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今日の筆洗

2024年02月29日 | Weblog
もし大坂夏の陣で豊臣秀頼が自ら出陣していたら。仮に徳川慶喜が鳥羽伏見の戦いで江戸へ逃げ帰ることなく、自ら戦場に赴いていたら…▼秀頼さんも慶喜さんも出陣せず、結果、味方の士気が上がらず敗れたと伝わるわけだが、いずれも「もしも」を考えたくなる歴史の局面である▼大げさなたとえを持ち出してしまったが、この人にとっては今が自ら出陣しなければならない分岐点にみえたのだろう。岸田首相である。自民党派閥の裏金問題を受けた衆院政治倫理審査会(政倫審)に自ら出席する意向を表明した。党内に慎重論があった政倫審の公開についても応じるという▼政倫審は議員から弁明を聞く機会といえど、出席自体が不名誉な印象もある。厳しい質疑も予想され、そこに首相が自ら「馬をとれ」とは正直言って驚いた▼おそらく岸田さんが戦っている相手は野党ではなく、公開の形での政倫審への出席に慎重だった自民党議員である。このまま膠着(こうちゃく)状態が続けば自民党の支持率は致命的に低下する。この危機に自ら出席する意向を示すことで、当該議員に出席を促しているのだろう▼「逃げれば危機は2倍、立ち向かえば半分」。英国のチャーチル元首相の言葉だそうだ。危機に立ち向かう気になったとしても岸田さんをほめる気はない。政倫審開催がここまでこじれたのは岸田さんの指導力不足のせいでもあろう。
 
 

 


今日の筆洗

2024年02月28日 | Weblog
ハチに頭を刺され続けたヘビがいた。痛みにがまんできなくなったヘビはハチに仕返ししてやろうと思い、荷車の車輪の下に頭を突っ込んだ。そしてハチもろともに死んだ▼ちょっとおっかない古い寓話(ぐうわ)をスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟に思い出した。約200年間、中立政策を続けてきたスウェーデンがこれを大きく転換した▼あの寓話でいえば、車輪に頭を突っ込んだヘビはやはりロシアなのであろう。ウクライナが米欧の軍事同盟であるNATOに接近するのががまんならぬと同国に侵攻したのが2年前。結果はどうなったか▼なるほど、ウクライナでロシアはかろうじて優勢を保っていると伝わる。が、ウクライナに攻め入ったことでロシアへの警戒を強めたフィンランド、スウェーデンが中立を相次ぎ見直し、NATOの元へと走った。今回のスウェーデンの加盟でロシアと欧州の間にあるバルト海のほぼ全域をNATO加盟国が包囲することになった▼ロシアにとっては元も子もない話で、NATOの東方進出を食い止めたかったのに無謀な侵攻が招いたのは正反対の結果である。ウクライナ侵攻がどう終わるにせよ、NATOの抑止力、監視力は大幅に強まる。何のための侵攻だったか。ロシアは自問すべきだろう▼ウクライナ軍の戦死者は3万人を超えたそうだ。ヘビもあきれる戦争の愚にうめく。
 
 

 


今日の筆洗

2024年02月27日 | Weblog
 『桐島、部活やめるってよ』などの作家、朝井リョウさんが不思議なことを書いていた。小学生のとき、「花粉症にあこがれていた」-▼朝の点呼で先生から健康状態を聞かれる。このとき、誰かが「花粉症です」と答えるのがどこか、「ト・ク・ベ・ツ☆」で「たまらなくかっこよく聞こえていた」そうだ。花粉症になるため、何かの花の花粉を吸い込む努力までしていたと告白している▼この数字を見れば、かつての朝井少年も花粉症を「ト・ク・ベ・ツ☆」とはもはや思わないだろう。ロート製薬が子どもの親御さんを対象にアンケートをしたところ、今や、小学生のほぼ半数が「花粉症を実感している」そうだ▼クラスの半数が鼻をクシュクシュさせ、クシャミをしている気の毒な光景を思い浮かべてしまう。0~16歳の子どもでは、「病院で花粉症の診断を受けた」「多分花粉症だと思う」の回答が合わせて42・6%。10年前から約10ポイント増という▼花粉症が社会問題といわれ、久しいが、その勢いが止められない。現在の小学生の子どもが発症した年齢は平均で5・8歳と聞いてかわいそうになる。大人でもつらいのに、そんな小さなころから目のかゆみや鼻水に苦しんでいるとは。学習や運動にも差し障りがあろう▼なんとかしたい。このペースでいくと、間もなく、花粉症ではない子の方が「ト・ク・ベ・ツ☆」になる。
 
