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今日の筆洗

2024年07月27日 | Weblog
歌人の斎藤茂吉が小学生時代の旅行について書いている。故郷の山形県南村山郡(現・上山市)から山々を越え、日本海側の酒田市を目指す行程だったようだ▼ある夜のこと。先生が皆を寝かしつけ、別の部屋で宿の女性と酒を飲んでいたそうだ。翌朝の先生は上機嫌でこう言った。「先生は昨夜は酒のんだ。けんど、日記さ付けんな」(『最上川』)。茂吉たちは大目に見たようである▼別の小学生たちの話である。こちらは目撃した町議の姿にがまんできなかったのだろう。議会中にスマートフォンでゲームをしていた宮城県大河原町の町議が辞職した。発端は議会見学に来ていた小学生たちの感想文。「議員としていいのか」と書いた▼これが議会で問題となり、辞職勧告決議を受けての顚末(てんまつ)だが、子どもの感想文から辞職とは聞いたことがない▼議会中にゲームと聞いても大人は半ば、あきらめ顔で議員なんてそんなもんさと冷笑を浮かべるばかりか。が、子どもにとっては町のために真剣に働いてくれているはずの議員だろう。議会中に遊んでいる姿を見たときには大きなショックだったに違いない。傷つけたのは町議会の信用に加え、大人全体の信用である▼地方議会に限らず、国会でも審議中の不作法を耳にする。子どもの「大人はこうあってほしい」を裏切りたくない。議場に「感想文注意」とでも張っておきますか。
 
 

 


今日の筆洗

2024年07月26日 | Weblog
 昔、洋酒のCMにこんなのがあった。夜の路上で男性が困った様子の女性にそれなりの額のお金を差し出している▼この様子を見ていた友人が「だまされたな」という。「今の人、病気の子どもがいるって言ったろ。あれ、うそなんだ」。そう聞いても男性はほほ笑んでいる。「よかった。病気の子どもはいないんだ」-▼自分なら全速力で女性を追うなあ。CMを見るたびに己の心の狭さを非難されているような気になったが、こっちのうそばかりは「よかった。救助を求める人はいなかったんだ」とはなるまい。能登半島地震の発生直後、交流サイト(SNS)にうその救助要請を投稿した容疑者が偽計業務妨害の疑いで逮捕された▼「倒壊した家屋に家族が挟まれた」などとまったくのうそを十数回も投稿していたという。情報を受けた警察が実際に出動している。窮地にある人をなんとか助けたいと願い、懸命に捜し回った人がいる。そう想像しただけでうそ投稿に腹が立つ▼救助、捜索に一刻の猶予も許されぬ震災直後である。うそで救出作業が振り回されたら助かるはずの命まで危険が及ぶ。災害時の虚偽情報には厳しく対処せざるを得まい▼「震災に便乗して自分の投稿に注目を集めたかった」という。注目ほしさで現地の叫び声や慟哭(どうこく)への想像力まで失ってしまったか。心ない投稿が集めるのは非難ばかりであろうに。
 
 

 


今日の筆洗

2024年07月25日 | Weblog
1926(大正15)年生まれの鉄道紀行作家、宮脇俊三さんは東京の渋谷に育ったので渋谷駅で帰らぬ主人を待つハチ公を見ている▼見かけたのはハチ公の晩年だろう。いつも生気なく横たわっていたという。誰かがエサを与えても気だるく眺めるだけでその姿勢を変えなかったそうだ。老いても「品格のある犬だった」▼ハチ公の珍しい写真が最近公開された。ハチ公が「お手」をしている。エサか何かを差し出す駅員に腰を上げたままの姿勢で左の前脚を差し出している。不思議な「お手」である▼飼い主の上野英三郎・東京帝国大教授は犬の心を卑しくするからとエサで芸を教えることを嫌っていたそうだから、ハチ公は主人の死後に、駅で「お手」を覚えたか。「お手」ばかりか、「おすわり」「おまわり」ができたという証言もある▼ハチ公の写真の顔といえば、真面目でどこか悲しげなものが多い気がする。この手のユーモラスな写真があまり出回らなかったのは、ハチ公の主君の恩を忘れぬ「忠犬」のイメージのせいもあるか▼あくまで想像だが、主人を待ち続けるハチ公を「忠君愛国」に結び付けたかった時代にあっては、エサに釣られて芸をするような姿は「忠犬」にふさわしくないと考えられていたのかもしれぬ。写真をもう一度見る。このハチ公、忠犬も品格も脇に置いて、ちょっと笑っているのが、うれしい。
 
 

 


