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今日の筆洗

2024年01月31日 | Weblog
ギリシャ神話のイカロスは父親の造った翼を身に着けて、空を飛んだ▼父親は決して太陽に近づくなと命じたが、飛ぶことに夢中だったイカロスは耳を貸さない。高く飛びすぎ、翼のノリが溶けて、海に墜落してしまう▼テクノロジーへの過信や人間のおごりを戒める物語として、よく引き合いに出されるが、月に向かった日本の探査機をよみがえらせたのは、そのイカロスの翼を溶かした太陽の光だったか。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月探査機「SLIM」が月面上で息を吹き返し岩石観測などの作業を再開した。ホッとする▼日本初の月面着陸には成功したものの、着陸直前にメインエンジンの1基が脱落したため、バランスを崩して上下逆さまの着陸になっていた。これでは太陽電池パネルに光が当たらず、発電できない。一巻の終わりかと思いきや太陽の向きが変わったことでパネルに光が当たり、復活となった。今年、数少ないうれしいニュースである▼着陸直後のJAXAの評価は「60点」と辛かったが、狙った場所に100メートル以内の誤差で降りるピンポイント着陸にも成功し、運用も再開しているのだから、もう少し点をあげてもいいだろう▼その昔、筆箱の広告に「ゾウが踏んでも壊れない」というのがあった。逆立ちの着陸は残念とはいえ、こんな宣伝文句はいかがか。「逆さまでも立派に使えます」-。
 
 

 


今日の筆洗

2024年01月30日 | Weblog
 黒沢明監督の映画「用心棒」(1961年)の主人公の浪人(三船敏郎)は身元を隠し、偽名を使った。桑畑を見て、「桑畑三十郎」と名乗るとはとぼけている。続編の「椿三十郎」の名は目にしたツバキの花からだった▼「内田洋」。1970年代の連続企業爆破事件に関与したとして指名手配されていた桐島聡容疑者とみられる男が使っていた偽名である▼「桐島」本人だとすれば、50年近く逃亡していたことになる。例のない長さだろう。男は29日、死亡した。がんを患い、入院していた病院で「最期は本名で迎えたい」と桐島を名乗ったという。「内田洋」は働いていた土木工事会社で使っていた名で、少なくとも数十年そう名乗っていたという。その名はどこから思いついたか。つまらぬことがひっかかる▼企業名の「内田洋行」やあの時代の「内山田洋とクールファイブ」が浮かぶ。その名で逮捕におびえながら暮らしてきたのか。迫る死期に桐島を名乗ったのは死ぬまで逃げたという意地かもしれないが、それは愚かで悲しい意地だろう▼交番でよく見かけた桐島容疑者の手配写真は当時の若者らしい長髪で歯を見せて笑っている。この50年、あの写真のように心から笑えた日があったか▼広島県の出身と聞く。カタカナで「ウチダヒロシ」と書いてみる。本当は帰りたかった「ヒロシマのウチ」と読めてしかたがない。
 
 

 


今日の筆洗

2024年01月29日 | Weblog
「月曜の朝、時計を確かめよう。」-。1970年代に時計のセイコーが展開した宣伝の文句なのだが、今の若い方にはピンとこないか。どうして、時計を確かめる必要があるのか。しかも月曜日の朝に▼60代以上の方には説明は不要だろう。クオーツやデジタルの時計が普及する以前、ゼンマイ式の時計はよく止まったり、遅れたりした。そのため、週明けの月曜、仕事などに向かう前に時計を正確な時刻に合わせましょうと呼びかけていた。遅刻の言い訳に「時計が遅れていて」と言ってもけっこう通用した時代の話である▼今すぐに残り時間を確認し、対応しなければならない時計の話となる。米国の研究者らが決める、「終末時計」である▼昨年の世界情勢の動きなどを踏まえて、人類滅亡までの時間を「残り90秒」と先ごろ、発表した。核戦争の可能性や気候変動、人工知能(AI)の脅威などが針の進み具合を決める▼時計はあくまでもたとえとはいえ、47年の創設以来、過去最短となった昨年と同じ残り時間のまま。針は戻ってくれなかった。出口の見えないウクライナ情勢やパレスチナ・ガザ地区の現状を思えば針は今もチクタクと前に進んでいるのかもしれない▼「残り90秒」と警告する深刻な時計の針を、世界の指導者にはよくご覧いただきたい。怖い話をすれば、「終末」の後では、どんな言い訳も通用しない。
 
 

 


