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今日の筆洗

2022年07月30日 | Weblog

 宮城のJR気仙沼線は東日本大震災で津波に襲われ、大部分の鉄路は廃止に。専用道などを走るバス高速輸送システム(BRT)が導入された▼紀行作家の故・宮脇俊三氏は気仙沼線が全線開通した一九七七年十二月十一日に乗車し、沿線の喜びを翌年発行の著書『時刻表2万キロ』に記した。国鉄時代で不採算も織り込み済みの開通。東京の新聞は赤字線が増えたと批判的だったが、現地の駅のホームは日の丸の小旗を手に列車を待つ人で埋まった。別の駅では花火と風船、ハトたちが空へ。日焼けした女性たちが花笠(はながさ)をかぶって並び、片足を上げて喜々として踊る駅もあった▼今後、赤字路線の存廃論議が進むかもしれない。利用状況など一定の目安に該当する路線を対象に、鉄道会社や自治体などが、鉄道存続策やバス転換などを協議することを盛り込んだ提言を国土交通省の有識者検討会がまとめた▼人口減で鉄道経営は容易でない。協議対象路線は未定だが、JRでは三重の名松線、若狭湾沿いの小浜線などが取り沙汰されている▼赤字線は不要なのか−。宮脇氏は先の著書で気仙沼線の前途を思い、こう書いている。「むずかしい問題ばかりだが、私には、駅頭で妙な踊りを踊る日焼けしたおばさんたちの顔だけが、たしかなものに思われる」▼沿線の人々の思いは尊い、ということだろう。議論するならば丁寧にと願う。


今日の筆洗

2022年07月27日 | Weblog

 <なんにでもよくつらを出す仙女香(せんじょこう)>。江戸期の川柳だが、説明がいる。仙女香とは当時、江戸でたいそう売れた粉おしろいの商品名だそうだ▼販売していた坂本屋さんというのが、相当のやり手で、浮世絵や草双紙、芝居のせりふに「仙女香」の名や効能を頼み込んで盛り込んでもらっていたらしい。それで<なんにでもよくつらを出す>。今ならメディアミックス型のタイアップ戦略とでもいうのだろう▼浮世絵や草双紙とのタイアップなら問題はないが、国民のおあしも投じて行われるオリンピックとなれば話は別である。東京五輪・パラリンピック組織委員会の元理事側が紳士服大手のAOKIホールディングスから多額の資金提供を受けていたとされる疑惑である▼その公共性から、五輪組織委員会の役職員は「みなし公務員」と定められ、金銭の受領などは禁じられているが、元理事の会社に数千万円が支払われていたらしい▼AOKIは五輪のスポンサーとなり、エンブレム入りのスーツなどを販売していたそうだが、怪しい関係によって五輪に「つらを出す」便宜を図っていたのか。捜査の進展を待つが、事実なら五輪が食い物にされたと言わざるを得ない▼開催までゴタゴタ続きだった東京五輪だが、終わった後も落ち着かぬ話である。真相の解明を。五輪が夢と希望ではなく、欲と金銭の祭典になってはいないか。


今日の筆洗

2022年07月26日 | Weblog

悪漢が善良な市民に襲いかかる。絶体絶命の場面である。どういうわけか、悪漢の気が変わる。「もういい。行くがよい」−。安堵(あんど)の表情を浮かべた市民はその場を離れようとする。観客がホッとするのもつかの間、悪漢は市民を後ろから斬りつける▼こんな場面が昔の時代劇や西部劇によくあった。悪漢の残酷で、卑劣な性格を描くためだろう。ただ、命を奪うだけではなく、助けると相手に希望を持たせた上で、裏切り、奈落の底にたたき落とす▼あの場面を見せつけられた気分である。話は先週にさかのぼる。ロシアとウクライナは国連とトルコの仲介によって、穀物輸送に関する協定に署名した。ウクライナの商船や港湾施設を攻撃しない。ロシアはそう約束した▼ロシアのウクライナ侵攻によって、ウクライナ産穀物の輸出は滞り、世界的な食糧危機を招いている現状がある。ウクライナからの輸出が可能になれば飢えに苦しむ人びとを救える。国連のグテレス事務総長はこの合意を「希望の光」と呼んだ▼この光がやがて侵攻中止につながることがあるかもしれぬ。そう期待したかったが、それは残酷な悪漢のやり口だったのか。ロシアは合意にもかかわらずウクライナのオデッサ港をミサイルで攻撃した。署名の翌日である▼希望を抱いた分、それが裏切られたときの絶望の大きさ。世界はその卑劣さにうめくばかりか。


