え、と
皆が父親の視線の先を追う。
自分の杖と
そして、
魔方陣を見つめるチドリ。
この術は、
父親の命令でチドリが発動している物。
術を止めたのは。
「チドリ?」
父親は言う。
「今さら
怖じ気づいたなんてことは無いよな。
それとも―――」
ちらり、と京子の方を見る。
「先程の言葉で
決意が揺らいだなんてことは止してくれ」
お前らしくもない、と。
「違う」
チドリは首を振る。
「俺の決意は変わらない。
―――ただ」
ただ、とチドリは父親の方を見る。
「少しだけ、時間が欲しい、」
「ほう?」
「京子と、話す時間を」
京子はチドリを見つめる。
まだ、チドリは京子の方を見ない。
迷って、いる?
「術は必ず発動する。だから」
「そうか」
父親はため息を付く。
「実は、俺も迷っていたんだ」
「?」
「どちらに、しようか、と」
どちらに。
その言葉に京子達だけでなく、
チドリや耀も眉をひそめている。
どちら?
「あいつの言葉に従うのも
まあ、悪くないと思ってはいるんだが」
コツコツ、と
座り込む京子達の周りを、
円を描くように進む。
「若返り、そうだな。
悪くない。
あの時の自分に戻れたら何よりだ」
そして、
対角線に居たチドリの元に辿り着く。
「けれど」
「何を言って?」
ぽん、とチドリの肩に手を置く。
「術を発動しろ、チドリ」
チドリのアザが熱を持つ。
「待て、翼!!」
言葉とは裏腹に
チドリの腕が、杖が動き
再び術が発動し始める。
「約束が違う!!
これは、―――違う!!」
再び魔方陣が浮かび上がり
光が集まり出す。
「なになに!?」
「もう、嫌だ」
ノギやヨシノ達の
声が聞こえる。
先程と同じ恐ろしい気配。
使ってはいけない禁術。
けれど、
どこか先程とは違う。
「次から次へと」
満樹が皆に這い寄る。
少しでも、
皆で身を寄せ合おう、と。
魔方陣の外に居る耀の表情も硬い。
これは、予想外の事。
「チドリ」
京子は再びチドリを呼ぶ。
「………京子」
応える、声が聞こえる。
だが、
チドリの杖は地面に突きつけられる。
集まった力を
術として始動する、最後の合図。
誰かに聴かせようとした言葉ではなく、
ただ、
ひとりごととして、父親は呟く。
「俺も話しがしたいんだ」
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