梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

<乱歩歌舞伎>体験日記・第十夜

2009年10月06日 | 芝居
写真の扇は、師匠演じます陰陽師・鏑木幻斎が使う扇で、<六骨(ろっこつ)>という種類です。

その名の通り、骨が6本あることからついた名称で、扇の歴史の中ではごく初期の形態です(蝙蝠<かわほり>扇と呼んでいました)。
そのためお芝居では、平安から鎌倉にかけての時代設定の演目で、貴族や武将がよく使います。『源氏物語』の諸役、『狐と笛吹き』の春方、『高時』の北条高時、『佐々木高綱』の高綱などなど…。

鏑木幻斎は“陰陽頭”。宮中の人間です。
しかし、この度の『京乱噂鉤爪』は、幕末が舞台。
そのころは、すでに<六骨>から進化、発展した様々な扇が生まれています。
公家社会でも、いわゆる<中啓>や、それを小ぶりにした<雪洞扇>、古写真では<鎮折扇>(いわゆる<舞扇>に近いもの)のようなものを手にしている画像がありました。

ですから、最初は考証的に正しい扇を使おうかという話もあったのですが、鏑木の衣裳や演出、雰囲気を考えまして、あえて“時代な”六骨を使っております。地紙の折り幅が広い上に、一尺強の長さがありますので、見た目の強さもでるのです。お芝居のウソ、といってしまうとそれまでですが、有職故実にとらわれず、あくまで歌舞伎として、よりそのお役<らしく>見せるための方法かと存じます。
色は舞台稽古まで銀無地でしたが、衣裳が真っ白ですので目立たないということで、初日からは御覧の通り金無地になりました。

この扇が、舞台上ではあんなことに使われようとは…。