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今日の筆洗

2024年09月30日 | Weblog

秋の遠足のシーズンだろう。小学校のときの遠足のおやつ代を思い出す人もいるか。今、思えば不思議な「制度」で持参できるおやつには金額の上限があった▼何と何を買えば予算を超えないか、子どもは必死に考える。何を残して何をあきらめるか。算数の実地訓練の意味に加え、人生の決断まで教えていたのかも、とは大げさか▼自分の時代の上限は300円だったと記憶するが、今は500円前後と聞く。この話は遠足の子どもたちを嘆かせることになるだろう。手ごろな価格で人気のお菓子「うまい棒」が10月出荷分から値上がりし、1本12円から15円になるそうだ▼1979年発売から1本10円を守り続け、12円に値上がりしたのが2022年。そしてまた値上げ。2年半で5割高くなる。原料のコーンや人件費などの高騰が背景らしい。メーカーとしてもつらいところだろう▼「うまい棒」に限らぬ。遠足のおやつの王様チョコレートやおせんべいも値上がり傾向にある。遠足のお弁当のコメにしても外食需要の高まりなどで価格は上がる▼試しに300円分のおやつを考えてみたが、どうもうまくいかぬ。マーブルチョコレート1本で100円を大きく超える。「家に前からあったお菓子は持っていってもいいですか」。懐かしい質問を思い出す。子どもたちには算数に加え、物価と社会情勢を学ぶ遠足となるのだろう。


今日の筆洗

2024年09月29日 | Weblog

 トルコ南西部ゲイレ村で1969年、ある神殿の遺跡が発掘される。世界遺産にも登録されたアフロディーテ神殿遺跡である▼アフロディーテとはギリシャ神話の愛の神。発掘したのは米国の女性考古学者で名はアイリス・ラブ。愛の神をラブ(愛)という人が見つけたことになる▼ただの偶然だが、不思議なつながりを感じてしまうのは人の常か。こちらの名はどうだろう。「さざなみ」。海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」が台湾海峡を通過した。中国とにらみ合う台湾海峡を日本の護衛艦が通過するのは自衛隊発足以来、初めてである▼8月、中国軍の艦船が鹿児島県沖の日本領海内に一時、侵入したのに加え、情報収集機が長崎県の男女群島沖の日本領空を侵犯。今回の「さざなみ」の台湾海峡通過には日本の周辺で軍事活動を活発化する中国をけん制する狙いがあるのだろう。海峡通過は岸田首相の指示という▼中国の挑発的な動きに毅然(きぜん)と対応することは無論、必要だが、これがけん制となり、中国をおとなしくさせるかといえば、はなはだ怪しかろう。海峡通過後、中国は「越えてはならぬレッドラインを越えた」と反発し、台湾周辺での動きをさらに強める兆候を見せる▼臆病な小欄は「さざなみ」が、日中間の「大波」「怒濤(どとう)」とならないかを心配してしまう。両国を行き来する、「話し合い」という名の船がほしい。


今日の筆洗

2024年09月28日 | Weblog
米国で歴代大統領の人気投票を行うとトップはだいたい奴隷解放宣言のリンカーンで、初代大統領のワシントンたちを上回る▼おもしろいのはリンカーンが大統領になるまでは決して人気が高くなかったことだ。出馬した上院選などでたびたび落選。敗れた選挙は8回という▼それには及ばぬが、この人は5度目の挑戦で花を咲かせた。自民党総裁選で当選した石破茂さん。「万年総裁候補」がついに自民党のトップとなり、首相になる▼三十数年前の九段の衆院議員宿舎の夜が浮かぶ。記者からすると、正直扱いにくく、会えば小難しい政策論を延々と語りだす。「それを政治改革というのかい?」。今もモノマネできる▼こちらの勉強不足を容赦なく責め、毎度、説教されている気分になったものだ。そのくせ、こっちの聞きたい政界情報などは一切、話さない。真面目だが、不器用、自信過剰。そんな印象を持ったが、党内の見方も同じだったはずだ。だから、長く総裁の座に届かなかった▼党内で煙たがられていることを自覚しているだろう。決選投票直前の演説にびっくりする。「多くの人々を傷つけた。おわびする」-。この人も変わったのだと思う半面、あまり変わりすぎぬことを願おう。党内で嫌われても信じた政治を前に進める。党の信頼回復に向け、その生真面目さが支持されたのだろう。まずは、党改革である。
 
 

 


