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TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」190

2020年01月17日 | 物語「約束の夜」

「おかえりなさい」

文子は立ち上がって出迎える。

結婚と言っても、
なにか夫婦らしい会話があるわけでもなくて
文子は何だかいつも緊張している。

彼の帰りはいつも遅くて
そして、月の半分は帰って来ない。

「ご飯はどうする?」
「食べてきたからいい」
「………えっと、それなら」
「もう、眠いんだけど」

「あ」

そうなの、と文子は下を向く。

うーん、とその様子を見ていた彼は
文子の腕を引く。

「なに?ベッドでも行く?」
「そういうんじゃ」

寝室のドアを開いた所で
離してと文子は腕を払う。

「夫婦だろ、俺達」

そうだけれど、違う、と文子は言う。

「どうして、私を選んだの?」
「選んだ?」

うん?と首を傾げる彼に
ああ、そうだった、と文子は肩を落とす。

「そりゃあ、お見合いだけど」

こんなのを夫婦と言っていいのだろうか。

「確かに勧められた結婚でしょうけど
 それなら私じゃ無くても良かったわよね」

「誰でも良かったから君なんだろう」

「………」

ああ、本当に
選ばれた訳では無くて
どうぞと言われたから、はい、と受け取っただけ。

「なんで、私」

こんな結婚をしてしまったのだろう。
憧れの人だったけれど
憧れのままでいたら良かった。

いろんな噂があるのも知っていた。

真面目な人じゃないのも分かっていた。

「どうして泣いてるわけ?」
「………泣きたくもなるわよ」

もっと自分の事を見てくれる人を選んで
普通の結婚をしていたら良かった。

「もう、放っておいて」

ふー、と彼のため息が聞こえて
寝室のドアが閉まる。

「…………っ、」

文子は一人涙を噛み締める。
悲しいと言うよりは
情けなくて、喉の奥が痛い。

思いっきり泣きたいけれど
悔しさの方が上回って
声も出ない。

「ああ」

ひとしきり、唸るように泣いた後、
なんだか喉もかれてしまって、
ぼうっと文子は外を眺める。

もう、日も落ちているのに
明かりを付けていないから
我が家の中の方が真っ暗だ。

「はー、鼻水」

と、枯れた声で
ちり紙を探す。

「はい」
「ああ、ありがと」

ふと、手を伸ばして文子は固まる。

「い、い、居っつ!!!?」
「居たよ」

彼は呆れて二度目のため息をつく。

「っていうか
 普通気付かない、気配とかさ」

狩りとか大丈夫なのそれで、と聞かれて
もう悲しいを通り越して
腹立たしくなってきて
文子は彼を睨み付ける。

「まあ、泣かせたのは俺なんだろうけど」

いや、確実にお前だろう、と
はあ?という顔を浮かべていると
皮肉気に彼は言う。

「家が、欲しくて」
「家ぇ?」

声が出た文子に
彼は少し笑う。

「俺はこういう風にあちこちうろついているから」

「家でもないと、
 村に帰ってこないんじゃないか、って」

「…………」

居場所が欲しかったと言うことだろうか、
文子は首を捻る。

「それなら、好きな人と結婚したら良かったじゃない。
 誰でも良いような私じゃ無くて」

「そう言うだろうけど」

だよな、と彼は言う。


「そうも、いかなくてさ」


「ふぅん?」

「それで、別れる?
 俺はどちらでも良いよ」
「言い方!!」

なんか、文子の方もだんだんと
どうでも良くなってきた。

「………ああ、そう。
 何で選んだのか、と言われたら」

彼は言う。

「全然違うタイプだったから、かな」


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