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今日の筆洗

2024年07月19日 | Weblog

 日本人がマグロのすしを食べるようになったのは江戸後期以降。切り身をしょうゆに漬けてネタにし、屋台で供されたという。今のような高級魚ではなく大衆魚の位置付け▼さっぱりした赤身が重宝され、脂の多いトロは敬遠された。動物の肉を食べることが一般的でなく、食感が似たトロは好まれなかったようだ▼トロ人気の急騰は食の西洋化が進み、牛肉などを食す人が増えた戦後。冷凍技術の改良も進み、日本は世界中の海でマグロをとった▼太平洋クロマグロの資源管理を話し合う国際会議が閉幕し、来年以降の全体の漁獲枠を大型魚で1・5倍、小型魚で1・1倍に拡大することで合意した。価格が下がり、食卓に並ぶ機会が多くなるかもしれない。喜ぶべきニュースなのだろう▼いささかとり過ぎたせいで導入された国際的な規制。資源に一定の回復傾向が認められたから合意に至ったのだが、日本が当初求めた拡大幅はもっと大きかった。増枠に正面から反対せずとも、資源管理は慎重であるべきだと訴えた国々があったようだ。野生の生き物が相手ゆえ、その考えも分かる。当面は抑制を続けるほかないのだろう▼鮪(まぐろ)は冬の季語。暑い盛りに季節外れだが、歳時記にこんな句があった。<遠つ海の幸の鮪を神饌(しんせん)となす 黒田晃世>。長いつきあいになった魚は神に供え、ともに味わうのにふさわしい。永続を祈りたい。


今日の筆洗

2024年07月18日 | Weblog
『阿修羅のごとく』などの脚本家、向田邦子さんがライスカレーの思い出を『父の詫(わ)び状』に書いていた。子ども時分、夕食にカレーが出る場合は2種類のカレーを作っていたそうだ▼大きな鍋は家族用で、もう一つの小鍋の方は「お父さんのカレー」。お父さん用は大人向きの辛口で「肉も多く色も濃かった」。向田さんは早く大人になって辛い方のカレーを食べたいと思っていたという▼向田さんの憧れの方は分かるが、タバスコの数百倍の辛さと聞けば、こちらの辛さを求める気持ちは正直、理解できない。都内の高校で極めて辛い味のポテトチップスを食べた複数の生徒が口や胃の痛みなどを訴え、病院に搬送される騒ぎがあった▼軽症と聞き、ほっとするが、なにも病院に運ばれるほどの「辛酸」を自らなめることもあるまいに。いわゆる激辛ブームの影響か。若い人の中には辛いものを食べることを一種の遊びや肝試しのように考える人もいるのか▼辛み成分のカプサイシンが一種の多幸感をつくるらしいが、度を越えた辛みは食道や胃腸を痛める危険が高い。それに辛いものが食べられたとて、なんの自慢にもなるまいて。こちらの見方も辛口になる▼高校生が食べたチップスは「18歳未満禁止」をうたっていたが、18歳以上の方もご注意を。同じものを試した60歳の家人が気分が悪いと言い出した。ほんの一かけらで。
 
 

 


今日の筆洗

2024年07月17日 | Weblog

ラグビー元日本代表のウイング、福岡堅樹さんは子どものころピアノを習っていた。お気に入りはベートーベンの「悲愴(ひそう)」で繰り返し練習したという▼そのせいか、ラグビーの試合中でも頭の中でベートーベンの曲が流れていたそうだ。頭の中の曲が集中力を高め、気持ちを落ち着かせる効果があった。試合中の運動選手には独特なメンタル術がある▼この選手もユニークな方法で試合に臨んでいたようだ。女子ゴルフのアムンディ・エビアン選手権で優勝した、古江彩佳選手。日本勢の女子では樋口久子さん、笹生優花選手らに続く4人目のメジャー大会優勝者となった▼最終日のプレー中に「メイ・ザ・フォース・ビー・ウィズ・ユー(フォースと共にあらんことを)」と頭の中で唱えていたと聞く▼映画「スター・ウォーズ」のファンならおなじみだろう。説明が難しいが、「フォース」とは一種の超能力で、この言葉は善の心を持つジェダイ戦士たちの合言葉になっている。古江さん、この文句で自分を落ち着かせていたらしい▼最大で3打差開いたトップとの差を終盤の5ホールで逆転。15番で決めた12メートルのバーディーパットや18番パー5の2オンを思えばなるほど「フォース」を信じたくなったが、無論、優勝は不思議な力のおかげなどではなく、正確なショットと小技のうまさ、それに諦めなかった強い心の賜物(たまもの)である。


