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2013年 グータ化学兵器事件 ザマルカ2

2017-07-08 02:55:18 | シリア内戦

前2回、グータ化学攻撃について、人権監視団の報告を訳した。gooブログの字数制限により、最後の部分は今回に回さざるを得なかった。

西グータに打ち込まれた140mmロケットは化学弾ではなく、通常の爆発弾であったという説がある。国連の調査チームが採取した環境サンプルはサリンの存在を示していない、からである。環境サンプルとはロケットの残骸や建物などから採取したものである。

このような主張との関連で、人権監視団の報告の最後の部分は重要である。

 

=======《使用されたロケットの確認》=======

化学兵器による攻撃を受けたグータは8月21日の前にも後にもシリア軍から攻撃されており、140mmロケットと330mmロケットが8月21日の未明に着弾したものであるかを確定するのは難しい。しかし地元の活動家によれば、この時以前にこれらのロケットの残骸は存在していなかった。

140mmロケットと330mmロケットの残骸を撮影したいくつかのビデオが8月21日の未明から数時間後にネットに投稿された。その中には、地面に着弾したロケットが、そのままの様子で撮影されたものがある。

人権監視団はビデオを投稿した地元の活動家に連絡し、いくかのロケットの位置をGPSで確認することができた。また他のビデオに映っているロケットについては、衛星写真によって場所を確認した。

=================(人権監視団終了)

 

人権監視団によれば、ザマルカに落ちたた330mmロケットは8発ー12発である。文章には8発の位置についてかなり正確に書かれており、地図には12発の位置が示されている。

330mmロケットは50ー60リットルの容量がある。サリン50ー60リットルはかなりの量である。しかもそれが8発なら400ー480リットル,12発なら600ー720リットルになる。これだけ大量のサリンを扱うことができるのは、専門的な化学兵器部隊だけである。

イスラム過激派はサリンを所有し、扱い方の訓練も受けていたとはいえ、大容量のサリン弾を10発前後発射する能力があったかは疑問である。

ただし、シリア政府は反政府軍の基地で大量の化学兵器を発見したことがあり、「国家を破壊するほどの量ではないが、都市を破壊するだけの量である」と、その時述べている。

人権監視団に情報を提供しているのは、反政府軍の人間である場合が多く、ザマルカに8―12発打ち込まれたといっても、すべてを事実と認めることはできない。また国連の調査結果には「ロケットが他の場所から運び込まれたり、証拠が変更された可能性がある」と書かれている。

国連のチームは8―12発のロケットをすべて調べたわけではなく、2発だけである。

国連の報告の中から、東グータの2個のロケットに関する部分を訳す。

 

====《ザマルカとアイン・タルマでの検証結果》====

Report  of the United Nations Missionto Investigate

 Allegation of the Use of Chemical Weapons in Syria

一つのチームは5階建ての建物の屋根を調べ、もう一つのチームはその建物に近い広場を調べた。両チームは同時に作業を行った。2つの場所で発見されたロケットは同一の種類であり、非誘導のロケットだった。2つの残骸を測定し、ロケットのサイズを推定した。いくつかの部分は爆発により変形しており、正確な測定はできなかった。

ロケットが地面をえぐった様子、散らばっているロケットの破片、付近の破壊された物によって、ロケットは北西から飛来したことがわかる。

 ロケットは2つの部分からできている。

①ロケット・エンジン

6枚の安定翼が円形に並んでおり、金属の輪に固定されている。ロケットの一つには、エンジンの表面に赤色で153と書かれている。エンジンは12のボルトによって弾頭と結合されている。

  • エンジンの全長   134cm
  • 安定翼の固定リングの幅 5.5cm
  • 安定翼の長さ    16.5cm  安定翼の直径 31cm  
  • 噴出孔の長さ    4.5cm
  • エンジン軸の長さ 112cm  エンジン軸の直径 12cm

②弾頭

弾頭の直径は36cm。弾頭の先端部の基盤には直径9cmの起爆管がついている。

弾頭の容量は50ー62リットルである。

 

         《 5階建ての建物に落ちたロケット》

5階建ての建物の屋根に落ちたロケットは、ブロックでできた壁を破り、その後鉄パイプで補強された床を突き抜け、下の部屋に落ちた。最初に衝突した壁の周辺に、弾頭の先端部の基盤と、弾頭の筒の部分の破片が落ちていた。したがって弾頭は壁に衝突した時に爆発し、中身を放出したと思われる。弾頭の部品は比較的元の形をとどめており、爆発は小さかったようである。

弾頭の爆発後、ロケットの心棒とエンジン部分だけが、下の部屋に落ちた。

ロケットの先端部分の基盤の外縁部に、6つのねじ穴が円形に並んでいる。

         

       《調査の限界》

西グータの場合と同様に、調査した2つ場所は立ち入り禁止にされておらず、原状変更の機会があった。われわれが調査してる間にも、ロケットを運び込んでくる者がいて、証拠が移動されたり、ねつ造された可能性がある。

調査する時間が限られていたことも悪条件だったが、チームはできるだけの努力をした。

      《ロケットの弾道》

我々は西グータと東グータで合計5つの着弾地点を調査した。これらの中で、ロケットが飛んできた方向を確認できたのは、第一地点(ムアダミヤ)と第四地点(アイン・タルマ)だけである。残りの3つの地点は場所や地形の関係で飛来方向を確認できなかった。

(たぬき注)2つのロケットしか飛来方向を確認できなかったと書きながら、以下で3つのロケットの方向を説明している。(たぬき注終了)

 

[第一地点(ムアダミヤ)]

エンジンの特徴から判断すると、これはM-14ロケットの一種である。弾頭は残っていないので、ロケット本来の弾頭であったか、独自に作成したものを取り付けたか、わからない。

発射されたロケットは共同住宅の2階に衝突し、エンジン部分だけが生け垣を貫き、裏庭に着地し、石畳に浅いくぼみをつくった。生垣と窪みを結ぶ線は35度である。したがって発射されたロケットの弾道の方位角は215度である。

[第二地点(ムアダミヤ)]

第一地点から65メートル離れた所に場所に着弾したもう一つのロケットの方位角も215度である。ムアダミヤの2発は同一の連弾発射機から発射されたと考えられる。

[第四地点(アイン・タルマ)]

ここに着弾したロケットの口径は330mmである。ロケットは比較的やわらかい地面に落ち、ロケットの軸とエンジンは地面に突き刺さった。着弾後動かした様子はない。軸とエンジンは曲がっておらず、正確に285度の方位角を示している。したがって発射されたロケットの弾道の方位角は105度であり、東と南東の中間である。

====================(国連の報告終了)

第四地点に着弾した330mmロケットは東と南東の中間の方向に向かって発射されたということであり、着弾地点のアイン・タルマから見ると、ロケットは西と北西の中間から飛んできたのである。

調査時間に制限があったためか、国連の調査チームは着弾したロケットをすべて調べることをあきらめ、ロケットの種類とロケットが発射された地点だけを調べた。したがって国連が調べたロケットは西グータの2発、東グータの2発だけである。

国連の報告は合計5つのロケットを調べたと述べているが、4つのロケットについてしか説明いていない。5つ目のロケットについては一言も書いていない。5つ目のロケットを調べた結果、怪しかったので、何も説明しないことにしたのであろうか


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