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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」53

2014年02月25日 | 物語「水辺ノ夢」

早朝、圭は家に戻る。

高子が言ったように、傷口から菌が入っていたのか
わずかな熱とだるさがあった。
朝になると薬が効いたのか、熱が引いていたので、すぐに病院を出た。

この時間だから杏子はまだ寝ているだろう。
高子が説明はしておくと言っていたが
どう伝わっているのか、
自分からは、どう説明しよう、と圭は扉を開く。

「っ!!圭!!?」
「わ!!……杏子??」

同じくドアを開こうとした杏子とぶつかりそうになる。

「昨日お医者様が来られて、圭がケガしたって。
 私も行こうと思ったのだけど、家で待っていろって」

足音で分かって出てきてくれたのだろうか。
圭の右腕に巻かれた包帯に、顔を青くする。

「痛む?ねぇ、とりあえず立っていないで座って」
「大丈夫だって。大げさなんだ、ちょっとかすったくらいなのに」

この様子じゃ寝ていないな、と圭は思う。

「ごめん心配かけて。でも、もう平気だから」

「平気だなんて、怪我をして入院までしたのに。
 圭、無理しないで……」

心配をさせてしまった。と、後悔する。

「上手くやるつもりだったんだ。出来なかったけど」

杏子にとっては、自分はこの一族で唯一頼る相手だ。
敵対するこの村で、仕方なく、圭しか相手がいないから。
でも、
それでも杏子は自分の事を心配してくれると
圭はわかっていた。

「杏子、これ」

圭はブレスレットを差し出す。
手編みの簡単な作りの物だ。

「これ、水晶ね。どうしたの?」

「昨日の狩りの時、獲物のお腹から出てきたんだ」

その言葉に杏子は引きつった表情になる。
圭は慌てて言う。

「きちんと洗って磨いたよ!!」
「……そうじゃなくて、ちょっとびっくりして」

狩りをしない一族だから、反応が過剰なのだろうと圭は少しおかしくなる。

「珍しい物だから、お守りになるんだって。
 だから、作った。昨日」
「え?昨日?」
「入院中に」

杏子は小さくふき出した。

「ダメじゃない、寝てないと」

ここに来て、こうやって笑ってくれたことが何度あっただろう、と
圭は思う。

あと、何回、こうやって笑ってくれるんだろうと。

「これは杏子に」
「……くれるの?ありがとう」
「杏子、あのさ」
「なぁに?」

本当は昨日、狩りを無事終えて、
帰ってきてから言うつもりだった。

「杏子は、東一族だから、
 きっと、いつか向こうに帰ってしまうのだろうけど」

「……圭?」


「その日まで俺の妻として、傍にいてくれないか?」



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