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TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」198

2020年02月14日 | 物語「約束の夜」
裏路地を歩きながら
少年は問いかける。

「何か、用事があったのでは無いの?」

彼女を探しているのだと
彼は言っていた。

「もういいさ」

自分のせいで、と少年は俯く。

「用件は済んだ」

だから構うなと彼は言う。

「…………」
「…………」

「行かなければよかった、と思うか」

立ち止まり、
彼は少年に振り返る。

「このまま、知らないままであれば
 こんな思いをする事も無かったと
 そう思うか?」

「…………」

少年は首を振る。

そんな事はない。

そうか、と彼は頷く。

「さて、どうする
 谷一族の村に戻るか?」

「…………」
「うん?」

「連れて行ってくれると
 あなたは言った」

そりゃそうだが、と彼は言う。

「本当は、母親のところに
 置いてくるつもりだったんだか」

こんな状況になってしまって、という負い目も無いことは無い。

「俺はお前を利用するぞ」

構わない、と少年は頷く。

「覚悟はある、と」

再度頷く。

面白い、と彼は笑う。

「ならば、魔法の指導も、暮らしも
 俺が与えられる物は全て与えてやろう」

少年は
どうだ?と差し出された手を取る。

「行くか、ええっとナシだったかな?」

少年は横に首を振る。

「お、違ったか?」

聞き違えていたのか、
一族が違うと名前も聞き慣れない。

「ナナシ、だよ」

「ナナ………ああ」

名無し、か、と
彼は気付く。

「みんなそう呼ぶ。
 あなたも好きに呼べばよい」

「それじゃあ、そうだな」

彼は言う。

「千鳥、と言うのはどうだ?」

「チドリ?」

「俺の名前から一文字やろう。
 それとも北一族風の名前が良いか?」

いいや、と首を振り
チドリ、チドリ、と
少年はその名を呟く。

そしてふと、彼を見上げる。

「あなたは」

少年は問いかける。

「俺の父親なのか?」

「そう思うか?」
「わからない」

どちらかというと
父親とは違う存在で
あって欲しいような気もする。

「どれだってよいさ、
 お前が父親が良いと言えば父親を演じるし、
 相棒が良いと言えばそうしよう」

それはチドリが幼い頃の話。

少し時が経ってから
一人であの路地に行って見た事がある。

そこに人は住んで居らず
もちろん彼女の姿も見当たらない。

どこかに行ったのだろうか。

それとも、

本当は彼女は母親なんかではなく、
全てが彼の仕組んだ事だったかもしれない。

「まあ、いいよ」

チドリは呟く。

「全部、もう終わった話だ」





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「約束の夜」197

2020年02月11日 | 物語「約束の夜」
「どちらさま?」

尋ねて来た彼に
彼女は問いかける。

彼は名乗り、そして、ある名前を出す。

「ここに住んでいると
 聞いたんだが?」
「それは、私だけど」

ごめんなさい、と
彼女はつっけんどんに言う。

「わたし、西一族の方は苦手なの」

へえ、と彼は言う。

「何か、嫌な事でもあったのかな?」

「帰ってくださる!?
 人を呼ぶわよ」

「まあそう言わずに」

扉を閉めようとする所を制して
彼は今まで背後に隠れるようにいた
少年を前に立たせる。

「この子がせっかく会いに来たのだから」

少年は初めて
母親だという彼女を見る。

彼に連れて行かれた先は
普段少年が暮らしている所と
そう遠い所ではなく。

もしかしたら、
今まですれ違った事もあったのだろうか。

若くして少年を産んだのだろうという
まだ、あどけない顔立ち。

似ているのかどうか
少年にはわからないけれど、
彼は口元がよく似ていると告げる。

「………この子、誰かしら」

彼女も戸惑ったように言う。

「わかっているだろう」

少年の腕を引き、
手のひらのアザを見せる。

「君の子どもだ」

「「…………」」

どこか楽しそうな彼とは対照的に
彼女は声をなくす。

「そ………んな」

あまりにも、青ざめた顔で
震える彼女を見て
少年は思わず声をかける。

「………お、おかあさ」

大丈夫?とそんなつもりで。

「嘘でしょう。何で戻ってきたのよ!!」

やめてよ、と彼女が叫ぶ。

「なんでどうして、
 遠くに行ってしまえば良かったのに。
 何なのよ、一体」
「…………」

ざわり、と彼女の周りの雰囲気が変わる。
魔法を使う時の気配だ、と
少年はそれをぼんやりと眺める。

気がつけば彼が
少年の前に立っている。
かばってくれていると気づいて
思わず彼の服を掴む。

「あなたが、連れて来たのね」

母親は彼を睨み付ける。

「なんなのよ、あなた。
 あの男と関係があるの!?」

私を、こんな目に遭わせて。
そう言って頭を抱える。

「ふうん、やはりあいつか」
