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今日の筆洗

2019年03月30日 | Weblog

 長身で、けんかが強い先輩は「ダイケン」と呼ばれていた。がらが悪いことで知られた高校の番長は「チューケン」。同じグループの三人目の「ケン」はそのため「ショウケン」と呼ばれるようになる。ショーケンこと俳優、歌手の萩原健一さん。無鉄砲をくり返す東京の不良たちの中から出てきた人である▼「チンピラがチンピラを演技しているんだから、こりゃ、本物だと思うよ」。かつて、対談の中でそう語っている。『太陽にほえろ!』の刑事をはじめ、型に収まらないような役の数々はなつかしい▼アウトローのにおいばかりの俳優ではなかった。表現への強い欲求とこだわりもまたこの人のものだろう。純朴な若者を『前略おふくろ様』で好演する。無口な若者の人物像に陰影を与える演技力は、やはり激しい人生の産物ではなかったか▼名声を得た後に、大麻不法所持の容疑で逮捕された。悔いて、四国巡礼に打ち込むが、その後も事件やスキャンダルで、世間を騒がせている▼激しい浮き沈みを経て、自著では、<おれは演じることでしか、世間様に罪滅ぼしができない>(『ショーケン』)と書いた。最近もドラマで健在ぶりをみたばかりだった。六十八歳で亡くなった。突然の別れである▼褒められないことは数多い。けれど、「ショーケンのような」と付けてみれば、不良の二文字、印象が違って見えてくる。

 
 

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今日の筆洗

2019年03月29日 | Weblog

「花わらう」という表現がある。わらうは「笑う」に加えて「咲(わら)う」とも書き、つぼみが開くことを表すという。音読みはいずれも「しょう」である▼花の「咲(え)み」と、見上げる人々の笑みとが出合う光景。都心でも見られるようになった。桜が列島各地で、大きくわらいはじめた季節である▼「桜の花の咲くまでよ」。プロ野球国鉄スワローズ時代のエース金田正一さんはオープン戦で新人に打たれるとそんな歌を口ずさんでいたそうだ(越智正典他『殺し文句の研究』)。開幕戦で、新人だった長嶋茂雄さんを4三振に仕留めている人は心の中で、ほほ笑んでいたのだろう。開幕すれば同じようにはいくものか、笑うのは今だけであると▼そのプロ野球は、開花の知らせが届く各地で、きょう開幕する。セ・リーグMVPの丸佳浩外野手、パ・リーグ打点王の浅村栄斗内野手ら、両リーグで大物の移籍があって、勢力の変化も感じる今季である。ドラフト一位の若者も複数、開幕一軍に残ったようだ。日本ハムには、台湾から新加入の四割打者がいる▼例年に増した楽しみがありそうだ。いよいよ、とグラウンドに出る新戦力がいて、好きなようにはさせないと、心中、自信をみなぎらせるベテランたちもいて…。笑みと笑みが、またぶつかる時である▼「花開けば風雨多し」という。咲いた後は、波乱に泣き、笑う季節だろう。

 
 

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今日の筆洗

2019年03月28日 | Weblog

ハンカチをかみしめて、泣き叫んでいる声が聞こえてくるようである。ピカソの「泣く女」(一九三七年)。慟哭(どうこく)の理由は第二次世界大戦へと向かう時代への苦悩と悲しみか▼モデルは写真家でピカソの愛人だったドラ・マールである。知的な一方、感情の起伏が激しく、絵の題名通り、実生活でもよく泣いていたらしい。ピカソの妻と取っ組み合いを演じた伝説もある▼十年近い関係の後、ピカソに新しい愛人ができるとかわいそうに心を病んでしまう。ドラと交際した米作家ジェームズ・ロードの『ピカソと恋人ドラ』によるとその後はピカソを憎み、ピカソを愛する人生だったらしい。ピカソのモデルと言われることを嫌い、自分の芸術作品が世間に評価されぬことにも苦しんだ。九七年に亡くなっている▼フランスで停泊中の豪華ヨットから九九年に盗まれたピカソ作品が最近アムステルダムで発見されたそうである。日本円で約三十一億円相当の価値とはさすがにピカソである▼この作品もモデルはドラである。宝物探しの考古学者が主人公の人気映画にちなんで「美術界のインディ・ジョーンズ」との異名を持つ美術品回収専門家が見つけた▼ドラはピカソが自分を描いた作品を「すべてインチキで私を描いていない」と語っていたが、インディに犯罪の闇から救い出され、よく「泣く女」も少しはほほ笑んでいるか。