今日の筆洗

2022年07月25日 | Weblog
『西遊記』の孫悟空が天界から追放されたきっかけは「桃」だった。孫悟空の天界での仕事は蟠桃(ばんとう)と呼ばれる桃の管理人。この桃には不思議な力があり、三千年に一度だけ熟すものを食べれば仙人になれる。六千年に一度だけ熟すものなら空を飛べ、長生不老の身となれる▼桃管理人の悟空さん、まじめに働いていればよかったが、この桃を勝手に食べるわ、「蟠桃勝会」なる桃の宴会に招待されなかったと腹を立てて大暴れするわ、とやりたい放題。天界の怒りを買い、結局、釈迦如来(しゃかにょらい)によって五行山に五百年にわたって、閉じ込められる▼その桃に長生不老の不思議な力はなかろうが、不届き者に勝手に持ち去られてはたまるまい。桃の名産地山梨県。高級品種「日川白鳳」「みさか白鳳」などの桃が大量に盗まれる事件が相次いでいる▼収穫前に畑に侵入し、まだ青い実をもいでいってしまうらしい。暑い日に寒い夜。丹精込めて育てた桃が持ち去られる。生産者にとってはわが子を連れ去られたも同じだろう。許し難い▼同県では桃に続いて今度は高級スモモの盗難被害も報告されているそうだ。季節に応じて狙いを定めているのか、どこまでも人を食った盗人である▼農家を泣かせる一味が悟空のように退治されることを願おう。桃の香りが漂う平和な「桃源郷」が盗みによって、「桃減郷」となってはしゃれにもなるまい。
 

 


今日の筆洗

2022年07月23日 | Weblog
新型コロナウイルスの流行で盛んになったのは、飲食店からのテイクアウト。起源は江戸時代のうなぎという説がある▼魚食文化に詳しい冨岡一成氏の著書『江戸前魚食大全』によると、儒学者海保青陵(かいほせいりょう)は一八〇六(文化三)年の随筆集『東贐(あずまのはなむけ)』に、うなぎの蒲(かば)焼きを持ち帰る方法を書いている。おからを煎(い)り、軽く醤油(しょうゆ)で味付けして熱くし、重箱に詰めて店に持って行く。これに蒲焼きを入れてもらい持ち帰れば、家で熱々が食べられるという▼今日は土用の丑(うし)の日。あいにく、コロナの感染拡大第七波を迎えている。店より家でうなぎを食べる人が多くなるのだろうか。昨日、自宅に届いた新聞折り込みチラシでは近所の店がうな重などを宣伝し、お持ち帰り用の割引券もついていた▼ある大手スーパーの事前予約件数は昨年より多いという。物価上昇のさなか。「日々の買い物は節約志向でも、特別な日にはぜいたくを楽しむのでは」と担当者は言う▼コロナ禍では消費喚起のため、お得な商品券を自治体が発行したが、江戸前魚食大全によると、商品券もうなぎが起源らしい。天保年間に百拙老人の名で書かれた随筆集に贈答用「うなぎ切手」が出てくる。贈り主が事前に代金を払い、もらった人は好きな時に食べる▼「切手」が生まれたのも、うなぎ人気ゆえ。それが疫病流行下で衰えないのも、長い歴史を思えば分かる。
 

 


今日の筆洗

2022年07月22日 | Weblog
まだ先だが、十月六日は政府が定めた「国際協力の日」という▼一九五四年のこの日、開発途上国援助を目的とする国際機関「コロンボ計画」への加盟を閣議決定。政府開発援助(ODA)が始まった。コロンボは、機関設立を提唱する会議が五〇年に開かれたスリランカの都市▼世界中の国を対象とする日本のODAだが、二〇〇九年まで二十五年以上も内戦が続いたスリランカへの援助もかねて多い。一一年にはスリランカの新紙幣に、日本の支援で整備された港や橋などの図柄が採用されたという▼スリランカで政情不安が続いている。燃料不足や物価高に怒る市民のデモが頻発。先週、当時の大統領が国外に逃れた。国会が新大統領を選んだが、状況は落ち着くだろうか▼混乱は、外貨不足でモノを輸入できなくなったせい。鉄道整備などのため中国から巨額の金を借りていて、返済に窮した。財政難のほか、コロナ禍による外国人観光客激減も外貨不足に拍車をかけた。ウクライナ情勢の影響で燃料が高くなり、さらに苦しくなった▼金の話といえば、敗戦国日本の運命を決めたサンフランシスコ講和会議で、セイロン(現スリランカ)代表は「憎悪は憎悪によってやまず、愛によってやむ」とブッダの言葉を引いて、対日賠償請求権放棄を表明。復興を後押しした。恩ある国の苦難に無関心でいるのは、道理に背くと思う。
 