今日の筆洗

2024年07月24日 | Weblog
<煙を水に横たえて/わたる浜名の橋の上/たもと涼しく吹く風に/夏ものこらずなりにけり>。1900(明治33)年発表の「鉄道唱歌」の28番。浜松駅を過ぎ、豊橋駅へ向かうところだろう▼浜名湖に架かる鉄道橋の上を走る汽車。冷房のない当時の車内でも浜名湖の上を通るときはいくらかの涼しさを感じたか▼東海道新幹線は22日、保守用車両の脱線事故の影響で浜松-名古屋間が上下線とも運転を見合わせるなど大混乱した。運休となっていた区間にあの歌詞が浮かんだが、<夏ものこらずなりにけり>どころか、猛暑の中の足止めに利用客はさぞお疲れになったことだろう▼運休は上下線で計328本。約25万人に影響が出た。旅行に仕事。夏休みを取って故郷の両親に会いに出かけた人もいるか。誰もが目的を持ってどこかへ向かおうとしていた。新幹線は定刻通りに動くもの。その当たり前が崩れてしまえば、生活も楽しみも成り立たない▼保守用車両に別の保守用車両が衝突し、脱線につながったが、衝突の原因がまだ、分からない。新幹線の安全な運行に日夜、取り組む人々にも今回の事故は衝撃に違いない。原因を究明し、再発を防ぎたい。「世界一安全」とされた新幹線だが、このところ事故も目立つ▼<神戸のやどに身を置くも/人に翼の汽車の恩>。再び「鉄道唱歌」の神戸駅。人の大切な翼を守りたい。
 
 

 


今日の筆洗

2024年07月23日 | Weblog

ダンスパーティーに行くことになった少年。父親のシャツを借りることにしたが、袖口を留めるカフスがない▼母親が工具箱のナットとボルトを出してきた。これで袖を留めなさいという。少年は「いやだよ。ママ。みんなに笑われる」。母親は譲らない。「何か言われたらこう言ってやるの。こんなの持ってないだろって」。少年はその通りにした▼少年とはバイデン米大統領。大統領選からの撤退表明にこの逸話が浮かんだ。誰かに笑われても気にするな。そう教えられてきた人には無念の撤退だったに違いない▼トランプ前大統領との討論会での不振と、民主党内に高まっていた「バイデン大統領では勝てない」の声。大統領は不安と疑問のカフスを付けてでも選挙戦を続けたかっただろうが、最終的には意地よりもトランプ氏に再び政権を渡さぬ道を選んだのだろう▼これで民主党の候補選びは振り出しに戻った。副大統領のカマラ・ハリス氏が後継候補の筆頭だが、党内はすんなりとまとまるか。ハリスさんで本当にトランプ氏に勝てるかどうかの疑問も出るだろう。大統領選まで時間もない▼妻、ジル・バイデンさんの自伝によるとバイデン家には「頼まれてからやるのでは遅すぎる」という家訓があるそうだ。困っている人には早く、手を差し伸べなさいという意味だが、今回の撤退表明は少し、遅すぎたかもしれない。


今日の筆洗

2024年07月22日 | Weblog

 町の高台に立っていた王子の像が貧しい人々の暮らしを目撃する。王子の像は嘆き悲しみ、ツバメを使って、自分の体から宝石や体を覆う金箔(きんぱく)をはがし、困っている人に届けさせる▼アイルランド人作家、オスカー・ワイルドの童話『幸福な王子』。その身を犠牲にした像は次第にみすぼらしくなる。「そしてとうとう幸福の王子はまるで冴(さ)えない灰色になってしまった」(富士川義之訳・岩波文庫)▼灰色の王子よりもひどい姿となった米ワシントン州シアトル市内の銅像を見るのがつらい。広島で被爆した少女、「サダコ」さんの像が何者かによって盗まれてしまった▼モデルは広島にある「原爆の子の像」と同じ佐々木禎子さん。被爆後、白血病を発症し、12歳で亡くなった。シアトルでも平和のシンボルとなっていたその像が切断され、今はわずかに足首を残すばかりである。「サダコ」さんや、平和を願う心が踏みにじられた気になってしまう▼地元の報道では高騰している銅を狙って盗まれた可能性がある。許されぬ犯罪だが、犯人は「サダコ」さんの人生も原爆のむごさも知らないで、悪心を起こしたと信じたくなる▼あの童話では神さまが灰色の王子の像とツバメを天国に連れていく。「サダコ」さんの像にも幸せな結末を用意したい。盗まれた像を再建するため、シアトルでは早くも寄付集めが始まっているそうだ。


今日の筆洗

2024年07月20日 | Weblog
 『たけくらべ』を書いた作家樋口一葉は1896年に24歳で没した。香典を寄せた人の名を記した香典帳が残され、一葉研究で知られる評論家の和田芳恵が随筆でその内容に触れている▼名を連ねた人や団体は60超。文人では泉鏡花、森鷗外らが贈った。出版関連の団体も。編集者、一葉を慕う文学青年、友人、親戚筋と思われる人の名もあるという▼香典帳には故人の人生を彩った人の名が載る。現代の葬儀会社も香典返しを忘れるなどの不義理をしないため作成を勧めている▼それに名を載せたいと議員は願うものなのか。堀井学衆院議員が北海道の選挙区の複数の有権者に違法に香典を渡した疑いが強まったとして検察が捜査を始め、議員は自民党を離党した▼議員名義の香典を秘書らに持参させた疑いがあるという。法によると、政治家本人が葬儀などに香典を持参した場合は処罰されない。議員らにも死に際し不義理ができぬ人間関係はあると認め、代理の持参でばらまくことを禁じたのだろう。疑いが事実なら「香典返し」の票が欲しかったのか。堀井氏は先の安倍派裏金事件で金を得たことを認め、次の選挙への不出馬を表明していたが、その金が原資になった疑いもあるという▼五輪スピードスケートの銅メダリストで衆院当選4回。期待して投票用紙に名を書いた人の落胆を思う。不義理と言われても仕方あるまい。
 