今日の筆洗

2024年01月27日 | Weblog
 交通不便な奥能登に能登空港が誕生したのは2003年7月7日。半島の飛躍を星にも願えるはずの七夕だが、あいにくの雨だった。それでも翌朝の北陸中日新聞(金沢発行)からは熱気が伝わる▼「能登空港 悲願の開港」「正夢 希望の翼に感動」といった見出しが躍る。見物人も多く、ターミナルビルは約1万8千人でごった返したと記事にある▼満席の羽田発1番機が到着すると歓迎式が開かれ、奥能登出身の機長に花束が贈られた。到着ロビーでは温泉旅館の仲居さんらも出迎え。滑走路を見渡すデッキも人で埋まり、能登発1番機の出発に地鳴りのような歓声が上がったという▼能登空港と羽田を結ぶ民間機の運航が今日、再開される。能登半島地震で滑走路には亀裂が入った。緊急補修で自衛隊機の利用は既に始まっていたが、民間航路もようやくである▼当面は週3日、1日1往復。きっと支援関係者の利用も多かろう。朝市が立った輪島の町が焼けるなど観光客が戻るのはまだ先だろうが、能登は前に進んでいるのだと思わせる翼の復活である▼有名な「能登はやさしや土までも」という言葉を広めたのは旅人。加賀藩の武士は、宿の主人に「今日はめでたい節句だから」と草餅や桃酒を振る舞われたことを喜び、能登はやさしやというが本当にその通りだ-と日記に書いている。それを確かめる旅にいつかと願う。
 
 

 


今日の筆洗

2024年01月26日 | Weblog
61年前の東京で4歳の吉展(よしのぶ)ちゃんを誘拐し殺(あや)めた小原保は、落とす(自供を引きだす)ことに秀でた刑事・平塚八兵衛に罪状を自白。死刑判決を受ける。囚(とら)われの身で短歌を始め<詫(わ)びぬべき言葉もあらず余りにも深くも重き罪の身のわれ>と詠んだ▼本田靖春氏が書いた『誘拐』によると、刑執行後に平塚が墓参すると、元死刑囚が眠っていたのは生家近くの「小原家之墓」ではなく、その傍らの土盛りの下。平塚は「落としたのはおれだけど、裁いたのはおれじゃない」と叫んだ。心乱れたのは、成仏後も肉親らとの同居を拒まれた死刑の重さゆえだろう▼重い判決が出た。京都アニメーション放火殺人事件で京都地裁が昨日、青葉真司被告に極刑を言い渡した▼36人死亡の惨劇は、妄想に基づき京アニに恨みを募らせた被告の刑事責任能力が問われた。裁判員は考え抜いたのだろう▼被告も重いやけどで生死をさまよい、生きて罪と向きあってと念じた医師の治療を受けた。公判で不可解な怨念を語る一方で「被害者一人一人に生活があり、生きている人だったと痛感した」とも述べた。自省の兆しはあるとみるべきなのか▼小原には、死刑執行が翌日と知り詠んだ歌がある。<明日の死を前にひたすら打ちつづく鼓動を指に聴きつつ眠る>。死刑が確定していない被告には胸に手を当てて、生かされた意味を考える時間がある。
 
 

 


今日の筆洗

2024年01月25日 | Weblog

グリム童話の「二人の兄弟」に狩人がドラゴンを退治する場面がある▼ドラゴンを退治した者がお姫さまと結婚できるのだが、大切なのは退治の証拠。ドラゴンの舌を切り取り、持ち帰らなければならない▼派閥という巨大なドラゴンを倒すと意気込んで、山へ出かけていった岸田さんという名の狩人。どうやら派閥解消の証拠となる「舌」は持ち帰れなかったようである。自民党の「政治刷新本部」がまとめた政治改革の中間取りまとめ案。派閥の全面解消は明記されなかった▼派閥から「カネと人事」を排除する方針は示している。政治資金パーティーを禁止し、所属議員への手当支給も廃止。閣僚人事などでの推薦もしないという。ある程度、踏み込んだとはいえ、派閥の今後については「政策集団」として生き残る道を残している。派閥全面解消という「舌」を待っていた国民にはこれではわずかばかりのウロコを取ってきた程度にしか見えないだろう▼過去にもドラゴンに挑んだ自民党だが、多少打撃は与えても結局はドラゴンは息を吹き返してきた。「カネと人事」と決別するといっても派閥にとどめを刺さない限り、またよみがえるのでは。そんな心配が世間から消えない▼解消を明記しなかったのは「派閥存続」を求める「派閥」の意向らしい。国民という花嫁が岸田さんにドラゴン退治の武功を認めるとは思えない。


今日の筆洗

2024年01月24日 | Weblog
 日本語を解さない海外の人を笑わせるのは難しいだろう。どんな落語の名人が熱演したところで言葉が分からなければ爆笑は期待できまい▼笑わせる方法はある。作家の中島らもさんが日本のギャグ芸人の海外公演に付き合ったときの話がある。言葉が通じなくても笑いを誘う「技」があることを知った。それは「こける」「口の中に入れた握りこぶしが抜けなくなる」などの身体を使ったギャグと「うんち」。不格好な動きと愚かさ、下品さは言葉が通じずとも笑いを生む。プラトンが笑いとは「他人に対する優越感」と説いたのを思い出す▼この人も海外で笑わせるコツを知っていたのだろう。サソリを口に入れる、毒グモを顔に這(は)わせる、おしりに挟んだサボテンを折る…。体を張ったむちゃな芸で世界を笑わせた「電撃ネットワーク」。リーダーの南部虎弾(とらた)さんが亡くなった。72歳▼節度とは縁遠く、子どもにはあまり見せたくない芸かもしれぬが、規格外の「ばかばかしさ」は言葉の壁を軽々と乗り越え、世界を笑わせた。どんなことをしてでも笑わせる。そんな凄(すご)みも潜んでいた▼ある国の女王陛下の前でも品のない芸を披露した。女王は嫌がって手で顔を覆っていたが、指の隙間からしっかりと見ていたそうだ▼人間の根源にある笑いを引きだす南部さんと電撃の芸。どんな方でもあらがうことはできなかったとみえる。
 
