すずめ通信

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第1772号 ミケル・バルセロ展でスペイン現代美術を堪能する

2022-02-21 10:02:05 | Tokyo-k Report
【Tokyo-k】初台で面白い美術展を観た。ミケル・バルセロというスペインの現代美術家の作品群だ。荒々しいタッチと不思議な色遣いに引き込まれながら、代表作の一つらしい『銛の刺さった雄牛』の部屋に入る。先客のお嬢さんが熱心に見つめている。赤いセーターの小柄な彼女は、高校生くらいの幼さに見えるけれど、美術専攻の大学生かもしれない。私の気配を感じ、少し脇によけてくれる。激しい画風と可愛らしい後ろ姿が、いいコントラストを生んでいる。



さて、ミケル・バルセロである。日本で初めての本格展だというから、私にとっても初めて接する画家だ。しかし作風にどこか既視感がある。なぜだろうかと経歴を読む。1957年、スペイン東部の地中海に浮かぶマジョルカ島生まれ。豊かな自然の中で海に潜って魚と戯れる少年だったというが、画家の母親の影響で幼くしてデッサンを学び、母の書棚の膨大な画集で学ぶ。17歳でパリに出て、アール・ブリュットの作品に強く惹かれる、とある。

(とどめの一突き)

これだ! タッチの激しさや意表をつくアングル、そして思いがけない色彩の組み合わせ。いずれもアール・ブリュット(生の芸術)の作品で見かける世界ではないか。しかしもちろんそれだけではない。造形力の確かさは、アフリカ旅行のスケッチなどからもその天分が偲ばれる。平面では飽き足らない情念は、絵の具に土や砂を混ぜた異物となって画面から飛び出している。「なぜ描くのか」と訊ねるのは、この画家には陳腐すぎるかもしれない。

(時を前にして)

スペインの現代作家では、私はアントニオ・ロペスに惹かれているのだけれど、初めて知ったバルセロも魅力的だ。なかでも『時を前にして』と題する荒波に揉まれる小舟の絵にはしばらく立ち止まった。暗い海面で波に翻弄される小舟は、葦で編まれたように頼りない。おそらく人生を暗示しているのだろう。しかし画家の意図や絵の意味などどうでもいい。私は青と白と黒の空と海、そして筆の刷毛目そのままの舟の造形がなんとも心地よいのだ。

(4本のアーモンド)

日本ではまだ知名度が低いからだろうか、入場者は極端に少ない。しかし鑑賞する側にとってはこの閑散さはありがたい。画家本人が「土に関心がある」と言っているように、泥を使ってガラスに描いたり、土の壁に体当たりするインスタレーションのビデオ映像を楽しむ。詩人は言葉を紡ぎ、作曲家が音で物語るように、美術家は色と形で心情を表現する。そんな才能に恵まれた人は羨ましいと考えながら、こうやって鑑賞できる自分の幸運を思う。



ニュースは連日、ロシアによるウクライナ虐めの緊張を伝えている。圧倒的武力でウクライナ市民を圧迫し、国際的反ロシア感情を煽っているプーチンの思考回路が理解できない。もしオリンピック開催中でなければ、これを好機と中国が台湾に侵攻するかもしれない。そうなったらもはや第3次世界大戦だ。芸術は平和があってこそ存在できる。つまり芸術が日常である世界こそが、求められているのだ。プーチンよ、陰謀は捨てて美術館に行け。



会場の東京オペラシティは、コンサートや演劇など舞台芸術が中心の施設なのだろうが、その一角のアートギャラリーで時折り「とんがった展覧会」を企画することがある。所在は新宿区になるのだが、最寄りの駅が渋谷区の初台だから、私にとってはこの辺りは「初台」ということになる。代々木の延長のような街で、頭上で首都高のジャンクションが多方向にクロスしている。小さな商店街と静かな住宅地は、暮らしよさそうである。(2022.2.16)



(紫色のスカートの少女)


(J.L.ナンシー)

(小波のうねり)


(ファラニチのジョルジョーネ)

(家族の肖像)


(猿)

(ミケル・バルセロ)








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