浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

シゲティ&シュナーベルによるスプリング・ソナタ

2006年10月21日 | 提琴弾き
ベートーヴェンのスプリング・ソナタの名演は数多くあるが、シゲティとシュナーベルの二人の演奏ほどこの曲の持つ優しく雅やかな雰囲気がうまく表現された演奏はない。スプリングの伸縮幅も大きく、その伸び縮みする様が心地よく伝わってくる。

1948年の録音で場所はどこかは記されてゐない。洋琴の音は割れてゐて残念だが、スピーカーが割れてゐるわけではなく、ほっとしてゐる。

シゲティの提琴はいつものやうに独特のぶっきらぼうさと繊細さを併せ持ってゐる。シュナーベルも音階が登場するとビブラート・ペダルを巧みに使って風が一瞬にして通り過ぎるかのごとき情況を創り出す。このビブラート・ペダルはシュナーベルの専売特許のやうなもので、プアー・バイブレーションとも云はれてゐる。日本語訳はたしか「貧乏揺すり」であったと思ふが、これはそう簡単に習得できるものではない。ペダルの上に左右の足を交互に置き、小刻みに上下に揺する方法で、音階を濁った音にならないやうに調節する高度な技術である。

シュナーベルの加速を伴うクレッシェンドにシゲティも呼応し、息の合ったデュエットを堪能することができる。春の温泉に浸かってばね遊びに興じるベートーヴェンのスプリング三昧の一こまがこれほど見事に表現された演奏は他に聴いたことがない。

盤は、墺太利Fono Enterprise社のCD QT99-365。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。