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今日の筆洗

2024年03月30日 | Weblog

 20年以上前に公開された映画『鉄道員(ぽっぽや)』は、廃止が決まっている架空のローカル線幌舞(ほろまい)線の終点・幌舞駅が舞台。故高倉健さんが主役の駅長を演じた▼昔は近くの炭鉱が栄えてにぎわった駅も寂れたが、駅長は律義に仕事を続ける。雪が舞うホームに背筋を伸ばして立ち、1両編成の赤いディーゼルカーを見送る姿がりりしい▼幌舞駅のロケ地が北海道のJR根室線の幾寅(いくとら)駅。この駅がある富良野-新得間が31日限りで廃止される。80キロ余りの廃止区間のうち、幾寅を含む一部区間は2016年の台風被害で代行バスの運転が続いていたが、ついぞ列車は戻らなかった。寂しく思う住民もきっと多いのだろう▼人口減少もあって鉄道の維持が容易ではない昨今。折しも先日、広島県と岡山県の山間部を走るJR芸備線の将来像を国や自治体、JRなどが話し合う会合が始まった。廃止前提ではないが、鉄道の利用促進を図った場合や、廃止してバスに転換した場合の効果や影響を検証するという。3年以内を目安に方針を決めるというが、合意は容易ではなかろう▼映画では、広末涼子さんが演じる少女に幌舞線がなくなると駅や線路はどうなるのかと問われ、駅長が寂しげにこう答える場面があった。「鉄道ができる前の原野に戻って、鉄道があったことも忘れられちまうべなあ」▼鉄路を巡る決断は、重いものである。


今日の筆洗

2024年03月29日 | Weblog
三重県鈴鹿市役所の市長室には、名誉市民であるホンダ創業者、本田宗一郎の直筆の書が飾られている。「鈴鹿の道は世界に通ず」▼鈴鹿サーキット建設を主導した人である。完成は1962年で、日本初の高速道路となる名神高速道路尼崎-栗東間開通の前年。来たるべき高速時代を見据えて、高速のレースに挑んでこそいい車を造れると信じた。自動車レースの最高峰F1が開催され「スズカ」の名は世界に知られた▼4月上旬に鈴鹿で開かれるF1日本グランプリの主催者が、来場客に鉄道やバスの利用を呼び掛けている。鈴鹿に通じる道でのマイカー利用は避けて、というお願い。狙いは二酸化炭素排出削減である▼名古屋などからの直行バスは決勝のある7日、過去最多の便数になる。開幕直前に東京発名古屋行きの貸し切り新幹線「日本グランプリ号」が初めて運行される。車を愛するファンの脱マイカーはうまくいくだろうか▼電気自動車など脱炭素の技術開発でメーカーがしのぎを削る時代。F1も2年後には化石燃料の使用をやめ環境に優しい合成燃料を導入する。求められる車が変われば、レースも変わるのだろう▼「すべての道はローマに通ず」。ローマ帝国全盛期に世界各地からの道がローマに通じていたことから、目的を達成する手段、方法は何通りもあることをいう。脱炭素もいろいろやらねばならない。
 
 

 


今日の筆洗

2024年03月28日 | Weblog

アルプスの山中、猛吹雪をものともせず、大型犬のセントバーナードが遭難者の救助に向かう。首から下げた小さな樽(たる)の中身は凍える旅人を温めるブランデー…。子どものころからよく聞く話だが、事実ではないそうだ▼スイスでセントバーナードが救助活動に使われていたのは確かだが、問題はブランデーの方。記録にはなく、創作か勘違いの可能性が高いらしい。怖いことに実際、雪山で低体温症になった人に強いアルコールを飲ませれば温めるどころか反対に体温を下げてしまうという。創作でよかった▼悪玉コレステロールを抑制すると信じていたサプリなのに…。極めて深刻なこちらの話が創作でないのがつらい。小林製薬の「紅こうじ」成分入りのサプリメントを摂取した人から健康被害の訴えが相次いでいる問題である。既に摂取した2人が亡くなり、入院する人も増えている▼同社が事態を把握したのは1月11日で製品の自主回収に踏み切ったのが3月22日。これがどうしてもひっかかる▼原因究明には時間がかかるのは理解するが、2カ月以上。その間も問題のサプリを口にした人がいるはずだ。それでは温まると信じてブランデーを飲み続ける遭難者だろう▼原因の方も「想定外の成分」とは要領を得ない。それは何か。なぜ、そんな成分が。「徹底解明」という機能性を表示した効き目ある「サプリ」がほしい。