 


今日の筆洗

2022年07月21日 | Weblog
青森・上野間の「寝台特急ゆうづる」と書いて「オッ」と反応してくれるのは鉄道ファンばかりではなく、相撲ファンもだろう▼「出世列車」。すでに廃止となっている、この夜行列車をそう呼びたくなるのは一九六八(昭和四十三)年六月の同じ日、同じ青森から同じ夜行列車で上京した若者二人のいずれもがその後、横綱昇進を果たしたことによる▼一人は二〇一一年に亡くなった、第五十九代横綱の隆の里。夜行列車のもう一人の「少年」が亡くなった。第五十六代横綱二代目若乃花。六十九歳とは早すぎるだろう▼『大相撲と鉄道』(木村銀治郎さん・交通新聞社新書)によると、青森駅を出たのは二十一時十五分。こんな逸話が残る。二人の若者を連れた当時の二子山親方(初代若乃花)は夜汽車の中で一睡もしなかったそうだ。「特急が停車するたびに逃げられるのが心配で監視していた」▼幕内優勝は四回と微妙な数字かもしれぬが、優勝回数以上に心に残る力士だった。横綱昇進前の若三杉のしこ名の方が思い出深いというファンもいるだろう。同じニッパチ(昭和二十八年生まれ)組の北の湖の「剛」に対し「柔」と「技」で挑んだ数々の名勝負。様子のよい人気の横綱でもあった▼けがや病に悩まされた現役時代だった。苦しみながらも重ねた稽古をレールにして走った相撲人生を思う。汽笛が聞こえた気がした。
 

 


今日の筆洗

2022年07月20日 | Weblog
今、自分はどんな動きをしているのか。動きを立体的にとらえるイメージ力。その運動選手はとりわけ優れていたそうだ。調子の良いときは視界が三百六十度にまで広がった気になった▼運動競技には欠かせぬ力だが、それがかえってわが身を苦しめることもある。二〇一一年三月十一日の東日本大震災。仙台市内で被災した。震災直後の恐怖の光景を「全部見えてしまって、全部覚えてしまった」−▼眠ると夢にまで出てくる。その記憶が苦しくて、競技をやめることまで考えていたという。「このまま競技を続けていていいのかな」。昨日、競技の第一線から退き、プロ転向を表明したフィギュアスケートの羽生結弦さんである▼終戦直後の競泳選手、古橋広之進さん。高度成長期の長嶋茂雄さん。時代、時代に人々を励まし、熱狂させる運動選手が出てくる▼東日本大震災からの一時期、不安に悩み、自信まで失ったかのようにみえた日本の国民をその演技と輝かしい成績が支え、鼓舞していたといっても過言ではなかろう。震災後の「スケートをやっていいのかな」の気持ちは次第に「僕がやるべきことはスケートだ」になったそうだ。国民を勇気づけた演技に感謝したい▼演技前の鬼気迫る表情を思い浮かべる。アスリートとしての技に加え、アーティストとしての魂がその滑りにはこめられていた。プロ転向後も変わるまい。
 

 


今日の筆洗

2022年07月19日 | Weblog
鶴は千年、亀は万年。長生きの亀は縁起のよい生き物として昔から大切にされてきた。子どものとき、亀を捕まえて帰ると叱られ、亀へのおわびのしるしなのか、お酒を飲ませた上で逃がしてこいと教えられたものだ▼亀を逃がす風習は各地にある。『日本俗信辞典』によると千葉県ではウミガメが網に入った場合、亀を車に載せ、市中を巡回した上で酒とごちそうをふるまい、海に帰したそうだ。亀を助けると「大漁になる」(宮城、島根)「長生きできる」(大分)と信じられていた▼沖縄県の久米島の海岸近くで絶滅危惧種のウミガメが瀕死(ひんし)の状態で見つかったという。少なくとも三十匹。死んでいるものもあった。首などに鋭利なもので刺された傷もあった▼漁業関係者が駆除したと報道されている。絶滅危惧種だが、現地ではウミガメが増えすぎ、海藻を食べられ、網を破られるなどの漁業被害が出ているそうで、今回の件の背景になっている可能性がある。神さまの使いとも信じられる亀を手にかけるとは漁業関係者側にもよほどの事情があったか▼産卵時にウミガメは涙を流す。涙で体内の塩分を排出しているそうだが、この件に、その涙が人に傷つけられるかもしれぬ、わが子の未来を悲しんでの涙にも思えてくる▼ウミガメにも、漁業関係者にも涙を流させない共存の「竜宮城」。その道筋を探らなければなるまい。