長寿のコメディアンやお笑い芸人といえば、「腰抜け二挺拳銃」などの米コメディアン、ボブ・ホープさんを思い浮かべる人もいるか▼二〇〇三年に百歳で亡くなっている。デビューは一九二〇年代だが、九八年に引退しているので、お笑いのキャリアとしては八十年に届かないだろう▼日本の話芸のこの人はホープさんを上回り、芸歴は八十一年。落語家の三遊亭金翁さんが亡くなった。九十三歳。四代目の金馬と書いた方が通りがよいかもしれない。あるいはかつての国民的テレビ番組「お笑い三人組」の「金ちゃん」か▼名人三代目金馬に入門したのが真珠湾攻撃の四一(昭和十六)年。生まれは二九(昭和四)年なので引き算して驚く。十二。今では考えられない早い入門である。なんでも落語会に出入りしているうちに関係者に噺(はなし)を教えられ、先代の目にとまったそうだ▼ひょうきんな顔と少ししゃがれた声。高座にこの方が出てくるだけでもうおかしかった。入門の四一年は戦時下に不謹慎だと廓(くるわ)噺などを上演禁止とし、「はなし塚」に封印した年。戦争のそんな時代から戦後のテレビ黎明(れいめい)期、令和まで。移り変わる時代の中で笑いに取り組み続けた方だろう。最近はユーチューブでも噺を聞かせていらっしゃった▼十八番はかつての上演禁止演目だった廓噺の「品川心中」。このあたりにもその高座に「平和」を感じた。
横浜でマンションが施工不良で傾いていることが分かり、大騒ぎになったのは七年前▼くいの一部が固い地盤に届いておらず、既に建て替えられた。調査では、くい打ちに関わった下請け業者が孫請けに仕事を丸投げしていたことが判明し、両社は国の処分を受けている▼工事をまとめて下請けに回す丸投げは、建設業法違反。容認すれば、汗をかかずにピンはねする社が現れ、工事の質や労働条件の劣化を招き、請け負った仕事への責任も不明確になると考えられている▼新型コロナウイルス対策の国の新方針に、地方への「丸投げ」との批判が出ている。おととい岸田首相がオンラインで記者団に、都道府県の判断で、医療機関から保健所への発生届の対象を、高齢の感染者らに限定できるようにすると語った▼発生届は感染者全員の名前や住所、電話番号などを記さねばならず、現場が作業に忙殺されていた。見直しを求める声が出ていたが、対象を絞れば、そこから漏れる若者らの状況などが把握しにくくなるため反対意見も。首相は、新方針を業務が逼迫(ひっぱく)した地域向けの「緊急避難措置」と強調するが、批判を招く難しい決断から逃れ、知事にげたを預けたように映る▼旧統一教会問題などもあり、支持率は低下傾向の首相。政権が傾き始めていると言っては大げさだろうが、少なくとも、堅牢(けんろう)には見えないこのごろである。
セミの声の主役が盛夏のミーンミーンやジージーから、そろそろ初秋を感じさせるツクツクボウシの「オーシツクツク」に変わるころか。夜ともなればコオロギの声も聞こえてきた▼セミや秋の虫の声に季節を感じるのは日本人ぐらいとはよく聞く。西洋のお人にはあの季節の音が雑音ぐらいにしか聞こえないらしい。もったいない▼文化や習慣の違いによって、同じ音でも不快に感じ、あるいは聞こえにくいものがある。興味深いが、こっちは、虫の声とは正反対で日本人より海外の人の方が反応しやすい問題なのだろう。国税庁が展開する若者にお酒の需要喚起を図るキャンペーン「サケビバ!」の話である▼背景は若者のお酒離れだろう。酒の需要を増やすアイデアを募るコンテストだが、早い段階で問題提起したのは海外の報道だった。「日本、若者に酒を飲めとキャンペーン」は米紙の見出し。健康被害やアルコール依存など酒の問題が世界的に指摘される中、日本では国が若者に酒を積極的に勧めていると批判的に伝えた▼酒が祝いの席には欠かせず、「百薬の長」「憂いを払う玉箒(たまばはき)」と考えやすい、わが国だが、言われてみれば、良いことばかりではない酒。無論、適量が前提だろうが、国が飲め、飲めでは確かに気味が悪い▼「ビバ!(万歳)」。その文句がどうも酒税増収を狙った怪しげな虫の声に聞こえてしまう。