今日の筆洗

2024年03月27日 | Weblog

『ダブリン市民』などのアイルランド作家、ジェームズ・ジョイスは借金取り撃退の名手だったと伝わる。返済を迫られると、ほんの少しだけ返す。あとは音楽や政治の話でうやむやにしてしまうのだそうだ▼この方法にどれだけの効果があったか定かではないが、まるっきり返さないわけではなく、少しは返すというのがコツなのだろう。返す気のあることは「演出」できる▼ジョイスの「撃退法」を思い出してしまった。自民党の二階俊博元幹事長。党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡る政治責任を取るとして、次の衆院選に出馬しない意向を表明した▼以前から引退説がささやかれていたとはいえ、不出馬が政治家にとっては大きな決断であることはひとまず認めよう。なれど裏金問題による政治不信の大きさを「借金」にたとえるなら不出馬だけでは「ほんの少し」返しただけにすぎまい▼自身の秘書や二階派の元会計責任者が立件されている。政治責任を取るとおっしゃるのなら裏金づくりの経緯についてまずつまびらかにするのが筋だろう。不出馬とはいえ、肝心の真相の方がうやむやでは有権者の方は返すものを返してもらっていない気になる▼不出馬表明を受け、自民党は二階さんへの処分を見送るという。こういう「裏取引」めいたやり方が世間の信用を失わせていることに自民党はまだ気が付かないらしい。


今日の筆洗

2024年03月26日 | Weblog

落語の「抜け雀(すずめ)」の舞台は小田原の宿。あまり繁盛していない宿屋の主人が客を呼び止める触れ込みがおもしろい▼「手前どもはこの小田原の宿で、一、二(大声で)…よりは下がります。三(やはり大声で)よりはやっぱり下がりますが、でも四よりは…下がるんで…」。高い評判を取っているのかと思って聞いていれば順位がどんどん下がっていく▼貧しいながらも、正直な宿屋の主人の顔が浮かんでくるが、近ごろは怪しげな「1位」を宣伝し、消費者の目を欺く商売が後を絶たないらしい。商品やサービスに合理的な根拠のない「No.1」を表示する広告などに対し、消費者庁が実態調査に乗り出すそうだ▼商品やサービスを実際に利用したかどうかを問わず、ウェブサイトの印象だけの調査で「満足度No.1」。そんなやり方もあるようで、でたらめな「No.1」がまかり通るのなら、消費者の不信度の方が「No.1」になるだろう▼ねじ曲げたアンケート結果で「1位」を演出するリサーチ会社もあると聞く。根拠のない「No.1表示」はもちろん、景品表示法違反であり、消費者を混乱させるやり口を実態調査で封じたい▼似た商品が並んでいれば根拠がなかろうと「No.1」の方に手を伸ばしたくなるのが人情か。よく分かるのだが、消費者の方も大声の「1位」をうかつに信用せず、むしろ警戒したい。


今日の筆洗

2024年03月25日 | Weblog
 青森市のねぶた祭の掛け声は「ラッセラー」。一説によるとろうそくや菓子を「出せ出せ」とねだる文句らしい▼同じ青森県でも弘前市のねぷたまつりは「ヤーヤドー」。こちらは「いや、いや、いやよ」という文句と関係があるそうだ。比べると、五所川原市の立佞武多(たちねぷた)の掛け声が最も強気に聞こえる。「ヤッテマレ」。意味は「やってしまえ」である▼千秋楽の大一番。歴史的な優勝を目指した郷土の若き力士に向かって、地元の五所川原では「ヤッテマレ」の大声援がわいていたことだろう。大相撲春場所は新入幕の尊富士が豪ノ山を破り、初優勝を飾った▼今場所中、何度も聞いた記録なので、覚えてしまったという人も多いか。「新入幕力士の優勝は1914年夏場所の両国以来、110年ぶり」。「ヤッテマレ」の期待に応え、その偉業を「ヤッテノケタ」。快挙というしかない▼優勝インタビューで「体がきつかった」と語っていた。それはそうだろう。前日に右足を痛め、救急車で搬送されている。土俵に上がるのもつらかったはずだが、気持ちの強さで勝利と大記録を離さなかったか▼110年前に新入幕優勝を果たした両国という力士。なんでも、以降は一度も優勝できなかったそうだ。縁起の悪い話か。いや、大銀杏(おおいちょう)の結えぬ髪ながらも不思議な風格さえ漂う、気力と落ち着きの力士には関係のない話と信じる。
 
 

 


今日の筆洗

2024年03月23日 | Weblog
 宮城県名取市閖上(ゆりあげ)地区では日曜と祝日に「ゆりあげ港朝市」が開かれる。漁港近くで魚や野菜などが売られ、40年を超す歴史があるが、13年前の東日本大震災で一帯は津波に襲われた▼うちひしがれる人々の役に立とうと、数キロ内陸にあるショッピングセンター駐車場を借り朝市を再開したのは震災の約2週間後。家族を亡くした人も販売に加わった▼買い物客から「ありがとう」と握手攻めにあい、ポロポロ泣けてきたと朝市協同組合理事長の桜井広行(こういち)さんは振り返る。間借りの駐車場で日曜開催を続け、閖上の元の場所に朝市が戻ったのは震災2年後である▼能登半島地震で大規模火災が起きた石川県輪島市で千年を超す歴史を誇る朝市。店主らは今日、金沢市で出張朝市を震災後初めて開く。店のおばちゃんたちの「こうてくだー(買ってって)」という声が久々に聞けそうだ▼今後も県内外に出張し、輪島の街が蘇(よみがえ)って市を再開できる日を待つ。昨日、輪島の焼け跡を訪れた天皇、皇后両陛下に坂口茂市長が出張朝市のことを伝えると皇后さまが「一日も早く戻ってきて復興できるようになれば」と期待を示されたという。多くの人が共有する思いであろう▼閖上に朝市が復活した日は約1万5千人でにぎわったと地元紙の河北新報が伝えていた。写真の買い物客は本当にうれしそうに笑っていた。輪島でも、いつか見られる。
 
