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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」137

2016年02月23日 | 物語「水辺ノ夢」

「珍しいな、それ、
 蕪が赤いんだな」

畑を手入れする圭に
病院の医師が声をかける。

「西一族では、蕪と言えばこれだけど」
「ふうん、南一族じゃ、
 白いモンだけどな」

はぁ~、と
物珍しそうに眺められ
圭は歯がゆくなる。

「これ、少しだけど」
「え?貰って良いの?
 味が気になっててさ。
 ありがとな」
「畑借りてる、から」

土地の違いがあってか
人の出入りも多い病院の畑では
よく人から声をかけられる。

きっと、珍しいだけだと
自分に言い聞かせるが
声をかけて貰えるのが少し嬉しい。

「………」

嬉しくて、つい
余計なことを考えてしまう。

「きっと、無駄、なんだろうけど」

帰宅すると
丁度湶も出先から戻った所だった。
数日居なかったが、遠出していたのだろう。

圭はまだ、両親や兄の
南一族での生活をよく知らない。

「おかえり」
「……ただいま。
 それ、病院の庭で育てているやつ?」

湶が覗き込む。
カゴは圭が畑で採ってきた野菜であふれかえっている。

「色々あるんだな。
 全部西一族の野菜か」
「そう、
 珍しいって結構喜んでくれる」
「また、沢山採ってきたな。
 配るのか?」

湶が言うのも無理はない。
一家で食べるには
多すぎるくらいの量だ。

「………いや」
「?」

「まさか、
 杏子に送る分とか言わないよな」

「湶は俺の考えてること
 よく分かるよね」

「バカじゃないのか」

「分かってるよ。
 送らない、そんな資格ないし」

ただ、

思っただけだ。

今どんな生活をしているのだろうか、と。
寒さに震えていないだろうか。
食べ物に困っては居ないだろうかと。

東一族は野菜が主食。
杏子は肉料理をあまり口には出来ない。

そう考えると
思わずカゴに野菜を詰めずには居られなかった。

送り先のない野菜は
きっと近所に配って終わり。
それだけだ。

湶が
無言で圭に歩み寄る。

「……なに?」

湶は自分に怒っているのだろうか、と
圭は思わず身を引く。

湶はただ、表情を変えずに圭に伝える。

「杏子、
 新しい相手が見つかったみたいだ」

返す言葉が出てこなかった。

「……そう」

一度視線を下に落とし、
あぁ、
湶は西一族の村に行っていたのか、と
妙に納得する。

「そう、それは、……」

圭は野菜が入ったカゴを
入り口にまとめて置く。

自分でも無駄だと分かっていたくせに。

圭は立ち上がり
自室に戻ろうとする。

「相手」

湶が言う。

「気にならないのか?」
「ならない」

圭は言う。

ただ、
杏子が、そこで
幸せに暮らしているなら、

それで

「いいよ」


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