 

 


今日の筆洗

2024年02月26日 | Weblog

米作家、チャンドラーのハードボイルド小説の名作『さらば愛しき女よ』。原書の中にこんな表現があった。「high pillow」▼直訳すれば、高い枕。うん?となる。探偵マーロウと警部補の宝石強盗団をめぐる会話の中に出てくる▼村上春樹さんの翻訳による『さよなら、愛しい人』(早川書房)で確認する。「どっかのちんぴらが、黒幕のために罪をかぶらされたんだ」。なるほど、「黒幕」の意味なのか。日本で高い枕といえば、昔の殿様や武士を連想するが、あちらの国では高い枕ですやすやと眠るのは権力を握ったボスや黒幕のイメージがありそうだ▼マーロウではなく、高い枕がどうやら脳卒中の「黒幕」の1人らしいとつきとめたのは国立循環器病研究センターのグループである。発表によると高すぎる枕が脳卒中の一因となる「特発性椎骨動脈解離」を発症させるリスクがあるそうだ▼グループでは「殿様枕症候群」(ショーグン・ピロー・シンドローム)と呼び、適切な枕を選ぶよう提唱している。高く硬い枕が首への圧力を高め、首の後ろの血管を傷めてしまうらしい。何の心配もなく眠る「枕を高くして寝る」とは正反対の話である▼グループによると頭をのせない状態で12センチ以上の枕は「高い」そうだ。寝っ転がってスマートフォンをいじるには高い枕は具合がいいが、「黒幕」とは手を切りたい。


今日の筆洗

2024年02月24日 | Weblog
 ウクライナのマリーナさんは昔、起床時間より少し早めに目覚まし時計をセットした。目覚めてもあと30分眠れる-みたいなのが好きだったが、ロシアの侵攻が始まると、睡眠自体が嫌になった▼「眠るのが怖いんじゃなくて、眠りから覚めるのが怖いのです。砲撃で起こされるのが怖いのです。夢の後はすべてが元に戻るから…」。現実が酷だから夢は見たくないらしい▼彼女の話は、ウクライナの詩人オスタップ・スリヴィンスキーさんが欧州への脱出口、西部リビウに逃れた人々の体験に耳を傾け編んだ書物に収められる。ロバート・キャンベルさん訳の日本語版『戦争語彙集』が昨年暮れ、岩波書店から出た。「バス」「地下室」など77のキーワードごとに人々の証言が書かれる。マリーナさんの話は「夢」▼侵攻開始から今日で2年である。600万人超が国外に逃れ、百万単位の人が国内で避難する。戦地から離れても安らかに眠れぬのは同じかもしれない。反転攻勢を試みるウクライナ軍は勢いに欠け、敵は居座り続けている。先の見えぬ現実に心痛を察する▼先の本でワディムさんという人が「自由」を語っていた。「プレゼントしてくれることもなく、誰かに期待することはできないものなんです。自分の手で作る以外にない、ということです」▼悲痛な覚悟に、私たちには何ができるか思い巡らす節目の日である。
 
 

 


今日の筆洗

2024年02月23日 | Weblog
 イエスタディ君。若いころにバブル期を謳歌(おうか)した作家の甘糟りり子さんの周辺に当時、陰でそう呼ばれた男性がいた。東京・環八通り沿いに店があったレストランチェーンの名に由来する▼親が営む中小企業に勤め、親に与えられたソアラで甘糟さん宅に迎えに来てドライブし、若者に人気のその店で総額1万円弱の食事をして会計の際「千円ね」と一部負担を求めてきた▼ごちそうする「メッシー君」、運転手役「アッシー君」ら恋人未満の女性に尽くす男性が多い時代。デートが全額奢(おご)りでないことに衝撃を受けたという。同性の友に話すとやはり驚かれ本人に秘す形で冒頭のあだ名献上が決まる。著書『バブル、盆に返らず』に詳しい▼奢りかどうかは別に、若者も消費を堪能したバブル時代。絶頂期の1989年暮れに記録した日経平均株価終値の史上最高値が昨日、更新された▼人口が減る国内に頼らず、海外で稼ぐ会社が買われている。人々の財布の紐(ひも)は緩くなく、一昨日発表の政府の景気判断でも個人消費は力強さを欠くという。民の熱さが乏しい株高。燃料高などで苦しい中小企業は少なくない▼甘糟さんはバブル時代に「今日より明日はより楽しい」と信じたという。昨日は顧みられぬだけに、その呼称が悲しいイエスタディ君。ソアラをくれた父から大きくない会社を継いだのなら今、何とかやっているだろうか。