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今日の筆洗

2023年02月28日 | Weblog

日本に旅行する欧米の方に向けたウェブサイトをのぞいてみるとなかなか細かい旅行上の注意が書いてある。「温泉を訪れる七つのルール」というのもあった。温泉に不慣れな海外の方には便利だろう▼湯につかる前に体を洗いましょう。タオルは湯船の中に入れないでください。水着などは身に着けず裸になりましょう。ただしタオルなどで「地下地域(NETHER REGIONS)」は隠してください。改めて考えると温泉のルールは多い▼「潜ってはいけません」というのもあった。海外の方は見慣れぬ大きな湯船に、つい潜水を試みたくなるのか。報道を耳にすれば潜水はおろか湯船にさえ近づきたくないと身構えるだろう。福岡県筑紫野市の老舗の不祥事である▼週一回以上必要な浴場の湯の取り換えを、年に二回しか行っていなかったとはおそろしい。だらしない湯替えの結果、基準値の最大三千七百倍のレジオネラ属菌が検出されたそうだ▼<つかれもなやみもあつい湯にずんぶり>−。温泉を愛した俳人、種田山頭火の一句だが、<ずんぶり>すれば、大丈夫だろうかと気をもむ「汚泉」としかられても仕方あるまい▼この旅館、湯替えの頻度について虚偽の申告をしていた疑いもあるという。汚したのは老舗旅館の看板に加えて、海外でも人気の温泉という日本文化そのものだろう。洗い流すには時間がかかる。


今日の筆洗

2023年02月27日 | Weblog

ローリング・ストーンズのミック・ジャガーさんがかつてこんなことを言った。「四十五歳になっても(代表曲の)『サティスファクション』をまだ歌っているくらいなら死んだ方がましだ」−▼一九七五年の発言で当時ミックさん三十二歳。発言を後悔しているだろう。四十五歳どころか八十歳近くなる現在も『サティスファクション』を歌っている。年を重ねた人間は若者の音楽を歌うのにふさわしくないと当時は考えていたのかもしれぬ。それは「ダサい」のだと▼その人の訃報に、ミックさんのかつての言葉を思い出した。結成は七五年。日本で最も古いロックバンドの一つ、ムーンライダーズのキーボード担当、岡田徹さんが亡くなった。七十三歳。長年のファンは寂しかろう▼『9月の海はクラゲの海』『Kのトランク』。ライダーズの中でも、とびきり独特で斬新な音を作っていらっしゃった▼昨年末のコンサート。岡田さんが手をひかれながらステージに立つ。ミックさん、やっぱり間違っていたよと思う。高齢だろうと体調が優れなかろうと演奏を続ける。それもまた不遇や逆境を歌い飛ばすロックの態度なのだ−と岡田さんの姿が言っていた気がする▼なじみの名ミュージシャンたちの訃報が今年は目立つ。ドラム・高橋幸宏、ギター・鮎川誠、キーボード・岡田徹か。ちょっと想像した後で、無性に悲しくなる。


今日の筆洗

2023年02月25日 | Weblog
英語の「スティグマ」は「烙印(らくいん)」の意。だれが貧しいのか露呈しないようにするスティグマ回避の鉄則を日本の学校給食は維持してきたと『給食の歴史』(藤原辰史著、岩波新書)は書いている▼百年を超す歴史があるという学校給食。当初は貧しい家の子向けとされたが、対象となる子の心は傷つく。明治生まれの栄養学の父・佐伯矩(さいきただす)は給食は全校児童向けにすべきだと国に意見した▼弟子の原徹一は故郷の岐阜・東濃の川上村の学校で実践。大正期、栄養を考えたみそ汁の全児童への無償提供を始めた▼分断回避の食としても定着した給食をめぐって、対立が生じている。岡山県備前市が、導入済みの給食費無償化を新年度から世帯全員がマイナンバーカードを取得した場合に限る方針を示し、反発を招いた。貧しい家庭の子はカードなしでも援助されるが、そもそもカード取得は任意。便利であっても国への不信から持ちたくない人もいる▼市側はカード普及が狙いと言うが、これに躍起なのはむしろ国の方。市町村ごとの普及率を自治体の財源となる地方交付税算定に反映させるらしい。現行の健康保険証も来年秋に廃止しマイナンバーカードと一体化させるが、カードを持たぬ人の窓口負担は高くなると伝えられる▼不服従の人という烙印を押すかのごとく、持たぬ人を追い込んではいないか。何ともいい気持ちがしない。
 
 

 


