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今日の筆洗

2019年05月31日 | Weblog

 戦時中、兵士の間で縁起が悪いとされた言葉に、「気象台」があったという。予報が「たまに当たる」が「弾(たま)に当たる」に重なるからだそうだ▼気象大学校で哲学を教えていたことがある評論家増原良彦さんの著書に教わった。戦後になると、「気象庁」というおまじないも、生まれている。生ものなどに「当たらない」ためという。技術の進歩で予報などの精度が、ずいぶんと上がった昨今である。おまじないは、逆の効果がありそうで、もはや通用しそうにない▼精度が増した一方、浮かび上がるのが避難の問題である。頻発する豪雨災害などの際に、せっかくの情報があっても、的確な避難になかなかつながらない。西日本豪雨では、呼びかけがあったのに、逃げ遅れた人があった▼気象庁が、先日始めたのが、豪雨災害などの避難に関する新たな表示方式である。洪水などの危険が予想される時に、取るべき行動を五つの段階で示すという。分かりやすさを狙っている▼警戒の「レベル3」で高齢者らは避難すべきだとしていて、「レベル4」では緊急避難を促す。せっかくの情報を自己流で解釈して、ぎりぎりまで逃げずに、被害に遭ってしまう。そんな行動を防ぐのにも、今回の取り組みは、期待されているようだ▼避難のタイミングは、実感しやすくなるだろう。おまじないにしないためには、事前の心積もりが大切か。

 
 

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今日の筆洗

2019年05月30日 | Weblog

「最初と最後に(高倉)健さんの歌があって、立ち回りがあれば、途中はどうでもいい」。「網走番外地」シリーズを担当するにあたってその監督は映画会社の幹部からそう言われたそうである▼監督は憤慨した。当然である。途中はどうでもいいなら映画は成立しない。だが、映画館で健さんの映画を見て、おえらいさんの言葉は真実だと思った。映画の冒頭は大拍手だが、途中では客の何人かは居眠りをする。そう思っているとラスト近く、健さんの立ち回りになると起きだして、「待ってました」と声をかける。こんな魅力ある俳優はどこにもいない▼「駅 STATION」「冬の華」など健さん映画監督の降旗康男さんが亡くなった。八十四歳。「途中はどうでもいい」ではなく、ずっと見ていたい健さんと物語を描いた監督である▼「怒鳴ったりする姿を見たことがない」。健さんが降旗さんについてこんなことを書いていた。ただ仕事をきちんと見ている。監督に認められたいと俳優もスタッフも必死になって自分から走り回る。そういう現場だったそうだ▼「キハ(気動車)の笛には泣かされるもんな。わけもないけど、聞いてて涙が出てくるんだわ」。「鉄道員(ぽっぽや)」にそんなセリフがあった▼丁寧で誠実な仕事と作品に、長く険しい坂を着実に進んでいく「キハ」を連想する。今、駅に入っていった。

 
 

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今日の筆洗

2019年05月29日 | Weblog

時刻には特有のイメージがある。そう書いても伝わらぬか。こういうことである。たとえば「午後七時」なら家族のにぎやかな夕食を思い浮かべ、「午前一時」なら静けさの中、かすかに聞こえるラジオの深夜放送を想像する。無論、人によって異なるだろうが、その時刻の持つ印象や感触のようなものがある▼「午前七時四十分」を想像してみる。朝の光。すがすがしい空気。通学や通勤の時間帯でもある。「いってらっしゃい」「いってきます」。さて今日はどんな一日になるんだろう。悲しいイメージは浮かばぬ。そういう時刻である▼「午前七時四十分」。悲劇はその時刻に起きた。川崎市でのやりきれぬ事件である。小学校に向かうスクールバスのバス停にいた児童らを男が次々と包丁で刺した▼小学六年生の女の子と、その子とは別の児童の父親一人が亡くなったほか、児童ら十七人がけがを負った▼襲われた子どもたちはそれぞれの家庭で、「いってらっしゃい」「いってきます」を終えて、バス停にいたのだろう。普段ならきっと明るい「午前七時四十分」。それが踏みにじられた▼刺した男も死亡している。何があったのか分からぬ。分かっている残酷な事実は亡くなったその二人には「いってらっしゃい」「いってきます」の朝の時刻も、「おかえり」「ただいま」の夕焼けの時刻も来ないことである。たまらぬ。

