東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2024年04月30日 | Weblog
 カラスが鳴く。カフカ全集。学業の成績評価を優・良・可・不可で示した時代の学生言葉。どれもあまり自慢できる成績ではない▼成績が「可」ばかりなのでカラスが「カー、カー、カー」。カフカ全集はさらにひどくて「可と不可」ばかり。有名な「加山雄三(可山優三)」は「優が三つに可が山ほど」の意となる▼いずれも及第スレスレの「可」がある分、目も当てられない成績を残した自民党にはうらやましかろう。衆院3補選で不戦敗を含め全敗。「得意科目」だった保守王国・島根1区でも「不可」。「可」と鳴けず、うつむくカラスを自民党の党勢に重ねたくなる▼「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」。野球の野村克也さんがよく使った『甲子夜話(かっしやわ)』にある言葉だが、この補選も「不思議の負けなし」だろう▼派閥の裏金問題への強い憤り、上向かない生活への不満。有権者が自民党から顔を背けるのも不思議はない。3補選全敗と書いたが、本当は「4敗」かもしれない。投票率はいずれも過去最低。裏金問題による政治不信が有権者の足を遠ざけた可能性が高く、これもやはり自民党の「負け」と数えたくなる▼岸田首相は今国会で衆院解散・総選挙に踏み切るのではとの観測もあったが、島根でも敗れた強烈な逆風を思えば、厳しかろう。党内のカラスも恐ろしくて解散に「可」とは鳴きにくい。
 
 

 


今日の筆洗

2024年04月27日 | Weblog

岐阜県白鳥町(現郡上市)に生まれ「奥美濃の桜守」といわれた佐藤良二さんの生涯は映画にもなった▼かつて名古屋から白鳥を経て金沢まで結んだ国鉄バス名金線の車掌。病で早世するまで自費で路線沿いに桜の苗木約2千本を植えた▼始めたのは、白鳥の北の飛騨の山あいに昭和35年に完成した御母衣(みぼろ)ダムのほとりで、ダムに沈んだ集落から移された桜が花を咲かせたことに感動したため。花は、電源開発のために故郷を捨てざるを得なかった住民を慰めた。山村の悲しみがあったから、奥美濃の桜守も生まれた▼佐藤さんを称(たた)え名古屋から金沢まで250キロを走るウルトラマラソン「さくら道国際ネイチャーラン」が先日、30年の歴史に幕を下ろした。最後の大会は名古屋をスタートし、佐藤さんの故郷、白鳥がゴール▼白鳥などの住民がボランティアで運営を支えてきたが、高齢化し人手確保が困難になったことが閉幕の理由という。先に民間組織が、人口減少が進んで自治体運営がたちゆかなくなる「消滅」の可能性があるとみなした744市町村を公表したが、郡上市も入っている。御母衣ダムの悲しみもあった昭和より、日本の山里は苦しくなった感がある▼佐藤さんは「花を見る心がひとつになって、人々が仲よく暮らせるように」と願っていた。それをこれからも続けるには何が必要か。試行錯誤を続けるほかない。


今日の筆洗

2024年04月26日 | Weblog
戦後間もなく、文部省が子どもら向けに『民主主義』と題した教科書を作った。復刻版を読むと民主主義は単なる政治の制度ではなく、民主主義の根本精神たる「人間の尊重」が大事だと教えている▼「人間の尊さを知る人は、自分の信念を曲げたり、ボスの口車に乗せられたりしてはならないと思うであろう」。信念を曲げ理不尽な命に従うことは民主主義の対極のようだ▼「民主主義は、家庭の中にもあるし、村や町にもある。それは、政治の原理であると同時に、経済の原理であり、教育の精神であり、社会の全般に行きわたって行くべき人間の共同生活の根本のあり方である」▼そこに民主主義はあったのか。愛知県東郷町長、岐阜県池田町長が職員にハラスメントを繰り返したとそれぞれ第三者委員会に認定され、辞職を決めた。前者は「死ね」などと暴言を浴びせるなどし、後者は頻繁に女性職員の体を触った▼両町とも町長に対する職員の萎縮を各第三者委に指摘された。ボスにものを言えぬ空気。副町長以下は事実上無力で人の尊厳は損なわれ続けた。選挙の洗礼を受けた人も無謬(むびゅう)にあらず。トップが誤った時にそれをただせる組織をどうつくるのか、議会も知恵を絞りたい▼先の教科書は「人間の生活の中に実現された民主主義のみが、ほんとうの民主主義」と唱える。職場の風通しの良さも民主主義の体現である。
 
