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TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」222

2020年06月19日 | 物語「約束の夜」
「久しぶりの再会、いや」

翼は首を振る。

「はじめてのやつが多いんだから、再会の喜びとは違うな」

皆、ただ、翼を見る。

この、従わなければならないと云う、恐怖にも似た感覚。

「まあ、とにかく、喜びとか、もういいだろう」

翼はチドリを見る。

「次は何だ?」
「先に進んでもいいのなら」

チドリは杖を持ち直す。

何が、はじまる?

恐怖。
問うことさえ、出来ない。

「何がはじまる、と云うところか」

チドリが話し出す。

「何がはじまり、何のために命を差し出せと云われているのか」

皆、息をのむ。

「そうよ・・・」

京子はチドリを見る。

「何か、・・・何かがあるのよね、私たちに」

はぁ、と、チドリは耀を見る。
耀は頷く。

「俺たちは裏一族だ」

表ではない世界で、生きる者。
人々の秩序、法の中では生きていない者。

「ほしいものを得るために」
「より強くあるために」

「どうすればいいと思う?」

「どう、」
「すれば・・・?」

「そんなの簡単だ」

満樹が云う。

「学び、魔法や体術の鍛練をすればいい」

「そうだ」

耀は頷く。

「西一族もそうやって狩りの腕を上げる。・・・地道にな」

「なら、」

「だが、そのやり方は、簡単ではない」

ほしいものを得るために。
強くあるために。

手っ取り早く、やること。

「血だよ」

その声に、皆、後方を見る。

父親が声を発している。

「手っ取り早く、簡単に。ちょっとした闇の魔法」

「血・・・」
「つまり、命、と云うこと?・・・」

ヨシノの目が見開く。
ほかの、皆も。

人の血を使い
強い力を手に入れる。

禁じられた魔法。

「そうすることで、あり得ないことをなそうとしているのね」

マサシが呟く。

「私たちを使って」




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「約束の夜」221

2020年06月16日 | 物語「約束の夜」

扉が開かれる。
無機質な広い部屋。

そこにいるのはただ1人。

「やあ、」

そうやって笑顔で皆を出迎える。

「待っていたぞ」

「「「………っ」」」

京子達は思わず動きを止める。

先程魔法で見た映像と同じ、
でも、少し歳を重ね、
年相応の顔付きになった、男。

「はじめましての奴が多いな。
 俺は、翼。一応西一族だ。
 今はこの裏一族をとりまとめる者の1人だ」

「あなたが、私の父親?」

「ええっと、西一族の、そう、確か」
「京子だ」

耀が付け足すように言う。

「そうそう、京子。
 良く来たな」

確かに、京子やマサシに顔立ちが似ている。
けれど、同じ顔であっても
雰囲気が違う。

父親に会う時は
もっと違う感情が生まれるのだと思っていた。

例えば、会えて嬉しい、とか
なぜ、家族を捨てたのかという恨み、とか。

「………」

昔の出来事を見せられた時は
酷い人だけれども、
それでも何か感じる物があった。

今感じるのは
全く違う感情。

怖い。

この人は、
出会ってはいけない人。

この区域に足を踏み入れたときから
姿を現さない沢山の使い手達に
見張られていた。

その、彼らを従える人。

「立ち話もなんだ、
 まあ、座れ」

そう、皆に告げる。

「俺達をどうするつもりだ?」

言葉を遮るように
満樹が問いかける。

「待て待て、お前は、東一族……なんだったっけ?」

悪いな、と彼は言う。

「どうにも名前までは
 はっきり覚えていなくてな」

「名を呼んで貰うつもりはない」

「そう拗ねるな。
 俺の大切な子供達」

大切な。

そう言えば、
耀も京子に同じ事を言う。
自分の妹だ、心配している、血の繋がった兄弟。

今までそう受け止めて来たけれど。

「………」

不安を覚え京子は耀の方を見る。
けれど、耀と目線は合わない。

そんな京子の事など誰も気がつくわけではなく
彼らの話は進んでいく。

「特に、チドリとカナメは
 心配していたんだ」

うんうん、と彼は言う。

「カナメ……?」

誰、という反応に、
おや、と彼は言う。

「お前だよ、ほら、海一族の。
 おかしいなその名を付けと言っていたんだが」

俺か、とツイナが唸る。

「……マジでもう一つ名前あったんだ。
 俺ってもはや、対名でなく三つ名なのでは」

「俺の血を引いていて、魔法が使えるのは珍しい。
 横取りされないかとヒヤヒヤしたよ」

「……横取りってなんだよ」
「だいたい、血が必要ってどういう事?」
「自ら望んで死ぬってのも」

ヨシノやマサシが続けざまに言う。
うーん、と翼は言う。

「だから、お前達」

ただ、静かに。

「まずは座れ、と言っているだろう」

「「「!!?」」」

その言葉と共に手のひらのアザに痛みのような物が走り、
皆、その場に蹲る。

「え?」
「なに、が」
「今のは?」

先程のチドリの魔法は
無理矢理体を動かされているという感じだった。
でも今度は違う。

従わなければ、と感じ
自然と体が動いた。

それは、
耀とチドリも同じ。

つまり
アザを持つ子供達には
