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今日の筆洗

2024年05月31日 | Weblog

津軽出身の吉幾三さんの『俺ら東京さ行ぐだ』は40年前の発売。その7年前に『俺はぜったい!プレスリー』が売れたが人気は長続きせず、雌伏の日々の末の再ヒットだった▼自著によると、周囲の態度は一変。旧知のテレビマンは局で会っても「生きてたか。まぁ頑張れや」と上から目線だったのに「吉先生、ぜひ番組にご出演を」と電話してきたという▼先生と言えば、北海道選出で自民党の長谷川岳参院議員の悪評を聞く。吉さんがユーチューブで航空機内の態度が横柄だったと指摘し、北海道や札幌市などの職員への威圧的言動も次々露見した▼会議で「僕はぶち切れるよ」と発言。「クビにしてやる」と言われた省庁職員もいると報じられた。道幹部は関係予算を含む国の予算成立時にお礼のメールを一斉に送信。長谷川氏との面会のみを目的とする道の出張は昨年度118回で、他の道内選出議員はいずれも5回以下だったという。「○○さ行ぐだ」という訛(なま)りは札幌では聞かないが、怒らせないために何度も東京さ行ったのか▼40年前のヒットで態度を一変させたテレビマンの出演依頼は、吉さんの日程の都合で実現しなかった。「アレは僕が育てたようなもんですから、僕の言うことだったら何でも聞きますよ」と局で大見えを切っていたと後に知ったという▼偉そうにした人のことを、された側は忘れぬものである。


今日の筆洗

2024年05月30日 | Weblog
長野県でおはぎやぼた餅のことをいう「半殺し」。半分ほどつぶした、もち米でこしらえるからだろう。「きょうは半殺しに」。知らぬ人が聞けば肝をつぶす▼これも物騒な方言か。岡山県の「半裂き(ハンザキ)」。心配はご無用。特別天然記念物のオオサンショウウオのことで身を半分に裂かれても死なないほど生命力が強いと信じられていた▼岡山県には人や馬をのみ込む巨大なオオサンショウウオが退治されたという伝説もあるそうだ。猛々(たけだけ)しい伝説や「ハンザキ」の名とは裏腹に日本のオオサンショウウオは今、深刻な危機に弱っているのだろう。政府は日本固有種のオオサンショウウオの保全に向け、外来種のチュウゴクオオサンショウウオなどを「特定外来生物」に指定した▼チュウゴクオオサンショウウオは1970年代に食用として日本に持ち込まれたとされ、やっかいなことに攻撃的で寿命も長いそうだ▼日本のオオサンショウウオの繁殖場所を奪うほか、交雑が進んでしまい、京都・鴨川の個体調査によると9割までが交雑種になっていた。「ハンザキ」が消えかねない▼指定によって、7月1日以降、外来種とその交雑種は飼育や放出が禁止となる。井伏鱒二の『山椒魚(さんしょううお)』を思い出す。岩屋から出られなくなった孤独な山椒魚の話だったが、今欲しいのは人の知恵で築いた、固有種保全の「岩屋」なのだろう。
 
 

 


今日の筆洗

2024年05月29日 | Weblog
 『鉄腕アトム』の「電光人間の巻」に「電光」なる透明ロボットが出てくる。生まれてまもないばかりで善悪の区別を教えられていないところを悪漢、スカンク草井に盗み出され、悪の手先となってしまう▼「ボクオヤブンニイイツケラレタコトダケシカシラナイノ」-。スカンクに命じられたまま銀行強盗を手伝う。お茶の水博士がいう。電光は決して悪いロボットではないが、「恐ろしいのはスカンクのいうことを正しいと思っていいなりになることです」▼人工知能(AI)を悪用した事件に罪なき「電光」が浮かんだ。警視庁は対話型生成AIを使ってコンピューターウイルスを作成したとして川崎市の男を不正指令電磁的記録作成容疑で逮捕した▼ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)でカネを稼ごうと設計情報を複数のAIに回答させて実際に作成していたという▼「電光人間の巻」の発表は1955(昭和30)年。AIがまだ存在しない時代からその悪用をどう防ぐかはSFの大きなテーマだったが、今や、現実として対策を急がねばならない時代となっているのだろう。オヤブンにイイツケラレタとAIが不届き者に悪知恵を授けてしまう現実に背筋が凍る▼漫画では「電光」にアトムが人助けの模範を示し「ね、いいことってすてきだろ」と、根気よく教えていた。AIを悪用させない効果的な方法を探したい。
 
 

 


