すずめ通信

すずめの街の舌切雀。Tokyo,Nagano,Mie, Chiba & Niigata Sparrows

第269号 庄内平野と酒田市

2005-10-06 11:47:21 | Tokyo-k Report
【Tokyo】「庄内」と呼ばれる、山形県の日本海側の地域を旅行してきたことは、第266号(9月29日)で鶴岡市のシャッター通りについてレポートした。その小旅行では、庄内のもうひとつの中心都市・酒田にも立ち寄ったので、覚書としてメモしておきたい。

酒田という町はそれまでに行ったことはなく、知っていることといえば「最上川の河口に開けた港町」「本間家という巨大地主が存在した」「戦後、中心部を焼き尽くす大火があった」「土門拳の出身地で、その写真館がある」ことくらいだ。

わずか2、3時間ほど、車でぐるぐる回ってお昼を食べた、というだけの見聞であったから、町の何かがわかったなどと小賢しいことは言えないが、鶴岡の、衰弱しきった旧繁華街を見て来た目には、結構、町らしい賑わいをとどめていてホッとした。

よそ者の私が「ホッと」することもないわけだが、地方都市の旧市街地商店街の疲弊ぶりは、無縁の旅人としてもいつも心が痛む。山居(さんきょ)倉庫や旧本間邸が観光施設として整備され、町の賑わい維持に貢献しているようだった。

しかしこの小都市の活気を何とか維持しているのは、港がもたらす経済効果なのだろう。手元に宇宙から撮影した日本地図がある。本州の日本海側を北からたどると、津軽、秋田、庄内、新潟と、平野が点在する。そのいずれの中央にも、港がある。

庄内平野には、新潟の日本海沿いの道を抜けて入った。海岸にせり出した山岳部から最後の峠を越えると、パノラマのように庄内平野が広がってくる。実りの季節であったせいか、実に豊かな風景だ。前年の同じころに旅行して眺望した、会津盆地に似ていると感じた。

北に長い稜線を広げるのは、秋田県境の鳥海山(2236m)。東にそびえるのは月山(1984m)だ。新潟平野ほど広くはないが、山形盆地より広大だ。太古、定住の地を求めて野越え山越えやって来た集団がいたとしたら、ついに見つけたアルカディアだと歓声を上げたことだろう。

生活圏を形成するのに、捉えどころがないほど広過ぎはせず、かといって狭く息苦しいようなことのない空間が確保されている。しかし異様なまで(というのが妥当かどうかわからないが)進歩した文明は、人々をこのスペースでは満足できないようにした。

JR酒田駅では「特急いなほ5号新潟行きが発車します。お急ぎください」という放送が繰り返されていた。鶴岡の町では「山形新幹線の庄内延伸を実現させよう」といったポスターが張られていた。「中央とつながりたい」、ポスターはそんな町の叫び声のスピーカーのようにも見えた。

文明の進歩は、「より早く、より近く」と人々を駆り立てるのだろう。その先に待っているのは、地方都市の更なる衰退だろう。つながる手段ができると、人は中央に吸い寄せられていくからだ。しかしそうした欲求を止める手立てはない。止めれば町は衰退しない、とも言えない。

(写真は酒田港)
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