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今日の筆洗

2022年08月30日 | Weblog
楽屋話となるが、締め切り時間との関係で、小欄はどんなに遅くとも午後八時には原稿を終えるようにしている▼原稿を書くのに少なくとも二時間はかかる。したがって夜に発生した事件や出来事についてはよほどの大ごとでない限り、次の日のネタとして回すことになる▼今、この原稿を半泣きで書いている。NASAが打ち上げる「アルテミス計画」の大型ロケット。本日はこの話と決め、原稿を半分ほど書いたところで、発射予定時間を確認する。日本時間の午後九時半過ぎ。えっ。夕方と勝手に勘違いしていた。打ち上げを見届けていては原稿が間に合わぬ▼夕闇迫るも別の話が思いつかない。時間がない。どうしたって、夏休みが終わるというのに手付かずの宿題を抱えた小学生の心境となる▼本日は三十日。地域にもよるが、夏休みの終わりも秒読み。宿題にもがく子、書けない読書感想文に涙目の子もいるだろう。今の小欄にはひとごととは思えぬ▼感想文の書き方をお子さんを持つ方にときどき聞かれるが、まずは書き出すことしかない。本の中でもっともおもしろかった場面を選び、どういう場面か、どうしておもしろいと感じたかの理由を書く。とにかく書き出す。へんだと思えば直せばよい。直すうちに考えもまとまってくる。始めなければ終わらない。健闘を祈る。えっ、もうとっくに書き上げているよって。
 

 


今日の筆洗

2022年08月29日 | Weblog

長寿のコメディアンやお笑い芸人といえば、「腰抜け二挺拳銃」などの米コメディアン、ボブ・ホープさんを思い浮かべる人もいるか▼二〇〇三年に百歳で亡くなっている。デビューは一九二〇年代だが、九八年に引退しているので、お笑いのキャリアとしては八十年に届かないだろう▼日本の話芸のこの人はホープさんを上回り、芸歴は八十一年。落語家の三遊亭金翁さんが亡くなった。九十三歳。四代目の金馬と書いた方が通りがよいかもしれない。あるいはかつての国民的テレビ番組「お笑い三人組」の「金ちゃん」か▼名人三代目金馬に入門したのが真珠湾攻撃の四一(昭和十六)年。生まれは二九(昭和四)年なので引き算して驚く。十二。今では考えられない早い入門である。なんでも落語会に出入りしているうちに関係者に噺(はなし)を教えられ、先代の目にとまったそうだ▼ひょうきんな顔と少ししゃがれた声。高座にこの方が出てくるだけでもうおかしかった。入門の四一年は戦時下に不謹慎だと廓(くるわ)噺などを上演禁止とし、「はなし塚」に封印した年。戦争のそんな時代から戦後のテレビ黎明(れいめい)期、令和まで。移り変わる時代の中で笑いに取り組み続けた方だろう。最近はユーチューブでも噺を聞かせていらっしゃった▼十八番はかつての上演禁止演目だった廓噺の「品川心中」。このあたりにもその高座に「平和」を感じた。


今日の筆洗

2022年08月26日 | Weblog

横浜でマンションが施工不良で傾いていることが分かり、大騒ぎになったのは七年前▼くいの一部が固い地盤に届いておらず、既に建て替えられた。調査では、くい打ちに関わった下請け業者が孫請けに仕事を丸投げしていたことが判明し、両社は国の処分を受けている▼工事をまとめて下請けに回す丸投げは、建設業法違反。容認すれば、汗をかかずにピンはねする社が現れ、工事の質や労働条件の劣化を招き、請け負った仕事への責任も不明確になると考えられている▼新型コロナウイルス対策の国の新方針に、地方への「丸投げ」との批判が出ている。おととい岸田首相がオンラインで記者団に、都道府県の判断で、医療機関から保健所への発生届の対象を、高齢の感染者らに限定できるようにすると語った▼発生届は感染者全員の名前や住所、電話番号などを記さねばならず、現場が作業に忙殺されていた。見直しを求める声が出ていたが、対象を絞れば、そこから漏れる若者らの状況などが把握しにくくなるため反対意見も。首相は、新方針を業務が逼迫(ひっぱく)した地域向けの「緊急避難措置」と強調するが、批判を招く難しい決断から逃れ、知事にげたを預けたように映る▼旧統一教会問題などもあり、支持率は低下傾向の首相。政権が傾き始めていると言っては大げさだろうが、少なくとも、堅牢(けんろう)には見えないこのごろである。


