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今日の筆洗

2019年05月17日 | Weblog

 ひどく寒い日、ヤマアラシたちが、凍え死にしないようにと体と体を寄せた。ところが、互いの針が痛い。あわてて離れると寒さにふるえ、また寄り添っては痛みを与え合う▼哲学者ショーペンハウアーが唱え、「ヤマアラシのジレンマ」として知られるようになった一種の寓話(ぐうわ)である。ちょうどいい距離を見つけるために、傷つけ合わなければならない悲しい性(さが)は、近寄ろうとして、時に大好きな人を傷つけてしまう人の世の比喩でもあるだろう▼その一頭はだれを傷つけることも、傷つくこともなく冒険を終えたか。先日、名古屋市の東山動物園のカナダヤマアラシが、近くの夜道に現れた。雄のムックで得意の木登りの能力を生かし、壁に立て掛けていた木を伝って抜け出したらしい▼数万本の針状の毛を背中に持ち、興奮すると逆立てるという。幸運だったのは見つけた五十代の男性が動物好きだったことだろう。むやみに触らず、車にはねられないよう五百メートルほどゆっくり付き添い、行く手を遮るようにして、電話ボックスに誘導したそうである▼一時的に休止になっていた展示が昨日再開された。本来温厚な性質の動物であるそうだ。昼のひと時、仲間と熟睡中だった▼傷つかず、傷つけずの男性の対応を、園の人が「神がかった」行動と言い、感謝していた。眠った顔を見ながら距離感が大切だと学んだような気がした。

 
 

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