東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の東京中日スポーツ

2017年03月31日 | Weblog

 ショートショート(超短編小説)の名手・星新一さんに「デラックスな金庫」という作品がある。ほとんど全財産をつぎこんで、大金庫を作った人物の話だ▼鋼鉄製で外側は銀張り、内側は金張りという豪華きわまりない大金庫のため、家も手放してしまったので、アパートの一室で暮らす。暇さえあれば金庫を磨き上げ、ぴかぴかとなった金庫の表面が自分の姿をうつすのを見て悦に入っているが…と、話は進む▼政府の面々も、この話の主人公に似ているかもしれぬ。彼らが大切にしているのは、世論の大きな反対を押し切って手に入れた「特定秘密保護法」という大きな金庫だ▼その中には、何が入っているか。本来は金庫に収めてはならぬもの、国民に明らかにしなくてはならぬ情報も入っているのではないか。それを点検する衆院の情報監視審査会の報告書によると、四百四十三件の特定秘密のうち、何と四割弱の百六十六件は「文書」そのものがない、と分かったという。物々しい特定秘密の金庫を開けたら、中はカラッポだった…というのだから、おかしな話だ▼「デラックスな金庫」の主人公も実は、金庫の中には何も入れていない。豪華な金庫を狙って忍び込む輩(やから)を、金庫の中に閉じ込めてしまうのだ▼さて、「特定秘密」の大金庫に閉じ込められているのは、何か。それは、私たちの「知る権利」ではないのか。


今日の筆洗

2017年03月29日 | Weblog

 旅先でのハプニングは心細いもので、言葉が通じにくい異国となればなおさらである。女優の吉行和子さんがこんな体験を書いている。妹で作家の吉行理恵さんと旅行したサンフランシスコでの出来事。お気の毒にも、帰りの航空券を紛失してしまったそうだ▼空港でその航空会社のカウンターを探し回ったが、見つからない。相談できそうな日本人もいない。疲れ果て、公園で休んでいると、一人の東洋人が読んでいた雑誌が目に入った。「文芸春秋」。この日本人のおかげで帰国できたそうだ▼異国の地で途方にくれ、「文芸春秋」を探す方が出てこないかと心配する。旅行会社「てるみくらぶ」の破産である▼同社から航空券などを購入して、海外に出国したツアー客は約二千五百人。予約したホテルに宿泊できないおそれなど、不便が出ている。さぞやお困りだろう▼楽しみにしていた旅行が台無しである。問題は航空券代や宿泊代ばかりではない。その会社を利用しようと言いだしたのは誰かなど、旅の仲間や家族の間にもさざ波が立つかもしれぬ。なんでも、理恵さんはあの一件にこりたせいか、和子さんと二度と旅行をしなかったという▼社名の「てるみ」の英語表記は「TELL ME」だそうだ。日本語にすれば「教えてください」の意味だが、帰国方法や返金方法を「教えてください」ではしゃれにもなるまい。


今日の筆洗

2017年03月28日 | Weblog

 青春期を謳歌(おうか)する若い人が、「アイ」という音を聞いて、連想する漢字といえば、心ときめく「会い」や「愛」なのかもしれぬ。されど、悲しい「遭い」のことを書かねばならぬ。「ユキ」と聞けば、三好達治の「太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ」の穏やかで温かみさえある雪を思いたいのだが、重く、冷たい雪のことを書かねばならぬ。栃木県那須町のスキー場で発生した雪崩である。高校生七人と教員一人が亡くなってしまった▼青春期。スキー場。笑い声が似合う年ごろで場所で一瞬のうちに奪われた生命を思えば、胸が塞(ふさ)がれる。家族、友人、学校関係者の悲しみは計り知れまい▼冒頭「アイ」と書いた。栃木や福島、新潟で古くから伝わる雪崩を意味する言葉なのだという。雪崩の中でも、特に、乾燥した新雪が下層の雪の上を滑り落ちることで発生する種類を指すというから表層雪崩である▼雪が強烈に押し合う様から「アイ」。漢字では「雪津浪」と書いて、そう読ませたいという。よほどおそれられていたのだろう▼今回の雪崩が「アイ」だったかはともかくも前日からのまとまった雪、四月も近く、上昇に向かっていた気温の組み合わせが雪崩を発生させやすくしていなかったか▼原因、メカニズムを徹底調査して、今後につなげなければならない。こんな「哀」は、二度と、誰にも味わわせたくない。