 

 


今日の筆洗

2024年04月25日 | Weblog
 胃潰瘍で療養していた夏目漱石がある飲み物について書いている。「平野水が(中略)食道から胃へ落ちて行く時の心持は痛快であった」(『思い出す事など』)▼今の時代に「ひらのすい」と正しく読むのは難しいか。現在の兵庫県川西市平野で見つかった炭酸水なので平野水。これが今もおなじみ「三ツ矢サイダー」となる。作家の山口瞳さんは「平野水」を長い間、勘違いしていたそうだ。地名とは知らず、英語の「プレイン(=平野、味を付けていないの意)ソーダ」の日本語訳だと信じていた▼地名と結びついた食品名の勘違いと聞いて「平野水」を思い出したが、話は和牛である。ブランド牛肉の「常陸牛」を売り出す茨城県。思ってもみなかった理由で苦労していると聞いた。「常陸」が読めない人がかなりいるという▼あくまでも念のためだが、「ひたち」。県のアンケートによると20代の6割近く、30代でも約4割が「じょうりく」「ときわ」などと読み間違えていたそうだ。正しく読んでもらえなければ、ブランド名の浸透は難しかろう▼約40年前、小欄の初任地の愛知県東三河地方も難読地名の多いところで「宝飯(ほい)」「作手(つくで)」「御津(みと)」などにあわてた記憶がある▼誤読はどなたにもあるが、歴史ある「常陸」までも読めない時代が心配ではある。「常陸牛」の健闘を祈るとしよう。正しい読み方のためでもある。
 
 

 


今日の筆洗

2024年04月24日 | Weblog

<この日晴れるか この日燃えるか/甲子園の夏よ/最後の昂揚(こうよう)のために/せいいっぱい晴れてくれ/せいいっぱい燃えてくれ>-。高校野球を愛した作詞家、阿久悠さんの『甲子園の詩 敗れざる君たちへ』から引いた▼1980年の作品で題名は「甲子園は燃えている」。<甲子園の夏よ/ありあまる日ざしと熱で飾って/この天晴(あっぱ)れな少年たちの偉大な舞台となってくれ>と続く▼真夏の太陽が甲子園の熱戦をより劇的に演出するのは確かだろうが、今の時代に<熱で飾って>とはなかなか言いにくいかもしれない。気候変動の結果、夏の平均気温は上昇し、炎天下でのプレーは選手の体に障る▼暑さ対策の必要を踏まえ、日本高校野球連盟はこの夏の甲子園大会(8月7日開幕)から午前と夕方に分けて試合を行う「2部制」の導入を決めた。試合中に熱中症を訴える選手が相次いでいたことを思えば当然の対応だろう▼試合数が1日3試合となる大会第1日から第3日まで「2部制」を導入するそうだ。導入で選手を苦しめる猛暑をいくらかでも回避できればありがたい。古いファンの間には昼間の試合がないことに寂しさを感じる人もあろうが、猛暑を避けたからといっても、試合の妙味や選手の闘志が薄れることはあるまい▼気になるのは効果の方か。最近の夏は午前中、夕方といっても、その暑さはやはり容赦がない。