 
 

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今日の筆洗

2019年05月28日 | Weblog

「天才バカボン」などの赤塚不二夫さんは昭和四十年代、スタッフと編集者による合議制でアイデアを出し合って描いていたそうだ。漫画界に新風をとその結束は固かった▼赤塚さんは締め切りを守る人だったが、なぜか入稿は締め切りギリギリになっていたそうだ。遅らせたのは編集者。斬新な内容で編集長に見せたら描き直しを求められるかもしれぬ。そのため、直したら間に合わない時間まで原稿を手元に置いておいた▼編集者の熱や配慮が作品の新しさの秘密だろうが、こっちはどうも怪しき時間稼ぎか。日米間の貿易協定交渉である。日米首脳会談では議論を加速させることで一致したそうだが、発表は八月になるらしい▼ひっかかるのはトランプ米大統領の「参院選まで待つ」というツイート。日本にとっては厳しい内容になりそうな新協定である。その批判を政府・与党が警戒し、公表を参院選後の八月にしてもらうということだとすれば、それはずるい時間稼ぎである▼交渉の方向性が見えているのなら国民に一刻も早く説明し理解を求める。それが筋である。交渉中を装い、選挙後までは黙っている。それは結婚式の後に実は多額の借金があると、お相手に告白するようなやり方だろう▼大統領への厚遇も参院選後まで待ってもらうためではあるまいな。「シェー!」で「レレレ」で「サンセイのハンタイなのだ」。

 
 

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今日の筆洗

2019年05月27日 | Weblog

「おまえさんはいいよ、コウモリなんてハイカラなものをさしているから。オテントウサマをさえぎってますよ。あたしをごらんなさい。まともに照りつけている」▼落語の「船徳」にそんな場面がある。暑い盛り、七月の四万六千日様に浅草観音をお参りしようという男性の二人連れ。一人はコウモリ傘を日傘に使っている▼勘当された若旦那が船頭になる「船徳」は初代の三遊亭円遊が人情噺(ばなし)の「お初徳兵衛浮名の桟橋」を明治期に滑稽な内容に改作した。今でこそ男性の日傘はあまり見かけぬが、当時は珍しいことではなかった様子が想像できる。それ以前の江戸時代には幕府が一時期、男性の日傘使用を禁じていたというからお上が目くじらを立てるほどに広まっていたのだろう▼時代は変わり、環境省が熱中症対策として男性の日傘使用を呼びかけている。日傘を使えば、帽子の人よりも汗の量を17%抑えることができたそうでその効用に目を付けた▼実際に使う勇気がなく、ひとまず日傘をさしていると想像してビジネス街を歩く。この雑踏で大勢の男性が日傘を使えば、傘がぶつかり、ストレスが高くなりそうだが、人通りの少ない場所などでは問題なく使えるだろう▼男性も悪目立ちすると日傘をためらう場合ではないかもしれぬ。四万六千日様はまだまだ先なのに既に暑い盛りを思わせる最近の容赦なき夏である。

 
 