 

 


今日の筆洗

2024年01月22日 | Weblog

スズメより少し大きい小鳥の鷽(うそ)の語源は口笛を吹くという意味の「うそぶく」からきているそうだが、別の説もある▼さえずるとき、脚を交互に上げ下げし、昔の人にはこれがまるで琴を弾いているように見えた。本物ではない琴を弾くから「ウソ」。脚の上げ下げが本当かどうかは知らないが、この説の方がおもしろい▼菅原道真がハチに襲われ、難儀しているところ、飛んできた鷽が撃退したという伝説などから、道真公の天神様とのゆかりも深い。東京都江東区の亀戸天神社で24、25の両日、「鷽替え神事」が行われる▼かわいらしい木彫りの鷽を1年に1度、取り換える。取り換えることで今まで起きた嫌なことが「ウソ」になり、新たな吉兆を招くことができる▼<鷽替やまこと顔なる古帽子>岡野知十。起きたことは「ウソ」にはならないまでも悪(あ)しき出来事を慰め、はらい清めてくれるのならば、その神事には、どなたも真剣な「まこと顔」になったのだろう▼被災地に深い爪痕を残した能登半島地震や気の重い、自民党派閥パーティーの裏金事件を挙げるまでもなく、年が明けて、まだ1カ月にもならないのに「ウソ」にしたい出来事が続く。ロシアのウクライナ侵攻は終結の気配さえ見えない。イスラエルの攻撃によるパレスチナ自治区ガザの犠牲者は2万5千人を超えた。今年は超特大サイズの鷽が群れでほしい。


今日の筆洗

2024年01月20日 | Weblog
徳川3代将軍家光は竹千代を名乗った幼少期、長四郎という忠実な臣下がおり、講談にもなった▼長四郎は11歳ごろのある晩、竹千代の命で、竹千代の父2代将軍秀忠の寝殿の軒にできたスズメの巣からスズメの子を捕まえようとする。屋根伝いに忍び寄るが、誤って落ち「何事か」と秀忠も驚く騒ぎになった▼長四郎はスズメを狙ったと明かすが、誰に命じられたかは言わない。秀忠が大きな袋に長四郎を入れ、柱に結びつけて白状を迫っても同じ。やがて秀忠は家臣から真実を知らされ、主君を守る長四郎に感心する。長四郎は後の松平信綱で老中も務めた▼自民党安倍派などの派閥で事務を担う会計責任者らは、長四郎のように誰かをかばったのだろうかと勘繰りたくなる。派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で、収支報告書に虚偽を記載したとして会計責任者らが立件されたが、派閥幹部の立件はなし▼共謀認定は困難と検察は判断したようだが、議員でもない会計責任者が勝手にやったのか。安倍派で特に力があったらしい安倍晋三、細田博之両氏は泉下の人。パーティー収入を秘して裏金にし、議員に還流する仕組みを誰が考え定着させたのか不明のまま、派閥を解散して出直すと言われても消化不良の感が募る▼徳川家は家光の代までに諸制度を整え、長期政権の礎を築いた。自民党の天下はいつまで続くだろう。
 
 

 


今日の筆洗

2024年01月19日 | Weblog

 日航ジャンボ機墜落事故の発生は1985年8月12日。夜、機体が管制のレーダーから消えたとの一報が伝わった▼行方が判然としないうちに500人超の搭乗者名簿が公開され、NHKは朗読を始めた。生放送中、日航社長会見が始まるとの情報が伝わり、名簿を読むアナウンサーが会見への映像切り替えを提案すると、仕切り役のキャスター木村太郎さんが「いや、乗客名簿を続けてください」と拒んだ話は有名。視聴者が知りたいのは、運命が絶望的と思われる飛行機の客の名前だという判断である▼時は移り、個人情報保護が求められる今は事故時の名簿朗読は難しそう。日航は搭乗者名簿は原則、非公開という▼石川県が能登半島地震の犠牲者のうち遺族の同意が得られた人の氏名、年齢などの公表を始めた。死という事実を知り、涙する友らもいよう。亡くなった92歳の母親の名の公表を決めた女性は家も失い「今残せるのは母の名前だけかもしれない」と語った。その思いに、伝える側の一人として粛然とする▼誰しも誕生後の名付けは赤子である自分の力が及ばず、親らの仕事になる。『日本民俗大辞典』によると、子の守護や他家との紐帯(ちゅうたい)のため、親族以外が名付ける例も古来あり産婆、僧侶、神官、山伏、村の有力者、道で偶然擦れ違った人も託されたという▼名前は個人情報にして、独りではない証左でもある。