今日の筆洗

2024年09月27日 | Weblog
詩人の谷川俊太郎さんが書いた『生きる』にこんなくだりがある。<生きているということ いま生きているということ それはミニスカート それはプラネタリウム それはヨハン・シュトラウス それはピカソ それはアルプス すべての美しいものに出会うということ そして かくされた悪を注意深くこばむこと>▼1971年発行の詩集に収めた作品。ミニスカートは67年に「ミニの女王」と呼ばれた英国のモデル、ツイッギーさんが来日し国内で流行した▼そのブーム時には既に拘束されていた事実に奪われた歳月の長さを痛感する。一家4人強盗殺人事件で66年に逮捕され、死刑が確定した袴田巌さん(88)の再審公判で静岡地裁は無罪判決を言い渡した▼無実を訴えながら、美しいものとの出会いが制限された独房で死刑執行におびえた日々。支えた姉ひで子さん(91)ともども、冤罪(えんざい)という「悪」を拒み続け、たどり着いた節目である▼釈放され10年がたっても、長い拘束の影響で妄想が出る巌さんには胸が痛むが、判決後のひで子さんの笑顔に救われる思いがした▼検察が控訴せずに判決が確定し、弟と姉が事件から解放されることを。2人が味わうべき喜びを先の詩の続きが教える。<生きているということ いま生きているということ 泣けるということ 笑えるということ 怒れるということ 自由ということ>
 
 

 


今日の筆洗

2024年09月26日 | Weblog
<みんなで希望をとりもどして涙をぬぐつて働かう/忘れがたい悲しみは忘れがたいまゝにしておかう>。詩人、三好達治の「涙をぬぐつて働かう」である▼終戦の翌年1946年1月に書いたという。敗戦に打ちひしがれた国民へのメッセージなのだろう。<最も悪い運命の颱風(たいふう)の眼(め)はすぎ去つた/最も悪い熱病の時はすぎ去つた>。戦争は終わった。悲しみを忘れることはできないが、希望を求め、歩いていこう。そう呼びかけている▼人を慰め、励ますのは難しいものだ。記録的な豪雨に見舞われた石川県の能登半島の方々に「希望を」「涙をぬぐつて」と今、呼びかけたところで受け入れられるとは到底思えない。それほど痛ましい被害が出ている▼なお外部と車で行き来できない孤立状態の集落も残る。元日の震災による大きな傷。それも癒えぬうちに今度は大雨。なぜ、能登ばかりに悲しみがやって来るのか。そんな思いにもとらわれてしまうかもしれぬ。達治のあの詩さえ無力だろう▼失意の人々をわずかにでも慰め、希望が感じられる国と国民の取り組みが今ほしい。泥にまみれた家の片付けなどボランティアの手がこれから必要になってくるだろう▼<祖母は蛍をかきあつめて/桃の実のやうに合(あわ)せた掌(て)の中から/沢山(たくさん)な蛍をくれるのだ>-。達治の「祖母」。能登を案じる優しい蛍の光を国中からかきあつめたい。
 
 

 


今日の筆洗

2024年09月25日 | Weblog
詩人のサトウハチローに「もう乗らなくなった」という作品がある。子どもが大きくなって見向きもしなくなった三輪車のことを詩にしている▼「庭の片すみにひきだし/そっとまたがり/さびたベルを鳴らしてみる/そのひびきに わが子の声がある」。懐かしく、ちょっと、寂しい▼「伸ちゃんの三輪車」。もし、その焼け焦げた三輪車にベルが付いているとしたら、いったいどんな「声」がするのだろう。1945年8月6日、広島への原爆投下で亡くなった当時3歳の鉄谷伸一ちゃんの三輪車である。爆心地から1・5キロの自宅の前で遊んでいて被爆し、その日のうちに亡くなった▼この三輪車を日米のアーティストが実物大の彫刻作品として再現し、このほどジュネーブの国際赤十字・赤新月博物館で展示が始まった。国際非政府組織「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)が制作を依頼していた▼子どもが遊ぶ三輪車の残骸。これほど核兵器や戦争の悲しさを訴えるものはないかもしれぬ。その三輪車はやがて自転車になったはずだ。自転車はもっと大きな自転車に替わり、やがてはオートバイや自動車に。自動車にはその子の子どもが乗っていて…▼三輪車から始まるはずだった成長の物語。それを奪う核兵器の冷酷さ。三輪車は平和を求めるベルを鳴らしているのだろう。大勢の人の目と心に触れることを願う。
 
 

 


今日の筆洗

2024年09月24日 | Weblog

吉田茂元首相の『回想十年』の中にこんな言葉がある。「民主政治は与党が良いだけでは完成したといえない」▼民主政治には能力ある野党が必要だといい、「(与党は)淡々たる心持で政権に執着せず、時あっては反対党にも政局に立つ機会を与えるがよい」。今の自民党議員が聞けば青ざめるか▼野党も政治の現実を意識せよというのが吉田翁の本意だろう。政権運営の経験が乏しくなると「主義主張は実際政治に遠ざかり、空理空論に走るか、過激に流れ…」▼立憲民主党は理想にとらわれ、現実を忘れがちな野党の「罠(わな)」から抜け出ようとしているのだろう。同党の代表選は野田佳彦元首相が当選した。首相経験があり、政治の現実と厳しさを理解している人物である▼首相時代に批判を受けても消費税率の引き上げを決めたことを思い出す。この代表選では原発ゼロさえ封印し「穏健な保守層を取り込む」と訴えた。近づく総選挙を意識し、同党は野田氏の現実路線を選んだといえる▼問題は野党らしい理想の政治を求める従来の支持層とどう折り合いをつけるかだろう。ドジョウ宰相があだなだった。<おちつくとどじゃう五合ほどになり>。買った直後のドジョウはよく動くので量が多く見えるが、しばらくするとおとなしくなり、減ってしまうという江戸川柳。理想と現実の塩梅(あんばい)を間違えれば、人気の量も怪しくなる。


