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TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」227

2020年07月07日 | 物語「約束の夜」

え、と
皆が父親の視線の先を追う。

自分の杖と
そして、
魔方陣を見つめるチドリ。

この術は、
父親の命令でチドリが発動している物。

術を止めたのは。

「チドリ?」

父親は言う。

「今さら
 怖じ気づいたなんてことは無いよな。
 それとも―――」

ちらり、と京子の方を見る。

「先程の言葉で
 決意が揺らいだなんてことは止してくれ」

お前らしくもない、と。

「違う」

チドリは首を振る。

「俺の決意は変わらない。
 ―――ただ」

ただ、とチドリは父親の方を見る。

「少しだけ、時間が欲しい、」
「ほう?」
「京子と、話す時間を」

京子はチドリを見つめる。
まだ、チドリは京子の方を見ない。

迷って、いる?

「術は必ず発動する。だから」

「そうか」

父親はため息を付く。

「実は、俺も迷っていたんだ」

「?」

「どちらに、しようか、と」

どちらに。

その言葉に京子達だけでなく、
チドリや耀も眉をひそめている。

どちら?

「あいつの言葉に従うのも
 まあ、悪くないと思ってはいるんだが」

コツコツ、と
座り込む京子達の周りを、
円を描くように進む。

「若返り、そうだな。
 悪くない。
 あの時の自分に戻れたら何よりだ」

そして、
対角線に居たチドリの元に辿り着く。

「けれど」

「何を言って?」

ぽん、とチドリの肩に手を置く。

「術を発動しろ、チドリ」

チドリのアザが熱を持つ。

「待て、翼!!」

言葉とは裏腹に
チドリの腕が、杖が動き
再び術が発動し始める。

「約束が違う!!
 これは、―――違う!!」

再び魔方陣が浮かび上がり
光が集まり出す。

「なになに!?」
「もう、嫌だ」

ノギやヨシノ達の
声が聞こえる。

先程と同じ恐ろしい気配。
使ってはいけない禁術。

けれど、
どこか先程とは違う。

「次から次へと」

満樹が皆に這い寄る。

少しでも、
皆で身を寄せ合おう、と。

魔方陣の外に居る耀の表情も硬い。

これは、予想外の事。

「チドリ」

京子は再びチドリを呼ぶ。

「………京子」

応える、声が聞こえる。

だが、
チドリの杖は地面に突きつけられる。
集まった力を
術として始動する、最後の合図。

誰かに聴かせようとした言葉ではなく、
ただ、
ひとりごととして、父親は呟く。

「俺も話しがしたいんだ」





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「約束の夜」226

2020年07月03日 | 物語「約束の夜」
これで、すべて終わり、だ。

何ひとつ、自分たちは父親に逆らえない。

云われるがまま。
生まれたときから決まっていたと云う運命を。

このまま、終えるだけ。

光が集まる。

何かの魔法がはじまっている。

「・・・・・・!!」

禁じられた魔法。
それが、

もはや、周りは何も見えない。

翼と耀、そしてチドリ。
周りにいる皆の顔も。

ばたばたと、倒れる音。

身体の力が抜けていく。

「心配するな」

声が聞こえる。

「眠るように、終わるだけだ」

京子は手で探る。
誰かを、
誰かの手を握ろうと。

誰か・・・。

・・・・・・。

・・・・・・。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・あれ?」

集まった光が消える。

京子は顔をあげて、あたりを見る。
他の皆も顔をあげる。
互いの顔が見える。

「・・・・・・?」

「何が?」

先ほどの空間とは違う。
怖ろしい気配は感じられない。

「え?」

何が起きた?

