英国のチャーチル元首相が人の心を射止める方法を教えている。第一は「ほほ笑もう」。第二は「自然でリラックスした態度」だそうだ▼福沢諭吉の「学問のすゝめ」にも似た教えがある。福沢先生によれば人の顔は「門戸」。人を集めるには門戸を「とにかくに寄りつきを好(よ)くする」ことが大切で「苦虫を噛(か)み潰(つぶ)して熊の胆(い)をすすりたる」という顔であってはならぬという▼二人に顔だけで選ばせたら決選投票では岸田さんに入れたか。自民党総裁選。岸田さんが河野さんを破って当選した。本命だった河野さんの敗因は議員票での不振と党員票で岸田さんに大差をつけられなかったことか▼討論会などを見れば、さすがは異端児、河野さんの存在感は大きかった。弁も立つのだが「苦虫を…」とは言わぬまでもその自信にあふれた顔や態度はややもすれば独善的、攻撃的にも映る。これでは議員票は伸びまい▼岸田さんも笑う方ではない。が、表情は穏やかで激するようなところは少ない。おどおどとは失礼だが、慎重なもの言いもかえって国民が今の自民党に求める「人の意見を聞く耳」を持っている印象を強めたかもしれぬ▼岸田さんは国民の声に耳を澄ますとおっしゃった。国民への利益分配に力点を置く経済政策にも期待する。もっとも失敗すれば、その穏やかさも「優柔不断」や「指導力ゼロ」の悪評にたちまち変わる。