すずめ通信

すずめの街の舌切雀。Tokyo,Nagano,Mie, Chiba & Niigata Sparrows

第1427号 100号のヴェネチアがやってきた

2016-02-10 15:18:50 | Tokyo-k Report
【Tokyo-k】わが家に100号の絵がやって来た。何しろ100号(F)だから、古いマンションには運び込むのもやっと。リビングで最も広い壁面に収まるには収まったものの、天井ギリギリまで掲げられ、絵はなんだか窮屈そうだ。いつか5、60号を懸けたいものだと考えてはいたのだが、それがいっぺんに100号になったのだから、絵も私自身もビックリしているわけだ。ただ「ヴェネチア」と題されたそのテンペラ画には、すっかり魅了されている。



日を浴びて黄金色に輝く寺院がどっしりと画面を横切り、手前の深い緑色の運河にはゴンドラが一艘浮かんでいる。イタリア・ヴェネチアの大運河の出口、サン・マルコ広場の対岸に建つサンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂ではないかと思われるけれど、風景は極限まで単純化されて、位置を特定する意味はない。それよりもテンペラ画特有の、濁りのない色彩の輝きと、画家の心象に刻まれた教会のボリューム感を楽しみたい。



描いたのは二科会会員の武藤挺一さん。美術年鑑によると大きな受賞歴がいくつもある、二科会で重きをなす存在らしい。数年前、偶然入った吉祥寺のギャラリーで、武藤さんの個展が開催されていた。独特な画風に、夫婦そろって「いい絵だね」と強い印象を持ったものだったけれど、そのお名前は失念していた。「8回目のイタリア画行」という個展の紹介を新聞で見つけ、「あの画家さんではないか」と思い当たり、早速出向いた。



ギャラリーに他に客はなく、武藤さんと話が弾んだ。訥々とした語りの武藤さんだから、話を弾ませたのは一方的に私で、テンペラ画の技法や風景を具象化する描き方などを質問した。鶏卵に顔料を混ぜ、絵の具として固着させるテンペラ画は、ルネッサンス期にも盛んに用いられた古い技法で、油彩のように色が濁らず、黄変なども起こさないことが好ましいのだそうだ。武藤さんの技法は、鶏卵ではなく牛乳を用いる独特のものらしい。



確かにどの作品も、ライトを浴びて輝いている。なかでも「ヴェネチア」は、その黄の輝きを深い緑と青がいっそう浮かび上がらせている。たんぱく質による乳化作用なのだろう、粒々に固まった絵の具が絵を立体造形のように感じさせもする。私はその絵がすっかり気に入った。そうやっていろいろ話を聞いた挙句、武藤さんのご厚意により、個展の終了を待って絵は私の家にやって来ることになった。



武藤さんは「掛ける場所はありますか」と心配そうだった。私たちは居間の記憶と作品の大きさを見比べ「なんとかスペースはあります」と判断した。額ははこちらで発注した。100号ともなると太く頑丈で、一人で持ち上げるのは無理な重量だ。たとえ掛けても壁がバリバリと崩れてきそうだ。だから近所の内装業者に来てもらい、大工さん二人掛かりで安全に固定していただいた。



以上が《100号》がやって来た経緯である。部屋の雰囲気を一変させた大作を眺めながら、夫婦で1年前に訪れたヴェネチアを思い出している。そしてあまりに思いがけない大作の到来に、「人生、こんなこともあるんだねえ」とため息をつき合っている。(2016.1.23)















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