いや、

「何も起きていない?」

満樹が呟く。

「何も起きて」
「いない?」
「なら、いったい何が」

「こちらが聞きたい」

声が響く。

低く。

それは、

京子たちに向けられているのではなく。

「何をしている」

父親の声。

「チドリ」




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「約束の夜」225

2020年06月30日 | 物語「約束の夜」
無駄、だと言うのは
どこか胸の奥で感じている。

逃げられる訳がない。

どうせ、父親の号令一つで
この身は動きを止めてしまうこと。

それ、でも。

もしかしたら、と。

走り出す。
思い思いの方向へと。

散れ、と言った
ノギの言葉に従うように。

ツイナに引きずられるように
京子も立ち上がる。

ほんの一瞬のこと、

辺りを見回す。

先に動き出した
ノギとオトミ。

京子はツイナと同じ方向へ。

マサシはそれを確認して
ヨシノと一緒に逆方向へ。

満樹も続く。

ふと、振り返る。

耀とチドリが並び立っている。

生け贄はお前だ、と
そう告げた耀の方を
上手く見ることは出来ない。

「………」

生け贄から外されている耀。

でも、

チドリは。

「京子!?」

何やってるの、と
ツイナの声が聞こえる。

「チドリっ!!」

京子は戻り、チドリの腕を掴む。

「時間稼ぎか?」

チドリは薄く笑う。

「無駄だよ。
 俺の魔法に敵うわけ」
「チドリ、
 あなたも一緒に」

「はあ?」

京子は
腕に力を込める。

「一緒に逃げよう」

生け贄になる。
命を捧げる。

そう言われて、
皆、冗談じゃない、と答えた。
やりたいことがある、と。

それが、普通だ。

なのにチドリは
死ぬことを受け入れてる。
道具として、当たり前だと。

「死にたくないって、
 願ってもいいのよ」

「なにを?」

「生きてよ、チドリ」

ば、とチドリは
京子の腕を払う。

「………チドリ」

「俺に、生きろ、だと。
 ふざけるのも、たいがいに」

はぁ、とため息をつき、
様子を見ていた耀が
父親の方に振り返る。

「翼、茶番もいい加減にしろ」

うんうん、と
少し間を置き、父親は頷く。

「茶番、か
 いや、なかなか
 俺も感じる物があったよ」

だが、と静かに言葉を発する。

「どこに行くんだ。
 “戻って来い”お前達」

再び、手のひらのアザに熱が走り
父親の言葉が力になる。

「く、っそ」

ノギとオトミも、ツイナも、
マサシも、ヨシノも、満樹も。

抗おうにも
体が、父親の言葉に従う。

「ムダなのかよ」

悔しい、と
誰かがこぼす。

「チドリ」

京子は再び、チドリを見る。
チドリは京子の方を見ない。

「始めよう、さっさと」

チドリが呟き、杖を立てる。




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「約束の夜」224

2020年06月26日 | 物語「約束の夜」
「ああ、そうだ。京子」

耀が云う。

「生け贄に必要な数は、8」

「でも、私たちは」

京子は息をのむ。

西、の血を引く者が、ふたり。

つまり

「お兄ちゃん・・・」
「生け贄は、お前だ」

「あなたねぇ!」

マサシが声を上げる。

「あなたと京子ちゃんは、私たち以上の兄妹でしょう!?」

京子の顔は真っ青だ。

「それを、そう簡単に!!」
「決められていたことじゃないか」

耀は、冷笑する。

「何度聞くのか? 俺たちは用意された子だと」
「何を認めているの!」

マサシの言葉をものともせず、耀は続ける。

「ばからしいじゃないか」

この場所で

「逃げることも抵抗することも、何ひとつ出来ない」

「そんな・・・」
「考えるだけ無駄だ」
「死ぬの?」

ぽつりと、京子が云う。

「私は今まで何のために」

生きてきたのか。

生け贄となるために?

この父親の、何か願いを叶えるためだけに。

「あまり、時間を使うな」

耀とチドリの後ろから、声がする。

「説明がないのも可哀相だが、説明を続けても何になる」

どうせ

「その命、捧げるのだから」

父親が云う。

「さあ、はじめようか」

その言葉と同時に
無機質な部屋に、魔方陣が現れる。

「これは!?」

チドリは目を閉じる。

皆の身体に光が集まる。

と、

「おい!!」

ノギとオトミが走り出す。

「!!?」

「散れ!」

「!!」

「ばかなことを!!」

逃げろ、と

この瞬間に。

「京子!」

「ツイナ!!」

皆、動こうとする。

ほんの一瞬。

時の流れが、ゆっくりと。

「逃げられるわけがない!!」

耀とチドリの声。

その様子を
おかしそうに、父親は見る。




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「約束の夜」223

2020年06月23日 | 物語「約束の夜」

「………聞いた事がある」

ツイナが呟く。

「司祭様が言っていた。
 使ってはいけない、禁じられた術がある、と」

でも、そんな事が、と
頭を振る。

「曰わく」

父親が続けるように言う。

「瀕死の怪我や病を治すことが出来る」
「魔法を使えない者が
 強力な力を持つことが出来る」

す、と
自分の胸に手をあてる。

「衰えた体を、若返らせる事が出来る」

「若返り?」
「それが目的なの?」

なんなら、と父親は言う。

「この術は、死んだ者すら
 生き返らせることが出来るそうだ」

「………そんな夢みたいな話」

「ああ、夢の様だろう。
 誰もが一度は願うことだ」

歳を重ね衰える体に向き合う毎に、
無力を思い知る毎に、
色々な物を失う毎に。

「なんで?」

京子が問う。

「なんで私達なの?」

「簡単だ」

父親は皆を見回す。

「この魔法は、
 血の繋がりが濃いほど力も強くなる」

親、兄弟、そして子供。

「反対に、
 赤の他人であれば、
 村一つ消える人数が必要だ」

人の血を、命を使い、
成し遂げられるもの。

「そんな事、許されるわけがない」

「ああ、俺もそう思うよ」

父親が頷く。

「他人を犠牲にして
 好き勝手が出来るなんて
 筋が通るわけ無いよな」

「………分かっているじゃない」

父親は、道理を理解している?
では、なぜ?

「だったらこんな事」

「自分の事は自分でしないといけない。
 子供が8人必要であれば
 揃えるしかない」

そうすれば、文句は無いだろう、と。

つまり、京子達は
この儀式のためだけの子供達。

だからチドリは言っていたのだ

俺達は役目の為だけに準備された子供、と
今まで何も知らずに
幸せだったなお前達、と。

「八つの一族全てを揃えるのは苦労した。
 よく無事に育ってくれたな。
 どこかで勝手に死んでくれなくて何よりだ」

そう、笑顔で言う。

「………嘘よ、そんな、私達」

そんなの、人でもなんでもない。
ただの道具。

「待って」

マサシが言う。

「今、子供は8人と言ったわね。
 それはどういう事?」

ここに揃った、子供達は9名。
数が合わない。

「単純な話だ」

チドリが父親の代わりに答える。

「若返っても、また人は歳をとる。
 血は、常に必要だ」

また、次の術を使うために。

「それに、後継者も、必要だろう」

八つの一族。
必要なのは8人の子供達。

各一族一人と言う事であれば
余るのは一人。

京子は耀の方に振り返る。

「………お兄ちゃん?」





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