今日の筆洗

2022年08月25日 | Weblog
大リーグ史上最悪の出来事の一つに数えられる「ブラック・ソックス事件」とは一九一九年のワールドシリーズでの大掛かりな八百長事件である▼シカゴ・ホワイトソックスの選手が八百長に手を染めた背景は当時のオーナーのあまりのケチぶりにあったと伝わる。給料はもちろんジャージーのクリーニング代まで出し渋る。シーズン優勝すればボーナスを出すと約束しながら、実際にオーナーが差し出したのは気の抜けたシャンパンだけ。選手が八百長の報酬に心を動かしたのも分からないではない▼このオーナーはケチではなかった。大谷翔平選手がプレーするロサンゼルス・エンゼルスのアート・モレノ球団オーナー。このほど、同球団の売却を検討していると発表した▼父親が大の野球ファンだったそうだ。小さな広告会社から身を起こし、一代で巨大な資産を築き上げ、二〇〇三年、長年の夢をかなえ、球団を手に入れる。大リーグ初のメキシコ系オーナーだった▼「ファンこそオーナー」。ゲレーロ、コロン、ハミルトン。大物選手を気前よく獲得したばかりではない。球場のビールやグッズの価格を下げ、低料金の席も用意した。自身もオーナー席ではなく一般席でファンと声援を送っていた。評価は分かれるが野球とチームを愛した人だろう▼最近のチームの不振と観客減が夢を手放す理由か。さて、大谷はどうなる。
 

 


今日の筆洗

2022年08月24日 | Weblog
大雪の夜、一頭の犬が寒さをこらえながら、いなくなった少年を捜し求める。英作家、ウィーダの児童小説『フランダースの犬』。出版から今年で百五十年だそうだ▼大聖堂の中で倒れていたネロ少年を見つけた犬のパトラッシュは涙を見せる。「パトラッシュは(中略)ネルロの胸にひしとその頭をおしつけました。大粒の涙が、その茶色の悲しそうな瞼(まぶた)にたまりました」(訳・菊池寛)…。この後の筋は正直、書きたくない▼話は犬の涙である。大切な友との再会に犬が涙を浮かべるのはまんざら、児童小説の作り話ではないらしい。麻布大学などの研究グループによると犬は時間をおいて飼い主と再び会った場合、涙の量が増えることが分かった▼こんな実験をしたそうだ。犬を五時間以上、飼い主と離れさせ、その後に再会させる。涙の量を測ると離れる前に比べて一定程度増えていたという。パトラッシュだけではなかったか▼飼い主ではない人を使った実験では涙は増えなかったそうだ。だとすれば、その涙は飼い主に会えて、うれしいという感情による涙と言っていいかもしれぬ▼同じ研究によると人は目の潤んだ犬を見ると保護したくなる傾向があるらしい。犬の涙は長い人間との付き合いの中で身につけた武器とも考えられるが、なんだって構わない。再会に心から涙を流してくれる友なぞ、めったに巡り合えない。 
 

 


今日の筆洗

2022年08月23日 | Weblog
岡本綺堂の「能因法師」は平安期の歌人のある一日を描いた戯曲で少々コントっぽい▼<都をば霞(かすみ)と共に立ちしかど秋風ぞ吹く白河の関>。京をたったのは春霞のころだったが、今や白河の関(福島県白河市)では秋風が吹いている。今も有名な歌だが、能因さんがこの歌を思いついたのは白河の関ではなく京の家。この事実を隠すため、能因は奥州に旅立ったふりをして、自宅に閉じこもる。あとで旅から帰ったと言って歌を発表すればいい。そういう作戦である。そんなある日友人に見つかって…▼能因さんの旅が本当だったかどうかはともかく紛れもない「白河の関越え」に東北は歓喜にわいていることだろう。夏の高校野球決勝戦は宮城の仙台育英が勝利した。春の大会を含め東北勢の甲子園制覇はこれが初。大旗がみちのくの地に入る▼一九一五年の第一回大会の決勝戦で秋田中が敗れて以来、東北勢が何度も挑んでははね返されてきた甲子園優勝という関所。春霞が秋風となる期間どころか百年を超える苦労の長旅であった▼粒ぞろいの投手陣と足をからめた打撃が関所を越える通行手形となったか。実に強かった▼真っ黒に日焼けした選手ひとりひとりの顔がまぶしい。戯曲で能因は旅をしたふりをするため毎日、窓から顔を出してわざと日焼けしたが、選手の日焼けは無論、本物の努力と鍛錬の色である。おめでとう。
 

 


今日の筆洗

2022年08月22日 | Weblog

セミの声の主役が盛夏のミーンミーンやジージーから、そろそろ初秋を感じさせるツクツクボウシの「オーシツクツク」に変わるころか。夜ともなればコオロギの声も聞こえてきた▼セミや秋の虫の声に季節を感じるのは日本人ぐらいとはよく聞く。西洋のお人にはあの季節の音が雑音ぐらいにしか聞こえないらしい。もったいない▼文化や習慣の違いによって、同じ音でも不快に感じ、あるいは聞こえにくいものがある。興味深いが、こっちは、虫の声とは正反対で日本人より海外の人の方が反応しやすい問題なのだろう。国税庁が展開する若者にお酒の需要喚起を図るキャンペーン「サケビバ!」の話である▼背景は若者のお酒離れだろう。酒の需要を増やすアイデアを募るコンテストだが、早い段階で問題提起したのは海外の報道だった。「日本、若者に酒を飲めとキャンペーン」は米紙の見出し。健康被害やアルコール依存など酒の問題が世界的に指摘される中、日本では国が若者に酒を積極的に勧めていると批判的に伝えた▼酒が祝いの席には欠かせず、「百薬の長」「憂いを払う玉箒(たまばはき)」と考えやすい、わが国だが、言われてみれば、良いことばかりではない酒。無論、適量が前提だろうが、国が飲め、飲めでは確かに気味が悪い▼「ビバ!(万歳)」。その文句がどうも酒税増収を狙った怪しげな虫の声に聞こえてしまう。


