生まれたばかりの赤子を抱えて
シズクは司祭に告げる。
「この子の名前は、ユウト」
他の誰にも言わないけれど、と
シズクは言う。
「ユウヤの子どもだったらなぁ、って」
そうだったら、と
願って彼女だけが呼ぶ名前。
「でも、ほら」
シズクはユウトの手のひらを触る。
「違ったみたい。
このアザ、同じだもの、あいつと同じ」
「シズク」
司祭はそれが誰とは尋ねない。
多分聞かれても
よく分からない。
忘れたいのだろうか
シズクにはその時の事が
断片的にしか思い出せない。
覚えているのは
手のひらのアザ。
シズクはその子の手のひらをそっと握る。
静かに呼吸を整えて、
目を閉じて、それでも見える物は何も無い。
自分に関係のある者は視る事が出来ない。
けれど分かる。
分からないけれど分かる。
「この子も、先視になるのね」
「………」
「普通の海一族として
生まれてくれたら良かったけれど」
「シズクの力を
強く引いていると言うことだ」
司祭になるべき者は
本名では無い、仮の名前を使う。
本当の名前が隠された裏の名前ならば
それは表の名。
本当ではないけれど
その者の性質を示す名前。
「この子の表の名はね、ツイナ」
「ツイナ?」
厄を祓うという言葉に
同じ響きの物がある。
シズクは首を振る。
「違うけれど、
同じ響きの言葉はちゃんと意味がある。
大丈夫よ、この子は」
そう、彼女は願う。
先視の力は自分には働かない。
何でも見通すことが出来る彼女は
自分の事は何も分からない。
「ツイナ………対名。
この子は二つ名前があるの」
「もう一つ名前があるの。
子どもが生まれたら
その名前を付けろって、あいつが言っていた」
それはおぼろげに覚えている。
もちろんその名前を呼ぶつもりは無いけれど、
その子に、と、与えられた物。
与えられた以上は
もうその子の物。
捨てるも拾うもその子次第。
「いつか、きっと
それを選ばないといけない日が来るんだわ」
先視はお互いに未来を見る事は出来ない。
だから、これは
母親からその子への願い。
「どうか、選んだその先が
しあわせでありますように」
NEXT
シズクは司祭に告げる。
「この子の名前は、ユウト」
他の誰にも言わないけれど、と
シズクは言う。
「ユウヤの子どもだったらなぁ、って」
そうだったら、と
願って彼女だけが呼ぶ名前。
「でも、ほら」
シズクはユウトの手のひらを触る。
「違ったみたい。
このアザ、同じだもの、あいつと同じ」
「シズク」
司祭はそれが誰とは尋ねない。
多分聞かれても
よく分からない。
忘れたいのだろうか
シズクにはその時の事が
断片的にしか思い出せない。
覚えているのは
手のひらのアザ。
シズクはその子の手のひらをそっと握る。
静かに呼吸を整えて、
目を閉じて、それでも見える物は何も無い。
自分に関係のある者は視る事が出来ない。
けれど分かる。
分からないけれど分かる。
「この子も、先視になるのね」
「………」
「普通の海一族として
生まれてくれたら良かったけれど」
「シズクの力を
強く引いていると言うことだ」
司祭になるべき者は
本名では無い、仮の名前を使う。
本当の名前が隠された裏の名前ならば
それは表の名。
本当ではないけれど
その者の性質を示す名前。
「この子の表の名はね、ツイナ」
「ツイナ?」
厄を祓うという言葉に
同じ響きの物がある。
シズクは首を振る。
「違うけれど、
同じ響きの言葉はちゃんと意味がある。
大丈夫よ、この子は」
そう、彼女は願う。
先視の力は自分には働かない。
何でも見通すことが出来る彼女は
自分の事は何も分からない。
「ツイナ………対名。
この子は二つ名前があるの」
「もう一つ名前があるの。
子どもが生まれたら
その名前を付けろって、あいつが言っていた」
それはおぼろげに覚えている。
もちろんその名前を呼ぶつもりは無いけれど、
その子に、と、与えられた物。
与えられた以上は
もうその子の物。
捨てるも拾うもその子次第。
「いつか、きっと
それを選ばないといけない日が来るんだわ」
先視はお互いに未来を見る事は出来ない。
だから、これは
母親からその子への願い。
「どうか、選んだその先が
しあわせでありますように」
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