和助」という盗賊の「芸」は盗み細工という▼普段は腕の立つ大工職人。どこかの屋敷の新築や改築のとき、大工の仕事をしながら、ひそかに盗賊としての細工をほどこしておく。その細工によってらくらくと屋敷に押し入ることができるという寸法である▼盗み細工とは違うが、経産省で仕事をしながら、その経産省が所管する国の給付金をだまし取っていたと聞けば、泥棒と大工の二足のわらじの「泥鰌の和助」が浮かんでくる。経産省のキャリア官僚二人が詐欺容疑で警視庁に逮捕された▼二人が狙ったのは新型コロナウイルスの感染拡大で売り上げを減らす中小企業を支援する、「家賃支援給付金」である。生活に困っている人を助ける大切なお金を二人は実体のない会社を使い、困っているふりをして受け取っていた▼国民のために働くべき役人が自分の懐を潤すために国民の金に手を伸ばす。だまし取ったカネで高級マンションに住み、高級時計、外車を購入していたともうわさされる。ふとい話でこれでは官僚が詐欺を働いたのか詐欺師が官僚になっていたのか分からぬ▼二人とも二十八歳という。学校の成績は良かったかもしれぬが、立場も良心も忘れ、取り返しのつかぬ犯罪に走るとは人生の損得勘定が不得手にすぎる。

 


今日の筆洗

2021年06月28日 | Weblog
 UFO(未確認飛行物体)という言い方が一般的になったのは一九七〇年代前半か。それ以前、子どもだったわれわれはその手のものをただ、「空飛ぶ円盤」と呼んでいた▼アルファベット三文字で呼ぶようになったのは英テレビドラマ「謎の円盤UFO」(七〇年日本放映開始)あたりからか。当時「ユー・エフ・オー」と区切って発音していたが、七七年、かのピンク・レディーのヒット曲「UFO」とカップ焼きそばの影響で「ユーフォー」という独特な言い方が日本では普通になる。米国では「ユー・エフ・オー」の方が一般的である▼呼び方はともかく「UFO」と長く付き合ってきた世代としてはその報告書が気になった。米国防総省のUFO報告書である。さてUFOの正体は…。報告書では「結論は出ていない」。異星人という表現もなかった。なんだ▼肩透かしな内容だが、その割に米国と対立する中国やロシアが開発した可能性もあるとか、安全保障上の脅威となり得ると力説するなど、何だか仰々しい▼一説では国防総省の計算だとか。UFO映像公開といい、今回の報告書といい、最近、やけにUFOにご執心の国防総省である。世間の関心の高いUFOをネタに予算獲得に動いているのではないかと勘繰りたくもなる▼あのヒット曲の歌詞がふと浮かんだ。<もしかしたら もしかしたら そうなのかしら>

 


東京新聞 今日の社説

2021年06月27日 | Weblog
まずは、こんな笑い話から−。
 金に困っていた、あるひなびた宿の主人夫婦。一人の客が「泊めてくれ」とやってきて、百両もの大金が入った荷物を帳場に預けてさっさと寝てしまったことで、よからぬことを思いつく。客に金を預けたことを忘れさせよう。
 それで、夫婦がとった策略はというと、しゃにむにミョウガを食べさせるというもの。あの野菜には食べると忘れっぽくなる、という俗説があるんですね。翌日、客の朝餉(あさげ)にとにかくミョウガの入った料理を次から次へ。客は「うまい、うまい」といって食べると、何と、狙い通りお金のことをすっかり忘れて宿を出て行く…。
 このごろ、政界のお歴々の言動を見ていて、ふと想が連なったのが、この落語『茗荷(みょうが)宿』でした。

