「京子は今も、お前を探している」
「だから、京子はどこにいるんだ?」
耀が云う。
「西で、俺の帰りを待っていると云うわけではなさそうだな」
「京子は今、北にいる」
「北に?」
「北で、別の仲間と耀の情報を集めているはずだ」
「・・・別の仲間」
チドリを仲間と呼んでいいのか迷うところではある。
が
面倒な説明を省きたい。
この、耀が、どれだけ自分の情報を信じてくれるかどうか・・・。
「ふぅん。東一族のお前と京子がねぇ」
耀が、満樹の姿を見る。
「いかにも東一族だな」
「・・・どう云う意味だ?」
耀は鼻で笑う。
あたりを見る。
行きかう人々が、東一族と西一族の姿に気付く。
好奇の目で見ている。
「お前を信じていいのか判断に迷うが、」
耀が云う。
「お前もそうだろう、満樹?」
「・・・・・・」
「場所を変えるか。着いてくるか?」
耀は歩き出す。
「いや、待て」
「何だ」
満樹は耀を止める。
「連れがいる」
「ああ。あの谷一族だろう?」
「もうすぐ戻ってくる。待ちたいんだが」
「俺は、お前とここで長居したくはない」
満樹はあたりを見る。
マサシの姿は、まだ見えない。
「判った、行こう」
満樹は、坐っていた場所に、陣を書く。
紋章術。
「何だ、それは」
「まあ、伝言的なものと云うか」
マサシは、魔法が苦手だと云っていた。
気付かないかもしれない。
伝言をつかさどる、初歩的な紋章術。
「へえ。満樹は魔法が使えるのか」
「・・・一応」
満樹は、耀を見る。
耀はにやりと笑う。
歩き出す。
「こちらへ」
「行きつけでもあるのか」
「まあ、なんだかんだと、谷と北の滞在は長い」
「今まで何を?」
歩きながら、満樹は問う。
「京子の話だと、1年近く連絡が取れなかったと」
「ああ。用事が立て込んでな」
「それでも、家族に連絡はするべきだろう?」
「あんたは連絡を取っているのか?」
「え?」
「東のツトメの途中、何かで時間がかかったとき、連絡はするのか?」
「それは、」
そのとき、その場合にもよる。
が、
確かに満樹は、どちらかと云えば、連絡は入れない方だ。
「・・・・・・」
「な。男には男の事情があるだろう?」
「男の事情・・・」
「家族に下手に心配はかけたくないし」
「連絡を入れない方が、心配するだろう」
「それは満樹、お前もだろう」
耀は、扉に手をかける。
「ここだ」
裏路地にひっそりとたたずむ、喫茶。
「中で話をしよう」
耀は、店主に手を上げる。
店主が頷いたのを確認すると、奥の部屋へと入る。
「慣れてるな」
「ああ。世話になっている。何か飲もう」
耀が先に坐り、満樹も坐る。
「満樹は、相当武芸があるんだな」
「そう思う?」
「俺は西一族だ。普通、敵の一族についてこないよな」
「・・・・・・」
「だから、相当、腕に自信があるんだと」
「それは、耀も?」
「俺も?」
「耀も同じだろう?」
「いや、俺は違うよ」
耀は、水を飲む。
「狩りは割と得意だけど、別にそれ以外は」
「なら、なぜ?」
「東一族の最近の傾向だと、西一族に手を出すことは少ないと」
「・・・・・・」
「そう聞いている」
「そう、か・・・」
耀は満樹を見る。
「お前、俺が本当に、京子の兄だと思うか?」
「え?」
「俺が京子の兄だと」
「そうだな。確かに、京子に似ていると思う」
「そうか。信じてくれるか」
耀は笑う。
云う。
「お前は、母親似なんだな?」
「・・・? 何の話だ?」
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