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今日の筆洗

2016年08月31日 | Weblog

 四歳の男の子が絵を描いた。青色の空に金色の髪の女の子が浮かんでいる。父親が聞いた。「これは何の絵?」▼男の子は教えた。「空にいるルーシーだよ。ダイヤモンドを着けて」。父親はこの話を元に幻想的な一曲を書いた。「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイヤモンズ」。ビートルズファンにはおなじみの逸話で、父親はジョン・レノンである▼一九七四年、エチオピアの渓谷。発見された初期人類アファール猿人の化石が「ルーシー」と命名されたのは、女性と判明したことと、発見の日、発掘キャンプで何度も流れていたビートルズのその曲にちなんでのことだという▼絵のルーシーは空中にいたが、約三百二十万年前のルーシーは落ちた。ルーシーの骨をCTなどで分析した結果、高い木から落ちて死亡した可能性があることが最近の研究で分かった▼直立歩行を手に入れたアファール原人の足の裏は人間とほぼ同じで、サルほどに木を握るのに適していなかった。<猿人も木から落ちる>。本紙の見出しだが、二足歩行の結果、木のぼりが下手になっていたと考えれば、<猿人も>ではなく、人間に近い<猿人だから>木から落ちた、ということか▼痛かっただろうか。われわれ人類が木の上を離れ、地上で暮らし、二足で歩き、両手を使い、やがて言葉まで手に入れたのはその落下のおかげかもしれぬ。


今日の筆洗

2016年08月30日 | Weblog

 かつての流行歌にはサンゴを扱った作品が結構ある。<青い海原 群れ飛ぶ鴎(かもめ) 心ひかれた白い珊瑚礁(さんごしょう)>。ズー・ニー・ヴーの「白いサンゴ礁」(一九六九年)。作詞家、阿久悠さんの初期のヒット曲である。<素肌にキラキラ珊瑚礁>は松田聖子さんの二枚目のシングル「青い珊瑚礁」(八〇年、作詞・三浦徳子(よしこ)さん)▼歌謡曲の王道ともいえる夏、海、青春。美しいサンゴ礁は歌詞の「小道具」として使いやすかったか。<ももいろさんごがてをふってぼくのおよぎをながめていたよ>。やや毛色は違うが、子門真人さんの独特な声が甦(よみがえ)る「およげ!たいやきくん」(七五年、作詞・高田ひろおさん)。歌謡曲の世界ではサンゴに色は欠かせないようだ▼このサンゴの色をめぐる現象は深刻である。沖縄県や鹿児島県で広がるサンゴ礁の大規模な白化である。石垣島と西表島の間にある国内最大のサンゴ礁「石西礁湖」では調査した三十五カ所のうち九割近くが白化していたという▼写真を見れば、雪を思うが、白く見えるのはサンゴ体内から必要な植物プランクトンが抜け出てしまい、サンゴの骨格が透けているせいである▼温暖化による海水温の上昇などが本来の色を奪った原因と聞けば、その白は死の色である▼対策を考えたい。このままでは夏、海、青春ではなく、夏、海、温暖化、白化-と不気味な歌ができあがる。


今日の筆洗

2016年08月29日 | Weblog

 若いカップルがクラシックの演奏会に向かう。窓口の前には当日券を求める長蛇の列。手持ちのお金はわずかだが、安い席ならなんとか足りる。二人はほっとする▼ところがである。二人の前に並んでいた怪しい男がその安い席を全部買い占めてしまう。高値で転売する目的である。その値段では、二人には買えない▼青年が男に注意すると反対にのされてしまう。二人のデートは台無しである。黒沢明監督の「素晴らしき日曜日」(一九四七年)。この場面を見るたびに二人が悲しく、買い占めた男に腹を立てる▼終戦ほどない時代の映画だが、入場券をめぐる状況は現在もさほど変わっていないようである。サザンオールスターズや嵐など百を超えるアーティストと音楽業界団体がコンサートチケットの高額転売に反対する共同声明を発表した▼公共の場でのダフ屋行為は都道府県の条例によって禁止されているものの、ネット上では高額転売が公然と行われている。通常で買っても安いとはいえぬコンサートのチケットが買い占めと高額転売の結果、一枚何十万円になっていると聞けば、あの映画の二人は気絶するだろう▼ファンか転売目的かを見分けるのは難しいが、買い占めを完全に防ぐ方法を考えたい。いつの時代も熱狂の音楽を求め、いつの時代も懐寂しい若者たちの夢を大人の「ぬれ手で粟(あわ)」が奪ってはならない。