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今日の筆洗

2019年05月26日 | Weblog

 アーサー王が強敵、黒騎士と決闘する。腕にまさりしアーサー王。相手を終始圧倒するが、この黒騎士、不死身なのか、どんなに傷ついても、負けを認めず、なお闘おうとする▼ついには両腕と両脚までも失った黒騎士がこんな提案をする。「なあ、引き分けということにしないか」。あくまで負けを認めない。英国の国民的コメディー集団モンティ・パイソンの映画にこんな場面がある▼欧州連合(EU)離脱問題の解決に万策尽きたか。英国首相のメイさんが辞任を表明した。オランダのルッテ首相が最近、メイさんのことをパイソンの黒騎士にたとえて頭が下がると語っていたが、あきらめない黒騎士メイさんもついにである▼もともとは離脱慎重派である。本音では意に沿わぬ離脱だったかもしれぬ。それでも国民が離脱を選んだのだからと、秩序ある離脱に向けてEUとの交渉、議会の説得に走り回ってきた▼結局、離脱か残留かで分かれる国論をまとめ切れなかったといえばそれまでかもしれぬ。勝てると踏んだ二〇一七年総選挙で保守党が敗北するなど政治的悪手もあったが、あの手この手で高き山に挑み続けた孤独な姿を思えば、辞任にいささか感傷的になる▼辞任表明では少し涙ぐんでいたか。五月(MAY)の子規の句が浮かぶ。<五月雨は人の涙と思ふべし>。メイさんの涙の後も離脱問題の行方は見えない。

 
 

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今日の筆洗

2019年05月25日 | Weblog

 もともとの意味から外れて使われる言葉の一つに「鳴かず飛ばず」がある。長いこと知らなかったのを白状しつつ記せば、中国の『史記』などの「三年飛ばず鳴かず」が元だそうだ。雄飛の時に向け、はばたかず、鳴きもせず、力を養う鳥を人の営みに重ねていて、さげすむ意味はなかったという▼「飛ばんとするものは翼伏(ふ)す」のことわざ同様、雌伏の時の重みを伝える言葉か。いきなり空高く舞う天才たちがいる野球の世界で、鳴かず飛ばずの日々に力を蓄えて、だれより高く飛んだ人だろう。巨人・上原浩治投手である。四十四歳での引退を今週、表明した▼尊敬する人はと問われたら「一生懸命勉強している浪人生」と答えるそうだ(著書『覚悟の決め方』)。高校時代は控え。受験に失敗し、予備校生活を送っている。猛勉強の日々で野球は週一回の草野球。後年の米大リーグ・レッドソックスの「胴上げ投手」は軟式の捕手も務めている▼どれほど野球が大切かを雌伏の時代に知ったという。反骨心が芽生えた。人一倍の練習につながる。故障の日々を浪人時代のつらさを思って乗り越えたという▼特別な身体能力には恵まれていないそうだ。心身すべてで球史に残る名場面を生んできた▼まだできるの声もある。優勝争いの時期を避けたいと身を引いた。翼のたたみ方の見事さも、鳴かず飛ばずの時を生きた人らしい。

 
 

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今日の筆洗

2019年05月24日 | Weblog

男は食後でなく、食事の前に酒を飲んで陽気になる。手紙の宛先は国名から始まり、名前が最後だ。欧州人からすると順序などが逆に見える日本人のそんな行動を、明治期に来日した英国人の学者チェンバレンが、著書『日本事物誌』に「あべこべ」の項目を設けて、説明している▼ノコギリやカンナは手前に引いて使い、赤ちゃんは両腕に抱えずに背負う-などもある。当否はともかく、同様の事柄の多いこと。一方で、日本研究に身をささげた人らしく日本式に、敬意も払っているようだ。<日本人から見れば、われわれのやり方が同じように理解に苦しむものであろう>とある▼これも欧米とわが国で正反対な事柄の一つであろう。姓と名の順序である。どういうわけか逆だ。中国、韓国など数カ国は日本同様の順序らしい▼ノコギリやカンナに不都合がないように、どちらが正しいということではないはずだ。ただ、わが国の場合、中韓などと異なり、ローマ字になると、順序が欧米式にひっくり返ることが多い▼ひっくり返す慣習は明治の欧化主義の時代に生まれ、定着したそうだ。ローマ字でも同じ順にしようと文部科学相や外務相が言いだした。都道府県や国外の報道機関などに要請するという▼日本式にする意義は分かる。ただ、長年の常識が、なかなか強固にみえる。急げば混乱もおきそうな「あべこべ」である。

 
 

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