現在、カラダに刺青を彫った人は、銭湯で入湯を断られてしまう場合があります。
温泉などでも『「刺青」のある方の入場はご遠慮ください』の文言を目にします。
私が弟子入りした鉄骨トビ職の親方は、昔の任侠の流れをくむ人でした。
肩口から上半身すべてに昇り龍下り竜が行違う見事な刺青を彫っていました。
口は荒く、怖い存在でしたが鳶職の腕前としては、高い評価がありました。
また荒くれモノを束ねる迫力は、裏返せば弟子たちへの愛情も肌で感じます。
弟子入りの頃は、頭や額から滴り落ちる汗を腰ベルトに挟んだ手ぬぐいで拭い、荷車に積んだ鉄骨材を、細い急な上り坂の林道の橋梁施工の工事現場に運ぶ作業をしたものです。
既に60歳を超えた先輩トビ職で、黒く日焼けし顔の肌には深い皺が幾本も刻まれています。
私は、中卒で学問も教養も品性も無い、自分自身の50年後を見たような気がしたものです。
鉄骨トビ職は、限られた用具を使って段取りを行い、魔法のように仕事を仕上げます。
刺青の師匠は、難なく遣ってのけるのです。
思案をして、実践し、試してみれば光明が見えてくるのは、鳶職の師匠から学んだ事です。
現在は、高名な大学の先生や、多くの学術者の方々と共同研究を行うようになりました。
学術的な視点でない発想し、それを実験や実践で裏付けしたデータでモノづくりを行っており、特許出願数は商標登録を入れると100件近くになりました。
私の唯一の師匠である鉄骨トビ職の親方が、カラダで教えてくれたクリエイティブの仕方が生かされているようです。若くして逝った師匠の面影を時々脳裏に浮かびます。
写真は東北の工務店さんが建築した鉄骨の「#ファース工法」施工現場です。