「あの男と繋がっているのね」
「それに関しては何と言うべきか、
 まぁ、それなりに縁があるのさ」

「あの時も迂闊だった。
 西一族だから魔法が使えないとばかり、
 だから、私」

私、と母親は言う。

「子どもなんて産むことになって」

絞り出すように
彼女が呟く。

置いて行かれたのだから
きっと彼女にとって、自分は
要らないのだろうな、と
わかっていた。

会ったらそんな反応を
するのかもしれないということも。

「こんな事になるなら
 産まなければ」

それ、でも。

「ダメだ」

彼が腕を伸ばす。

「ダメだ殺すな」

その伸ばした腕が
少年の視界を遮る。
母親の表情も何も見えない。

「落ち着け」

そう言って少年の方を振り向く。

「え?」

彼女が倒れている。

その周り先程彼を襲った
黒い何か。

「俺、が?」

少年の動揺とともに
それは消えてしまう。

彼は彼女の様子を伺う。

「気を失っているだけだ、
 ケガをした訳でもない」

少年も離れた所からそれを見る。

目を閉じたその顔は
穏やかな顔立ちに見える、のに。

「こんな事にお前の力を使うな」
「……………」
「勿体ない、だろ、」

そう言って彼は
少年の手を引く。

「……………」

「帰る、か」

彼は振り返り、
ただ、母親にしか聞こえない様に言う。

「もう、この子はお前の前に現れない。
 会う事も無いだろう」

安心するといいさ、と。


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「約束の夜」196

2020年02月07日 | 物語「約束の夜」
「お前の魔法は、
 どことなく谷一族の物に似ているな」

彼は少年に言う。

魔法のクセというか、
術を使うときの構えというか。

「そうなの?」

彼が言うのならそうなのだろう、と
少年は納得する。

「魔法は全部同じだと思ってた」

「根本は一緒だろうよ。
 でも、それぞれの一族で得意な物が違う。
 なんだろうな、血筋?そういうものか」

俺は西一族だから、分からんが、と。

「最初に真似したのが、
 谷一族のだからかな?」

悪いやり方だっただろうか、と
少年は黙り込む。

「いや、驚いている。
 普通はな、他の一族の魔法は使えないんだ」

近い物は出来ても、
あくまで真似をしているだけ。

それ程までに
各一族の魔術は違う。

「それにしても谷一族か、
 この市場には色々な一族が来るだろう。
 なぜ谷一族にした」

気に入ったのか、と彼は問うが
少年は首を横に振る。

「………俺、谷一族の村に居たから」
「なんだ、お前
 北一族じゃないのか?」
「北一族だよ」

多分、と少年は答える。

「うん?
 谷一族育ちと言うことか?」

西や東の一族と違い
北一族はどの一族にも顔が利く。
移住するという事もあるのかもしれない。

「お前、母親はどうしたんだ?」

最初に会ったとき、
少年は母親はという問いかけに
首を横に振った。

「もしかして、亡くなっているのか?」

「わからない」

少年は彼を見つめる。

「俺は、谷一族の村に置いていかれた様だから」

「……………」

しばしの沈黙の後、
彼は少年に問いかける。

「母親に会いたいか?」

思いもよらない質問に
少年は驚く。

会いたいのかどうなのか。
顔もろくに知らない、
幼い少年を谷一族の村に置いて行った
母親。

「わからない」

答える少年に、
彼は問いかける。

「なら、なぜお前は
 北一族の村に居る?」

「なぜって」

「谷一族の村で
 お前は生活していたんだろう。
 わざわざここに来た意味は何だ」

物乞いの様な暮らしをして、
それでも北一族の村にいる理由。

「母親を捜しに来たんじゃないのか」

彼は提案する。

「俺はな、
 元々お前の母親を探しに来たんだ」

その途中で少年に会った。
彼はもう一度問いかける。

「さぁ、どうする
 母親に会いたいか?」


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「約束の夜」195

2020年02月04日 | 物語「約束の夜」

後をつけられていた?
充分に気をつけていたはずなのに。
少年はもうこれ以上下がれない場所で
それでもなんとか後ずさりする。

「なるほどね、
 こうやって生活していると」

ふんふん、と彼が頷く。

「………っ」

「さぁ、それを返してくれないか」

彼が少年に近寄る。
ここで、大人しくこの貴重品入れを返せば
彼は許してくれるかも知れない。

倒れている
どこの誰だか分からない子どもに
食事を与えてくれるお人好しだ。

でも、

「いやだ」

少年も、そう返す。

今までも上手く逃げ切れない時もあった、
だからどうという事では無い。
スリの腕や逃げ足の早さなんて

別に無くても少年は生きていける。

ふと、と
足元の空気が動くような感覚。

「うん?」

少年に向けて何かが吸い寄せられていく、
とぷん、と
足元から黒い何かが立ち上がる。

それを見ると、
