津軽出身の吉幾三さんの『俺ら東京さ行ぐだ』は40年前の発売。その7年前に『俺はぜったい!プレスリー』が売れたが人気は長続きせず、雌伏の日々の末の再ヒットだった▼自著によると、周囲の態度は一変。旧知のテレビマンは局で会っても「生きてたか。まぁ頑張れや」と上から目線だったのに「吉先生、ぜひ番組にご出演を」と電話してきたという▼先生と言えば、北海道選出で自民党の長谷川岳参院議員の悪評を聞く。吉さんがユーチューブで航空機内の態度が横柄だったと指摘し、北海道や札幌市などの職員への威圧的言動も次々露見した▼会議で「僕はぶち切れるよ」と発言。「クビにしてやる」と言われた省庁職員もいると報じられた。道幹部は関係予算を含む国の予算成立時にお礼のメールを一斉に送信。長谷川氏との面会のみを目的とする道の出張は昨年度118回で、他の道内選出議員はいずれも5回以下だったという。「○○さ行ぐだ」という訛(なま)りは札幌では聞かないが、怒らせないために何度も東京さ行ったのか▼40年前のヒットで態度を一変させたテレビマンの出演依頼は、吉さんの日程の都合で実現しなかった。「アレは僕が育てたようなもんですから、僕の言うことだったら何でも聞きますよ」と局で大見えを切っていたと後に知ったという▼偉そうにした人のことを、された側は忘れぬものである。
「サイテヤーク」は裂いて焼くからウナギのことで「オストアンデル」は押すとアンコが出るからおまんじゅう▼前にも紹介した昭和初期に流行した言葉遊びで、ものの名を外国語っぽく表現する。「デルトマーケル」も有名な外国語風日本語の一つだろう。今も「デルトマケ」として耳にする▼「出ると負ける」ので弱い力士の意味となる。失礼ながら、最近の自民党を連想してしまう。与野党対決の構図となった静岡県知事選。自民党推薦候補は、立憲民主、国民民主両党推薦の鈴木康友さんに敗れた▼自民党は4月の衆院3補欠選挙で不戦敗を含め、全敗したのに続き、またも「黒星」。自民党派閥の裏金問題が尾を引き、党勢回復の兆しが見えぬ。有権者は自民党の「反省」を感じていない▼岸田首相が狙っているとささやかれる早期の衆院解散・総選挙もこれでは困難か。「デルトマーケル」の今、首相が解散に踏み切ろうとすれば党内は「ヤメテクーレ」の大合唱になりかねない。それでも総選挙にこだわれば岸田おろしの動きも強まるだろう▼さて7月7日投票の東京都知事選。立憲民主党の蓮舫さんが出馬する意向を表明した。これも自民党への強い逆風を見ての判断か。都議会自民党は現職の小池百合子知事を支援する方針だが、「ジミン」という言葉は役に立たないどころか、小池さんには重荷にもなりかねない。
松平健さんが歌って踊る『マツケンサンバII』の人気爆発の契機は2004年8月の神宮外苑花火大会。新宿コマ劇場での松平さんの芝居の宣伝のため、花火大会の舞台で披露することになったという▼曲はまだ、それほど有名でなかった。振り付けを考案した真島茂樹さんが先に舞台に上がって2万5千人の客に踊り方を教えた。松平さんが登場し歌うと皆が一緒に体を揺らしたという▼直後のころに松平さんが「これから大変なことになるかもしれないよ」と言い、その通りヒットしたと真島さんが自著で明かしている▼真島さんが77歳で亡くなった。かの曲で有名になり老若男女に街で声を掛けられ、幼稚園で、学校の運動会で、老人ホームで踊っていると言われた。うれしかったという。小欄筆者の同僚も職場の宴会で披露していたが、真島さんのDVDを見て練習したそう。フィーバーが懐かしい▼3歳の頃からレコードなどに合わせて踊り、家に人が集まるとショータイムと称し踊りを見せ、高校卒業後に日劇ダンシングチームに入った人。自身を「踊り子」と呼んだ。子の字に愛を感じるという。振付師といっても、自分も踊りたい。舞踏家などは芸術っぽい。難しいことを考えず楽しく踊ろうと伝えるのが踊り子で座右の銘は「一生、踊り子」▼亡くなる前日まで元気に仕事をしていたと聞く。志を遂げたのだろう。
給料が振り込みでなかった時代。巨人軍は多摩川グラウンドで選手に渡すことがあったという▼グラウンドそばのおでん屋の軒先に元は硬球が1ダース入っていた箱が置かれ、みんなの給料袋が入れてあった。長嶋茂雄、王貞治、金田正一といった名選手の給料袋は縦にしても立つ厚み。誰もが羨望(せんぼう)のまなざしを向けていたと堀内恒夫さんが以前、読売新聞で明かしていた▼堀内さんが若手だったころの話で給料袋を受け取った長嶋さんが二つ折りにしてユニホームの尻ポケットに入れようとしたが、厚くて折れなかった光景も見たという▼振り込みの時代でも減税の恩恵を実感させたいと岸田政権は考えたらしいが、評判は芳しくない。政府は6月に始まる所得税と住民税の定額減税で、所得税減税額を企業が給与明細に記載するよう関係省令で義務付ける。企業などの事務量は増えそうだ▼「減税してあげた」と喧伝(けんでん)するかのようでいかにも、恩に着せるように厚かましい。企業などの担当者の仕事を増やしてまでやる価値はどれほどあるのだろう▼堀内さんの若手時代、自身の給料袋が突然厚くなり同僚たちを驚かせたことがあった。堀内さん発案の全部千円札にするいたずらで、事前に球団にお願いしたという。センスあるユーモアだから、きっと球団職員も面白がって協力したのだろう。御上(おかみ)の思惑でやらされる仕事とは違う。