「簡単に言ってくれるなよ」
そう呟きながらも
満樹はセンを追う。
翼のように
術で押さえつけるような強制力はない。
それでも
なぜ、センが
規格外の力を使う裏一族達をまとめ上げているのか
彼らが従順に付き従っているのか
その意味が分かる。
魔法を無効化するという力を抜きにしても
一つ次元が違う。
「うんうん、いい動きだ」
どこか余裕のある口ぶりで
センは言う。
「それぐらい無くては困る」
「ほら」
背後から声が降ってくる。
「!!」
「京子!!」
「京子ちゃん!!」
センが、京子の後ろに回り込んでいる。
「よそ見していたら、
こうなるぞ」
首筋を掴まれる。
と、それをすんで、で屈み込むように避けて
なんとか距離をとる。
「おお、上手上手」
「京子!!」
「だい、丈夫」
満樹が駆け寄る。
「俺より前に出るな」
「ごめん」
「はあ!!!!」
マサシが拳をふるう。
谷一族に伝わるという、
脚術と拳術。
「いい筋だな。
身長もあるから尚のこと」
「簡単に受け止めて
言ってくれるわね」
「マサシ、2人がかりで」
満樹も加勢に加わる。
それを京子は少し離れた所で
見守る。
は、は、と短い息が漏れる。
センの攻撃を避けた時の感覚。
なにか掴めそうで掴めなくて
京子はもやもやと何かを感じる。
「…………」
すう、と息を吐く。
張り詰めた空気。
一瞬の隙も見せられない。
始まってしまえば
息をつく暇もなく、命の奪い合いが始まる。
「あ」
気がつく。
それは、西一族の狩りの感覚。
満樹であれば砂一族との戦い、
マサシならば、
僅かな音も聞き逃さずに
坑道を深く潜る時の様に。
これは狩りではない。
でも、
自分が一番良く動けるのは
それを思い浮かべたとき。
ある程度の事を決めていても
狩りが始まれば
それが通用しなくなる時もある。
班で行う狩りは尚のこと。
お互い、なにをどう動くかは
その場のそれぞれの判断に任せられる。
今と同じ。
尚も攻撃を続ける満樹とマサシ。
センは2人に集中している。
「ほら」
翼が京子の横を通り過ぎる。
渡して行ったのは
先程京子が投げた短剣。
そう。
以前から、
得意なのはこういう武器。
獲物を仕留める事は出来ないけれど
初手として、その動きを止める事に
狩りの班では貢献してきた。
「剣先には気を付けろ」
翼の言葉に京子は頷く。
すう、と深く息を吸う。
動きを読んで、
獲物を仕留める時の様に
今では無く、数秒先。
そこに居るだろうという場所に。
「………」
京子は短刀を投げる。
「くっ」
それが、僅かにセンに当たる。
肌をかすめる程度のもの。だが。
「あたっ……た」
「その調子よ、京子ちゃん」
マサシと耀がそれに続く。
「二人とも、お願い!!!」
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