浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

オスカー・フリート 第九交響曲

2006年10月20日 | 指揮者
20世紀初頭の大指揮者オスカー・フリートが伯林國立歌劇場管絃團とブルーノ・キッテル合唱團を振ってベートーヴェンの第九を演奏したレコヲドがある。

全曲にわたりなかなか荒っぽい演奏で、聴き手は高速回転のメリーゴーラウンドに乗せられて振り回されているやうな感覚になる(難しく言えば目が回るといふことである)。それが終楽章のチェロの独白の部分に来ると魂のこもった素晴らしい演奏に豹変するのである。

ベートーヴェンがこの楽章にこめた「忘年」の心を歌い上げるのもバリトンの独唱で一旦中断する。歌手たち一人ひとりの気負いたるや大変なもので、半歩前に半身中腰で右手を前に突き出して歌ってゐる様が目に浮かぶやうだ。しかし、一時の力みも次第にほぐれ、「ゆく年、くる年」に向け心の準備をするための本来の落ち着きを取り戻す。そして再び、管絃によって「忘年」のテーマが行進曲風に奏される。

ブルーノ・キッテル合唱團の演奏には、終始重厚さがあって、15年後のフルトヴェングラーとのライブ録音を髣髴とさせる。よくぞ1928年の電気録音初期にこのやうな大編成なシンフォニーを録音できたものだと感心させられる。

ここまで聴き進むと、はじめのうちの速度制限違反は忘れ、いつの間にかフリートの世界に引きずり込まれてゐる。フィナーレも圧倒的で、この演奏を聴いた満足感に包まれて終わるのである。

盤は、英國Pavilion Records社のSP復刻CD GEMMCD9372。


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