今日の筆洗

2024年05月28日 | Weblog

「サイテヤーク」は裂いて焼くからウナギのことで「オストアンデル」は押すとアンコが出るからおまんじゅう▼前にも紹介した昭和初期に流行した言葉遊びで、ものの名を外国語っぽく表現する。「デルトマーケル」も有名な外国語風日本語の一つだろう。今も「デルトマケ」として耳にする▼「出ると負ける」ので弱い力士の意味となる。失礼ながら、最近の自民党を連想してしまう。与野党対決の構図となった静岡県知事選。自民党推薦候補は、立憲民主、国民民主両党推薦の鈴木康友さんに敗れた▼自民党は4月の衆院3補欠選挙で不戦敗を含め、全敗したのに続き、またも「黒星」。自民党派閥の裏金問題が尾を引き、党勢回復の兆しが見えぬ。有権者は自民党の「反省」を感じていない▼岸田首相が狙っているとささやかれる早期の衆院解散・総選挙もこれでは困難か。「デルトマーケル」の今、首相が解散に踏み切ろうとすれば党内は「ヤメテクーレ」の大合唱になりかねない。それでも総選挙にこだわれば岸田おろしの動きも強まるだろう▼さて7月7日投票の東京都知事選。立憲民主党の蓮舫さんが出馬する意向を表明した。これも自民党への強い逆風を見ての判断か。都議会自民党は現職の小池百合子知事を支援する方針だが、「ジミン」という言葉は役に立たないどころか、小池さんには重荷にもなりかねない。


今日の筆洗

2024年05月27日 | Weblog
 人になにか込み入ったことを説明する際、さも能力がありそうに聞こえる方法があると、知り合いの官僚が教えてくれたことがある。「大切なのは、三つです」と前置きし、三つに絞って説明するそうだ。なるほど賢そうだ▼英国のブレア元首相の「三つ」を思い出した。1996年の演説である。「政権の三つの優先課題はなにか。教育、教育、教育です」。一つじゃないかと言いたくなるが、教育政策に取り組む熱は伝わってくる▼この方々だって「三つ」を熱っぽく語らなければならないはずである。「再発防止、再発防止、再発防止」と。もちろん、岸田首相と自民党である▼自民党派閥の政治とカネの問題を受けた政治資金規正法改正案の審議が進む。が、どうにも歯がゆいのは自民党案の迫力のなさだろう。政策活動費の公開方法や政治資金パーティー券の公開基準。いずれにしても野党ほど厳しくはなく、正直、なにか抜け穴でもあるのではないかと勘繰りたくなる内容である▼いうまでもなく政治とカネ問題の「火元」は自民党である。その自民党がお金集めに最も都合の良い案を出していたのでは国民は納得しまい▼政治にカネがかかるのは百も承知だが、歯を食いしばってでも己に厳しい案を出し、問題を二度と起こさぬ決意が見たかった。自民党案を三つのポイントで説明するならば「甘い、甘い、甘い」である。
 
 

 


今日の筆洗

2024年05月25日 | Weblog

松平健さんが歌って踊る『マツケンサンバII』の人気爆発の契機は2004年8月の神宮外苑花火大会。新宿コマ劇場での松平さんの芝居の宣伝のため、花火大会の舞台で披露することになったという▼曲はまだ、それほど有名でなかった。振り付けを考案した真島茂樹さんが先に舞台に上がって2万5千人の客に踊り方を教えた。松平さんが登場し歌うと皆が一緒に体を揺らしたという▼直後のころに松平さんが「これから大変なことになるかもしれないよ」と言い、その通りヒットしたと真島さんが自著で明かしている▼真島さんが77歳で亡くなった。かの曲で有名になり老若男女に街で声を掛けられ、幼稚園で、学校の運動会で、老人ホームで踊っていると言われた。うれしかったという。小欄筆者の同僚も職場の宴会で披露していたが、真島さんのDVDを見て練習したそう。フィーバーが懐かしい▼3歳の頃からレコードなどに合わせて踊り、家に人が集まるとショータイムと称し踊りを見せ、高校卒業後に日劇ダンシングチームに入った人。自身を「踊り子」と呼んだ。子の字に愛を感じるという。振付師といっても、自分も踊りたい。舞踏家などは芸術っぽい。難しいことを考えず楽しく踊ろうと伝えるのが踊り子で座右の銘は「一生、踊り子」▼亡くなる前日まで元気に仕事をしていたと聞く。志を遂げたのだろう。


今日の筆洗

2024年05月24日 | Weblog

 給料が振り込みでなかった時代。巨人軍は多摩川グラウンドで選手に渡すことがあったという▼グラウンドそばのおでん屋の軒先に元は硬球が1ダース入っていた箱が置かれ、みんなの給料袋が入れてあった。長嶋茂雄、王貞治、金田正一といった名選手の給料袋は縦にしても立つ厚み。誰もが羨望(せんぼう)のまなざしを向けていたと堀内恒夫さんが以前、読売新聞で明かしていた▼堀内さんが若手だったころの話で給料袋を受け取った長嶋さんが二つ折りにしてユニホームの尻ポケットに入れようとしたが、厚くて折れなかった光景も見たという▼振り込みの時代でも減税の恩恵を実感させたいと岸田政権は考えたらしいが、評判は芳しくない。政府は6月に始まる所得税と住民税の定額減税で、所得税減税額を企業が給与明細に記載するよう関係省令で義務付ける。企業などの事務量は増えそうだ▼「減税してあげた」と喧伝(けんでん)するかのようでいかにも、恩に着せるように厚かましい。企業などの担当者の仕事を増やしてまでやる価値はどれほどあるのだろう▼堀内さんの若手時代、自身の給料袋が突然厚くなり同僚たちを驚かせたことがあった。堀内さん発案の全部千円札にするいたずらで、事前に球団にお願いしたという。センスあるユーモアだから、きっと球団職員も面白がって協力したのだろう。御上(おかみ)の思惑でやらされる仕事とは違う。