同じ様に働く力。

これは、魔法だろうか。
それともまた別の力。

「なあ」

耀が言う。

それは京子達に向けて。

「お前達、これでもまだ
 どうにか逃げ出せると思っているのか?」




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「約束の夜」220

2020年06月12日 | 物語「約束の夜」
「今の、は・・・」

京子は顔を上げる。

ここは、北一族の
裏一族の、砦。

みんなが、いる。
先ほどと同じ。

けれども、何かが起きた。
チドリが杖を振りかざした瞬間。
魔法。

ものの数分だったのだろう。

けれども、

長い長い夢を見ていたような。

「・・・っ」

京子は頭を押さえる。
満樹も、ツイナも、ヨシノも、・・・みんな。

「夢? 過去の話? それとも、作り話、・・・かしら」

マサシが目の前を見る。

目の前に立つ、チドリと耀。

チドリは息を吐く。

「魔法だ」

先ほども、そう云っただろう、と。

「そして、夢でも作り話でもない」
「・・・・・・」
「現実に起きた、過去の話だ」

「・・・ここにいるみんなが」

京子は呟く。

「本当に、・・・私と同じ父親」

兄の耀を見る。

「だから、みんな、手の平にあざがあって・・・」

「さあ、立て」

チドリは杖を鳴らす。

「次に進むぞ」

チドリと耀は歩き出すが、他は顔を見合わせる。

逃げられるとは思わないが
わかりましたと、付いて行くべきなのか。

「ほら早く!」

「仕方ない」
「でも、マサシ!」
「私たちはきょうだい。きっと、すぐに悪いようにはされないわ」
「命差し出せ感、めっちゃ出てますけど!!」
「だから、すぐにはって云ってるでしょ」

このまま、生きて帰ることはないかもしれない。
でも、すぐに殺されるとも、考えにくい。

「何度も云うけれど、待つのよ」
マサシは呟く。
「隙を見て、ってことだな」
「そうよ、満樹」
「うう、不安しかない・・・」
「そうね」

マサシは頷く。

「私たちバラバラにされたら」
「バラバラっ!?」
「いや、解体の方じゃなくて」

満樹は京子をなだめる。

「こんな場所でひとりになると、な」
「ええ」
「バラバラにされませんように・・・」

皆、チドリと耀に続く。

先ほどの場所から、長い、廊下。

「そもそも、私たちを集めて、」
「何をする気なのか・・・」
「血が必要って?」

血のつながった、このきょうだい。
命を奪って、何が出来るのか。
何が起こると云うのか。

「そこが気になるだろう」

察したように、耀が云う。

「俺たちは、具体的に何をするのか」

「ここだ」

チドリが、一つの部屋の前で立ち止まる。





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「約束の夜」219

2020年04月28日 | 物語「約束の夜」

きっと、私を探していたんだわ。

なんて

先ほどの「誰だっけ?」の台詞を忘れ
ナタは、都合がいいように解釈する。

一晩でもいいんだけど、
運命の人、とかも、いいんじゃない?

ナタはニヤニヤする。

「あのさ」
「何?」
「砂一族って、みんなそうなの?」
「えっ、何の話?」

「そのニヤニヤとか」

「笑顔よ、笑顔!」

「ふぅん」

しばらくして、ナタは起き上がる。

「ねぇ、このまま砂一族の村にいたらいいんじゃない?」
「そう?」
「あんた、いい男だし」
「俺が他一族の諜報員とか思わないのか?」
「だったら何なのよ」

砂一族の刑を受けるぐらいだろう。

「だって、観光とかじゃないでしょ?」
「・・・・・・」
「どう?」
「するどいな」
「だから、ここにいたらって云ってるの」
「俺は、何かを求めて旅してる感じ?」
「当たってるでしょ?」
ナタは云う。
「ここに、あなたが探すものがあるわ」
「俺が何を探しているか、知ってる?」
「どうせ、居場所、でしょ」
「そうだな」

彼は遠くを見る。
窓から夜空が見える。

「ここは、星がきれいだ」
「ええ」
「どこよりも」
「ほかの場所は知らないわ」
「空に、あんなにたくさんの星があって」
「・・・・・・?」
「ほしいものは見つかるだろうか」
「何それ」
「見つけたいもの」
「目印を付けたら、いいんじゃない?」

彼は笑う。

手を出す。

「ほら」
「何?」
「手のひらのアザ」
「うん」

ナタはそのアザを見る。

「ケガをしたの?」
「いや、違う。俺の目印だ」
「あら、判りやすい」

「これまで生まれた子どもも、みんな、このアザがある」

「そう」

ナタは云う。

「何? 子だくさんなの?」

「さあ、どうかな」

「どう云うこと?」

「母親たちに、任せっぱなしだからだよ」

「ふうん」

ナタは、ツバサにまとわりつく。

「私が産む子も、アザがあるのかしら」
「あると思うよ」
「目印とかいいから、この村にいてよ」
「どうしようかな」

ツバサは呟く。

「他にやることもあるしな」

ナタは、首を傾げる。

やがて

ナタに子どもが出来たと判ったころ。
彼は、砂一族の村から姿を消した。

「あーあ、いい男だったのになぁ」

自身のお腹をさすり、その子に云う。

「あんたも、いい男になるんだよ」




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