浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

モーリス・マレシャルによるJ.C.バッハのセロ協奏曲

2008年06月24日 | 器楽奏者
古典派へとバトンを渡す時代に生きたクリスチャン・バッハはモーツァルトに大きな影響を与えた作曲家だが、サンサーンスの命によりアンリ・カサドシュが編曲したとされてゐるセロ協奏曲をマレシャルの演奏で聴いてゐる。

実のところは偽作だとか、カサドシュの作品だとか、真偽のほどは定かでないらしいが、この憂いを持った愛らしい作品は弦楽器(特にヴィオラ)を演奏する人たちには人気の作品だと聞く。誰の作品かはきちんと知りたい気もするが、分からなくてもいいやうな気もする。幅広いレパートリーを持つマレシャルはフランス発のこの作品を戦後間もなくSP盤3枚に録音を残してゐる。伴奏はユージン・ビゴー指揮ラムルー管絃團である。

第1楽章の印象に残る短調のメロディが管絃に続いてセロの独奏で鳴り響くあたりからマレシャルの世界に引き込まれていく。少し前のめりになるテンポ運びや少々不確かな音程とともに、マレシャルの暖かみのある音色が心地よく耳に入ってくる。こういった音楽を聴くと心が和むのは僕だけだらうか。正確さだけではいけないことは分かってはいても、このやうなアバウトな感覚は意図して創られるものでもない。そういふ意味では、マレシャルのやうなさ才能を持った人はもう現れないのかも知れない。実に不思議な魅力だ。

第2楽章はマレシャルの美しい歌を堪能できる僕のお気に入りの演奏である。終楽章にはカデンツァのあとに第1楽章冒頭のテーマが再登場して曲を締めくくる。とてもよくできた作品だと思う。

盤は、伊太利亜StringsによるSP復刻CD QT99-356。


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