 

 


今日の筆洗

2024年03月22日 | Weblog
ロシア語通訳で作家の故・米原万里さんは父親の仕事の都合で小学生の時、旧チェコスロバキアのプラハに移り、ロシア語で授業をする現地の学校に通った▼当初、言葉は理解できず、何も分からない授業に何時間も出席することは耐えがたい苦痛だった。最も悔しく寂しかったことは、みんなが笑っている時に一緒に笑えなかったことだったという▼人間にとって、みんなと一緒に笑えて、一緒に感動できることは喜び。通訳として、いつもそれを目指していると講演で語っていた▼米大リーグの日本人スター選手が、異国のチームメートやファンらとともに笑いあえるよう仕事をしてきたはずの人の不祥事が昨日、伝えられた。今季からドジャースでプレーする大谷翔平選手の水原一平通訳が球団に解雇された▼違法な賭博への関与が伝えられている。詳細は不明だが、賭け事のため、大谷選手の多額の金品を盗んだという米報道もあるという。大谷選手が属していた日本ハムで通訳をし、ともに渡米してエンゼルス時代からいつもそばで支えた。人は時に過ちを犯すものではあるが、信頼していた盟友に裏切られた形の大谷選手の心中を思う▼米原さんは「人間は常にコミュニケーションを求めてやまない動物」とも語った。分かりたい、分かってほしいと願うのはそれが簡単でないゆえか。一緒に笑える時の貴さが身に染みる。
 
 

 


今日の筆洗

2024年03月21日 | Weblog
 江戸末期の医師を描いた森鷗外の『渋江抽斎(しぶえちゅうさい)』の中に流行病の麻疹(ましん)(はしか)に薬効があるとされた二つの葉のことが出てくる。「御柳(ぎょりゅう)の葉」と「貝多羅葉(ばいたらよう)」。民間薬として用いられ、流行時には渋江の家にもらいにくる人が大勢いたと書いている▼「貝多羅葉」とはモチノキ科の「タラヨウ」。この葉の裏に爪などで傷をつけると黒く変色するので字を書ける。葉書(はがき)の語源と伝わるが、この特性を生かした使い道もあった。<麦殿は生まれぬ先にはしかして かせたる後はわが身なりけり>。この歌を葉に書いて川に流せば、はしか除(よ)けになると信じられていた▼はしかを退治する大明神の「麦殿」の力をあてにしたくなる。はしかの感染者が国内で相次いで報告されているそうだ▼「麻疹は命定め」とは江戸時代のたとえだが、感染力が極めて強く、今も重症化や死亡のリスクもある。警戒したい▼世界的に流行しており、昨年、欧州では前年比で約30倍の症例が確認されている。コロナ禍で、はしかワクチンを接種する子どもが減ったことも影響しているとも聞く。その流行が列島にも手を伸ばす▼あの歌の<生まれぬ先にはしかして>とは生まれる前に一度、はしかにかかっており、免疫があるという意味だろう。残念ながら、あくまでもおまじないの文句で、免疫を得るにはやはりワクチン接種ということになる。
 
 

 


今日の筆洗

2024年03月19日 | Weblog

 1962年、ケネディ米大統領の誕生祝賀会でマリリン・モンローが歌った、「ハッピーバースデー、ミスタープレジデント」。あだっぽい歌声を思い出すが、歌詞に企業の名が出てくる▼米鉄鋼大手のUSスチール。<大統領、あなたが成し遂げたすべてのことに感謝します。あなたの勝利した闘い、あなたのUSスチールへの対処法…>。時期からしてUSスチールなどが一方的な値上げに動いた際、ケネディが強く非難し、値上げを撤回させたことを指しているのだろう▼どうやら、現在の大統領も大統領候補も同社への「対処法」で称賛を集めたいらしい。日本製鉄のUSスチール買収問題である。トランプ前大統領が買収を認めぬと発言したのに続き、バイデン大統領も反対姿勢を示した▼橋、鉄道、自動車。その鉄で、20世紀の米国の発展を支えた同社は長い間、国の繁栄と強さを象徴する企業だった。今や世界との競争で後れを取り、衰えたとはいえ、同社が海外企業に買収されるとなれば、米国民の心情として認めたくないところもあるのだろう▼時期も悪い。本社のあるペンシルベニア州は大統領選で民主、共和両党がしのぎを削る激戦州。企業同士が合意した買収だが、バイデンさんもトランプさんも地元の反対論を敵に回せない▼岸田首相の4月訪米でどうなるかだが、円満な「対処法」は当分、期待できまい。