今日の筆洗

2024年07月16日 | Weblog
米国の南北戦争で北軍を勝利に導いたグラント将軍が劇場に招待された。その日は娘と会う予定があり、欠席した▼その劇場で事件が起きる。芝居を見ていたリンカーン大統領が南部を支持する男に撃たれ、死亡。1865年のリンカーン暗殺事件である。男はグラントも標的にしていたとされ、欠席が幸いし、難を逃れた▼危うさでいえばグラントの比ではなかろう。昨日のトランプ前大統領の暗殺未遂事件である。銃弾が耳をかすり、血を流している姿が痛々しい。命に別条はないが、弾があと数センチでもずれていたら。考えただけでおぞけ立つ▼銃撃現場となった選挙集会に参加していた1人が亡くなっている。この事件でやはり撃たれ、傷ついているものがあるとすれば、それは米国の民主主義そのものだろう▼撃った人物の狙いは分からない。どんな理由であれ、意見が異なるからといって大統領選に出馬するトランプ氏を暴力で排除しようとするのであれば、それは民主主義と選挙を「狙撃」したのと同じである。主張の違いで憎悪を深め合う米国の分断はついにここにまで至ったのか。それをあおっているのがトランプ政治でもあるが、暴力や銃弾ではなに一つ、解決できまい▼11月の大統領選まで約4カ月。事件に刺激され、別の暴力や騒動などが起きなければよいが。撃たれた米国の民主主義の傷の具合が心配である。
 
 

 


今日の筆洗

2024年07月13日 | Weblog

「うん、ほんまに横綱になったんや、母ちゃん」。1974年の大相撲名古屋場所後、21歳2カ月の史上最年少で横綱昇進が決まった北の湖は、宿舎だった名古屋の法持寺から故郷北海道の母に電話で伝えた▼前の場所で優勝し、名古屋の14日目に13勝に達した時点で昇進確実に。取組後に「こんなに長く感じた場所はなかった。特に8日目から今日までが、たまらないほど長かった」と語った▼千秋楽の本割と優勝決定戦はいずれも横綱輪島の左下手投げに屈したが、文句なしの昇進。冒頭の母への言葉は石碑となり、寺の境内に残る▼今年の名古屋場所は明日が初日である。来年から新施設に会場を移すため愛知県体育館(ドルフィンズアリーナ)では最後。会場になった65年以降、北の湖の綱とりをはじめ幾多のドラマがあった▼72年、ハワイ出身の高見山が外国出身力士として初優勝。表彰式でニクソン米大統領の祝辞を駐日大使が読み上げると、涙を流した。93年、曙が貴ノ花、若ノ花との三つどもえの優勝決定戦を制した。曙が若貴に連勝して決し、期待の兄弟対決は見られなかったが、関東地区の視聴率は66・7%に達したという▼北の湖は「憎らしいほど強い」と言われる横綱になるが、名古屋で輪島に連敗した屈辱が原動力になったと後に語った。名勝負は敗者をも育てるのだろう。区切りの場所でも見たいものだ。


今日の筆洗

2024年07月12日 | Weblog
医療法人・徳洲会の理事長室の応接ソファ前のテーブルに、理事長側からだけ見えるような小さな字でこう書いてあったという。「チャックを閉めろ」。創設者徳田虎雄さんが部屋の主(あるじ)だった時の話▼開けたまま客をよく迎えた証左でいかにも他人の視線を気にせぬ人らしい。実像を追ったジャーナリスト青木理さんの著書から引いた▼鹿児島・徳之島出身で「命だけは平等だ」と離島医療に力を入れる徳洲会を率い、衆院議員も務めた徳田さんが亡くなった。体の自由を失う筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症して久しいが、毀誉褒貶(きよほうへん)相半ばした▼「年中無休。24時間オープン」「患者からの贈り物はお断り」と掲げる病院を各地に建設。患者を奪われる医師会を敵に回した。徳之島を含む奄美群島が選挙区。衆院選や地方選での買収合戦は有名だ。政治家になるのも理想の医療実現のため。金をばらまき、系列病院の職員を動員した。逮捕間近の仲間が急きょ入院し警察を怒らせたこともあった▼貧農の長男。小学生の時に3歳の弟が体調を崩し、夜道を走って往診を頼んだがすぐ来てもらえず、死なせた怒りが離島医療を志した原点という。反骨の人は純粋で、強引で、汚れてもいた▼「何もかも巻き込んでいく台風」と呼んだのは生前に親交があった作家の城山三郎さんという。過ぎ去った後の喪失感に襲われる人もいよう。
 
 

 


今日の筆洗

2024年07月11日 | Weblog
クロボウズギスは体長10センチほどのイワシに似た深海魚で、水深千メートル付近の中深層に棲(す)んでおり、日本では相模湾以南で見つかるそうだ▼貪欲な魚らしく、おかしな英語名が付いている。「スワローワー」。のみ込み屋、大食漢というところか。その名の通り、口が大きい上に、胃袋を広げることができ、自分より大きな魚をパクリと丸のみにする▼深海魚も顔を赤らめるほどの、がめつい口を想像してしまった。海上自衛隊の不祥事である。潜水任務にあたる複数の隊員が実際には潜っていないにもかかわらず、潜水手当を不正に受け取っていた▼潜水の任務や訓練では潜る深度に応じて、手当が出るそうだが、これを潜りもしないで、ちゃっかり丸のみとは腹が立つ。不正に受け取っていた手当の総額は数千万円に及ぶという。国民を守る自衛隊員が国民のお金をだまし取った-とは言い過ぎではあるまい▼海自には別の「大食漢」もいるらしい。潜水艦の修理契約などに絡んで川崎重工業から潜水艦の乗組員が商品券などを受け取っていたとの疑いが出ている。こちらは少なくとも十数億円。あきれる▼相次ぐ海自の不祥事、疑惑を徹底的に解明しなければなるまい。深海魚の口が大きいのはエサの少ない過酷な環境に対応したためだが、なにが自衛隊員たちに道を誤らせているのか。不祥事の海に潜む怪物の「正体」を暴きたい。
 