 
 

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今日の筆洗

2019年03月27日 | Weblog

 

 ブタがイノシシにこう自慢した。「私ぐらい結構な身分はない」。食べることから寝ることまで人間が世話してくれる。ごちそうはいやというほど食べるからこんなに太っている。「私とお前さんとは親類だそうだが、おなじ親類でもこんなに身分が違うものか」▼イノシシは笑った。人間はただで食べさせてくれるほど親切ではない。「今にきっと罰が当(あた)るから見ておいで」。イノシシの言った通りだった。間もなくブタは人間に「殺されて食われてしまいました」-。『ドグラ・マグラ』などの作家、夢野久作の掌編『豚と猪(いのしし)』である▼誇り高く、人間が与えるただのごちそうを警戒する、その物語のイノシシだが、この餌だけはどうあっても口にしてもらいたい。愛知、岐阜両県で相次ぐ豚コレラへの新たな対策として、農林水産省は野生イノシシに対しワクチン入りの餌を与え始めた▼養豚場への感染を媒介しているのは野生のイノシシではないか。そう判断しての作戦らしい。日本での野生動物へのワクチン投与はこれが初と聞く。感染防止の効果を期待する▼問題は食べてくれるかどうか。イノシシの食べ物がそれなりにある自然環境の中、トウモロコシの粉などをまぶしたワクチン入りの餌に手というか鼻先を伸ばしてくれるか少々心配となる▼食べても罰は当たらないよ。そうイノシシに向かって念じるばかりである。

 
 

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今日の筆洗

2019年03月26日 | Weblog

 <サクラサク>なら合格で、<サクラチル>なら残念ながら不合格。大学受験の合否電報の文面が懐かしいという世代もあるだろう。ネットもない時代。地方にいる受験生が掲示板を確認した学生から電報で合否を伝えてもらう仕組みである。一九八〇年前半にはまだ注文もかなりあった▼電報なのでなるべく字数を減らしたいが、合否が明確に伝わらなければ、意味がない。<サクラサク><サクラチル>は昭和三十年代の早稲田大学の学生の電報文と聞くが、短くて、気が利いている上にはっきりと合否が分かる▼こんな電報が届いたとしたら「合否」はよく分からぬ。<ダイトウリョウガツミヲオカシタトケツロンヅケナイガ メンセキモシナイ>-。米大統領選でロシアがトランプ陣営に肩入れしたロシア疑惑の捜査報告書である▼トランプ陣営がロシア側と共謀した証拠は見つからなかったとしたが、トランプ大統領の司法妨害疑惑については「大統領が罪を犯したとは結論づけないが、免責もしない」とわざわざ明記している。まだ疑念は残るというところか▼司法妨害についての判断を見送っているに他ならぬが、大統領にはこれが明確な<サクラサク>としか読めぬらしい▼報告書公表に「完全に潔白だ」と早速、記者団に強調。合格胴上げでもしそうな勢いだが、国民による「合否判定」が出るのはまだ先であろう。

 
 

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今日の筆洗

2019年03月25日 | Weblog

 英語の「エレファント・イン・ザ・ルーム」(部屋の中のゾウ)とはどういう意味か。これで、「大変な問題が起きているのに見て見ぬふりをしている状況」を意味するそうだ▼ゾウが部屋の中にいる。それは危険な状態だが、解決策を議論したくなくてゾウはいないと思い込もうとしている。そんなニュアンスらしい▼とすれば、見て見ぬふりにしている問題のゾウはたぶん、わが国のどこかの部屋にいる。何の話かといえば象牙である。野生動物の取引を制限するワシントン条約の元事務局長が専門誌で日本の象牙市場規制の甘さを非難する論文を最近発表した。日本は違法な象牙輸出の拠点とまで指摘する。事実なら、ゾウの密猟防止に取り組む国際社会に合わせる顔がなかろう▼日本への批判は以前からもあったが、政府は国内で流通する象牙はワシントン条約の規制前に入手したものであり、密猟や違法取引とは無関係とつっぱねてきた。つまりそんなゾウは部屋の中にいないというのである▼アフリカの国には、日本の甘い市場が密猟による象牙を合法に見せかけるロンダリングを可能にしており、それがさらなる密猟につながるとの声もある▼環境省は二十二日、象牙の登録審査を七月から厳格化すると発表したが、効果は十分か。部屋の中にいる違法取引という名のゾウを直視し国際社会が納得する対策を急ぎたい。

 
 

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