今日の筆洗

2023年02月24日 | Weblog
ウクライナの民族独立の象徴とされる詩人シェフチェンコ。ウクライナがロシアの一部だった一八一四年、キーウ南方の村で生まれた▼ロシア語より劣ると蔑(さげす)まれていたウクライナ語で書いた詩は同胞の魂を揺さぶる。作品は当局に調べられ、ウクライナの過去の栄光と今の窮状の対比で反ロシア感情をあおったなどとして流刑に。辺地で抱いた思いも詩にした。「囚(とら)われの日の 昼と夜を数え続けて もはや その数もわからなくなった。ああ、神さま、なんと無情に 日日は過ぎゆくことでしょう…」(藤井悦子訳)▼流刑と異なるが、ウクライナ国外への避難を強いられている約八百万人の心境も似ていようか。ロシアのウクライナ侵攻からきょうで一年。戦火がやむ気配はない▼名古屋に避難する十二歳の少女は日本の学校には通わず、オンラインで故国の学校の授業を受け続けているという。「落ち着いたら戻る。だから、母国の勉強を続けたい」。いちずな思いに胸が締めつけられる▼流刑を経た詩人は晩年、故郷の村を訪れきょうだいとの再会も果たす。先の詩には望郷の念もつづっていた。「ドニエプルのほとり、あかるい村村をめぐり、静かで憂いにみちた わたしの想(おも)いを歌うことができるなら。わが慈悲深き神よ! わたしを生き永らえさせ、あの緑の野と 高き塚を眺めさせ給(たま)え」▼どうか神よと、強く思う。
 
 

 


今日の筆洗

2023年02月23日 | Weblog
ヒゲのある女の子、闇夜の宝石詐欺師、謎解きしない名探偵…。劇作家の寺山修司がある動物についてこんなことを書いている。詐欺師、名探偵?▼同じ動物について、作家の向田邦子は「偏食・好色・内弁慶・小心・テレ屋・甘ったれ・体裁屋・嘘(うそ)つき・凝り性・怠け者…」。悪口を並べた上でこう結んでいる。「私はそこに惚(ほ)れているのです」▼ともに暮らした経験をお持ちの方なら何の話か見当がつくだろう。ネコ。「ニャンニャンニャン」の鳴き声から二月二十二日は「猫の日」だったそうな▼人間にさほど関心もなさそうな彼ら彼女らである。一日遅れで小欄に書いても「どうでもいいニャン」と許してくれるだろう。そういうところがネコにはある。飼い主へのイヌのほとばしる愛情もいとしいが、ネコの人に対する絶妙な距離感もまた魅力だろう▼それでいてネコはきちんと人を慰める。たとえば、こちらが浮かぬ顔をしている時。イヌは走ってきて「大丈夫か!」と大声で聞いてくるようである。「元気を出せよ!」とも叫ぶ。ネコのやり方はちょっと違って「しょうがないよ…」とそっとつぶやく。気のせいか▼「ふしあわせという名の猫」(一九七〇年)は浅川マキさんの歌で作詞はやはり寺山さん。たとえ、「ふしあわせ」でも、近くにさえいてくれれば<私はいつもひとりぼっちじゃない>。わかる気がする。
 
 

 


今日の筆洗

2023年02月22日 | Weblog
米国の怪奇作家、ラブクラフトの短編に「洞窟の怪物」という作品がある▼こんな話だ。洞窟の中でガイドとはぐれた男が恐ろしい怪物に遭遇する。なんとか逃げ、その後、再会したガイドと怪物の息の根を止めるのだが、怪物をよく確かめてみると…▼「普通」の国会議員にしてみれば常識の通用しない参院議員が気味の悪い「怪物」のように見えるだろう。海外に住み続けたままで昨年七月の初当選後、ただの一度も国会に出席していない。洞窟から連れ出したいのだろう。参院懲罰委員会はNHK党のガーシー参院議員に対し「議場での陳謝」を求める懲罰案を全会一致で可決した▼その程度の懲罰かという気がしないでもないが、くだんの議員がこれに応じなければ、より重い処分の除名に進むのだろう▼もちろん、職場にやって来ない議員に高額な歳費を支払うのは道理の通らぬ話で与野党の判断は当然なのだが、一方でその人も国民の投票によって選ばれているという事実がある▼擁護する気はないが、一定の票を得た背景には、かわりばえせぬ政界に対し、非常識さをもって揺さぶりたいという有権者の怒りやヤケッパチな気分もあったのかもしれない。ラブクラフトの怪物の正体は人間だった。国会に来ない「怪物」の正体が、政治への冷笑みたいなものだとすれば、それを生んだのは誰かと思わぬでもないのである。
 
 

 


今日の筆洗

2023年02月21日 | Weblog
十八歳。福岡の小倉から東京へと向かう夜行列車の中にいた青年は車窓から不思議な幻影を見たという。たくさんの星が流れていく。まるで列車が星の海の中を走っていくようである▼いつの間にか、隣の席に美しい女性がいる。「弱音を吐いちゃだめよ。頑張りなさい」。そして消えた。上京の不安と緊張が見せた、まぼろしか▼青年はその後、この夜汽車と女性を下敷きに、漫画に描く。女性の名はメーテル。『銀河鉄道999』などの漫画家、松本零士さんが亡くなった。八十五歳▼『宇宙戦艦ヤマト』『宇宙海賊キャプテンハーロック』−。松本さんの漫画や映像作品に胸を熱くした世代は幅広かろう。どんな困難にも歯を食いしばり、立ち向かう物語は高度成長期のあの時代に似合っていた気がする▼宇宙船内の暗闇に浮かぶ、おびただしい数の計器類を思い出す。メカニックを緻密に描く卓越した技術は後進に大きな影響を与えたが、定規などでは直線を引かず、すべて手で描いていたと伝わる。だから松本さんのメカは感情を持った生きもののように見えた。冷たくなかった▼メカとは無縁の『男おいどん』も懐かしい。上京後の貧しい四畳半暮らしの泣き笑い。飼っていたトリさんを残し、大山昇太(のぼった)が黙って、下宿を去っていく最終回。当時の子どもはどんなに寂しい思いをしたことか。訃報に同じ気分になっている。
 