 

 


今日の筆洗

2024年07月19日 | Weblog

 日本人がマグロのすしを食べるようになったのは江戸後期以降。切り身をしょうゆに漬けてネタにし、屋台で供されたという。今のような高級魚ではなく大衆魚の位置付け▼さっぱりした赤身が重宝され、脂の多いトロは敬遠された。動物の肉を食べることが一般的でなく、食感が似たトロは好まれなかったようだ▼トロ人気の急騰は食の西洋化が進み、牛肉などを食す人が増えた戦後。冷凍技術の改良も進み、日本は世界中の海でマグロをとった▼太平洋クロマグロの資源管理を話し合う国際会議が閉幕し、来年以降の全体の漁獲枠を大型魚で1・5倍、小型魚で1・1倍に拡大することで合意した。価格が下がり、食卓に並ぶ機会が多くなるかもしれない。喜ぶべきニュースなのだろう▼いささかとり過ぎたせいで導入された国際的な規制。資源に一定の回復傾向が認められたから合意に至ったのだが、日本が当初求めた拡大幅はもっと大きかった。増枠に正面から反対せずとも、資源管理は慎重であるべきだと訴えた国々があったようだ。野生の生き物が相手ゆえ、その考えも分かる。当面は抑制を続けるほかないのだろう▼鮪(まぐろ)は冬の季語。暑い盛りに季節外れだが、歳時記にこんな句があった。<遠つ海の幸の鮪を神饌(しんせん)となす 黒田晃世>。長いつきあいになった魚は神に供え、ともに味わうのにふさわしい。永続を祈りたい。


今日の筆洗

2024年07月18日 | Weblog
『阿修羅のごとく』などの脚本家、向田邦子さんがライスカレーの思い出を『父の詫(わ)び状』に書いていた。子ども時分、夕食にカレーが出る場合は2種類のカレーを作っていたそうだ▼大きな鍋は家族用で、もう一つの小鍋の方は「お父さんのカレー」。お父さん用は大人向きの辛口で「肉も多く色も濃かった」。向田さんは早く大人になって辛い方のカレーを食べたいと思っていたという▼向田さんの憧れの方は分かるが、タバスコの数百倍の辛さと聞けば、こちらの辛さを求める気持ちは正直、理解できない。都内の高校で極めて辛い味のポテトチップスを食べた複数の生徒が口や胃の痛みなどを訴え、病院に搬送される騒ぎがあった▼軽症と聞き、ほっとするが、なにも病院に運ばれるほどの「辛酸」を自らなめることもあるまいに。いわゆる激辛ブームの影響か。若い人の中には辛いものを食べることを一種の遊びや肝試しのように考える人もいるのか▼辛み成分のカプサイシンが一種の多幸感をつくるらしいが、度を越えた辛みは食道や胃腸を痛める危険が高い。それに辛いものが食べられたとて、なんの自慢にもなるまいて。こちらの見方も辛口になる▼高校生が食べたチップスは「18歳未満禁止」をうたっていたが、18歳以上の方もご注意を。同じものを試した60歳の家人が気分が悪いと言い出した。ほんの一かけらで。
 
 

 


今日の筆洗

2024年07月17日 | Weblog

ラグビー元日本代表のウイング、福岡堅樹さんは子どものころピアノを習っていた。お気に入りはベートーベンの「悲愴(ひそう)」で繰り返し練習したという▼そのせいか、ラグビーの試合中でも頭の中でベートーベンの曲が流れていたそうだ。頭の中の曲が集中力を高め、気持ちを落ち着かせる効果があった。試合中の運動選手には独特なメンタル術がある▼この選手もユニークな方法で試合に臨んでいたようだ。女子ゴルフのアムンディ・エビアン選手権で優勝した、古江彩佳選手。日本勢の女子では樋口久子さん、笹生優花選手らに続く4人目のメジャー大会優勝者となった▼最終日のプレー中に「メイ・ザ・フォース・ビー・ウィズ・ユー(フォースと共にあらんことを)」と頭の中で唱えていたと聞く▼映画「スター・ウォーズ」のファンならおなじみだろう。説明が難しいが、「フォース」とは一種の超能力で、この言葉は善の心を持つジェダイ戦士たちの合言葉になっている。古江さん、この文句で自分を落ち着かせていたらしい▼最大で3打差開いたトップとの差を終盤の5ホールで逆転。15番で決めた12メートルのバーディーパットや18番パー5の2オンを思えばなるほど「フォース」を信じたくなったが、無論、優勝は不思議な力のおかげなどではなく、正確なショットと小技のうまさ、それに諦めなかった強い心の賜物(たまもの)である。