今日の筆洗

2022年08月19日 | Weblog
世界と勝負する。ファッションデザイナーの森英恵(はなえ)さんにそう決断させたのは、一九六一年の米国旅行で味わった屈辱という▼ニューヨークの百貨店は上階ほど商品が高級になったが、日本製衣料は地下。粗悪な安物の象徴とされた。日本の芸者蝶々(ちょうちょう)さんと米軍士官の国際結婚の悲劇を描いたオペラ『マダム・バタフライ(蝶々夫人)』を見ると、蝶々さんは中国人風に両腕を前で組み、げたで畳を歩いた▼低評価と無理解。「日本でデザインし、日本の布地を使い、日本人の手で縫い上げた服をジェット機で米国に運ぶ」と誓い、実現させた▼森さんが亡くなった。トレードマークとして後に世界に知られる蝶(バタフライ)の柄は六五年、ニューヨークで初の海外コレクションを開く際に使った。自伝『グッドバイ バタフライ』によると、オペラの屈辱の記憶もあり、世界に羽ばたく意味を込めた▼防空壕(ごう)で空襲を避け、戦後は新宿の店で進駐軍の将校夫人の服を仕立てた。米国で成功し、現地で会ったソニー創業者の盛田昭夫氏から「すごいよ」と言われたことが忘れられないという。歩みは戦後日本のそれと重なる▼『グッドバイ バタフライ』は、パリでのショーを最後に一線を退いた際、著名ファッション記者が国際英字紙に書いた送別記事の見出し。今生の別れが来たが、天上で後進の飛躍を何より願っているだろう。
 

 


今日の筆洗

2022年08月18日 | Weblog
ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』に「大工さんとセイウチ」という不思議な詩が出てくる。ある日、大工とセイウチが牡蠣(かき)を散歩に誘う。だまして牡蠣を食べる魂胆である▼<君たち、ほんと、かわいそう>−。セイウチは牡蠣を哀れに思って、<涙を、ぽろぽろり>。それでも牡蠣を食べる。泣きながら大工さんよりたくさん食べる。詩を聞いたアリスはセイウチが好きだと言った。「だって、少しは悲しんだんだもの」。しかし、牡蠣を食べたことに変わりはない。アリスは考えを変える。「どっちもとってもいやな人」−▼こっちの話では、殺されたのは牡蠣ではなくセイウチの方である。この夏、ノルウェーの港に一頭のセイウチが迷い込み、人気者になっていた▼体重約六〇〇キロ。北欧神話の女神の名から、愛称は「フレイヤ」。映像をごらんになった方もいるだろう。小さなボートの上にごろんと巨体を横たえる姿に愛嬌(あいきょう)があった▼漁業当局によって安楽死させられたそうだ。あまりの人気に大勢の人が集まり、中には泳いで接近する人もいたらしい。セイウチが人を襲うことはあまりないそうだが、人間への危険もあると最終判断した▼苦渋の決断だっただろうが、何とか別の道を見つけていただきたかった。悲しんだとて命を奪ったことに変わりはない。「とってもいやな人」。アリスの顔がどうしても浮かぶ。
 

 


今日の筆洗

2022年08月17日 | Weblog
十四日の日曜の「岸田首相の一日」に<午前十時二十六分、東京・赤坂の「エースゴルフクラブ」、ゴルフの練習>とあった。加えて<裕子夫人同行>とある▼へえ。要人とのラウンドではなく、首相がゴルフの練習、しかも夫人同伴とはあまり聞いたことがない。仮にこれが首相のイメージ戦略だとすれば、相当に練られている。「練習」というところでグッと親近感がわくのである▼何年やっても成果は上がらず、悩み続ける。それが中高年のゴルフというものだろう。お忙しい、この人も少しでもうまくなりたいと練習に取り組んでいるのか。けなげでひたむきな印象も出せる▼オジサンのゴルフと比べてはならぬことは分かっているが、この十七歳はよほどの練習を積んできたのだろう。ゴルフの全米女子アマチュア選手権で優勝した馬場咲希さん。日本勢の優勝は服部道子さん以来、三十七年ぶり。圧勝での快挙である▼恵まれた上背から放たれるドライバーの平均飛距離が二七〇ヤードとはうらやましい。なによりも物おじしないメンタルの強さが光る。レベルの上がる日本の女子ゴルフ界にまた一人、恐るべき才能が開花した▼五歳でゴルフを始めたそうだから、ゴルフ歴はわずかに十二年か。優勝を祝福する一方で、自分の方がはるかに長いゴルフ歴を持ちながら、一向に上がらない腕前にため息をついた人もたぶんいる。