すずめ通信

すずめの街の舌切雀。Tokyo,Nagano,Mie, Chiba & Niigata Sparrows

第1722号 夢の大橋で聖火を見上げる

2021-07-29 09:03:48 | Tokyo-k Report
【Tokyo-k】気分がまるで高揚しないまま、東京オリンピックが始まった。だから開会式には何ら興味はなかったのだが、ただ家族に「聖火の最終ランナーは、テニスの大坂なおみ選手が務めるだろう」と予言した手前、その確認をする責任はあるだろうと、テレビを漫然と観ていた。そして予言通り、大坂選手が聖火台に点火するのを見て、私は目を見張った。聖火台の美しさに、である。初めて五輪を「観たい!」と思った。だから有明の「夢の大橋」にやって来た。



開会まで秘されていた聖火台は、白い球体であった。空中高く掲げられた球は、大坂選手が聖火を掲げると、大輪の花が綻ぶように少しずつ上部を開き始めた。クローズアップされたテレビ画面は、透明な輝きが散乱する内部を写して眩い。ガラスだろうか金属のコーティングだろうか。およそ造形の中で、球体は最も完璧なフォルムである。それだけでも美しいのに、優雅に開き、輝き、聖火が点火されるとオレンジ色の炎が勢いよく燃え上がった。



今回のオリンピックは、東京誘致決定からして、何のときめきも覚えなかった。57年前の東京大会の際に震えた興奮は、どこに消えたのだろう。人生を57年も経て来れば、スポーツビジネスの裏側の、醜い現場を見なければならないこともあった。齢を重ねるとは、自らもそうした汚れを身に纏って行くことなのだろう。10代の感性にはもう戻りようがない。さらに開催国民の感情を逆なでするIOCと、コロナ・パンデミックが追い打ちをかける。



といった具合に、醒めた目で眺めていた東京オリンピックなのだが、開幕早々、聖火台に感動させられたのである。太陽をモチーフに、上下5枚ずつのパネルが開閉する仕掛けで、炎の燃料は福島で製造された水素エネルギーだという。日本のデザイングループが制作したということも嬉しい。聖火は、大会期間中は「夢の大橋」に移され灯され続ける。ということは、私でも行けば見られるということではないか。でも「夢の大橋」ってどこだ?



大会5日目、妻が「急用で東雲に行く」と言い出した。何と「夢の大橋」がある有明とは、江東区の隣街ではないか。台風8号が接近中であることは承知の上で、妻の荷物持ちを兼ねて東雲まで付いて行く。東京湾の埋め立て地である一帯は、国際展示場など幾つかの施設にやってきたことはあるものの、全体の方向はまるでわからない。ガラスとコンクリートのビルがニョキニョキと空を突く風景は、膨張する東京のエネルギーを発散させている。



東雲駅から一人、歩き始める。新しい街らしく、要所要所に地図が掲示されているから迷うことはない。オリンピックのバックヤードを担っているらしい広大な駐車場には警備員が立ち、交差点の警察官は島根県警と刺繍した制服を着込んでいる。「夢の大橋」は江東区の有明と青海を隔てる運河に架かる公園道路で、殺風景な埋め立て地を潤すグリーンベルトだ。その中ほどで聖火が炎を上げている。国立競技場の3分の1のレプリカだという。



聖火台は小型化されたことで、私の興奮もいくらか削がれてしまったが、美しいデザインであることに変わりはない。大会閉幕後、聖火台はどうなるのだろう。「夢の大橋」を渡りきると青海地区になって「夢の広場」へと続く。「夢の島」以来、やたらと「夢」が多い地域だが、埋め立て新開地は、そうした名前でもつけなければ寂しくて耐えられないのかもしれない。ここに聖火台を残し、火を灯し続けたら、それこそ「夢の大橋」である。(2021.7.27)













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