 


今日の筆洗

2023年02月18日 | Weblog
一九九三年誕生のサッカーのプロリーグ・Jリーグの初代チェアマンは川淵三郎さん。従来の日本リーグのままではいけないと八九年二月二十六日、東京・国立競技場で思ったという▼強豪の日産自動車など四チームのダブルヘッダーを企画し、宣伝に力を入れ満員にしようと試みた。客はいつもより多いが、満席に及ばず。試合中、強い風が吹いて包装紙やビニール袋が大量に漂った。客の弁当の包みだったのか、その舞う屑(くず)で雰囲気は「場末」という感じに。寂しい気持ちになったという。(川淵三郎著『虹を掴む(つか)む』)▼Jリーグ誕生三十周年のシーズンが昨日、始まった。発足時は十クラブだったが、今季は一〜三部で計六十に達する▼掲げた地域密着。山形、金沢、松本といった大都市圏外でも盛り上がる日が来ると想像した人はかつて、どれほどいただろう▼今はひところほど海外の有名選手は来ず、日本の有望な若手はすぐ海外へ。赤字クラブが少なくなく課題もあるが、九八年以降、日本がワールドカップ(W杯)出場を続けているのもJリーグあってこそだろう▼「国立を舞った屑」が動かした感もある日本サッカーの歴史。W杯の試合後のサポーターの清掃は世界に知られ、Jリーグのクラブでも、選手やサポーターらがときに街やスタジアムでごみを拾う。競技と地域への愛で日本のスポーツ文化は豊かになった。
 

 


今日の筆洗

2023年02月17日 | Weblog

尾張・名古屋のシンボルは名古屋城の金鯱(しゃち)。戦災で天守閣もろとも焼け、今の雌雄一対は、天守閣が再建された一九五九年に登場した二代目である。うろこを覆うのは18金で、その量は雌雄いずれも四十キロを超える▼築城を命じた徳川家康や尾張徳川家の威光を示すために生まれた初代金鯱。熱田の浜に魚が寄らないほど光っていると歌に歌われるほど金ピカだったが後年、輝きは薄れた▼財政難に陥った尾張藩が複数回、金鯱の金の一部を活用しようと改鋳し、金の純度が低くなったため。威光より目先の金策が大事だった時期もあるということらしい▼過疎で財政難が続く岩手県田野畑村に先日、金の延べ板百二十枚の寄付があった。計六十キロという。全て換金して五億二千八百二十四万円になった。村の当初予算の約六分の一に相当。村は大いに驚き、喜んだ▼寄付者は「国内に住む人」で匿名。「村のために」と言っている。村長らが寄付者と会って金の延べ板を受け取り、すぐに貴金属店を訪ねて換金した。延べ板の輝きを見た総務課長は「光にも重みがあるものだと思いました」と語る▼戦後、金鯱を含む名古屋城天守閣再建には市民の浄財が多く寄せられた。名古屋市の財政も楽ではないがむろん、尾張藩のように金鯱はあてにせず、二代目の金の量は不変。鯱であれ延べ板であれ、尊い思いがあってこそ輝く気がする。


今日の筆洗

2023年02月16日 | Weblog

カナダ映画の『魔女と呼ばれた少女』(二〇一三年)はコンゴ内戦のむごさを描いている。平和に暮らす村をある日、反政府ゲリラが襲う。大人は全員殺害し、子どもはさらっていく▼子どもを殺さないのは自分たちの兵士として育てるためである。十二歳の少女もその一人で銃の使い方をたたき込まれ、やがては「魔女」と呼ばれる戦士となる。「銃は私のお母さん」。感情をなくしたような少女。見ているのがつらくなる▼ロシアがやろうとしていることも、程度の差こそあれ、やはり同じではないのか。そんな疑念がぬぐえない。ロシアがウクライナの子どもをロシア国内にある「再教育キャンプ」に送っている−。米国の研究者が明らかにした▼その数は少なくとも六千人。生まれて間もない子から十七歳までの子どもが暮らしているという。「キャンプ」ではロシアの愛国教育に加え、軍事訓練まで行われているとの報告にさむけがする。ロシアの兵士としてウクライナの子どもを育てようとでもいうのか▼ロシア側は否定しているが、事実なら子どもの権利が踏みにじられている。実態のさらなる解明と対策を急ぎたい▼こうした子どもたちがロシア兵としてウクライナに送られた事実は今のところ、確認されていないものの、やがては自分の本当の故郷に銃を向けるようになってしまうのか。こんなに悲しい兵器はない。