◆答えにならぬ答え

 例えば、参院選広島選挙区をめぐる買収事件。先ごろ、元法相に実刑判決が言い渡されましたが、自民党本部から、妻の元参院議員の陣営に、他の候補陣営の十倍、一億五千万円もの巨額が投入された経緯については、依然、まるではっきりしません。
 二階俊博幹事長は当初、「私は関与していない」、林幹雄幹事長代理は「当時の(甘利明)選対委員長が担当していた」と述べていたのですが、甘利氏が否定すると今度は二階氏、「党全体のことをやっているのは総裁(当時は安倍晋三前首相)とか幹事長の私」だと前言撤回。そのくせ二人からの具体的な説明もありません。
 元法相は買収には使っていないと言っていますが、鵜呑(うの)みにする人は少ないでしょう。そもそも一億五千万円の大半は、国民の税金が原資である政党交付金から出ているとも。誰の責任、どんな経緯で提供されたかは国民に説明されて当然ですが、お偉方たちは、とにかく、のらりくらりなのです。
 東京五輪開催を巡っても、先の国会で、野党議員らがあれこれの質問をぶつけたのに対し、菅義偉首相は、ただ「国民の命と健康を守っていく」と繰り返すばかり。学術会議メンバーの任命拒否問題で、理由を問われ「総合的、俯瞰(ふかん)的に判断した」と繰り返していたことを思い出します。さらに言えば、「答えを差し控える」という“答え”は、もはや首相の十八番(おはこ)になっている感さえあります。
 森友・加計疑惑や、「桜を見る会」の問題もしかり、安倍政権の時代から首相や自民党幹部に共通するのは、国民や野党、メディアの問いに、本気で答える気、まじめに説明や釈明をする気がない、としか思えない態度です。都合の悪いことは、のらりくらりとはぐらかし続け、責任だの過ちだのを明確にしさえしなければ、国民もメディアも早晩忘れると、考えているのでしょう。
 だから『茗荷宿』なのです。まるで、あの宿屋の夫婦みたい。国民には、とにかく、ミョウガならぬ「答えにもならぬ答え」だけ与えておけば、きっと、そのうち忘れる−。そう、たかをくくっている気がしてなりません。

◆忘れたら、思うつぼ

 最近、運転四十年超の美浜3号機が再稼働しました。既に他の「例外」も控え、寿命四十年のルールは、もはや骨抜き。世界が再生可能エネルギーに注力する時代に、原発に固執する自民党政権の姿勢が如実です。
 原発については、安全性や使用済み核燃料の処分にからむ持続可能性、さらには経済合理性に関してさえ疑問の声が絶えないのに、やはり政権は、のらりくらり。異論をはぐらかしながら再稼働を続けていけば、そのうち国民は原発への不信感など忘れると、そう思っている気がします。
 <羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く>とは、熱い汁物で口をやけどしたのに懲りて、冷たい膾にまで息を吹き掛け冷まそうとする−即(すなわ)ち、見当違いな用心の例えですが、十年前、わが国はあの福島の事故を経験しているのです。原発への不信とはまさに<羮に懲りて羹を吹く>、いわば当然の学習にすぎません。それとも政権のお偉方たちは、私たちのことをよほど忘れっぽい、つまりは<羮に懲りても羹を吹かない>国民だとみているのでしょうか。だとしたら失礼千万です。
 あの落語には続きがあります。一度は大金の入った荷物を忘れて宿を出た客でしたが、実は、すぐに気がついて取りに戻ってくる。忘れはしなかったのです。ぬか喜びに落胆し、渋々、荷物を返して客を見送った後、悔し紛れに主人が「何か、あの客が忘れていったものはないのか」。ややあって妻が、ひと言。「ありゃ、宿賃払うの忘れていった」
 都合の悪いことは「忘れてほしい」と望み、「忘れるだろう」とたかをくくっていれば、しっぺ返しを食うことになる。何だか、そんな教えのようにも思えます。

 


今日の筆洗

2021年06月27日 | Weblog
 星新一さんが一九六〇年に書いたショートショートに「生活維持省」という作品がある。未来の社会はこの役所の働きのおかげで豊かで平穏な暮らしが守られている。いったい、どんな仕事をしているか▼これがおっかない。計算機が毎日、無差別に人間を選びだし、この省の役人が選ばれた人間を光線銃で殺していく。役人が言う。「この方針をやめたら、どうなります。たちまち昔のように人口が増え…」。殺人によって人口増を抑えるという筋書きである▼当時は人口爆発への不安があったのだろう。未来をズバリと言い当てた作品の数多い星さんもここは見誤ったか。日本の総人口である。国勢調査の速報値によると、二〇二〇年十月時点の人口は一億二千六百二十二万六千五百六十八人で前回の調査(一五年)から約八十六万人減った▼前回に続いてこれで二度目の減少。にぎやかだった広場から人々が次々と消えていく。そんな寂しい光景を見ている気分になる▼減少率は0・7%で、前回ほど悪くはないが、これも外国人の増加のおかげという。あのショートショートから約六十年後の日本は人口増ではなく人口減で悩んでいる▼コロナ禍で出生数の落ち込みもあり人口減はさらに進む可能性もある。星さんの予言が当たったとすれば「生活維持」のための抜本的な人口問題への取り組みが必要になっている点であろう。