今日の筆洗

2024年04月23日 | Weblog

「あれじゃあ、だれだってこわいですよ」。飛行機で目的地にたどり着けず、引き返してきた操縦士が支配人に事情を説明する。四方は山。突風もやって来る。気圧計も見えない。「これがすべて真っ暗闇の中の出来事です」。自身もパイロットだった仏作家、サンテグジュペリの『夜間飛行』にそんな場面があった▼民間航空の黎明(れいめい)期において夜の飛行はいかに恐ろしかったか。支配人は言い訳に耳を貸さない。「夜というあの暗い井戸の中に降りて行って、そこからまた上がって来ても、別に珍しいことをしたとも思わないようにしなければならない」(訳・堀口大學)。酷な話である▼「暗い井戸」の中でなにが起きたか。伊豆諸島・鳥島の東方海域で夜間訓練中の海上自衛隊の哨戒ヘリコプター2機が墜落した事故である▼3機で潜水艦を探知する訓練中だった。訓練ではヘリ同士がある程度、接近する必要があり、この際に衝突した可能性があるという▼2021年にも鹿児島県沖でヘリ2機が接触するなど夜間訓練中の事故が後を絶たない。サンテグジュペリの時代とは違い、視認性の低い夜間においても事故を回避する技術は格段に向上しているはずだが、相次ぐ事故が解せない▼行方不明者の捜索と事故原因の究明を急ぎたい。突き止めなければならないのは潜水艦の位置よりも夜間訓練に棲(す)む「魔物」の正体である。


今日の筆洗

2024年04月22日 | Weblog
 茶店で使われていたごく普通の茶碗(ちゃわん)。不思議なことに毛ほどの穴もひびもないのに中の水がぽたぽた漏れ出てくる▼もちろん、ただ同然の品なのだが、この茶碗がひょんなことから世間の評判となり、果ては高貴な方がその不思議さに「はてな」と名を授けたことで、千両の値がつく。落語の「はてなの茶碗」である▼別の茶碗の話である。この茶碗、水がもれないどころか立派な純金製で、その値は1040万円。東京のデパートで開かれていた「大黄金展」の会場から高価な抹茶茶碗が盗まれた先日の事件である▼容疑者はまもなく逮捕されたものの、こちらの茶碗にも不思議の「はてな」がついて回るようだ。大きな「はてな」は警備の甘さか。プラスチック製のケースで覆っているだけだったそうで、これなら簡単に持ち出せただろう▼「はてな」は続く。容疑者はその日のうちに古物買い取り店で180万円で売却。ずいぶん安く買いたたかれたのも驚きだが、この店はやはり同じ日に別の店に約480万円で転売している▼事件から数時間後にはテレビなどで大きく報じられていたにもかかわらず、盗品が店から店へとすいすいと転売されていくのがどうにも不思議である。警視庁で転売の経緯なども調べているそうだが、あの落語の茶碗とは大違いで、事件の経過に大きな「穴」や「ひび」のようなものを感じてしまう。
 
 

 


今日の筆洗

2024年04月20日 | Weblog
 若く貧しい夫婦はそれぞれひそかに相手へのクリスマスプレゼントを買う。夫は自分の時計を売った金で櫛(くし)を、妻は自分の美しい髪を切って売り時計に合う鎖を。オー・ヘンリーの有名な短編『賢者の贈りもの』である▼行動に移す前、妻は貧しさに泣き「人生は『むせび泣き』と『すすり泣き』と『微笑(ほほえ)み』から成り立っている」と考える。「なかでは『すすり泣き』がいちばん多くを占めている」とも。すすり泣きはむせび泣きほど激しくはないが、悲しいことには変わりない。人生は思うにまかせない▼独り泣いた日も多かっただろうか。バドミントン男子シングルスの世界選手権元覇者、桃田賢斗選手(29)が日本代表からの引退を表明した。世界一に挑むには体力などに限界を感じたという▼賭博行為で出場停止処分を受け、2016年リオデジャネイロ五輪出場を逃した。後に世界ランキング1位になるが、20年の交通事故で重傷を負い視力にも影響が出た。金メダルが期待された21年の東京五輪は1次リーグ敗退。非情な試練が多かった▼出場停止が明け「応援してもらえない」と覚悟して出た大会の大声援が思い出という。逆境の若者を見捨てなかった人たち。失ったものもあるが、得られたものもあった▼『賢者の贈りもの』は大切なのは相手を思う心だと教える。挫折を知る元王者にも確かに心通じ合う人々がいた。
 