ほとんどの人は逃げ出していく、
だが、彼は予想外の事に頭が動かないのか
そのまま少年の背後の何かを
じっと見つめている。

逃げていけば良かったのに。

残念だったね。と
少年は小さく呟く。

黒い何かは、そのまま彼の方へ
波の様に押し寄せる。
声を上げる間もなく、
彼はそのまま飲み込まれる。

あっという間。

いい人だったけどなぁ。

今日は違う所に移動しようか、
そう、少年は考える。

「ああ、なるほど」

声がして、
さらり、とその黒い何が崩れ落ちていく。

砂のように。

彼の回りに見えない透明の膜があるように。

「なんで」

今まで、少年を追いかけて来た者達が
口にした言葉を今度は少年が呟く。

「なんで、どうして、
 どうなってるの」

草木を掻き分けるように
スタスタと彼は少年に近寄ってくる。
近寄れば近寄る程、
黒いなにか、は
霧を散らすように晴れていく。

なにもかも無くす魔法でも使っているかのように。

「待っ」

彼は少年の腕を掴むと、
面白そうに言う。

「お前、魔法が使えるのか」

「……あ……わ」

逃げないと、逃げないと、
そう思うが、
体に力は入らず、
ぱくぱくと口を動かすだけ。

「北一族とは言え、ここまでとは。
 誰かに習ったのか」
「な、なに」
「魔法だ、誰かに使い方を習ったのか?」

ぶるぶる、と顔を横に振る。

そんな訳がない。

「無意識か。
 そりゃまた、末恐ろしいな」

少年は恐る恐る彼を見上げる。
そういう例もあるのか?
と、一人で何か考え込んでいるが
まあよい、と少年の方を改めて見る。

「よし、着いてこい。
 きちんとした者に習えば
 お前の魔法はまだ強くなる」

「え?」

「着いてこい、とそう言ってるんだ。
 最初からそのつもりだったんだが」

「俺の事、殺さないの?」
「おいおい、
 物騒な事を言うな」

彼は笑いながら答える。

「少なくとも今じゃあ無いよ」


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「約束の夜」194

2020年01月31日 | 物語「約束の夜」

「どうした、1人なのか?」

路地裏に横たわる少年に
男は声を掛ける。

「………」

瞼を上げて少年は首を縦に振る。
頷いたと言うこと。

「母親は?」

今度は横に首を振る。

「起き上がれるか?」

男は手を差し伸べる。
少年の掌には、生まれつきのアザ。
それを一瞥して、ほら、と腕を引く。

具合が悪くてというよりは
ただ、横になっていただけ。

少年の身なりは汚れており、
見窄らしく痩せ細っている。

おそらく、帰る家など無く、
この路地裏で暮らしている。

「……まずは飯か」

ついて来いという彼に
少年は首を傾げる。

「そうだな?俺は人攫いかもしれないな?
 どうする?」
「…………ついて。いく」
「殺されるかもしれないぞ」

それでも、と少年は頷く。

そうなっても構わないと考えているのか、
まさかそんなはずは無いと信じているのか、

それとも別の手立てがあるのか。

まあ良い、と彼は先を歩く。
後に続けという事。

「お前、名前は?」
「…………ナシ」
「ナシ?」

珍しい響きだな、と彼は首を捻るが
一族が違えば名付けからして違う。
他一族である自分には
耳慣れないだけだろう、と納得する。

「苦手な物は?」

彼の問いかけに
少年は首を振る。

「なら、これにしよう」

裏通りの屋台で彼は軽食を
二人分注文する。

少し歩いた所で腰掛け
もそもそと二人はそれを頬張る。

「変わった味だろう」

その問いかけに、少年は頷く。

「これは西一族の伝統料理でな、
 あちこちの店で食べたが、
 ここのが一番本場に近い」

言って聞かせるが
少年はその話にあまり興味が無いようなので
彼はまあ良いか、と
少年が食べる様子を見守る。

「………ごちそうさま」

そう言うと、少年は立ち上がり
彼にぺこりと頭を下げて走り去る。

「もう行くのか?」

「あり、がと」

あっという間に姿が見えなくなった少年に
ふうん、と彼は呟く。


「は、は」

一方、少年は路地裏をぬける。
足が飛び抜けて速い訳では無いが
それでもかなりの距離を駆ける。

「………やった」

手には独特の文様が入った貴重品入れ。
先程の彼は
話しの内容からして西一族だろう。

もしかしたら、
この入れ物も良い値段になるかもしれない。

走り去る少年に
手を振っていたぐらいだ、
これが無くなっている事に気がつくのは
もう少し先だろう。

「今日は、ごはんも食べれた」

収穫もあったし、良い事づくめだ。

「ただいま」

と、家とは言えない、
ただ雨と風を凌ぐだけの場所に戻る。
もちろん先程倒れていた所ではなく
いくつもある寝床の1つ。

「ふう」

ここまで辿り着くと、
もう、大丈夫。

大丈夫の、はず。

「なあ」

「――――!!?」

すぐ後ろで声がする。

「俺の用事が終わっていないんだが」



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