 


今日の筆洗

2021年06月26日 | Weblog

 アーノルド・シュワルツェネッガーさん演じる殺人ロボットは、突然ロサンゼルスに現れると、電話帳で狙った人を調べ出しては、襲い始める。一九八四年公開の映画『ターミネーター』の設定では、人間と機械が戦う二〇二九年の未来からこの「兵器」はやってきたことになっている▼今からわずか数年後の世界である。機械との戦争は起こりそうにはないが、「ターミネーター誕生の現実味」という雑誌記事は五年前に掲載されていた。ニューズウィーク日本版である。いわく「あいにく自律型兵器システムの出現はそんなに遠い未来の話でないかもしれない」▼警鐘がならされた未来に、人間は少し近づいたようである。人間の介在なしに攻撃する自律型の殺人ロボット兵器がリビアの内戦で、使われたとみられるという。国連安全保障理事会の専門家パネルの報告書の指摘である▼トルコ製の小型無人機で、兵士らを追尾、攻撃したともいう。映画の自律型兵器とは姿形や能力が異なるが、本当であれば、世界初の実戦投入であった可能性がある▼機械に攻撃の判断を委ねることのおぞましさへの反発は、大きくなっていたが、恐ろしい未来のほうに一歩近づいたか▼映画のシリーズには人間が涙を流す意味を理解するターミネーターも登場する。戦場には必要のない機能に違いない。このタイプは現実味がなさそうである。


今日の筆洗

2021年06月24日 | Weblog
 ある地質学者をインタビューした時のことだそうだ。インタビューが成功するかどうかはその準備にかかっている。質問を五十ほど用意していった。インタビューのための質問なら十分な数だろう▼しかし、相手の学者は予想以上の「強敵」でその質問の内容を細かく問い詰めてくる。「キミ、それどういう意味? こういう意味? それとも?」。答えられないでまごまごしていると怒られた。「キミ、そんなことじゃダメだよ」▼記者にとってインタビュー相手から勉強不足を指摘されることほど情けないものはないが、その人にもそんな経験があったとは。ジャーナリストで評論家の立花隆さんが亡くなった。八十歳。『田中角栄研究−その金脈と人脈』(一九七四年)、『宇宙からの帰還』(八三年)など幅広い分野で優れたノンフィクション作品や評論を数多く残した▼若き日に叱ってくれた学者を立花さんはずっと大切な先生と思っていたそうだ。取材で最も必要なのは質問力。インタビューでは聞き手の知性も試されている。もっともっと準備しなければ。その決意と旺盛な探求心が「知の巨人」をこしらえたのだろう▼粘りの人でもあった。田中元首相を長い間追い続けたのも「あんなやつらに負けてたまるか」という気持ちからだったと書いている▼天国の扉の前で、門番にしつこく質問しているその人が見える。

 


今日の筆洗

2021年06月21日 | Weblog
 米国などでよく使われる温度の単位は「カ氏」。「セ氏」にしかなじみのない日本人は「カ氏」の表示を見ればまごつく。カ氏六〇度と言われても、暑いのか寒いのかピンとこない▼米国赴任中、日本人には便利だからと簡単な計算式を先輩から教えてもらった。「カ氏」から二十八を引き、それを二で割る。正確ではないが、だいたいの「セ氏」の目安になる。この程度の計算なら頭の中でもできる▼すでにカ氏一〇〇度を超える地点が相次いでいるそうだ。あの計算式ならば、セ氏三六度、正確には三七・七度。ひゃあ。アリゾナ、カリフォルニアなど米国西部が熱波に早くも見舞われている▼今年の夏至は二十一日だが、本格的な夏の時期を前にしてのこの熱波は異常らしい。聞き慣れない「ヒートドーム」と呼ばれる現象が原因だそうだ。西部上空で巨大な高気圧が居座り、ドームのように熱を閉じ込めているという▼この高気圧は勢力が強く雨雲も寄せ付けぬと聞くから恐ろしい。六月から熱波とは身がもたぬ。これも気候変動のしわざか▼<夏至といふ日の暑からず寒からず>瀧春一(たきしゅんいち)。さて「セ氏」の日本の六月。さほど気温も上がらず、過ごしやすい日が続くが、夏至を過ぎれば、水銀柱も急上昇へと向かう。ご注意を。長期予報によれば今年の夏の気温は平年並みか平年よりやや高く、全国的に暑い夏となるそうだ。