 

 


今日の筆洗

2024年04月19日 | Weblog
『日本書紀』によると、684年に今の四国が揺れた地震があった。「国挙(こぞ)りて男女(おのこめのこ)叫び唱(よば)ひて、不知東西(まど)ひぬ。則(すなわ)ち山崩れ河涌(わ)く」。阿鼻(あび)叫喚の様相となり山は崩れ、川の水はわきだしたようだ▼「伊予湯泉(いよのゆ)、没(うも)れて出(い)でず」。松山の道後温泉のことで温泉の湧出が止まったらしい。「土左国(とさのくに)の田菀五十余万頃(たはたけいそよろずしろあまり)、没れて海と為(な)る」。五十万頃(しろ)は約1200ヘクタールで土佐の国、今の高知県でそれだけの田畑が地盤沈下で海に沈んだ▼死傷者多数とも伝え、被害状況から記録に残る最古の南海トラフ巨大地震とされる。後に白鳳大地震と名付けられた(伊藤和明『地震と噴火の日本史』)▼一昨日の夜、愛媛県や高知県で震度6弱を観測した。負傷者が出て水道管の破裂や落石なども伝えられる。お見舞い申し上げる▼白鳳大地震級の被害ではなさそうだが、おおむね100~150年間隔で起きるとされる南海トラフ巨大地震の想定震源域内で起きた。前回から約80年が経過。気象庁は「この地震によって直接、南海トラフ巨大地震発生の可能性が高まったとは言えない」と語っており、過度の心配は避けたいが、備えを吟味する機とはしたい▼白鳳大地震に関し日本書紀は「古老(おいひと)の曰(い)はく、『是(かく)の如(ごと)く地動(ないふ)ること、未(いま)だ曽(むかし)より有らず』といふ」とも伝えている。当時は未曽有の災い。日本人はその後幾度も経験し、泣いた。無駄にすまい。
 
 

 


今日の筆洗

2024年04月18日 | Weblog
宝を守るため、その身をドラゴンに変える男の話が北欧神話にある。ひょんなことから父親が神々から大量の黄金を受け取ったそうだ。2人の子どもがその分け前を求めるが、父親は自分が受け取ったのだと応じない▼腹を立てた兄弟の1人が父親を殺害し、黄金を独り占めにする。兄弟のもう1人が分け前を要求してもやはり耳を貸さない。宝を隠し、自分はドラゴンとなって、その上でとぐろを巻いて横たわったという▼この歴史的建造物の守り神も北欧神話とどこかでつながっているのかもしれない。コペンハーゲンの「旧証券取引所」である。17世紀、当時のクリスチャン4世が建設を指示したと伝わる▼シンボルの尖塔(せんとう)の高さは56メートル。変わった構造で4頭のドラゴンが天に向け、尾をねじり合わせて一つの塔となっている。ドラゴンに敵や火から建物を守らせるためらしい▼不思議なことに周辺でどんな大きな火災があってもこの建物だけは被害を免れてきたそうだ。そのドラゴンが炎に包まれ、崩落した。「旧証券取引所」の大規模火災である。歴史を失ったようで土地の人はショックだろう▼原因はまだ不明だが、改修工事中だったと聞く。2019年のパリ・ノートルダム大聖堂など歴史的建造物の火災が後を絶たぬ。古さゆえ火に弱い人類の財産と記憶。注意深く、最新技術を身に付けた宝を守るドラゴンがほしい。