「……もう、こんな時間に」
圭は慌てて舟を下り、杏子の手を引く。
「もうすぐ見張りが来る。
昼に一回、夜に一回。
……見つかるといけない」
ふたりは草むらに身を潜める。
「あなたは西一族なのだから
隠れなくても良いんじゃないの?」
杏子の言葉に、圭は言葉を詰まらせる。
「……会いたくないやつがいるんだ」
日が沈み、暗くなると同時に
辺りも冷え始める。
ひゅっ、と息をすう声が聞こえて
圭が咳を繰り返す。
「……圭!!? 大丈夫??」
ただの咳ではなく、
ケンケンという息苦しそうな咳。
まるで、……あの人のような。
「……気にしないで、いつもの事……だから」
「いつも……? 圭、病気なの?」
「大丈夫……うつる病ではないから」
「そうではなくてっ」
シッ、と圭が自分の口元に人差し指をあてる。
ランプの灯りが、ふたりのいる草むらに近づく。
「今日の狩りは、まぁまぁだったな」
西一族の男が2人。
狩りを終えた後だからか、いつもの事なのか
気だるく歩き過ぎて行く。
「あぁ……」
草むらの前を足早に通り過ぎた若い男を
もう1人の男が追いかける。
「おい、待てよ広司(こうじ)!!!」
NEXT 10
圭は慌てて舟を下り、杏子の手を引く。
「もうすぐ見張りが来る。
昼に一回、夜に一回。
……見つかるといけない」
ふたりは草むらに身を潜める。
「あなたは西一族なのだから
隠れなくても良いんじゃないの?」
杏子の言葉に、圭は言葉を詰まらせる。
「……会いたくないやつがいるんだ」
日が沈み、暗くなると同時に
辺りも冷え始める。
ひゅっ、と息をすう声が聞こえて
圭が咳を繰り返す。
「……圭!!? 大丈夫??」
ただの咳ではなく、
ケンケンという息苦しそうな咳。
まるで、……あの人のような。
「……気にしないで、いつもの事……だから」
「いつも……? 圭、病気なの?」
「大丈夫……うつる病ではないから」
「そうではなくてっ」
シッ、と圭が自分の口元に人差し指をあてる。
ランプの灯りが、ふたりのいる草むらに近づく。
「今日の狩りは、まぁまぁだったな」
西一族の男が2人。
狩りを終えた後だからか、いつもの事なのか
気だるく歩き過ぎて行く。
「あぁ……」
草むらの前を足早に通り過ぎた若い男を
もう1人の男が追いかける。
「おい、待てよ広司(こうじ)!!!」
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