今日の筆洗

2024年09月22日 | Weblog

 作家、ねじめ正一さんの小説『長嶋少年』に小学生の男の子が中央線の線路に耳を当てる場面がある▼舞台は昭和30年代の東京・高円寺。線路は後楽園球場のあった水道橋を通る。線路から伝わってくる音に少年はあこがれの長嶋茂雄選手を想像する。「あのざわめきは長嶋が登場したざわめきです。僕は長嶋のざわめきをずうっとずうっと聞いています」。よく分かるというのは昭和20年代生まれか▼フロリダの球場につながる線路を空想し、熱狂の音に触れたくなる。大谷翔平選手。ついに50本塁打、50盗塁の「50-50」に到達した▼「50-50」もすごいが、6打数6安打、3本塁打、2盗塁に夢でも見ている気になる。この日の出来事は長嶋選手の天覧試合のサヨナラ本塁打や王選手の756本塁打のように語り継がれていくのだろう▼野球の神さまはときどき傑出した選手をこの世に送ってくれるようだ。戦後復興期に青バットの大下、赤バットの川上。高度成長期には長嶋と王。経済停滞期のイチロー。時代時代に現れるヒーローが世の中全体を明るく照らし、子どもはもちろん大人まで笑顔にする▼先行きが見えず、不安な時代にやって来たその人は、世の重苦しい雲を強打と快走でひととき晴らす。少し前にお会いしたねじめさんがおっしゃっていた。「大谷君はもうあの時代の長嶋さんの存在を超えているのだろうね」


今日の筆洗

2024年09月21日 | Weblog

ひなびた漁村だった中国南部深圳を大都市に育てたのは国の実力者だった鄧小平。1980年ごろから深圳などに特区をつくり外資を呼ぶ改革開放政策を進めた▼84年、鄧は深圳を視察。ビル屋上から建設ラッシュの街を眺めた。中国共産党の地元支部の書記の家を訪れると1、2階の客間にそれぞれテレビとステレオが1台ずつある。「今は何でもあるだろう」と鄧が聞くと書記は「何でもあります。今のようなよい生活ができるなんて夢にも思いませんでした」と感謝したという(孫秀萍ほか訳『鄧小平伝 中国解放から香港返還まで』)▼成長の象徴・深圳で日本人学校の男児が登校中、男に刺され死亡した。言葉がない▼詳細な動機は不明で予断は避けたいが、6月にも中国の蘇州で日本人学校のバスを待つ母子らが襲われた。中国のネット上では日本人学校を「スパイを養成している」などと根拠なく中傷する投稿が多いという▼歴史的経緯と政府の愛国教育で根強い反日感情。先にスパイ罪で日本人駐在員が起訴された影響もあり、中国赴任を嫌がる人が増えたとも聞く。強権的になった感もある隣国は仕事がしにくい地になりつつあるのか▼84年に深圳の姿を眺めた鄧は「見えた。はっきり見えた」と言い発展に満足の意を示したという。日中関係のよき未来がはっきり見えると言える楽観的な人は今、少ないのだろう。


今日の筆洗

2024年09月20日 | Weblog
スピルバーグ監督の映画『ミュンヘン』では、イスラエル政府の命を受けた暗殺チームが在欧州のパレスチナ要人の家の電話を爆発させた▼チームの1人が記者を装って要人を自宅で取材し、隙をみて受話器の形状を調べる。後に業者のような服装のメンバーが家に忍び込み電話に細工。外から電話し、出たところで遠隔操作で起爆し目的を遂げた▼1972年ミュンヘン五輪のパレスチナゲリラによる宿舎襲撃で、自国選手団の11人を殺されたイスラエルの報復を史実に基づき描いた作品。襲撃に関与したパレスチナ側の11人が順次狙われた▼通信機器の連日の爆発で中東の緊張が増している。イスラエルと敵対するレバノンの民兵組織ヒズボラの戦闘員らが使うポケットベル(ポケベル)型通信機器やトランシーバーが一斉に爆発し多数が死傷した。トランシーバーは日本製らしい。穏やかではない▼米紙はイスラエル実行説を伝えた。ポケベルもトランシーバーも5カ月前にヒズボラが購入したとの報道も。購入を把握し各機器に細工する能力や執念に恐れを抱かぬ人はいまい。レバノンでは、スマホなどあらゆる機器が怪しく見えよう▼映画では、暗殺チームのメンバーが銃よりも爆発物がよいと語った。「銃では目立たない。爆弾は標的を殺しテロリストを怯(おび)えさせる」。恐怖を与え安寧を得んとする中東の現実に気が重い。