今日の筆洗

2024年05月23日 | Weblog
 カメムシと聞いてどなたも思い出すのはあの独特な臭いだろう。手につこうものならなかなか取れない。ヘッピリムシ、ヘコキムシ。身もふたもない呼び名がおもしろく、懐かしい。昔の子どもには身近な虫だった▼外敵から身を守るため、あの臭いを放つのだが、宇都宮あたりでは臭い封じのおまじないがあると聞く。手でつかまえる前に、「お嫁様、お嫁様、立派なお嫁様」と唱えるのだそうだ▼「立派なお嫁様」なのだから人前でオナラなどしてはいけませんよとカメムシに言い聞かせたのかもしれない。あくまで昔の話である▼カメムシによる農作物被害を防ぐおまじないはないものか。リンゴやナシ、モモなど幅広い果物に被害をもたらす果樹カメムシ類が今年、大量発生しているそうだ。農水省によると既に25府県で農家に対策を呼びかける「注意報」が発令されている。千葉県の4月の調査結果におののく。平年の7倍以上の数のカメムシが捕獲されたという▼<今を総(すべ)てと亀虫と冬籠(ふゆごも)るなり>は金子兜太さん。寒くなるとカメムシが家の中に入ってきて冬を越すことはよく知られるが、専門家によると、この冬の暖かさにまんまと越冬するカメムシが増えて、大量発生につながった可能性があるという▼カメムシの産卵期は夏。とすれば、今後さらに増えかねないのか。効かないと知りつつ「お嫁様…」と唱えたくなる。
 
 

 


今日の筆洗

2024年05月22日 | Weblog
 「待てば海路の日和あり」とはいうけれど、この方が待ったのは約60年。良き日和に恵まれたのは海路ではなく宇宙への空路ということになる▼米国の彫刻家、エド・ドワイトさん。90歳にして米宇宙企業「ブルーオリジン」の宇宙船に搭乗し、宇宙空間に到達した。最高齢の宇宙飛行ということになるそうだ▼「待った」とはこういう経緯である。1960年代初頭、黒人差別撤廃を訴えるケネディ大統領はNASAの宇宙飛行士メンバーに黒人をどうしても加えたかった。白羽の矢が立ったのが空軍のパイロットだったドワイトさんである▼黒人初の宇宙飛行士を目指し、厳しい訓練を重ね、成績上位に食い込んだ。が、結局、NASAがドワイトさんを選ぶことはなく、宇宙へ旅立つことはかなわなかった。ケネディ暗殺で後ろ盾も失い、夢を果たせぬまま、空軍を去った▼宇宙飛行士の当時の訓練を描いた作家トム・ウルフさんの『ザ・ライト・スタッフ』(中公文庫)によると「ライト・スタッフ」(宇宙飛行士としての正しい資質)がないと判断されていたようだが、ドワイトさんはそうは思っていない。差別の影を感じていた▼宇宙旅行は約10分間。早速、「もう一度行きたい」と語っているそうだ。90歳で、なおも宇宙とおっしゃる気力と体力がうらやましい。やはり、「ライト・スタッフ」を備えたお人なのだろう。
 
 

 


今日の筆洗

2024年05月20日 | Weblog
 『前略おふくろ様』などの脚本家、倉本聰さんは北海道の富良野に移り住んで間もないころ「廃屋」をよく訪ね歩いていたそうだ▼捨てられた家を見つけては中におじゃまする。その昔は居間だった場所に座り込む。散乱した室内に放り出されたランドセルや少女雑誌…。寂しい光景にかつて住んだ家族がこの地にやってきたときの夢や家を出るしかなかった事情を想像する。廃屋は「哀(かな)しい博物館」だという。廃屋に着想を得て書いたのが『北の国から』という▼以前は笑い声があふれた家だが、今は誰もいない。そんな「哀しい博物館」の建設ラッシュが日本中で起きているのか。空き家問題である▼総務省の住宅・土地統計調査(速報値)によると全国の空き家数は900万戸と過去最多。住宅総数に占める割合は13・8%で、約7戸に1戸は空き家ということになる▼ひとり暮らしの高齢者が亡くなり、そのまま空き家になるケースが相次いでいる。相続する人がいない、相続して売りに出したものの買い手がつかない、解体費が払えない-。少子高齢化の進んだ社会では空き家の増える理由はいくらでもあるのだろう▼2035年には3戸に1戸が空き家になるとの推計もある。空き家は都会でも増えている。政府の対策も効き目が見えない。「哀しい博物館」を再び、誰かの「楽しいわが家」に戻す有力な手はないものか。