 

 


今日の筆洗

2024年07月10日 | Weblog
<苦しいこともあるだろさ/悲しいこともあるだろさ/だけどぼくらはくじけない/泣くのはいやだ笑っちゃおう>-。1964年の放送開始から60年となるテレビ人形劇「ひょっこりひょうたん島」の主題歌で作詞は井上ひさしさんと山元護久さん▼歌詞と、井上さんが笑いにこだわった理由が重なる。人はいつか死んでしまう。そういう人の悲しい運命を忘れさせ、運命に一瞬でも抵抗するのが、笑いであり、笑いを作ることは「人間の出来る最大の仕事」だと書いていらっしゃる▼井上さんの故郷、山形県の「笑っちゃおう」の試みはうまくいくか。山形県議会が県民に1日1回、笑うことを努力義務とする条例を成立させた。全国でも初めてという▼笑いが心身に良い影響を与えることを踏まえ、県民によく笑ってもらい、健康増進につなげる狙いだそうだ▼意図は理解できるが、条例で笑えと言われて笑えるほど人は器用にできていない。笑おうが笑うまいが、人の自由と考える方もいらっしゃるだろう▼「笑いは共同作業。人と関わってお互いに共有しないと意味がないものでもあります」。これも井上さん。条例やら「1日1回」やら無理強いめいた言葉が出てくれば、どうしたって笑いは引っ込んでしまうものだ。笑いを求める条例だが、出てくるのは嘲笑や苦笑ばかりならば、健康に良い効果はあまり期待できまい。
 
 

 


今日の筆洗

2024年07月09日 | Weblog
外野手は目測を誤ったか。強い打球は外野手の頭上を越え、フェンスに向かって転がっていく▼逸(そ)らした外野手はボールを必死に追いかける。夏の強い日差しの中、土ぼこりを巻き上げながらボールに向かって、全速力で走っていく▼1試合の中で何度、こんな場面を見ただろう。高校野球の西東京大会に出場した青鳥特別支援学校。まずい守備をからかっているのではない。常に全力の青鳥のプレーが美しかった。守備ばかりではない。打席ではボールをなかなかとらえられない。けれども、どの打者も決してうつむかない。バットを高く構え、投球を待つ。今度こそは打つ-。ひたむきで真剣な野球が夏空の下、美しく輝いた▼特別支援学校の単独出場は全国でこれが初。66対0(五回コールド)と敗れたが、それがなんだというのだろう。高校野球の新たな歴史を刻むのにふさわしい熱戦だった▼入学後、初めて硬式球を握るという選手もいる。中学時代、野球部に入るのを断られた選手もいると聞く。野球をしたい。大会に出たい。願いをかなえた青い鳥たちはグラウンドで思う存分、羽ばたいた▼対戦した東村山西にも敬意を表する。決して、相手をあなどることも手を抜くこともなかった。手加減なしの相手だからこそ青鳥の放った1安打、奪った三振、重ねたアウトの一つ一つが大きく輝く。ナイスゲーム。来夏も待つ
 
 

 


今日の筆洗

2024年07月08日 | Weblog
<風が吹き吹き笹藪(ささやぶ)の、笹のささやきききました>-。童謡詩人、金子みすゞの「七夕のころ」である。<笹のささやきききました>のリズムが耳に心地良い▼<もう七夕もすんだのか、天の川ともおわかれか>。七夕が終わった寂しさ。<五色きれいなたんざくの、さめてさみしい、笹の枝>▼選挙ポスターが撤去されるのがさみしいとは一切思わないが、七夕の選挙となった東京都知事選が終わった。現職の小池さんと蓮舫さんらの激戦が伝えられていたが、小池さんが大差をつけたか、ずいぶん早く「当確」が付いた▼有権者はこのタイミングでの都政の刷新を望まなかったようである。1期目に小池さんが掲げた公約「七つのゼロ」。大半は実現していないものの、待機児童ゼロなど小池さんの取り組みに対し、今しばらく、見守ってみようという気分もあったのだろう▼対立候補との論戦を回避し、自民党との関係を選挙戦であまり表に出さなかったことも勝因となった-とは勝者に対し、皮肉がすぎるか▼小池さんには再度<笹のささやきききました>を教えたくなる。当選したからと独善に走らず、選挙戦で聞いた都民の声や対立候補の意見も大切な「ささやき」として耳を傾けていただきたい。神宮外苑の再開発問題についてもしかりである。都民の書いた願いの短冊。それは小池さんへの白紙委任状ではなかろうて。