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TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」195

2020年02月04日 | 物語「約束の夜」

後をつけられていた?
充分に気をつけていたはずなのに。
少年はもうこれ以上下がれない場所で
それでもなんとか後ずさりする。

「なるほどね、
 こうやって生活していると」

ふんふん、と彼が頷く。

「………っ」

「さぁ、それを返してくれないか」

彼が少年に近寄る。
ここで、大人しくこの貴重品入れを返せば
彼は許してくれるかも知れない。

倒れている
どこの誰だか分からない子どもに
食事を与えてくれるお人好しだ。

でも、

「いやだ」

少年も、そう返す。

今までも上手く逃げ切れない時もあった、
だからどうという事では無い。
スリの腕や逃げ足の早さなんて

別に無くても少年は生きていける。

ふと、と
足元の空気が動くような感覚。

「うん?」

少年に向けて何かが吸い寄せられていく、
とぷん、と
足元から黒い何かが立ち上がる。

それを見ると、
ほとんどの人は逃げ出していく、
だが、彼は予想外の事に頭が動かないのか
そのまま少年の背後の何かを
じっと見つめている。

逃げていけば良かったのに。

残念だったね。と
少年は小さく呟く。

黒い何かは、そのまま彼の方へ
波の様に押し寄せる。
声を上げる間もなく、
彼はそのまま飲み込まれる。

あっという間。

いい人だったけどなぁ。

今日は違う所に移動しようか、
そう、少年は考える。

「ああ、なるほど」

声がして、
さらり、とその黒い何が崩れ落ちていく。

砂のように。

彼の回りに見えない透明の膜があるように。

「なんで」

今まで、少年を追いかけて来た者達が
口にした言葉を今度は少年が呟く。

「なんで、どうして、
 どうなってるの」

草木を掻き分けるように
スタスタと彼は少年に近寄ってくる。
近寄れば近寄る程、
黒いなにか、は
霧を散らすように晴れていく。

なにもかも無くす魔法でも使っているかのように。

「待っ」

彼は少年の腕を掴むと、
面白そうに言う。

「お前、魔法が使えるのか」

「……あ……わ」

逃げないと、逃げないと、
そう思うが、
体に力は入らず、
ぱくぱくと口を動かすだけ。

「北一族とは言え、ここまでとは。
 誰かに習ったのか」
「な、なに」
「魔法だ、誰かに使い方を習ったのか?」

ぶるぶる、と顔を横に振る。

そんな訳がない。

「無意識か。
 そりゃまた、末恐ろしいな」

少年は恐る恐る彼を見上げる。
そういう例もあるのか?
と、一人で何か考え込んでいるが
まあよい、と少年の方を改めて見る。

「よし、着いてこい。
 きちんとした者に習えば
 お前の魔法はまだ強くなる」

「え?」

「着いてこい、とそう言ってるんだ。
 最初からそのつもりだったんだが」

「俺の事、殺さないの?」
「おいおい、
 物騒な事を言うな」

彼は笑いながら答える。

「少なくとも今じゃあ無いよ」


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